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レジェンド  作者: 神無月 紅
異世界の草原
2334/3865

2334話

「うおっ! 何だいきなり!?」


 林の中で戦っていたレイは、いきなりドラゴニアス達が雄叫びを上げて暴れ始めたのを見て驚く。

 先程までは、林の木を折らないようにしながら身動き出来ない状態になっていたにも関わらず、今はこうして周囲の木々に被害があろうとも、全く関係がないといった様子で暴れているのだ。

 実際、暴れ始めたドラゴニアスによって、既に林の木々は結構な被害を受けている。

 基本的に林の木はそれなりに頑丈ではあるのだが……ドラゴニアスの身体能力を考えれば、その程度は全く問題がないくらい容易に折ることが出来る。

 勿論、林に生えている木々というのも色々と差があるので、中にはドラゴニアスでも容易に折ることが出来ないような、そんな木もあるのだが。

 ただ、そのような木は当然のように数が少なく……ドラゴニアスのいる周辺では、急激に木々の数が減っていく。

 勿論、ドラゴニアスが行うのは木々を折るといったことだけではない。

 木々の隙間を縫うように移動して戦っていたヴィヘラや、身動きが出来ないドラゴニアスを背後から攻撃してダメージを与えていたレイにも、当然のように攻撃は行われていた。

 ……いや、寧ろこの場合はレイとヴィヘラへ攻撃が出来ないドラゴニアスが、森の中で暴れているという表現の方が正確だろう。


「うおっ! ……本当にいきなりどうしたんだ? いやまぁ、俺に取っては悪い状況じゃないけど、な!」


 最後に叫びながらミスティリングの中から取り出したデスサイズを振るい、自分に向かって牙を突き立てようとしたドラゴニアスの首を切断する。

 ドラゴニアスが周囲の木々を破壊して自由に動けるようになったということは、当然ながらその空間はレイにとっても利益となる。

 デスサイズを振るう空間的な余裕が出来たというのは、レイにとっては戦闘をする上でこれ以上ない程に有利だった。

 いや、寧ろデスサイズを自由自在に扱えるようになったという点では、全体的に見て明らかにレイの方が有利になっただろう。

 ドラゴニアスの方は、どちらが有利になったのかといったことに頭はついていっていないらしく、レイを喰い殺すといったようなことしか考えていなかった。

 そんなドラゴニアス達は、周囲から一斉にレイに向かって攻撃を仕掛けてくる。

 ……ここにいるのは、ヴィヘラと戦っている場所から距離があるということもあり、遠くのご馳走よりも近くの手軽な料理といった感覚なのだろう。

 とはいえ、ドラゴニアスにとっては手軽な食事であっても、実際にはその手軽な食事というのは凶悪なまでの戦闘力を持っているのだが。

 そんな訳で、次々と放たれるドラゴニアスの攻撃は、一切レイを捉えることは出来ない。

 それどころか、周囲に生えている木々が折れて空間的な余裕が出来たことで、レイはデスサイズと黄昏の槍の二槍流で戦いを行い……それによって、ドラゴニアスは次々に死んでいく。

