2021話
N-starにて異世界だから誰かに従うのはやめにする ~石化の視線でヒャッハーする~が更新されています。
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剣と魔法の世界で俺だけロボットの方も更新しています。
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MFブックスにて、異世界だから誰かに従うのはやめにする ~石化の視線でヒャッハーする~の1巻が発売されましたので、よろしくお願いします。
追加エピソード6万文字、ページ数にして100ページあるので、WEB版を読んでいた人も十分楽しめると思います。
緑の亜人達の治療が終わると、そんな一行を代表してだろう。
ロロルノーラが一歩前に出て、ダスカーに向かって頭を下げる。
それが感謝の意を示しているのは明らかであり、ダスカーもそんなロロルノーラの様子に笑みを浮かべて頷きを返す。
(頭を下げて感謝するってのは、ロロルノーラ達の世界でも普通にあった訳か。そう考えると、言葉こそ通じないみたいだが、大体の仕草とかは似通っていると思ってもいいみたいだな)
レイも、緑の亜人やリザードマン達とそれなりに付き合いがある。
いや、その双方がこの世界に転移してきた時にその場にいるというのを考えれば、レイが一番付き合いが長いと言えるだろう。
実際、ロロルノーラやゾゾ達と意思疎通したのも、レイだったのだから。
「見たところ、多分ロロルノーラ達……緑の亜人達は徹底的に争いを好まない性格をしているように思えます。いえ、性格じゃなくて、特徴と言うべきでしょうか」
レイのその言葉に、ダスカーは複雑な表情を浮かべる。
勿論、これから自分達が取り込もうとしている緑の亜人達が平和主義であるのならば、それは嬉しいことだ。
だが、この弱肉強食の世界において、そのような平和主義でいられるのかと、そう思ったのだろう。
「ダスカー様?」
ギュラメルのその言葉に、ダスカーは何でもないと首を横に振る。
「いや、緑の亜人達とは上手くやっていけると思ってな。……それで、報告のあった植物を育てる能力というのを見せて欲しいのだが、それは可能か?」
ダスカーが尋ねたのは、レイ。
緑の亜人と一番親しいのがレイであると理解しているからこそだろう。
「可能かどうかと言われれば、多分出来ます。ただ、こっちの要望を伝えるのは結構大変なんですよね」
「……言葉の問題は、どうにかする必要があるだろうな。それはこっちでどうにかするから、今は取りあえず我慢して見せてくれ」
ダスカーにそう言われば、レイとしても断りにくい。
また、緑の亜人達の能力を見せるのは、これからの処遇にも関係してくる以上、それをきちんと見せておいた方がいいだろうという思いもあり、頷く。
「ちょっと待っててください。えっと……」
ダスカーの言葉に、レイは周囲を見回す。
幸いにも、ここは騎士達が戦闘訓練を行う場所だ。
綺麗な花壇の類はなくても、訓練場の端の辺りには、春であるということもあって多少の草や花は存在している。
「ロロルノーラ!」
「●●●?」
レイの言葉に、自分の名前を聞き取ることは出来るロロルノーラが、レイの方に近づいてくる。
そんなロロルノーラを連れ、訓練場の端に生えている花のある場所に向かう。
当然ながら、そんなレイ達を追うようにダスカーを始めとしてその部下達が……そして、ロロルノーラが移動したということで、緑の亜人達もその後を追い、そしてレイが移動したということでセトとゾゾが移動し、ゾゾが移動したということで他のリザードマン隊も移動する。
何だかんだと、結局その場にいた殆どの者達が移動し、訓練場の端にある花の周囲には何人もが集まった。
「これを、成長させてくれ」
そう言いながら、ミスティリングの中からパンを取り出すレイ。
トレントの森でも同じようなやり取りをやったことで、ロロルノーラが植物から栄養を貰い、それを生長させるという真似をしたのだ。
その時のことを覚えていたのか、レイの簡単な身振り手振りに頷いたロロルノーラは、そっと花に手を伸ばす。
そして数秒。
やがて、咲いている花の周囲でまだ蕾でしかなかった花が開き、花そのものも茎が伸び、急激に生長していく。
それは、見るのが二度目のレイであってもやはり驚くべき光景。
ましてや、初めて見る者達にとっては、まさしく目の前で行われている光景は、ただ唖然とすることしか出来ないような、そんな光景だった。
