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レジェンド  作者: 神無月 紅
冬から春にかけて
1909/3865

1909話

N-starにて連載中の、異世界だから誰かに従うのはやめにする ~石化の視線でヒャッハーする~、今日更新しました。


https://ncode.syosetu.com/n8234fb/

 レイの情報を欲しいという言葉に、スーチーは口を開く。


「それで、どんな情報が欲しいの。私が知ってる情報なんて、そう多くはないわよ。別に情報屋って訳でもないんだし」

「だろうな。その辺については、俺も期待していない」


 期待していないという言葉に、スーチーが不機嫌そうな表情を浮かべる。

 スーチーにしてみれば、自分で言うのはいいのだが、他人に期待していないと言われるのは面白くないといったところか。

 だが、レイの目から見ても戦闘に関しては素人で、にも関わらずこうしてコボルトを倒そうなどという無茶な真似をするスーチーはとても情報屋とは思えなかった。

 それでもレイがスーチーに声を掛けたのは、スーチーがスラム街の人間である以上、そこでしか手に入らないような情報を何か持っているかもしれないと考えたからだ。

 レイが殆ど行かないような場所がスラム街である以上、そこで暮らしているスーチーなら何らかの情報を持っていてもおかしくはないだろうと。

 また、レイにとってコボルトの死体はそのまま捨て置いても構わない程度の代物だというのが、こうしてスーチーに気軽に情報を聞けた理由だった。


「なら、わざわざあたしに聞く必要はないと思うけど……」


 そう言いつつも、魔石を剥ぎ取ることが出来るコボルトの死体が二匹分――本来は三匹なのだが、一匹は胸部をレイの投擲した槍が貫通している――手に入るのは美味しいと思ったのか、スーチーは不機嫌そうにしながらも口を開く。


「それで、一体何の情報が欲しいの? それが具体的にどんな情報なのかが分からないと、こっちも何も言えないわよ」

「そうだな。……まずは、コボルトがこうして大量に発生している訳だが、その理由に心当たりはないか? 具体的には、何らかのマジックアイテムを使っているとか」


 当然のように、最初に聞いたのはそれだった。

 そもそも、レイはコボルトを操るマジックアイテムがあるということを前提にして動いているので、それは当然だろう。

 ……本人も、もしかしたらそんなマジックアイテムはないのでは? と思わないでもなかったが、一度決めたからにはその辺についてもしっかりとしておきたいという思いがあった。

 だが……当然のことながら、スーチーはレイの問いに首を横に振る。


「そんなの分かる訳ないでしょ。というか、もしそういうマジックアイテムがあるって知ってるなら、それを誰かに売りつけるわよ」


 金に困ってる以上、スーチーのその態度は当然と言えただろう。

 マジックアイテム……それもコボルト程度ではあっても、こうして延々と集める、もしくは襲撃させるような真似が可能なマジックアイテムがあれば、ある程度以上の地位にいる者であれば欲しいと思っても当然だろう。

