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レジェンド  作者: 神無月 紅
異世界の草原
2353/3865

2353話

 取りあえず話は纏まり、レイ達はマジックテントの外に出る。

 すると、そこでは……予想外の光景が広がっていた。

 何しろ、多くのケンタウロスが採掘作業に夢中になっていたのだ。

 勿論、以前から採掘作業は行われていたのだが、それでも何の当てもなく……それこそ、恐らく地中に何かがあるからということで、地面を掘っていた時と比べると、明らかに現在の方が活気があり……何より、皆が嬉しそうにすらしていた。


「これは、また……一体、何がどうなってこうなったんだ?」

「やっぱり、そこを掘れば目的の物があると、分かっているのは大きいんでしょうね」


 レイの横では、ヴィヘラが働いているケンタウロス達を見て、しみじみと告げる。


「この偵察隊、レイが纏めてるんでしょう? よくこんなに色々な集落から集まったケンタウロス達を纏めることが出来てるわね」


 そう言ったのは、アナスタシアだ。

 ダムランの時のように、幾つかの集落に寄っているので、集落によっては色々と違いがあり、それだけに幾つもの集落が集まればお互いにその違いが理由となっていがみ合ってもおかしくはないと、そう思ったのだろう。


「さっきも言ったと思うが、この偵察隊を率いてるのはザイであって俺じゃない。……ただまぁ、一致団結してるのは、共通の敵を相手に一致団結して頑張ってるからだろうな」

「ドラゴニアスを相手に? それなら他にも……」


 違う。

 そういう意思を込めて、レイはアナスタシアの言葉を遮る。

 そして視線を向けたのはヴィヘラ。

 獲物を探すような目で仕事をしていないケンタウロスを見ていたヴィヘラは、レイの視線には全く気が付いていない様子だった。

 ヴィヘラの様子を見ていたアナスタシアは……そしてファナも、レイが何を言いたいのかを理解する。

 一致団結して戦うべき強敵……それは、ヴィヘラのことを言ってるのだろうと。

 実際、それは決して間違いではない。

 ヴィヘラの相手をするには、それこそケンタウロスが多数必要となる。

 それでいながら、戦えば負けてしまうのだ。

 だからこそ、そのような強敵を倒す……とまではいかなくても、何とか互角に戦えるようにする為には、ケンタウロス同士でもしっかりと協力する必要があった。

 それこそ、集落が違うからといった理由でいがみ合っているようでは、とてもではないがヴィヘラと戦うことは出来ない。

 それどころか、連発される攻撃に対処出来ず、一方的に倒されてしまいかねなかった。


「ヴィヘラも随分と……その、ええ、まぁ……頑張ってるわね」


 何か言おうとしたアナスタシアだったが、そのヴィヘラが自分に視線を向けてきたのを見ると、最終的には適当な言葉で誤魔化す。

 もしここで本当に自分が思ったことを口にした場合、色々な意味で不味いことになると、そう感じた為だ。

 それが女の勘なのか、エルフとしての勘なのか、はたまた研究者としての勘なのか。

 その辺は本人にも分からなかったが、取りあえず災厄を免れたのは間違いのない事実だった。


「さて、それで……どうする? 採掘作業をやるのなら、それこそアナスタシアの精霊魔法で多少なりとも助けることが出来ると思うけど」


 レイの言葉に、アナスタシアは首を横に振る。

 そんなアナスタシアの行動は、レイにとっても意外だった。

 アナスタシアの性格から考えれば、ここで出し惜しみをするような真似をするとは、到底思えなかったのだ。


「何でだ?」

「何度も言ったと思うけど、ここは精霊の力が濃いの。それも土の精霊の力がね。もしここで精霊魔法を……それも土の精霊魔法を使ったりしたら、正直なところ何が起こるか分からないわ。上手くいけば、地下に埋まっている何かをすぐに取り出すことが出来るかもしれないけど……」


 そこで言葉を切ったアナスタシアだったが、それだけに失敗した場合のことも予想出来た。

 アナスタシアがこれだけ何度も精霊の力が濃いと言ってるのだから、失敗した場合……それこそ、下手をすればこの集落そのものが何らかの理由で消滅してしまうのではないか、と。