「これは……」
そう呟いたのは、ダスカー。
前もって緑の亜人達にそのような能力があるという報告は受けていた。
それでも、やはりその光景を自分の目で見るというのは、驚くべき光景だったのだ。
他の者も驚きの声を出したり、そもそも声すら出ない程に驚いている者もいる。
そんな者達の視線を向けられたロロルノーラは、少しだけ戸惑いの表情を浮かべる。
植物から力を分けてもらい、その力を自分との間で循環させることにより植物を生長させる。
それは、ロロルノーラやその一族にとっては、特に何でもない……それこそ、人が食事をするような普通の行為でしかないのだ。
だからこそ、何故そこまでこの光景を見て驚くのかが分からなかった。
「凄い、な。凄いとしか言えない。だが……俺の知識はそこまで深くはないが、それでもこんな亜人がいるというのは聞いたことがない。レイ、お前は凄腕の魔法使いの弟子だったんだろ? なら、この件についても何か知らないか?」
元々、レイは凄腕の魔法使いの弟子という設定を持っていた。
ギルムでは、レイの実力こそが重視されており、その設定はそこまで気にはされていなかったが、それが一変したのは冬の目玉の一件だ。
空間の狭間に生息し、普通であれば対処するのは難しかった筈の目玉。
この世界の存在ではない目玉だったが、レイの師匠――正確にはレイに頼まれたグリムだが――はあっさりと空間の裂け目から引きずり出したのだ。
それも、目玉が元々存在していた、ギルムの貴族街の近くにある屋敷ではなく、ギルムの外に。
それを知ってしまえば、レイの師匠ならこの緑の亜人達について知っていてもおかしくはないのではないか。
そう、ダスカーが考えてしまってもおかしくはない。
だが、そんなダスカーの言葉にレイが返せるのは、首を横に振るという行為のみだ。
少なくても、皮膚が緑で血まで緑の存在というのは、レイは知らない。
「そうか。なら、お前の師匠はどうだ?」
「こっちからは連絡を取れないので、何とも……もしかしたら知ってるかもしれませんが、それを確認することは出来ません」
「……そうか」
レイの言葉に、ダスカーは残念そうに返す。
出来れば、本当に出来ればだが、レイかレイの師匠がこの緑の亜人達について知っていればと、そう思ったのだ。
「で、そうなるとどうします?」
「どうするも何も、まずは言葉を教えるか、もしくはこっちがこの連中の言葉を覚える必要がある」
「それだと、前者の方がいいですね」
レイとダスカーの会話を聞いていた男の一人が、そう口を挟む。
「そうか? あの全員に言葉を覚えさせるのは難しいと思うが」
「それでも、です。あの緑の亜人達がどこからやって来たのかは分かりませんが、向こうにしてみれば自分が元いた場所にすぐ帰れるとは限らない訳です。だとすれば、彼ら彼女らはここで生活していくことになるのですから、ここの言葉を喋ることが出来なければ不便かと」
それとも、全員に通訳を付けますか? と言われれば、ダスカーとしてもその言葉に納得するしか出来ない。
一日二日ならともかく、帰る当てがないのだとすれば、緑の亜人達はギルムに住むことになる可能性が高く、これだけの人数に死ぬまで通訳を付けるというのは、とてもではないが現実的なことではなかった。
「そうだな。その辺りの事情を考えれば、やはり向こうに言葉を覚えて貰う必要があるか。……だが、言葉を教えるとしても、どうやればいいんだ? やっぱり子供に教えるようにするのか?」
この辺り……いや、ミレアーナ王国やベスティア帝国、その周辺にある国々や、この大陸において言葉というのは一つしかない。
だからこそ、基本的に大人に言葉を教えるということを経験したことがある者は多くなかった。
であれば、言葉を教えるというのは子供に言葉を教えることが出来るような存在を連れてくるのが正しいのか? というダスカーの疑問に、部下の男は頷く。
「それが最善でしょう。幸い、緑の亜人の方々は大人しそうな様子ですし、勉強をするのにもそこまで苦労しないでしょう」
「そうだな。だが……そうなると、問題なのは……」
部下との話を一時中断し、ダスカーはレイの近くで待機しているゾゾに、そしてゾゾの背後に集まっているリザードマン達に視線を向ける。
明らかに普通のモンスターとは違う、高い知能を持っていると思われるリザードマン達。
勿論、モンスターの中には高い知能を持つ者もいる。
