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レジェンド  作者: 神無月 紅
増築工事の春
2109/3865

2109話

 真っ先に飛び出したのは、当然のようにレイ。

 トカゲのモンスターは、そんなレイに向かって再び何か――恐らくは牙――を吐き出す。

 まるで銃弾のような一撃。

 だが、今のレイはどのような攻撃も一度だけは防ぐことが出来るマジックシールドを展開している。

 放たれた一撃は、本来ならレイも回避することは出来たが、回避するという動きをした場合、当然ながらレイは体勢を崩す。

 そうなれば、次の一撃を放つのに一瞬にも満たない時間ではあるが、遅れが出る。

 そうならないようにする為には、マジックシールドの性能を信じて進むしかなかった。


(それに、どういう訳か牙を吐くのは先頭のトカゲだけだ。……多分、そういう習性なんだろうな)


 トカゲの習性に感謝しつつ、レイはデスサイズを下からすくい上げるように振るう。

 魔力を流されたデスサイズの刃は、先頭にいたトカゲをあっさりと左右真っ二つに切断する。

 飛斬では軽い傷しか付けられなかったというのが、まるで嘘のようなあっさりとした一撃。

 それも当然だろう。

 飛斬というスキルの斬れ味が幾ら鋭くても、レイの魔力によって強化されたデスサイズの一撃には到底及ばないのだから。

 そして、レイの一撃はそれだけでは終わらない。

 下からすくい上げるような一撃でトカゲを一匹斬り裂くと、そのままの動きで手首を回転させ、石突きですくい上げるようにして近くにいた別のトカゲを空中に持ち上げる。

 尻尾まで入れると全長二m半ば程もあるトカゲは、その重量も当然相応のものだったが、そんなのは関係ないと言わんばかりの一撃。

 強引に空中に浮かび上がらせられたトカゲは、次の瞬間にはレイが左手で持っていた黄昏の槍によって胴体を貫かれる。

 ……その一撃の威力が、あまりに高かった為だろう。胴体を貫いただけの筈の一撃は、トカゲの胴体を粉砕して周囲に内蔵や血を撒き散らかす。

 夜の湖に広がる、濃密な血と臓物の臭い。

 それに若干眉を顰めつつも、レイはデスサイズと黄昏の槍を手に周辺の様子を確認する。

 レイの視線の先では、他の冒険者達も既にトカゲとの戦いを行っていた。

 ある者は長剣を、ある者は槍を、ある者は鎚を……それぞれが自分の武器を使ってではあるが、トカゲに攻撃をしている。

 優秀な冒険者が集められただけあって、飛斬では浅い傷しか付けられなかったトカゲを相手にしても全く問題なく戦うことが出来ていた。

 轟っ! という音と共に、ガガの振るう異常な程の大きさを持つ大剣の一撃がトカゲを砕く。

 ……そう、斬るではなく砕いたのだ。

 それは大剣の攻撃ではなく、鎚か何かの攻撃結果に近い。

 レイが黄昏の槍で突きを放ったことによってトカゲの胴体が破裂したのが、もっと大規模になったような形での出来事。

 圧倒的なまでの膂力と、その膂力に振り回されずに振るえるだけの業物の大剣があって始めて可能なことだ。

 グラン・ドラゴニア帝国の中でも五指に入る強さを持っているというのは、伊達ではない。

 もっとも、レイと半ば互角に戦ったことから考えても、その実力ははっきりとしていたが。


「グルルルルゥ!」


 そんな中で、セトも当然のようにトカゲと戦っていた。

 アメンボとの戦いでは、頭部を破壊してしまったが故に魔石を持っているのかどうかがはっきりとしていなかった。

 だからこそ、今度はしっかりと身体全体を残してトカゲを倒し、本当に魔石がないのかどうかをはっきりとさせる必要があり、それ故に張り切っていたのだ。

 長い口と顎でセトの足を喰い千切ろうとしてくるトカゲの一撃を回避し、反撃として前足の一撃を叩きつける。

 セトによって放たれたその一撃は、容易にトカゲの長い口と顎の骨を叩き砕く。


「ギャピィ!」


 とてもではないが、トカゲとは思えないような悲鳴が上がる。

 もっとも、その口の長さから考えて普通のトカゲとは思えないのだが。

 レイがトカゲと評しているのは、あくまでも全体で見た場合、何に似ているのかと言われれば、トカゲに似ているからだ。

 あくまでもトカゲに似ているだけである以上、トカゲとは全く思えない鳴き声を発しても、おかしなことではない。

 それこそ、今はそんな鳴き声を気にするよりもやるべきことは幾らでもあった。


「おらぁっ!」


 レイ達から離れた場所では、そんな声と共にトカゲにハルバードを振るっている男がいた。

 強靱な顎でその一撃を受け止めようとするトカゲだったが、生憎と……いや、当然ながらと言うべきか、その一撃は歯で受け止められるといったことはされずに、長い口から胴体を二つに斬り裂く。