 土の精霊が関係しているだけに、集落が土に呑まれるのか、もしくは林でドラゴニアスの死体が風化したように、集落そのものが風化するのか。

 それ以外にもレイは幾らか予想したが、そのどれもが最悪の結末でしかない。


「うん、そうだな。精霊の専門家たるアナスタシアがそう言うのなら、やっぱりここで精霊魔法は使わない方がいいな。この集落が壊滅したら、色々と不味いし」


 それこそ、この集落の生き残りのケンタウロス達にしてみれば、ここは自分達の故郷なのだ。

 そうである以上、この集落が消滅するといったような真似は、とてもではないが許容出来ないだろう。

 そうレイが告げると、アナスタシアもその言葉に対して満足そうに頷く。


「無理に精霊魔法を使えと言われなくて助かったわ」

「……俺がそんなことをするように見えたのか?」


 若干の不満を表すレイだったが、アナスタシアは首を横に振ってから口を開く。


「別にそう思ってる訳じゃないけど、精霊魔法については、それを知ってる人はあまりいないでしょう? ……レイも魔法を使うけど、それはあくまでも普通の魔法だし。だから、精霊の力が濃いと言っても、それがどう影響するのかといったようなことを分からないかもしれないと思ったの」


 そう説明されれば、レイも納得しない訳にはいかなかった。

 実際、今回の一件は色々と分からないことも多いのだ。

 そんな中で、レイが自分の考えだけでどうにかしようとすれば、それは何らかの大きなミスにもなりかねなかった。


「話は分かった。ともあれ、精霊魔法を使えないのなら俺達も手伝いに……いや、必要ないか」


 視線の先で行われてる採掘作業は、それこそケンタウロス達が協力して行っている。

 それどころか、働いているケンタウロスの人数が多すぎるせいか、動きにくそうにしている者すらいた。

 であれば、そこに自分達が行ったところで邪魔にしかならないのは、間違いない。

 そんなレイの意見は、他の面々にとっても同じだったのか、異論を唱える者はいない。


「だとすれば、どうする?」

「……取りあえず、ヴィヘラは戦闘訓練をする相手を探さないようにしてくれ」

「あら、それはちょっと残念ね」


 言葉では不服そうな様子だったが、それでも素直にレイの言葉に従う辺り、そこまで本気で戦闘訓練の相手を探していたという訳でもなかったのだろう。

 それを確認し……レイはふと鹿の見張りを頼んだ時に酒を出すと言ったら皆が張り切っていたことを思い出す。


「その地下に埋まっている何かを見つけたら、酒を飲ませてやるぞ!」


 そう告げるレイの言葉に、ケンタウロス達は一瞬動きを止め……次の瞬間には、多くの者が今まで以上の速度で動き出す。

 とはいえ、酒を飲めると聞いても中には今まで通りの動きしかしない者もいた。

 元々酒を飲むのがあまり好きではないというケンタウロスも何人かいるのはレイも知っていたし、それ以外にも以前の二日酔いで懲りたという者もいるのだろう。

 何しろ、二日酔いで身動きするのも辛いというのに、採掘作業を行い……その上で、ドラゴニアスの襲撃まであったのだ。

 それからまだ数日しか時間が経っていない以上、酒は暫く遠慮したいと思う者が出て来てもおかしくはない。

 ……なお、偵察隊を率いているザイは酒は好きだし飲みたいものの、自分の立場を考えて酒を飲むのは遠慮していた。

 前回の一件で、酒を飲むのは危険だと判断したのだろう。

 今の状況を思えば、そのように思ってもおかしくはなかったが。

 いや、寧ろレイにしてみれば、その判断は賞賛すべきものだ。


(とはいえ、ザイも酒が好きなのは変わらない。……ある意味、ザイと出会ったからこそアナスタシア達を見つけることも出来たと考えれば……ドラゴニアスの一件が終わったら、ザイにはとっておきの酒を渡してもいいかもしれないな)


 とっておきの酒とはいえ、その酒が実際にそこまで美味いのかどうかは、レイにも分からない。

 ただ、かなり高額な酒だった以上、恐らく味がいいのだろうというのは、容易に予想出来た。

 ……酒はあまり得意ではないレイにしてみれば、それだけ高価な酒を買うのなら、普通に食べ物を買った方がいいのでは? と思わないでもなかったが。

 とはいえ、こういう時に使えると考えれば、高級な酒を買っておいてよかったという思いがない訳でもない。


「それで、レイ。採掘作業はケンタウロスに任せるとして……私達はこれからどうするの? 今の状況で、何かやるべきことはある?」


 ヴィヘラのその問い掛けに、レイはどうするべきか考える。

 採掘作業はケンタウロスに任せると決めた以上、そちらに手を出すといったことは考えていない。

 以前なら、この集落の長のテントの残骸から、何かこの辺りについての情報を探すといったような真似はをしていたが……アナスタシアが来て、土の精霊の力が異常な程に濃いといったことを言われてしまえば、この集落の秘密はレイも何となく理解出来てしまった。

