2014話
N-starにて異世界だから誰かに従うのはやめにする ~石化の視線でヒャッハーする~が更新されています。
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武装を解除したリザードマン達を見て、緑の亜人達は特に何か行動を起こすことはなかった。
ひとまず、レイが心配したような状況にならなかったことに安堵しながら、レイは警備兵に声を掛ける。
「取りあえず、怪我をしている亜人達は治療した方がよくないか? ポーションの類は持ってきてるんだろ?」
警備兵にとって、ポーションは必須アイテムの一つだ。
犯罪者や冒険者の相手をすることが多い以上、怪我をした者の治療をすることも珍しくないのだから、ポーションの携帯は当然だろう。
ましてや、今回は言葉が通じない亜人が突然転移してきて、しかも怪我をしている者が多数いると言われれば、治療の為にポーションを持ってくるのは当然だった。
レイに促され、警備兵も怪我をしている緑の亜人達を見ればそのままにしておく訳にもいかないだろうと、すぐに治療を開始する。
幸いにも、最初に転移してきた緑の亜人達は、レイがポーションを使ったところを見ていたので、警備兵が怪我人にポーションを使おうとしても抵抗することはない。
リザードマンと一緒に転移してきた緑の亜人達は、最初何をされるのかといった具合に驚いていたが、最初に転移してきた仲間達が説明すると、大人しく治療を受け入れる。
そして傷が治る光景を見れば、もうポーションの効果を疑うような者はいなかった。
(ポーションにここまで驚いているってことは、この連中がいた世界にはポーションの類がなかったのか? いやまぁ、同じファンタジーの世界であっても、全てルールが一緒とは限らないけど)
その顕著な例は、やはりリザードマンだろう。
少なくてもレイが知っている限り、この世界のリザードマンは文明を築ける程に知能は高くない。
それに比べて、転移してきたリザードマンは明らかに何らかの集団……それも、皆が揃いの武器や防具を身に着けていることから、恐らくは国に所属する者なのだろうというのは予想出来た。
(不味いことにならないといいんだけど。……まぁ、今の時点で不味いことになっているのは確実か)
恐らくは国に所属するだろうリザードマン、それも明らかに地位の高いリザードマンを攻撃されたからといって反撃し、それで気絶させてしまったのだから。
(その辺はダスカー様に任せておくとするか。それに……向こうの世界からこの世界に、そう簡単に転移できるかどうかも、分からないし)
あくまでも、レイは目の前の緑の亜人達やリザードマンは、この世界の者ではなく他の世界の者であるという風に認識していた。
「レイ、これは……ポーションが足りないぞ」
警備兵の言葉に視線を向けると、やって来た警備兵達が困った表情を浮かべていた。
一応ある程度の予備も持ってきたとはいえ、レイがいる時に転移してきた緑の亜人はともかく、リザードマンと一緒に転移してきた緑の亜人は、多くの者が怪我をしていた。
その為、応援としてやって来た警備兵の持つポーションだけでは、明らかに足りなくなってしまったのだ。
せめてもの救いは、緑の亜人達の中で致命傷と呼べるような怪我をしている者はいなかったことか。
だからこそ警備兵も、レイに尋ねつつもそこまで切羽詰まった様子はない。
「あー……どうする? 俺が持ってるポーションを使うか?」
「それはありがたい……けど、やめておいた方がいいと思う。ここでレイがポーションを使えば、後でこっちが色々と問題になるかもしれないし」
警備兵がそう言ってレイの提案を断る。
緑の亜人の中に重傷者がいれば、レイからポーションを提供して貰ったかもしれないが、そこまでの怪我をしている者がいない以上、レイにポーションの提供を求めるようなことは出来なかった。
「けど、そう言われても、もうポーションを一個使ってるぞ?」
「え? ……ま、まぁ、それは俺達が来る前の話だし」
警備兵が誤魔化しながらそう告げるのを、レイは少しだけ呆れた視線で眺める。
それなりに高品質な……つまり値段としても高いポーションではあったのだが、そのポーションを使ったおかげで、緑の亜人達にもポーションの効果があると分かったのだから、レイとしては特に後悔していないのだが。