 ランクB冒険者としてそれなりに有名な男だけに、その実力は十分なものだ。

 そんな一撃を放つ冒険者同様、他の冒険者達もまた多くがトカゲに攻撃をしている。

 冒険者達とは違って、そこまで攻撃に積極的ではないのは、リザードマン達だ。

 ガガを始めとした一部の者達は嬉々としてトカゲに攻撃を行っているが、ゾゾを始めとした大分部のリザードマン達は、生誕の塔の守りについていた。


(やっぱり、同じトカゲ系だから何か思うところがあるのか?)


 噛み千切ろうと、その長い口を開いて襲い掛かって来たトカゲの一撃を回避し、黄昏の刃……ではなく、柄の部分で空いている口を上から叩きつける。

 黄昏の槍によって強制的に閉じることになった口は、次の瞬間、今度は黄昏の槍の穂先によって、上下合わせて貫通され、続くデスサイズの一撃で頭部が切断された。


(ワニとかって、噛む力そのものは強いけど、一旦閉じた口を開く力は弱い……って、何でやってたんだったか。多分、TVか何かだと思うけど)


 口から黄昏の槍を引き抜きながら、何となく思いついたことを考えるレイ。

 その考えが合っているのかどうかは、レイにも分からない。

 だが、こうして戦ってみた感じでは、そう間違っているようには思えなかった。


(ランクC……いや、ランクDくらいか? 見た目はかなり凶悪だけど、実際にこうして戦ってみた感じでは、そこまで高ランクモンスターだとは思えないし)


 噛みつきの威力は強力だろう。

 長い牙の類は持っていないが、鋭く小さな牙が大量に生えている光景は、ノコギリを想像させる。

 そんなノコギリのような牙で噛みつき、振り回されたりされようものなら、相当の傷になるのは間違いない。

 回復魔法や高い治癒能力を持つポーションの類を使わなければ、傷跡が残ってしまうのは間違いないくらいに。

 また、レイに対して行ったように、牙を弾丸のように飛ばす攻撃も、何も知らない状況であれば致命傷を負ってもおかしくはない。

 それでも、そのような攻撃があると理解していれば、対処するのは難しい話ではない。

 ただ、飛斬で軽い傷しか与えられなかったことを思えば、斬撃に対する防御力は相当なものだと思ってもいいだろう。

 総合的に見て、個体ではランクDモンスター。ただし、このトカゲは集団で襲ってくる性質を持っているのを考えると、集団でならランクCモンスターといったところというのが、レイの分析だった。