鳴き声を言葉のように使って狩りをするモンスターは珍しくないし、ランクSモンスターのような存在になれば、人間よりも余程高い知能を持つモンスターも珍しくはない。
だが、そんなモンスターの中にリザードマンは入っていないし、何よりも色々な面でゾゾは普通のリザードマンとは言い切れなかった。
他のリザードマンよりも明らかに巨大な体躯、そして身体に生えている鱗も明らかに他のリザードマンよりも上質の物だ。
そして、そんなリザードマンがレイに従っているという事実。
もっとも、最後の件に関してはセトをテイムしたという実績があるレイなので、ダスカーにも納得は出来たが。
「他のリザードマンはともかく、ゾゾは俺の命令を聞きますから、問題はないかと。この中ではゾゾが一番上の立場らしいですし。ただ……ゾゾ達がトレントの森に転移してきたように、他のリザードマンも転移してこないとも限りません。ましてや、その中にはゾゾよりも上の立場の者がいれば……」
どうなるか分からない、と。
そう告げるレイ。
実際、その懸案は決して軽く考えられるものではない。
ゾゾですら、最初はレイに向かって攻撃をして、それに反撃を食らってようやく大人しくなり、レイに従うといった態度になったのだから。
もし他のリザードマンが転移してきて、それで最初のゾゾと同じようにその場にいる者に攻撃をするとなると、そこには一定以上の実力の持ち主がいないといけないのは間違いなかった。
……それこそ、ヴィヘラのような。
(そういう意味では、やっぱりヴィヘラをトレントの森に置いてきたのは間違いじゃなかったな。とはいえ、いつまでもという訳にはいかないだろうから、代わりの者を送る必要はあるだろうけど)
もし誰もいない時にトレントの森に新たなリザードマンが現れるとなると、大きな問題となるのは明らかだ。
ましてや、そこにレイが見た時と同じく緑の亜人達が一緒にいた場合、見知らぬ場所に転移してきた苛立ちから、緑の亜人達が八つ当たりによって殺されるという可能性が十分にあった。
また、こうして転移してくるということがあった以上、今まではそこまで腕が立つ者を必要としなかった樵の護衛も、その技量を重視して腕利きを送る必要が出て来る。
「つまり、まだトレントの森から目を離す訳にはいかないと、そういうことだな?」
「そうなるかと。今はヴィヘラをトレントの森に置いてきてますが、それをずっと……という訳にはいかないでしょうし」
「そうだな。それに……」
一度言葉を切ったダスカーは、レイの側に控えているゾゾに視線を向ける。
ゾゾはダスカーにそんな視線を向けられても、特に気にした様子はない。
自分はレイの部下……いや、臣下であると、そう態度で示しているかのように。
「レイがテイムしたリザードマンだが、他のリザードマンにも同じ習性……自分を倒した相手に従うというのがあると、色々と困る。冒険者の中には、リザードマンを従えたいと思う者もいるだろうし」
「あー……俺が言うのも何ですけど、テイマーに憧れる人が増えているらしいですからね」
言うまでもなく、その原因はセトの存在だ。
実際には魔獣術で生み出されたセトだが、それはほんの限られた者しか知らないことであり、大多数はレイが子供の頃からセトを育てて、結果としてテイムすることに成功したと認識している。
そしてセトがギルムでは高い人気を誇っている以上、自分もテイマーとしてセトのような相棒を欲しいと思う者が出て来るのは当然だろう。
とはいえ、モンスターをテイムするというのは、それこそ個人の資質に掛かっている。
同じモンスターであっても、そのモンスターをテイムする方法は千差万別で、自分にあったテイムの方法を発見するというのは非常に難しい。
そういう者達にとって、倒せば従ってくれるというゾゾのようなリザードマンは、それこそ垂涎の的だろう。
もっとも、セトのような愛らしさを求めてというのであれば、リザードマンはその中に入らないかもしれないが。
「そうだ。だからこそ、リザードマン達も出来ればこちらでどうにかしたいのだが……その辺は、今どうこう言ってもあまり意味がないか」
「そうですね。本当に追加でリザードマンが転移してくるかどうかもわかりませんし」
レイは言葉にはしなかったが、異世界からの転移の可能性がある以上、普通の転移よりもトレントの森までやってくる可能性はかなり少ないだろうというのが、レイの予想だ。
そうして、レイはダスカーとこれからについての話を続けるのだった。