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レジェンド  作者: 神無月 紅
ケレベル公爵領

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1798/3906

1798話

虹の軍勢も更新しています。

「へぇ。ギルムというのはそこまで変わっているのか」


 ラニグスがギルムを説明するレイの言葉に、感心したように呟く。

 それは一見すれば到底演技のようには見えない。

 実際、ラニグスは演技でも何でもなく、レイの話を驚きと共に聞いていたのだから、当然なのだろうが。

 ラニグスの実家のミューゼイ男爵家でも、当然ギルムでの情報は集めている。

 ミューゼイ男爵家そのものは男爵家ということもあってそこまで大きな家ではないのだが、最大派閥の国王派だけあって、その点での影響力は高い。

 何人もの国王派の貴族がギルムに部下や親族といった者達を派遣しており、そのような者達で情報を共有している。

 全ての情報を完全に共有している訳ではないし、国王派という派閥の中でも更に幾つもの派閥がある以上、その辺りの事情でも得られる情報は違ってくる。

 それでも得られる情報は多いのだが、こうして実際にレイから話を聞くというのは、また違う方面から情報を得られるのだ。


「ねぇ、レイ。ギルムの近くにいきなり巨大な森が出来たというのは、本当なの?」


 ラニグスとの話を聞いていたテレスが、ふとそんなことを尋ねる。

 普通に考えれば、どこかにあった森を発見してということであればまだしも、いきなり街の近くに森が出来るということは有り得ない。

 だが……ギルムという辺境の地においては、それこそどのようなことであっても有り得るのだ。

 寧ろ街の近くに森が出来る程度のことであれば、そこまで不思議ではない。

 そんな印象を持っていたとしても、不思議ではない。


「あー、出来たな。トレントの森って言われていて、その森の材木を錬金術で魔法的に処理して、現在の増築作業に使われている」

「へぇ……辺境ってそんなこともあるのね。ちょっと面白そう。アーラなんかはその森で活躍出来るんじゃない?」


 テレスがアーラを見ながら言ったその言葉は、アーラがパワー・アクスを武器としているからだろう。

 その名の通り斧の形をしてるので、森で活躍出来るだろうと。


「それは否定しないわ」

「あら」


 てっきりアーラが自分の言葉に不満を抱くのだとばかり思っていたテレスは、意外そうな視線を向ける。

 だが、アーラはトレントの森で活躍するというテレスの言葉を、別に嫌味で言われたとは思っていない。

 いや、テレスとしてはそのつもりで言ったのだろうが、アーラにしてみれば自分の武器がどのような形で発展してきた物なのかを知っているので、特にどうとも思わなかったのだ。


「とはいえ……木の伐採というのであれば、レイ殿がいるだけで十分でしょうけど」


 アーラは直接見たことはないが、話を聞いて知っている。

 普通の樵でも一本の木を伐採するのに数十分……場合によっては一時間掛かることも珍しくない中で、デスサイズを持つレイは、それこそ一閃するだけで伐採を終えることが出来ると。

 そんなレイに比べれば、パワー・アクスというマジックアイテムを持っていても、自分の方が役に立てるとは到底言えない。


「あら」


 てっきりいつものように突っかかってくるのではないかと思っていただけに、テレスは少しだけ残念そうに呟く。

 それでも、レイがいれば十分といったアーラの言葉に興味を持ち、テレスの視線はレイに向けられる。


「レイなら、そんなにあっさりと木の伐採が出来るの?」

「出来るかどうかと言われれば、出来ると答えるべきだろうな。とはいえ、俺は基本的に木を伐採するんじゃなくて、樵が伐採した木を運ぶという仕事が主だったけど」

「ああ、なるほど。レイがアイテムボックスを持っているのと、木の重量を考えれば、そっちの方が効率的なのか」


 納得したといった風に、ラニグスが頷く。


「それって、木を伐採するよりも、伐採した木を運ぶ方が大変だってこと、よね?」

「そうだな。テレスも考えてみろよ。木を伐採するのと、その木をギルムまで運ぶのの、どっちが大変なのか。トレントの森はギルムの側に出来たというのは間違いないが、それでもギルムのすぐ隣って訳じゃない。あくまでも、他の場所と比べると近くって意味だ」


 ラニグスのその言葉は正しい。

 実際、トレントの森までは歩いてもすぐ到着するという距離ではない。

 ましてや、その距離を特注の馬車に伐採した木を積んで運ぶということになれば、それこそ数時間程度はかかってもおかしくはないのだ。

 だが、アイテムボックスを持っており、セトという移動手段を持つレイであれば、数分でギルムまで到着する。

 そう説明するラニグスの言葉にテレスは頷くが……ふと、気が付く。


「あれ? じゃあ、レイが木の運搬だけじゃなくて、伐採しても変わらないんじゃない? それこそすぐにでも伐採は出来るんでしょ?」


 なのに、何でレイだけでやらないの?