 もっとも、それはあくまでもレイがそう思っただけであって、ギルドの方でどのように判断するのかは、実際にそうなってみなければ分からなかったが。

 戦闘そのものは、冒険者側が腕利き揃いということもあり、そこまで時間は掛からずに終わった。

 湖から上がってきたトカゲは、自分達に勝ち目がないと知って湖に逃げ戻っていった少数以外、全てがレイ達によって倒された。






「……さて」


 大量のトカゲの死体を前に、レイがまずやるべきことは当然のように解体だった。

 とはいえ、それはトカゲの肉を食べたいといったことや、トカゲの素材がどのように使えるかを確認するため……ではなく、アメンボの時と同じく魔石の有無を確認する為だ。

 アメンボの時は一匹しか現れず、倒す時もセトが前足の一撃で頭部を爆散させてしまった。

 結果としてアメンボの頭部は肉片となって湖に沈むこととなる。

 今頃は、恐らく魚や虫、貝、それ以外の動物達の餌となっているだろう。

 とはいえ、レイはこの件でセトを責めるつもりはなかった。

 そもそもの話、普通ならモンスターの持つ魔石というのは心臓にあるのが一般的なのだから。


「……やっぱりないな。そっちはどうだ?」


 レイの近くで、これもまた別のトカゲを解体していた冒険者は首を横に振る


「駄目だ。やっぱり魔石はない。夜だから見逃した……なんてことは、ここでならある筈がないしな」


 冒険者の言葉にレイは頷き、視線を燃え続けているスライムに向ける。

 レイの魔法によって燃え続けているそのスライムの側だけに、周囲はかなり明るくなっている。

 少なくても、モンスターの体内にある魔石を見逃すような暗さでは一切ない。

 そんな状況で、しかも一匹だけではなくレイや声を掛けた冒険者、それ以外にも数人の冒険者全員が解体をして、それでも魔石が見つからないというのは、有り得ない。

 勿論アメンボの時のことを考えて、頭部もしっかりと探したのだが、当然のようにそこには魔石が存在しなかった。


「つまり……まだ全部がとは言えないが、この湖のモンスターには魔石が存在しないということか。……面倒な」


 魔石が存在しないモンスターというのは、この世界には基本的に存在しない。

 あるいは探せばどこかにそのようなモンスターがいる可能性もあったが、レイが考えているように、やはりこの湖は異世界からやってきた……と、そう考えるのが妥当だろう。


「ゾゾ、もう一度聞くが、お前達の世界のモンスターも、魔石は持ってるんだよな?」

『はい。私達リザードマンを含め、魔石はあります。もしかしたら魔石を持たないモンスターというのもいるかもしれませんが、そのような存在を私は知りません』


 ゾゾは、石版でレイの問いに答える。

 石版に書かれる文字を口にするゾゾに、戸惑いのようなものは存在しない。

 嘘を吐いているのではないことは、それだけでも明らかだった。

 もっとも、レイに対して深い忠誠心を抱いているゾゾの性格を考えれば、ここで嘘を吐くような真似をするとは思えなかったが。


「そうなると、やっぱりこの湖は……」

「別の世界から転移してきた、か」

「っ!?」


 レイの言葉に続けたのは、先程レイが魔石があるかと尋ねた冒険者だった。

 その冒険者は、若干の呆れと共にレイに視線を向けてくる。


「何だ、もしかしてまだ隠し通せていると思ってたのか? これだけ異常な状況なら、こことは違う世界からと思っても、おかしくはないだろ」

「いや、だって……」


 レイが言葉に詰まるのは、当然だった。

 ゼパイルの例を見れば分かるように、この世界にも異世界という概念は存在する。

 お伽噺の中には、どこからともなくやってきた勇者が悪いモンスターをやっつけたといったものもあるのだから。

 だが、異世界の概念を本気で信じているような者は、それこそ学者や魔法使いといったような知識人のほんの一握りだけだ。

 だからこそ、その冒険者が異世界があるのは当然といったように言ってくるのは、レイにとっても驚き以外のなにものでもなかった。


「これだけ異常な事態が続いている上に、国を作るリザードマンだぞ? そんなのがいれば、少しくらい噂になってもおかしくはないだろ。そんなのは聞いたことがない以上、異世界の存在を思いつくのはおかしくないって」

「……そういうものなのか?」


 てっきり、冒険者である以上は異世界といった存在については全く気にするようなことがなかったのではないか。

 そんな風に思いながら、レイは尋ねる。

 冒険者の男は、笑みを浮かべて頷く。


「そうだな。普通の冒険者ならそうかもしれない。けど……ここは辺境のギルムだぞ?」


 ギルムだから。

 そう言われれば、レイとしても納得せざるをえなかった。

 実際に辺境にあるギルムは色々な意味で特殊な場所であるのは、間違いない。


「そうか」

「そうなんだよ。ただ、その辺に気が付いているのは、あくまでもここにいる連中だけだから、心配する必要はないと思うぞ」


 冒険者のその言葉に、そう言われればそうかと思い直す。

 ここにいる冒険者は、腕利きの冒険者として雇われた存在だ。

 そんな腕利きの冒険者が、異世界云々という言葉を迂闊に広めるとは思えなかった。

 ダスカーがそれを隠そうとしているのを知っている以上、今の状況でそれを口にした場合、間違いなく後々面倒なことになるのは間違いないのだから。


「そうだといいんだけどな。ダスカー様もこの件は出来るだけ秘密にしたがってるみたいだし」


 秘密にしておきたいのはレイも一緒なのだが、取りあえずここでは自分の名前ではなくダスカーの名前を出しておいた方がいいだろうと判断し、そう告げるのだった。

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