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レジェンド  作者: 神無月 紅
魔熱病
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0190話

 魔熱病の調査を進めるサザナスとレイ、セトの2人と1匹は街の南と西にある蒸留酒の保管所を見て回るも、特に手掛かりらしい手掛かりが無い為に殆ど惰性に近い感じで東の保管所へとやって来た。だがその保管所を見た途端セトが警戒の唸り声を上げたことで、レイとサザナスの2人もまた表情を引き締める。


「……レイ」

「ああ。どうやら大当たりっぽいな」


 サザナスの言葉にレイも頷き、表情を引き締めながら目の前に見えている保管所へと向かっていく。


「サザナスさん? それにそっちの人は……?」


 入り口近くにいる警備兵2人ががピリピリとした雰囲気を漂わせながら近付いて来る2人と1匹に怪訝そうな顔を向けるが、サザナスはそれを無視するようにして警備兵へと声を掛ける。


「いいか、ちょっと建物の中を調べる必要があるから、お前達はこの保管所から少し離れていろ」

「はい? それは別に構いませんが、何を調べているんですか?」

「今回の魔熱病に関して……いや、待て。お前等ここにいるってことは魔熱病には感染しなかったのか?」


 魔熱病の関係あるかどうかは分からないが、それでも明らかに何らかの異常があるだろう東の保管所を守っている警備兵だ。2人の上司でもあるサザナスが心配してそう尋ねるのは当然だっただろう。だが、警備兵は2人共何の躊躇いも無く頷く。


「はい、幸い魔力量がそれなりにあったみたいですので」

「俺も同じくです」

「……そうか。不幸中の幸いってことだろうな。とにかく、ここから少し離れていろ。俺達が出て来るまでは決してあの保管所の中には入るなよ」


 普段であればこれまでの保管所を守っていた警備兵達の様に反応したのだろうが、幸い警備兵2人はサザナスを良く知っていた。それだけに、今の切羽詰まった様子は尋常な状態では無いと理解したのだろう。小さく頷き目の前にある保管所から距離を取る。

 それを確認してから、サザナスは腰にぶら下げた剣の柄へと手を置いていつでも抜けるように。そしてレイはミスリルナイフとデスサイズのどちらを使うかで一瞬迷うも、最終的には使い慣れたデスサイズをミスティリングから取り出す。そんなレイの隣ではセトがいつでも回避なり攻撃なりの行動に移せるように体勢を整えていた。そんな様子を見ながらサザナスが保管所の扉へと手を伸ばす。

 ギギッと金具が擦れるような音を響かせながら開く保管所の扉。

 そしてその扉が開くと、レイとサザナスは中から漂ってきた違和感に眉を顰める。


「これは……」

「ここが魔熱病の原因かどうかは分からないが、それでも何かあるのは間違い無いらしい。……心当たりは?」

「ある訳ないだろう。そもそもここは普通に蒸留酒を保管してあるだけの場所だぞ」

「グルルゥ」


 1階の奥の方へと視線を向けながら喉を鳴らすセト。

 魔力を感知する能力の無いレイとサザナスだが、それでもセトが視線を向けた奥から漂ってくる濃密な魔力の感触は違和感として察知することが出来た。


「……さて、何があるのやらだな。俺、セト、サザナスの順番で行くぞ」

「俺が先頭じゃなくてもいいのか?」

「ああ。見ての通り俺の武器はこの長物だからな。お前が前にいるとかえって使いにくい」


 レイの言葉にデスサイズへと視線を向け、納得したように頷くサザナス。


「確かにその武器だと周囲に人がいると使いにくいのは分かるが……大丈夫か? 酒の入ってる樽を破壊したりされると色々とクレームが来るんだが」

「それに関しては、俺じゃなくてこの原因の方に言ってくれ。……さて、行くか」


 緊張を解そうと言うのだろう。どこか軽い調子で言ってくるサザナスにレイもまた軽く返して1階の奥の方へと進んで行く。

 そのまま約10分。周囲を警戒しながら進んでいる為に時間を掛けつつも保管所1階の最奥にまで辿り着く。

 そしてそこでレイ達が見た物は、地面に埋まるようにして存在している1つの真っ白い円形の物質だった。


「何だ、あれは?」


 レイの後ろでサザナスが呟く。初めて見る物体なのか、その口調には純粋な疑問のみが浮かんでいる。

 だが……


「馬鹿なっ、何であれがここにある!?」


 その物質を見て、反射的にゼパイルの知識からそれが何かを理解した瞬間、レイの口からは驚愕の声が漏れる。


「レイ、知ってるのか?」


 サザナスの確認するような問いに我に返り、小さく頷くレイ。

 そう、レイはその物体が何なのかを知っていた。いや、正確に言えばゼパイルの知識の他にも直接見た訳では無いが、同じような存在を感じ取った覚えがあると表現するのが正しいのだろう。