 そう視線を向けてくるテレスに、レイはメイドが持って来てくれたサンドイッチを食べていた手を下ろす。

 ちなみに、このサンドイッチはゲオルギマが作ったサンドイッチ……ではない。

 ラーメンという料理について教えて貰ったゲオルギマは、早速その試作に挑戦しており、それどころではないからだ。

 なので、ゲオルギマの部下――もしくは弟子と言うべきか――が作ったサンドイッチを持ってきたのだ。

 昨夜や今朝の食事と違って味が落ちるのは間違いないが、それはあくまでもゲオルギマの作った料理と比べてだ。

 特に朝食として用意されたサンドイッチには明確に負けているが……それでもケレベル公爵家の料理人が作っただけあって、その辺のパン屋や食堂で出されているサンドイッチよりは、明らかに味が上だ。

 サンドイッチというのは、それこそレイでも作れるような簡単な料理であるにも関わらず、何故ここまで明確に味が違うのか、レイは若干それが気になったが、今はそれよりもテレスの疑問に答えることが先だった。


「木を伐採することが出来るけど、言ってみればそれは俺が力任せに切断しているにすぎないんだよ。本職の樵なら、どの木が建築資材として向いているのかとか、そういうのも考えて伐採する。もっとも、トレントの森に生えている木は全て伐採しているけど」

「それだと、木の善し悪しとか見ても意味がないじゃない」

「それは否定しない。ただ……俺も増築工事だけに付き合ってる訳じゃないからな。他にも色々と仕事をしたりする必要があるし」


 実際、レイは増築工事を手伝いながらも、レーブルリナ国に行ったり、そこから脱出してきた者達の護衛をしたり、海に行って魚を獲ったり……と、様々な行動をしていた。

 そうしてレイ一人がいない状況――正確にはセトもなので一人と一匹なのだが――になってしまえば、建築資材の確保も出来なくなる。

 そうなると、増築作業そのものが停滞してしまいかねず……レイがいなくても増築工事を進めることが出来る体制を整えるのは当然だった。


「ふーん。レイって忙しいのね。エレーナ様と一緒にすごすような時間もなかったんじゃない?」

「っ!?」


 ごほっ、と。

 テレスの口から突然出たその言葉に、エレーナは何とか咳き込みながらも、紅茶を吹き出すような真似は回避する。

 それでも紅茶が変な場所に入ったのか、何度か咽せるも……エンシェントドラゴンの魔石によって強化された能力により、素早くその状況から復帰する。

 ……エレーナに継承された魔石を持っていたエンシェントドラゴンも、まさか自分の魔石を継承した相手がそのようなことに自分の能力を使うとは思ってもいなかっただろう。

 ともあれ、何とか復帰したエレーナは、面白そうな笑みを浮かべているテレスを睨み付ける。

 それでもガイスカに向けた時のような圧力の類がなかったのは、エレーナもきちんと自制しているということなのだろう。


「テレス、突然何を言う?」

「あら、その辺については興味を持っていたんですもの。貴方もそうよね?」


 テレスが視線を向けると、ラニグスも少し考えてから頷きを返す。


「そうだな。二人がどんな関係なのか……それは噂では色々と聞いてるし、貴族派の中でそれが話題になっていることも多いと聞いている。であれば、出来ればその噂の真相は聞きたいと思う」