 正確には全てを理解した訳ではなかったが、それでも今の状況を思えば、改めて長のテントの残骸を調べる必要もない。

 だとすれば、今のこの状況でやるべきことは……そう数は多くない。


「ドラゴニアスが襲ってこないかどうかの、警戒だろうな」


 結局のところ、現状ではそれが一番必要な仕事だったのは間違いない。

 ただし、林の外には鹿が二頭と、それを守っているケンタウロスがいる。

 もしドラゴニアスがその方面から襲ってくれば、すぐにレイ達に知らせる筈だった。

 ……実際には、林に入るには別に鹿とケンタウロスのいる場所を通らなければならないという決まりがある訳ではない以上、どこからでも林に入るようなことは出来るのだが。

 そういう時の為に、集落の各所に何人ものケンタウロスは待機している。

 採掘作業をしていないケンタウロス達は、何か言いたいような、もしくは聞きたいような視線をレイに向けてくる。

 それは、レイが酒を飲ませるといったのは採掘作業をしている者達に向けてであったので、見張りをしている自分達は一体どうなるのかといったことを聞きたいのだろう。


「安心しろ。地中に埋まっている、土の精霊に関する何かを発見したら、お前達にもしっかりと酒はやるから」


 レイの言葉を聞き、安堵した様子を見せる見張りのケンタウロス達。

 この状況で、酒を渡すのは採掘作業をしている者だけだと言えば、それは一体どうなったのか。

 ……それは、考えるまでもない。

 それこそ、暴動に近い状況になっただろう。

 勿論、そんな真似をしても最終的にはレイ達なら鎮圧させることは出来るだろう。

 だが、今の状況でわざわざそのような真似をする必要はない。


(採掘作業をやってる連中がそっちに集中出来ているのは、見張りをしている仲間がいるから、いきなり敵に襲われるといった心配がないからというのが大きいしな)


 だとすれば、見張りをしていた者達も当然のように採掘作業に協力しているということになる。

 そうである以上、見張りの者達にも酒を渡すのも、当然と言えるだろう。

 見張り達もレイの確約を貰って安心したのか、自分の仕事に戻っていく。

 ……レイの気のせいでなければ、先程まで以上に真剣に周囲の様子を警戒していた。


「うわぁ……」


 そんなケンタウロス達を見て、アナスタシアの口からは呆れの声が出る。

 酒でここまでやる気になるとは、とてもではないが思わなかったのだろう。


「そう言えば、アナスタシアはケンタウロスに興味はないのか?」

「え? 何よいきなり」

「好奇心の強いアナスタシアだから、エルジィンには存在しない……もしくは存在してもギルムの近くにはいないケンタウロスに興味を持たないのかと思ってな」

「ああ、そういうことね。いきなり何を言うのかと思ったら」


 レイが何を言いたいのか納得した様子のアナスタシアは、口元に笑みを浮かべる。


「ケンタウロスの件なら、もう大体調べてあるもの」

「……そうなのか?」

「ええ。ダムランの集落に寄った時に、色々とあってね。その結果として、こうまで慕われるようになるとは思わなかったけど」


 アナスタシアの言う色々というのがもの凄く気になったレイだったが、ここでそれを聞けば後悔しそうな気がして、それを聞くことは出来ない。


「取りあえず、俺達も見張りをするか。……ファナはアナスタシアと一緒でいいよな?」


 尋ねるレイに、ファナは小さく頷く。

 元々人見知りの気があるファナなので、やはり一番親しいアナスタシアと一緒の方がいいのだろう。


(あ、でもこっちに来てからは、あんまりそんな感じはしなくなったな。これも、こっちの世界の荒波に揉まれたおかげか?)


 そんな風に思いながら、レイ達はそれぞれの仕事に集中するのだった。

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2021/01/01 10:44 退会済み
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