「ダンジョンの核……だ」

「……何?」


 レイの口から吐き出された掠れた声に、思わずサザナスが改めて問い返す。その声でレイもまたようやく我に返ったのか、表情を厳しく引き締め、改めて目の前の物質が何であるのかを告げる。


「ダンジョンの核だ。間違い無い」

「おいおいおいおい、ちょっと待てよ。何だってダンジョンの核がこんな所にあるんだよ」

「それを俺に聞かれても困る。まぁ、大体予想は出来るが」


 そもそもダンジョンの核というのは周囲の魔力が物質化して作られる物だ。つまり今レイ達の目の前にあるのは、何らかの理由でこの辺の魔力が物質化して作られたと考えるのが自然だろう。


「そもそも、何でレイにこれがダンジョンの核だと断言出来るんだ? もしかしたら何か全く別の物の可能性もあるんじゃないか?」


 見間違いであって欲しい。そんな一筋の願いを込めて尋ねられた問いは、レイが首を左右に振るうことで無情にも否定される。


「ギルムの街から近くにダンジョンがあるって話は?」

「それはもちろん知ってるが……おい、まさか」

「サザナスの想像通りだ。俺は以前ちょっとした依頼でダンジョンの最下層まで行ってな。その時にダンジョンの核を実際にこの目で見た。こっちの方が大きさ的にはかなり小さいが、まず間違い無いと思ってもいい」


 さすがにゼパイルの知識云々とは話せない為、そう誤魔化しつつサザナスへと答えながらも決して目の前の存在から目を離さないレイ。


「で、どうするんだ?」

「俺に聞かれてもな。そもそも俺はこの街の人間じゃないんだから、もしこれがダンジョンの核で間違い無いとして勝手に処分するような真似は出来ないんじゃないか? 確か迷宮都市とか言うのが数個程あると聞いてる。偶然とは言っても街の中にダンジョンが出来るかもしれないんだ。迷宮都市になるかもしれない可能性を見過ごして勝手にこの核を破壊してもいいのかどうか」

「……まぁ、確かにな。ちなみに魔熱病の原因はこのダンジョンの核で間違い無いと思うか?」

「俺としてはそう思う。何しろこれ程あからさまに怪しいものはそうそう無いぞ」


 サザナスとしても、目の前にあるダンジョンの核が今回の魔熱病の原因というのには納得出来るのだろう。小さく溜息を吐いてから保管所の入り口の方へと戻っていく。


「サザナス?」

「すまないが、俺はディアーロゴさんかセイスさんにこの件を報告してくる。確かにダンジョンの核が原因ともなればこっちで勝手に判断は出来ないしな」

「分かった。ただし、なるべく急いでくれ。幸いまだこのダンジョンの核はきちんとした物にはなっていないが、時間が経てばそれだけ成長してモンスターをこの周辺に呼び寄せたりしてくるからな」

「分かってる。出来るだけ急いで話をしてくるから、レイもここでこの傍迷惑なお宝の様子を見ててくれ」


 それだけ言って、急いで保管所を出て行くサザナス。

 そのすぐ後に警備兵達がどうかしたのかを尋ねるような声が格納庫の中にまで聞こえてきていたが、それに対しては碌に答えずに急いで走っていったらしい。


「……まさかこんな場所でダンジョンの核を見ることになるとは思わなかったな」

「グルゥ」


 レイの言葉に、同感だとばかりに喉を鳴らして警戒したようにダンジョンの核へと視線を向けるセト。

 レイにしても、セトにしても、エレーナ達と共に潜ったダンジョンの最下層でその核を守っているランクSモンスターの銀獅子の存在を確認している。いや、正確には自分自身の目では確認しておらずヴェルの言葉で聞いただけだが、それでも部屋越しに感じたその圧迫感は並大抵の物では無かった。

 あの、人を食ったようなヴェルでさえ顔色を蒼白に変えた程のモンスターだ。もしそんなレベルのモンスターが今ここに現れたとしたら。そう思うと、レイにとってはサザナスが言っていたようなお宝ではなく、単なる厄介の種にしか思えなかった。


「グルルゥ?」

「いや、何でも無いよ」


 どうしたの? と首を傾げるセトの頭をそっと撫でレイは微かな異変であろうとも見逃さないよう、そして何かあった時にはすぐにでも対処出来るように手に持ったデスサイズの柄をしっかりと握りしめるのだった。






「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 レイとセトがダンジョンの核を監視している頃、サザナスは全速力に近い速度で街中を走っていた。

 何しろ目立った特徴と言えば蒸留酒くらいしかないこの街に、何の因果かダンジョンの核が姿を現したのだ。どのような理由でダンジョンの核のような危険物が生み出されたのかは知らないが、サザナスにとっては疫病神以外の何ものでも無かった。

