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レジェンド  作者: 神無月 紅
異世界の草原
2242/3865

2242話

 マジックアイテムの説明は取りあえず終わる。

 もっとも、ザイを含めて他の面々もマジックアイテムについてそこまで深く理解出来たとはレイには思えなかったが。

 取りあえず、何か不思議な能力を持つ道具ということだけを理解したのだが、実際にそれはそこまで間違っている認識ではない。

 ……そもそもの話、レイだってマジックアイテムが具体的にどのような構造をしているのかといったようなことは分からないのだから。

 ともあれ、ドラットの一件も解決――とは言えないかもしれないが――し、マジックアイテムの件も解決したということで、レイとセトはザイの氏族の集落に入る。

 かなりの人数が集まっているのを見れば、集落というよりも村や街といった表現の方が相応しいだろう。

 そんな集落の中にいるのは、全員がケンタウロスだ。

 あるいは他の種族もいるのかもしれないが、少なくてもレイが見た限りでは全員がケンタウロスだったのは間違いない。

 だからこそ、体長三mもある巨大なグリフォンのセトと、ケンタウロスとは違って二本足のレイは非常に目立つ。

 集落の中にいるケンタウロス達は、レイの姿を見ると全員が驚愕してレイとセトを眺めていた。

 それでもすぐに騒動になったり、場合によっては攻撃をされたりといったことにならなかったのは、セトの強さを感じ取った者が多かったというのもあるし……何より、レイの側にはザイがいたというのが大きい。

 ザイが許容しているのなら、自分達に危害を加えるような相手ではない。

 そう判断してのことだ。


(へぇ。俺が予想していたよりも、ザイの影響力は強いみたいだな)