「ラニグスまで……そういうのは、人前で言うようなことではないので、残念ながら黙秘させて貰う」


 そう言いながらも、エレーナの頬が薄らと赤くなっているのを見れば、エレーナがレイに対してどのような思いを抱いているのかというのは、考えるまでもなく明らかだった。

 テレスとラニグスの二人は、本来ならエレーナからしっかりとその辺の事情を聞きたかったのだが、それでも今のエレーナの様子から大体の事情を理解しここで追求を止める。

 本来ならもっとしつこく追求も出来たのだが、ここでそのような真似をすれば、恐らくエレーナの機嫌を損ねるだろうと、そう判断した為だ。


「じゃあ、ここは露骨に話を変えて……」


 わざと露骨と口に出す辺り、テレスの性格の悪さが表れている。

 だが、それに対してエレーナやアーラが何かを言うよりも前に、テレスは言葉を続ける。


「レイが依頼をして、何か珍しいことはなかったの? 面白いことでもいいんだけど。貴族として暮らしていると、どうしてもそういう刺激が足りないのよね」


 話を振られたレイは、そんなテレスに何と答えればいいのか迷う。

 刺激という点では、それこそレイは今まで様々な依頼を引き受けてきたし、依頼ではない場所でも事件に首を突っ込んだりしてきた。

 だが、その中には迂闊に人に言えないようなものも多いし、他人のプライバシーに関係してくる依頼も多々ある。

 そのようなものに関わらないのは……と、そう考えていたレイが口に出したのは、ある意味でレイの趣味の一つになっている行為。


「盗賊狩りとか、そういうのはどうだ?」

「……盗賊狩り? それって、言葉そのまま?」


 興味深い様子で視線を向けてくるテレス。

 貴族のテレスにとって、盗賊というのは実際に自分の目で見たようなことはない。

 それこそ人から話を聞く程度か、もしくはおとぎ話とかに出てくるようなものでしかなかった。


「そうだ。普通なら商人とかを襲うような盗賊をこっちが襲うんだが……結構なお宝を貯め込んでいる盗賊もいるし、盗賊そのものも生かして捕らえれば犯罪奴隷として売り払うことも出来るから、結構な稼ぎになる」


 そう言うレイだったが、以前はセトと共に行動していたので、生かして捕らえた盗賊も街や村まで連れて行くのが難しく、基本的に皆殺しとすることの方が多かった。

 何らかの理由で馬車を使って移動している……という場合は、捕らえた盗賊を奴隷商人に売ったりもしていたが。


「あはははは。盗賊が襲うんじゃなくて、盗賊を襲うの? それってレイの方が盗賊じゃない?」

「いや、盗賊の討伐と考えれば、冒険者としての依頼は結構あるぞ? ……ギルムの周辺には滅多に盗賊がいないから、ギルムのギルドにはその手の依頼はないけど」


 とはいえ、ギルムにやって来た商人が護衛として冒険者を雇うこともあり、そうなれば道中で盗賊と戦うことも珍しくはない。

 盗賊にとっては、ギルムの冒険者というのは最悪の相手でもあり……逆に冒険者にしてみれば盗賊は実入りの良い相手でもある。

 もっとも、それはあくまで盗賊を倒せるだけの実力があることが前提だが。


「盗賊が一般人を襲って、冒険者が盗賊を襲う。そう考えると、冒険者が一番偉いのかしら」

「どうだろうな。冒険者はその一般人に依頼されて仕事をしてるし、そもそも一般人がいないと色々と生活に困る。持ちつ持たれつって奴じゃないか?」


 冒険者の中には、錬金術師を始めとして様々な生産技術を持っている者もいる。

 それこそ、実家が料理店だったりパン屋だったりといった者であれば、小さい頃から実家の手伝いをしていることも多く、自然とその手の技術は身に付くだろう。

 だが、世の中の全ての人を満足させるには、到底そのような者達だけでは足りないのだ。

 そうである以上、やはり一般人がその手の仕事をしてくれてこそ、冒険者は日常生活を送ることが出来る。

 そういう意味では、やはり冒険者が一番偉い……頂点に立つとは言えない。


「というか、それを言うのなら一番偉いのは貴族とか王族とかになるんじゃないか?」

「……言われてみればそうね」

「うちのような貧乏貴族だと、そのような実感はあまりないけどな」


 レイとテレスの言葉に、ラニグスが口を挟む。

 ラニグスの家は男爵家で、爵位として考えれば圧倒的に下位の爵位だ。

 それこそ、公爵家の家でこうしてお茶を楽しめるような身分ではないのは間違いない。

 ……本人は、全くそんな様子を見せないが。


「そうか? 食器とかの焼き物で結構賑わっていると聞いたが?」

「エレーナ様にそう言って貰えると嬉しいですけど、そこまで高価な物ではないですしね」


 そんな風に、一行はガイスカが消えたことも全く気にせず、世間話を楽しむのだった。

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