 そうして地面にドラゴニアスの死体が増え、足の踏み場がなくなってくれば、レイは戦場を移動するのだ。

 次々と量産されていく死体。

 それを見ても、レイは特に気にした様子もなく戦闘を続け……気が付けば、ドラゴニアスの姿はほぼ消滅していた。


「ふぅ。……これを集めるのはかなり面倒だな」


 林の中の木々、そして茂みによってドラゴニアスの死体は見つけることが困難になっている。

 それはレイも理解出来たので、その死体を集めるのが大変だと呟いたのだ。

 とはいえ、死体を集めなければアンデッドになる可能性がある以上、それを放っておくような真似も出来ないのは当然だろう。

 そのように考えながら、ヴィヘラが戦っているだろう場所に向かうと……そこでも、そこら中にドラゴニアスの死体が転がっていた。

 レイと同様、ある程度戦って地面にドラゴニアスの死体が多くなってきたら、戦う場所を移すといったような真似をしていたのだろう。

 だからこそ、レイと同じような感じでそこら中に死体が転がっていたのだ。


「あら、そっちももう終わったの?」

「ああ。何でか分からないけど、途中でいきなり暴れ出したからな」

「それよ。一体何があってあんなことになったのかしら。……ほら」


 そうヴィヘラが示したのは、折れた木の幹。

 折れた場所の付近についている傷を見れば、それがドラゴニアスの攻撃によって行われたものなのは間違いなかった。

 傷跡は爪痕で、爪という意味ではヴィヘラの手甲からも魔力の爪を伸ばすことが出来るのだが……その爪痕は同じような武器であっても、傷跡が明らかに違う。


「ああ、俺もそれは疑問に思った。最初は木を折らないようにしていたのに、何でいきなりそんな真似をするようになったんだろうな」

「……考えられる可能性としては、銀の鱗のドラゴニアスの命令が効かなくなったとか? ドラゴニアスがこうも周囲に被害を出さないように戦っていたのは、明らかにドラゴニアスに何らかの命令をしている者がいたからでしょうし」

「それは俺も思った。ドラゴニアスが木の間に詰まった状態でも、暴れたりしないで身動きすらしなかったしな」


 その結果として、動けないドラゴニアスはレイによって次々と殺されていったのだが。

 とはいえ、実際にレイによって殺されたドラゴニアスの数は、黄昏の槍よりもデスサイズでの一撃の方が多かったりする。

 これは突きで一匹ずつしか殺せない黄昏の槍に対し、横薙ぎに振るうことが出来るデスサイズは一撃で複数のドラゴニアスに攻撃出来る……というのが大きいだろう。

 結果として、ドラゴニアスが周囲の木々を破壊するように動いたのが、レイにとって有利に働いたことになる。


「その言い方からすると、レイが倒したんじゃないの?」


 意外そうな表情を浮かべるヴィヘラ。

 自分が倒していない以上、レイが銀の鱗のドラゴニアスを倒したのだと、そう思ったのだ。

 だが、レイはそんな相手を倒していないと言う。

 であれば、誰が倒したのか……その答えは、そう難しいものではない。

 レイとヴィヘラの視線が揃って集落の方に向けられる。

 そこにいるのは、セト。

 ランクAモンスターのグリフォンだけに、その実力は極めて強力……いや、魔獣術で生み出された存在でスキルを使う分、通常のグリフォンよりも明らかに上だ。

 実際、ギルムのギルドからもランクS相当のモンスターと評価されているのだから。


「セトならしょうがないわね」

「そうだな。けど……もしかしたら、セトじゃなくてザイ達が協力して倒した可能性も……いや、それはないか。幾らヴィヘラとの訓練で強くなっているとはいえ、まだ銀の鱗のドラゴニアスと戦える程じゃないし」


 ザイ達かもしれないと思いつつ、すぐにその言葉を自分で否定するレイ。

 実際には、もしかしたらザイ達が纏まってドラゴニアスに戦いを挑めば勝てるかもしれないが、その場合はもし勝っても大きな被害を受けているのは間違いない。

 それこそ、半分程が死ぬといったような感じで。

 そうなるよりも前に、間違いなくセトが介入する筈だった。


(そう考えると、俺がセトに集落を守ってくれるように頼んできたのは最善の選択だった訳だ。……まぁ、本当に集落に銀の鱗のドラゴニアスが現れたのかどうか分からないけど)


 そう考えながら、レイはヴィヘラと共に集落に戻っていったのだが……


「銅……?」

「グルゥ!」


 集落に戻ったレイとヴィヘラが見たのは、普通のドラゴニアスよりも明らかに小さい、銅の鱗のドラゴニアスだった。


「金、銀、銅って……いやまぁ、偶然にしろない訳じゃないけど。オリンピックじゃないだろうに」


 凄い? 褒めて褒めて。そう態度で示すセトを撫でながら、レイは思わずといった様子でそう呟く。

 オリンピック? とレイの言葉に聞き覚えがない者達は首を傾げていたが、レイ達が別の場所からこの草原にやって来たのは知っている。

 つまり、レイ達の出身地の何かなのだろうと、そう考えてそれ以上は聞かない。

 レイと同じ出身と見られているヴィヘラも、当然のようにオリンピックという単語は知らなかった。

 だが、ヴィヘラはレイが異世界から自分達の世界に来たというのを知っている。

 そうである以上、レイが以前いた場所に関係のある言葉だろうと納得し、こちらも今は尋ねない。

 後で聞こうとは思っていたが。

 何だか面白そうだと、そう思ったのだろう。

 ヴィヘラがそんなことを考えているとは気が付かないレイは、セトから手を離すと銅の鱗のドラゴニアスをミスティリングの中に収納する。

 普通のドラゴニアスの死体であれば、もう集めようとは思えなくらいにミスティリングの中に入っていたが、銅の鱗のドラゴニアス……恐らく銀の鱗のドラゴニアスの下位互換と思われる存在であれば、後々何の役に立つか分からないと、そう思っての行動だった。