 ドラットと違って、一緒に行動している者の数が多くはなかった。

 だから、てっきりレイはザイの影響力はそこまで高くはないのではないかと、そう思っていたのだ。

 だが、こうして集落の中に入って周囲の様子を見る限りでは、しっかりと他の者達から信頼されているというのが理解出来る。

 ……それでも、多くのケンタウロス達から奇異の目で見られているというのは変わらなかったが。

 そんな中、不意にレイは自分の方に近付いてくる気配を感じた。

 とはいえ、それは別に敵意の類を抱いている訳でもない様子だったので、特に気にした様子も見せずにその気配の方に視線を向ける。

 その視線の先にいたのは、当然のようにケンタウロス。

 ただし、ザイのように大人ではなく、まだ子供の……それこそ頭がレイの胸くらいまでしかないような、小さなケンタウロスだ。


「兄ちゃん、足が二本しかないのか? 変な奴だな!」

「あー……うん。そうだな。俺の周囲では二本足が普通だったんだが」


 これが先程のドラットのように敵対心を込めて言われたのであれば、レイも相応の対応をしただろう。

 だが、純粋に不思議そうな視線を向けて尋ねるような、そんな無邪気な子供を相手にしてはそんな真似も出来ない。

 なので、適当に誤魔化すようにそう告げる。

 そんなレイの様子に、悪い奴ではないと判断したのだろう。ケンタウロスの子供は次にレイの側にいるセトに視線を向ける。

 ……本来なら、レイよりも先にセトに意識を向けるのが普通なのだが、その子供の場合は何故かレイの方が気になったらしい。

 あるいはレイがどのような存在なのかを、子供らしい無邪気な心で感じ取ったのかもしれないが。


「うわ、凄いな。この動物なに? 初めて見た!」

「動物っていうか、モンスターだな。……モンスターって言葉は通じるか?」


 一応念の為にということでザイに向かってそう尋ねるが、ザイはレイの言葉に頷く。

 モンスターという言葉が通用するのなら、この草原にもモンスターの類がいるのは間違いないのだろう。

 出来れば倒して魔石が欲しい。

 そう思うも、異世界の魔石で魔獣術が使えるか? と考えれば、正直微妙なところだ。

 その辺は、実際に試してみないと分からないだろう。


「デアトリス! 何をやってるの!?」


 不意に聞こえてきたそんな声に、レイは視線を向ける。

 するとそこには、顔を青くしたケンタウロスの女が、デアトリスと呼ばれた人物……レイと話していた子供のケンタウロスに近付き、頭を殴る。……拳で。

 見たところ、デアトリスの母親、もしくは姉といったような女だったことから、殴るにしても拳ではなく掌ではないのかと思っていたレイは、少しだけ驚く。

 だが、女のケンタウロスは、殴られて痛がっているデアトリスの頭をレイに向かって強引に下げさせた。


「すいません、うちの息子が失礼な真似をしてしまいまして」

「あー……いや、うん。取りあえず気にしてないから、あまり怒らないでやってくれ。子供が好奇心旺盛なのは、悪いことじゃないんだし」


 レイはそう言い、デアトリスを母親から庇う。

 ちなみに、レイは何も親切心だけでこのようなことを口にした訳ではない。

 これによって、この集落で自分が好意的に見られれば、情報を集める時にも助かると、そういう打算もある。

 レイのそんな言葉に、デアトリスの母親は再度頭を下げる。

 ……そんな一連の行動を見て、周囲で様子を窺っていた他のケンタウロス達からの視線が幾らか柔らかくなったことを、レイも感じた。


(悪くない結果なのは間違いないな。もっとも、ここにいるケンタウロスは、あくまでも限られた数だけだけど)


 この集落が数十人程度の大きさしかないのなら、今のやり取りだけでもレイとしては十分な結果だっただろう。

 だが、この集落は集落と呼ぶには人数が多すぎる。

 ここにいる者達がレイに対して好意的になったとしても、それ以外の面々……この辺りにいない者達にしてみれば、レイについては何も知らない状況になるのだ。

 であれば、やはりここで情報を集める為にはもっとこの集落における自分の影響力を強める必要があった。

 ……とはいえ、アナスタシアとファナについての情報、またはそれ以外にもレイにとって有益な情報を集めるにも、時間を掛けて自分の存在を認めさせていくといったようなことは出来ない。

 もっと手っ取り早く自分の存在を多くの者に認めさせる必要があった。


(ドラットが何かしでかしてくれればいいんだけど。……それもまた、難しいだろうな)


 何だかんだと、先程絡んで来たドラットも取り巻きがいたように仲間からの信頼はそれなりに厚そうだった。


「もういい。行ってもいいぞ」


 ザイのその言葉に、女は助かったといったように再度頭を下げると、子供を引っ張ってその場から立ち去る。


「すまないな」

「いや、別に気にしてない。さっきも言ったけど、子供が好奇心旺盛なのは悪いことじゃないしな」

「そう言って貰えると助かる。だが、その好奇心が悪い方向に働くということもある。それを考えれば、今回の相手がレイでよかった」


 しみじみとザイが告げる。

 そんなザイの様子を見ると、恐らく以前何かがあったのだろうと、そう思える。


「取りあえず、この件はこれで終わりでいいよ。……とはいえ、やっぱりこの集落では俺とセトは目立つな」

「ああ。それは間違いない。特にこの集落にはいるのは、全員がケンタウロスだからな。特に今の状況では、より多くの者が集まっている」

「……さっきもそんなことを言ってたな。それが具体的に何故なのかってのは聞いてもいいのか?」


 本来なら、レイとしてはこの一件にそこまで深く関わるつもりはなかった。

 だが、情報を集める為に自分の影響力を高めるとなれば、今回の一件に首を突っ込むことになっても構わないという思いがあった。


「レイにはあまり関係ないことだ。気にする必要はない」

「そう言われると、余計に気になるんだけどな。まぁ、いい。俺が強いってのはドラットとの一件で理解しただろ? まぁ、ザイの場合は俺と会った時から実力を見抜いていたようだが」


 そんなレイの言葉に、ザイは無言で頷く。

 いや、ザイだけではなく、ザイと行動を共にしている他の者達もまた、同様に頷いていた。

 ドラットの取り巻きは、数こそ多かったが、レイの実力を全く見抜けなかった者もいた。

 その辺を考えると、ザイとドラットでは周囲にいる者の能力が違うのだろう。


(まぁ、あくまでも今のところ見た感じではであって、実際にどうなのかは分からないけど)


 まだ、レイはこの集落について何も知らない。

 それこそ、この集落どころかこの世界のことについても分かっていないのだ。

 であれば、まずはこの世界の……いや、まずはこの集落の情報から集める方が先だった。


「……」


 だが、そんなレイの考えとは裏腹に、ザイが何かを言うようなことはない。

 悔しげな様子を見せつつも、それを実際に言葉に出すことはなかった。


(何でここまで? これまでの様子を見る限りでは、少しでも力は欲しい筈だろうに)