 だが、確かにダンジョンの核を見つけてしまった以上は独断で破壊するといった判断をする訳にもいかない。

 あるいは、この街の実質上のトップに立っているのがディアーロゴやセイスでなければバールの街を迷宮都市にするような手段を取ったかもしれない。しかし不幸中の幸いと言うべきか、本来のこの街の領主である貴族はこの場にはいなかった。もしいたとしたら妙な横槍を入れられた可能性が高く、そういう意味では魔熱病に対して若干……ほんの少しではあるが、感謝したいような気持ちが無い訳でも無かった。


「サ、サザナスさん!?」


 息も絶え絶えになったサザナスがようやく領主の館に辿り着くと、その門番が血相を変えて近寄ってくる。

 今のサザナスはそれ程に尋常な様子ではなかったのだ。


「ディ、ディアーロゴさんは、はぁ、はぁ……いるな?」

「え? あ、はい。今は丁度セイス様とこれからの件について相談をしていますが」

「そう、か。分かった。今すぐに俺が用事があると言ってきてくれ。大至急だ!」


 近寄ってきた兵士の肩を、握り潰さんとばかりに強く力を込めながら叫ぶサザナスに、兵士としても尋常ではない事態だと悟ったのだろう。相棒の兵士にサザナスを預けると急いで領主の館へと向かう。


「サザナスさん、取りあえずこれでも飲んで息を整えて下さい」

「あ、ああ。悪いな」


 水筒に入っていた人肌程度まで温くなったお茶を一息に飲み、ようやく一息つくサザナス。


「一体何があったんですか? いつも余裕を見せているサザナスさんが、こんなに息を切らせて走ってくるなんて」

「……悪いが、その辺はまだ言えない。ただ、ちょっとばかり面倒な事態が起きていてな。それを早めにディアーロゴさんに伝えたくて走ってきたんだ。それにしても、セイスさんもここに来てるって?」

「あ、はい」

「運が向いてきたのかもしれないな」


 当初、サザナスはギルドと領主の館のどちらに行くのかを非常に迷ったのだ。ダンジョンに関しての知識は恐らく魔法使いであるセイスの方が豊富だろう。だが、街の警備兵としては直属の上司でもあるディアーロゴに情報を伝えるのが先だと判断し、東の保管所からの距離を考えて多少なりとも近い領主の館へとやって来た。もしこれがギルドに向かっていれば、セイスの姿も無く完全に無駄足だったに違いない。

 ほんの小さいことだが、それ故にもしかしたら運が向いてきたのかもしれないと小さく笑みを浮かべるサザナス。

 そんなサザナスの下へと、先程の報告に向かった警備兵が走りながら近付いてくる。


「ディアーロゴ様から至急サザナスさんを通すようにと。セイス様と共に直接報告を聞きたいとのことです」

「分かった。すぐに行く。場所は執務室でいいんだな?」

「はい」

「もしかした……」


 そこまで呟き言葉を止めるサザナス。

 それを不審に思った警備兵が顔を向けるが、小さく首を振って領主の館へと入っていく。


(もしあれが本当にダンジョンの核だったとしたら、迂闊に騒ぎを起こすのは得策じゃない。それに兵士レベルの腕ではどうにもならない可能性が高いしな)


 内心で呟きながら領主の館を進み、執務室へと到着する。


「失礼します。サザナスさんをお連れしました」

「入ってくれ」


 警備兵とディアーロゴのやり取りを聞きつつ、執務室の中へと入るサザナス。

 部屋の中には予想通りにこの部屋の主であるディアーロゴ。そしてギルドマスターのセイス。他にも街の有力者達の姿が幾つかあった。


「レイと共に行動していたお前がここに来たとなると、もしかしてもう魔熱病に関しての原因が掴めたのか!?」


 勢い込んで尋ねてきたディアーロゴの言葉に、数秒程考えてサザナスは口を開く。


「その件に関係するらしい、重大な発見をしました。出来ればこの件に関してはディアーロゴさんとセイスさんの2人のみに知らせたいんですが」


 言外に、それ以外の者は出ていけと告げているサザナス。

 現在この執務室にいるのは、バールの街でもそれなりの地位や権力を持つ者達のみだ。当然その発言に不愉快そうに眉を顰めるのだが、サザナスの性格を良く知っているディアーロゴは数秒の間迷い、やがて決断する。


「分かった。丁度話も長引いていたところだ。少し休憩にしよう。……セイス、お前は俺と一緒に」

「うむ」


 ディアーロゴの言葉で会議は一旦休憩となり、セイスとサザナスを連れて隣室へと移動する。


「……さて、ここまでするからには余程の件があったんだろうな?」


 言外に余程のことでなければ許さないと言わんばかりのディアーロゴの言葉だったが、サザナスはそれに構わずに口を開く。

 そう、下手をしたらバールの街全てに対して影響を受けるかもしれないその一言を。


「東の蒸留酒の保管所。そこにダンジョンの核が存在することを確認しました」

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