「なぁ、リザードマンを縛る時って、尻尾とかどうすればいいんだ? 下手をすると、この尻尾で縛っているのをどうにかしてほどいたりするんじゃないのか?」
「そう言われれば……いや、でも獣人族の中にも尻尾を持ってるのはいるけど、そういう風には使えないだろ」
「尻尾を持ってるからって、獣人族とリザードマンを一緒にするのはどうなんだよ」
そんな声が聞こえてきて、レイはそちらに視線を向ける。
そこでは、レイにデスサイズで殴り飛ばされて気絶しているリザードマンの姿があった。
言葉が分からないので正確なところは不明だが、恐らく転移してきたリザードマンの中では最も地位が上と思しき存在。
また、他のリザードマンの様子から見ても、地位だけではなく強さでも一番上と思しき存在だった。
(この程度の連中に一方的にやられていたとなると、この亜人達は戦闘力という点ではそこまで高くないのかもしれないな)
とはいえ、植物を生長させるという能力を持っているのを見れば、戦闘力はなくても、かなり有用な能力を持っているのは間違いない。
具体的にどのくらいの植物にその能力を使えるのか。
例えば、暖かい場所にしか生えないような植物であっても、ギルムで育てることが出来るのか。
その辺りは、レイにも非常に気になるところだ。
具体的には、香辛料の類の問題で。
もし緑の亜人達が本来ならもっと暑い場所でなければ育てることが出来ない香辛料をギルムで育てることも出来るということになれば、間違いなくダスカーはこの緑の亜人達を全力で保護するだろう。
地上船の件もそうだが、ダスカーはギルムに利益をもたらし、そして発展させるという件にはかなり熱心なのだから。
(まぁ、この件については、後でだな。……あ、でも冒険者達は見てるのか。そうなると、そっちから話が広がる可能性もあるし、口止めしておいた方がいいのか? ……けどなぁ)
それこそ、もしここで口止めしたとしても、間違いなく酒場辺りで酔っ払ってしまえば、適当にその辺りを話したりするだろう。
今日の一件は、色々な意味で特別なことだった。
そうである以上、酒場で女に自慢したいと思えば、その辺のことを適当に脚色して――リザードマンを倒したのが自分だとか、緑の亜人が怪我をしていたのでポーションを使ってやったといった風に――話しても、おかしくはない。
と、そんな風に考えているレイだったが、警備兵に名前を呼ばれてそちらに視線を向ける。
「どうした?」
「いや、あのリザードマン達を連れていくには、どうすればいいと思う?」
警備兵が示したのは、三十人程のリザードマンの群れ。
自分達を率いるリザードマンをあっさりと倒したレイに恐怖しているのか、武器を地面に捨てた後は特に暴れるような様子もない。
尚、地面に捨てられた武器は既に警備兵達が集めており、リザードマン達も容易に取り返すことは出来なくなっている。
「どうすればって言われてもな。……盗賊ならロープで繋いで馬車で引っ張って行くんだけど」
「いや、盗賊と同じには出来ないだろ」
一応どこかの国の軍隊と思しき存在なのだから、そんな相手を盗賊と一緒の扱いにし、顔を晒すようにして連れ歩くような真似をすれば、間違いなく後々面倒なことになる。
異世界からの存在である以上、もしかしたらリザードマンの国と後々接触する可能性も、ゼロではないのだ。
また、それ以外にも武装したリザードマンの集団をそのようにして移動させた場合、どうしても目立ってしまう。
これが冬なら、まだそこまで目立つようなこともなかったかもしれないが、春の今は多くの者達がギルムに集まってきている。
そのような者達が、このリザードマン達を数珠繋ぎに縛られた状態で移動するのを見れば、それこそミレアーナ王国中にその噂が広がってしまう危険すらあった。
レイとしては、出来ればそのような真似は避けたいというのが本音だ。
特にダスカーの立場を思えば、その辺は必須となるだろう。
「いや、けど……じゃあ、こいつらをどうするんだよ?」
警備兵の口からでた、不満そうな声。
レイも、その気持ちが分からないではない。