 そのようなマジックアイテムであれば、それこそ使い道は幾らでもある。

 最初に考えつく可能性としては、敵対している貴族の領地にコボルトの襲撃を行わせるということだろう。

 自分達が特に何をしなくても、敵対する貴族の領地に被害を与えることが出来るのだから、是非欲しいと思うのは当然だろう。

 それ以外にも様々な使い道はある。

 ……それだけ希少なマジックアイテムである以上、スーチーが下手に売ろうとする場合には危険が伴うことが予想されるのだが。


「だと思ったよ。ただ、スラム街の方で何らかの情報が……それこそ噂話程度でもないかと思ってな」

「噂話? うーん……」


 詳細な情報の類ではなく、噂話程度でもいいのかということで、何かないかと考える。

 幸いにも、スラム街では現在コボルトの解体をしている者は多かった。

 その時は大勢で作業をしているということで、当然のようにその時に話をする者は多く、当然噂話といったものが頻繁に話題に上がる。

 スーチーも少しでも一緒に暮らしている子供達の食い扶持を稼ぐ為に、当然のように当初はそのような仕事に参加していた。

 そんな時に何か話を聞かなかったかと思い出そうとするものの、すぐに思いつくようなことはない。

 いや、正確にはそれっぽい噂は色々とあるのだが、それを口にしてもいいのかどうかといったところか。


「マジックアイテムとかの噂となると、嘘や本当なのが色々と混ざって、それこそ幾らでもあるけど……」


 ここが普通の村や街であれば、そこまで多くの噂はなかっただろう。

 だが、ここはギルムだ。それこそ辺境にある街であり、マジックアイテムの素材も希少な物が多く獲れるし採れる。

 そうである以上、マジックアイテムについて色々と……それこそ、玉石混交といった感じで噂が流れるのも当然だった。


「なら、取りあえず……そうだな、何らかのモンスターを集めるようなマジックアイテムとか、そういうのについての噂はないか?」


 結局のところそこに行き着くのだが、そんなレイの問いに対して、スーチーは首を横に振る。


「そういうのは聞いたことがないわ」

「なら……そういうスキルを持ってる奴のことは?」


 レイとしては、出来れば今回の一件はマジックアイテムであって欲しかった。

 しかし、ここでもマジックアイテムについての手掛かりがない以上、スキルについて調べる必要もあると判断したのだ。

 ……マジックアイテムが駄目な場合は、それこそ希少種や上位種であって欲しいというのが本音だったが。

 マジックアイテムでないのなら、そのような希少種や上位種を倒して魔石を入手し、魔獣術によってスキルを習得出来る可能性がある。


「うーん、操るったって、何をどうすればコボルトを操れるのよ。モンスターという一括りだったら、もしかしたら……本当にもしかしたら可能かもしれないけど、コボルトだけよ? それに、もしそんな真似が出来るとしたら、それこそもっと別のモンスターを操るスキルにするんじゃない?」


 それは、否定出来ない事実だった。

 例えばオーク。

 素材や魔石がそれなりに高値で売れる上に、肉そのものもかなりの美味だ。

 それこそオークを自由に操れるスキルがあれば、その者は一生肉に困ることはないし、その肉を売って金に換えることも出来るだろう。

 もしくは、オークに限らずともコボルトよりも有用性の高いモンスターは大量にいる。


「あー……じゃあ、そうだな。ほら、冬になる前くらい、もしくは冬になってからすぐくらいの時から、赤布って言われてる連中が暴れ回ってたのは知ってるか?」

「当然知ってるわよ。あの連中、一時期スラム街の方にもちょっかいを出してきてたし」

「……一時期? そうなると、すぐにちょっかいを出さなくなったのか?」

 

 スーチーの口から出た内容は、レイにとっても驚くべきことだ。

 そもそもの話、赤布の連中は非常に質が悪い連中で、それこそかなりの数の騒動を引き起こしていた。

 そのような連中にとって、それこそ冒険者や警備兵が大量にいる表通りのような場所ではなく、好き勝手に動けるスラム街で何故そんなにすぐにちょっかいを出さなくなったのか。

 レイにしてみれば、非常に不思議なこととしか言えない。

 だが、スーチーは当然でしょうといった風に言葉を続ける。


「表通りだと、それこそ強い冒険者や警備兵がいるし、何か悪いことをしてるのを見つかれば捕まって罰を受けるけど、それはきちんと決められた法によってでしょ? けど、スラム街では当然法とかそういうのがないから……」


 そう言い、スーチーはその事件のことを思い出したのか少し嫌そうな表情を浮かべつつ、言葉を続ける。


「赤布の連中、裏社会に幾つかある組織にもちょっかいをだしたのよ。結果として、そのお馬鹿さんは見せしめとしてかなり酷い殺し方をされたわ」

「あー……なるほど。それ以上は言わなくても分かった」


 つまり、自分達では手に負えない相手だというのを、仲間が死んで思い知った訳だ。

 結果として、スラム街にちょっかいを出すような真似は止めたのだろうとそう判断する。

 実際、自分達が軽い悪戯とかのつもりであっても、向こうにそう受け止められない場合というのは多い。

 赤布がやったのが、まさにそんな感じだったのだろう。

 表通りでは見つかって捕まってもそこまで重い処分を受けなかったので、そのつもりでスラム街にちょっかいを出し……結果、見せしめとなったのだろう。


「まぁ、ああいう連中が本当の意味で死と隣り合わせにいる連中とぶつかり合ったりしたら……もう二度とそこに手を出すような真似はしないか。いや、寧ろそんな目に遭ったのに表通りでは行動を続けていたってのが驚きだな。……ん?」


 自分の言葉で何か引っ掛かるところがあったのか、レイはそこで一旦言葉を止めて考え込む。


(赤布の連中がそんなにヘタレなら、それこそ仲間が殺された状況で表通りで同じような真似が出来るか? いや、赤布の人数は多かったから、何人かは出来てもおかしくはないけど……そんな数じゃなかった筈だ。そうなると……止めることが出来なかった? 何故? 誰かに命令されていて、か?)