「レイ、このドラゴニアスだが……何を目的に集落にやって来たと思う?」


 そう尋ねながらも、ザイの視線は集落の一部……採掘作業をやっている場所に向けられていた。

 何が目的でと口に出してはいるが、実際には明らかにこの集落にある何か……自分達が掘り出そうとしている何かを探してやって来たのは確実だろうと、そう態度で示している。

 その意見はザイだけではなく、他の者達も同様なのだろう。

 視線を向け、レイの言葉を待つ。


「ザイの予想通り、この集落の地下に埋まってる何かを求めてやって来たんだろうな。とはいえ……今回の一件で収穫が何もなかった訳でもない」

「具体的には?」

「このドラゴニアス達が今の時間にこの集落に到着したってことは、俺達が集落を攻撃した……正確には攻撃をして、ドラゴニアスの死体を燃やした煙か何かを見てやって来た可能性が高い。……もしかしたら後詰めとかで偶然この集落に向かっていただけって可能性もあるけど」


 もしドラゴニアスの死体を燃やす煙を見てここにやって来たのなら、銅の鱗のドラゴニアスに率いられた一団の拠点……もしくはドラゴニアスの本拠地がこの集落からどれくらい離れた場所にあるのかを計算出来る。

 ドラゴニアスはケンタウロスに比べると移動速度はそこまで速くはないので、その距離もそこまで遠くはないだろうというのがレイの予想だった。

 あくまでも予想でしかないのだが、それでも何の根拠もなくドラゴニアスの拠点を探すよりは、随分と捜索範囲が狭まったのは間違いない。


「なるほど。この連中が本拠地からやって来たのか、それとも拠点からやって来たのか。その辺は分からないが、それでも可能性としては十分にあるか」


 ザイもレイの意見に賛同するのか、そう呟く。

 とはいえ、ドラゴニアスの移動速度がケンタウロスより遅いとはいえ、普通に人間が歩くよりは速い。

 その上で、ドラゴニアスの死体を燃やしてからセトが集落に近付いてきたのを察知するまでの時間を考えると、何気にドラゴニアスの活動範囲はかなり広い。

 勿論、何の手掛かりもないままに探すよりはこちらの方がずっと範囲が狭いのは事実なのだが。


「ともあれ、敵の本拠地を探すにしても……明日以降だな。今日はもう寝た方がいい」

「……この状況だと、眠れない奴も多そうだけど」


 戦闘が終わったばかりだ。

 これが模擬戦の類であれば話は別だが、命懸けの戦闘だ。

 それも相手は、ケンタウロスの支配領域を次々と奪っている宿敵のドラゴニアス。

 そんな相手との戦いの後なのだから、当然のように多くの者がまだ興奮の中にあった。

 興奮している状況で眠れるかと言われれば、その答えは否であり……


「取りあえず、これでも飲んで寝ろ。明日……いや、もう今日か? とにかく、色々と忙しいのは間違いないぞ」


 そう言い、レイがミスティリングから取り出したのは樽。

 ギルムで購入した酒だ。

 レイが自分で飲むのではなく、何らかの取引に使ったり……もしくは、こういう時に使う為のものだ。

 そしてケンタウロス達は突然の酒に驚きつつも、喜ぶ。

 レイとしては寝酒のつもりで出したのだが、これから宴会でもやろうと思っているかのような、そんな喜びようだ。


(失敗だったか?)


 レイは酒を飲まない為、酒を見てここまで大騒ぎするとは思わなかった。

 とはいえ、こうなってしまってはもう意味がない。

 それこそ、ここで下手に酒を奪おうものなら反乱すら起きかねない。

 ……実際には偵察隊を纏めているのはザイなので、反乱という表現は相応しくないのかもしれないが。

 ともあれ、レイはケンタウロス達に呆れながらも、これまでのストレスを解消させるという意味では丁度いいかもしれないと判断し、ミスティリングの中から更に幾つかの酒の入った樽を取り出す。


「言っておくが、二日酔いになったからって明日の仕事は休ませたりしないからな」


 それだけを言い、歓声を上げるケンタウロス達をその場に残してセトとヴィヘラと共にその場を立ち去るのだった。

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