 そう思うも、ザイの性格を考えれば何となく理解出来ないでもない。

 まだレイがザイと出会ってから、一日どころか半日も経っていない。

 それどころか、数時間といったところだろう。

 それでもこの短い時間で、ザイが実直で誇り高い……言ってみれば生真面目な性格をしているというのは、レイにも理解出来た。

 だからこそ、この集落が……そしてザイの種族が危機に陥っている状態であっても、レイの力を借りるといったことは気が進まないのだろう。

 とはいえ、この集落に起きている何かの問題をどうにかしない限り、色々と危ないのは間違いない。

 ザイの性格を考えても、自分のプライドと集落の問題解決のどちらを選ぶかと言われれば。当然のように後者を選ぶというのがレイの半ば確信に近い予想だった。


「俺はアナスタシアとファナという二人の女を捜している。その二人がこの辺りにきたのは、ほぼ間違いのない事実だ。それだけに、色々な情報が集まってるだろうこの集落が立ち行かなくなったりしたら、困るんだけどな」

「……取りあえず、長老のいる場所に案内しよう」


 結局ザイはレイの言葉を誤魔化すようにそう告げ、集落の中を進む。

 レイもまた、今はこれ以上突っ込んで聞かない方がいいだろうと判断したのか、セトと共に大人しくザイの後を追う。


「あの家……いや、家じゃないのか? テントか?」


 集落の中を進みつつ周囲の様子を見ていたレイは、集落の中に建っている家が正確には家ではなく、テントのような物だということに気が付く。

 勿論、それはテントとは言っても冒険者達が使っているようなテントではなく、もっと本格的な……家に近いようなテントだ。

 当然の話だが、その場に建てられた家ではなくテントである以上、持ち運ぶことも可能となる。


(日本にいた時、TVでゲルとかいうのを見たことがあったけど、そういう感じか?)


 レイも詳しいところまでは知らないが、ゲルというのは遊牧民が使う移動式のテントだ。

 キャンプで使うようなテントとは外見も大きく違い、羊毛を使っているので非常に暖かい。

 ……もっとも、レイがTVで見た時は太陽光パネルや蓄電池、衛星放送のパラボラアンテナを設置しているゲルもあったのだが。

 ともあれ、色々と違うところはあるがこの集落にあるテントはゲルに似ていた。


(とはいえ、ケンタウロスのテントだけに俺が知ってるゲルよりもかなり広いな。眠り方は……普通の馬とかと同じなのか?)


 レイが知ってる限り、馬の眠り方には三つの種類がある。

 立ったまま寝るのと、しゃがんで眠るのと、地面に倒れて眠るという三種類が。

 ケンタウロスがどうやって寝るのかは、レイも分からない。

 だが、下半身が馬である以上、馬と変わらない眠り方になる可能性が高く、そうなれば人よりも身体の大きなケンタウロスが使う以上、テントが大きくなるのは当然だった。


「レイ? どうした?」

「いや、家……テントが珍しくてな」

「そうか? 俺達の集落では普通のことなのだが」

「お前達にとってはそうかもしれないけど、俺にとっては珍しいんだよ。俺とお前達の大きさの違いから予想出来るだろ?」

「む。それは……だが、セトとか言ったか。その獣……いや、モンスターか? ともあれ、それ程の大きさがあれば、小さなダオでは入らないだろう」

「ダオ? テントのことか?」

「そうだ。テントというものは知ってるが、俺達が使っているものはダオという」

「……そうなのか」


 ゲルという名前ではなかったことを若干残念に思いながらも、レイはザイの言葉に納得する。


「うむ。それで……」


 レイの言葉にザイが頷き、何か言おうとしたその瞬間、不意にセトが警戒に喉を鳴らす。


「グルルルゥ」

「セト?」


 突然のセトの様子にレイは疑問を抱き、ザイやその仲間達……それに周囲で様子を窺っていたケンタウロス達は、戸惑った様子を見せる。


「ドラゴニアスだ、ドラゴニアス達がやって来たぞ!」


 と、そんな緊張の瞬間を破るように、そんな声が響き渡るのだった。

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