 だが、そうなればなったで、何故そのような命令をされているのかという理由も出てくる。


「どうしたの? それより、これ以上もう何も聞くことがないのなら、そのコボルトの死体は情報料として私が貰ってもいいのよね?」

「あー……そうだな。そうしてくれ。俺の方は特に何も問題はない」


 何かを思いつきそうで思いつけない。そんなもどかしさを感じながら、レイはスーチーにそう言葉を返す。

 そんなレイの様子に微妙に何かを言いたそうなスーチーだったが、取りあえずこのコボルトの死体は自分の物にしてもいいと許可を貰った以上、そちらを優先する。

 自分の好奇心と、子供達の食料。そのどちらを優先するかと言われれば、間違いなく後者なのだから。

 腰の鞘から、こちらもまた多少錆のあるナイフを取り出して、コボルトの胸を切り裂き、魔石を取り出す。

 この魔石こそが、モンスターの中で最も高く売れる素材であり、これを得る為にスーチーは無理をしてここにやって来たのだ。

 よって、それを見逃すという選択肢は存在しない。


「へぇ」


 少しだけレイが感心し……若干の嫉妬と羨ましさを覚えたのは、コボルトから魔石を取り出すその動きが、下手な冒険者よりも手慣れていることだ。

 とはいえ、現在のスラム街にはスーチーと同じようなことが出来る者は大量にいるだろう。

 それこそ、毎日のように数百匹ものコボルトを解体し続けているのだから、嫌でも慣れるのは当然だった。

 ……コボルトだけを大量に解体し続けて得た技量である以上、基本的にそこまでスムーズに解体出来るのはコボルトだけという限定的なものだったが。


「……何よ?」


 自分に向けられるレイの視線に気が付いたのか、スーチーは訝しそうに尋ねる。

 レイのことについて、噂でそれなりに知っている以上、まさか自分が譲ったコボルトの死体から剥ぎ取られた魔石を奪うような真似をするとは思わなかったが、それでも解体している光景をじっと見られるというのは、面白いものではなかった。

 レイについての噂を知っているからこそ、近くで周囲の様子を窺っているセトを見ても、特に怖がったりはしなかったのだが。

 用事があってスラム街を出た時に、色々な者達……それこそ、冒険者、商人、ギルムの住人、老若男女問わずにセトを愛でている光景を何度か遠目に見たことがあった……というのも、この場合は大きいだろう。


「いや、随分と解体が上手いと思ってな」

「当然でしょ。あたしがこの冬に何匹のコボルトを解体してきたと思ってるのよ。それこそ、目を瞑って……とはいかないけど、解体はかなり慣れてるのよ」


 その言葉は決して嘘ではないということを示すように、こうしてレイと話している間も解体は続けられていた。

 何度か手元を確認してはいるが、その仕草に危なっかしいところは見当たらない。


「俺も結構な数のモンスターを解体してきたけど、そこまで慣れるといった真似は出来ないけどな」


 レイの解体技術も、この世界に来た時に比べると格段に上がってはいる。上がってはいるのだが……それでも、未だにレイはモンスターの解体が決して得意と言える程ではない。

 平均程度には出来るが、あくまでもそれだけでしかなかった。

 そんなレイの目から見れば、スーチーの解体技術は……と、そこまで考え、ふと思いつく。


「俺が推薦するから、ギガント・タートルの解体に参加してみないか?」

「……え?」


 唐突に何を言っているのか。

 そんな視線をレイに向けるスーチーだったが、解体技術に優れた人物で金に困ってるとなれば、ギガント・タートルの解体は最適だとレイに思え……事情を説明するのだった。

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