だが、このリザードマンを出来るだけ人目に触れさせないようにした方がいいと、そう察していたレイとしては警備兵の提案にはあまり賛成出来ない。
それこそ、この様子を見ていた冒険者達が酒場で今回の一件を言い触らしても、その証拠となるリザードマンや緑の亜人達の存在が知られていなければ、噂話で終わるかもしれない……と、そのような楽観的な予想もあった。
「取りあえず、空いている馬車を何台か持ってきて、それにリザードマン達を入れてギルムまで運んだらどうだ? ……どこに運ぶべきなのかは、俺にも分からないけど」
「馬車……乗れるのか?」
レイの言葉に、警備兵の一人が疑わしそうな視線をリザードマン達に向ける。
リザードマンは、その全員がかなり長い尻尾を持っており、馬車に乗っても人と同じように座ることが出来るのかどうかは、難しいところだった。
獣人の場合は、尻尾のある者であっても大体普通に座れるのだが。
「幌馬車とかで荷物を運ぶような、座席とかがついてないような馬車を持ってくればいいんじゃないか? リザードマン達は、俺達に降伏したんだし」
「いや、それは俺達じゃなくてレイに、の間違いだろ」
警備兵が若干呆れの表情でレイに向かって告げる。
実際、リザードマンが降伏したのは自分達を率いていたリザードマンが、レイによってあっさりと倒されたから、というのが原因である以上、その言葉は決して間違っているものではない。
「そうか? 取りあえずリザードマンはそれでいいとして、緑の亜人達の方は……客人待遇か? リザードマンと違って、こっちに攻撃的な様子はなかったし。というか、正確には緑の亜人達はリザードマンに一方的に攻撃されていたってのが正しいみたいだけど」
レイとしては、攻撃をしてきたリザードマンはともかく、友好的に接してきた緑の亜人達にはあまり厳しい真似をしたくない、という思いがあった。
もっとも、その思いの中に緑の亜人達が見せた、植物を生長させるという能力についての打算がなかったとは言えないが。
特に香辛料については、絶対にダスカーに言っておいた方がいいと、そう確信する。
もしギルムでどのような香辛料であっても育てることが出来るとなれば、緑の亜人達の待遇は間違いなくよくなるのだから。
また、レイとしても出来れば料理に使う香辛料が多く入手出来るというのはありがたい。
(色々な香辛料が出回れば、ギルムの料理も一段と進化するのは間違いないだろうし)
それは、ギルムを拠点とするレイにとっては非常にありがたいことだ。
そんなレイの考えを悟った訳でもないだろうが、警備兵は頷く。
「分かった。こうして見たところ、あの緑の亜人達は大人しいしな。……一応聞くけど、レイが脅したとかそういうことはないよな?」
「あのなぁ、お前は俺を何だと思ってるんだ?」
不満そうに言うレイだったが、警備兵が無言で気絶した状態のまま縛られているリザードマンの指揮官と思われる方に視線を向ける。
警備兵が何も言わなくても、何を言いたいのかは明白だった。
だが、レイもそんな警備兵に対し、後ろめたいことは何もないといった様子で、口を開く。
「正当防衛だ」
「……まぁ、レイがそう言うなら、それでいいけどな。ともかくだ。あの亜人達を脅すような真似はしてないんだな?」
「ああ。怪我が酷かった奴にポーションを使ったくらいだな」
「そうか。なら、それでいい。とにかくあの緑の亜人達が大人しくしてるなら、取りあえずは客人待遇って事にしてもいい。もっとも、ギルムの上層部での対応次第ではどうなるか分からないけどな」
「そっちは心配しなくてもいい。ダスカー様なら、馬鹿なことを考えたりはしないだろうし。それに下にも馬鹿な奴はいないだろ」
勿論、絶対に私利私欲に走る者がいないとは限らないが、それでも他の貴族に比べればその手の人材が少ないのは間違いない。
とはいえ、マリーナを通してその辺の話を通せば、ダスカーから直接の指示によって多くの者がいる以上、馬鹿な真似をするのは難しい。
であれば、今回の一件はそこまで問題がないだろう……というのが、レイにとっての正直な気持ちだった。
「その辺はレイに任せるから、俺からは何も言わないよ。ただまぁ、緑の亜人達についてはレイが関係してくると思うけどな」
緑の亜人達がレイに向ける視線を見ながら、警備兵はそう告げるのだった。