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レジェンド  作者: 神無月 紅
騒がしい秋と冬
1751/3865

1751話

「よし、ガメリオン狩りはまだやっていた!」


 スーラ達と出会った翌日……レイはギルドで嬉しそうに声を上げる。

 そんなレイの様子に、まだガメリオン狩りをやっているという情報を教えたケニーは、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「レイ君に喜んで貰えて良かったわ。けど、ガメリオン狩りに慣れている人の話によると、恐らく後五日……どんなに頑張っても、十日くらいでガメリオンはいなくなるって話だから、そろそろ数は少なくなってきている筈よ。……まぁ、レイ君なら今でも問題なくガメリオン狩りは出来ると思うけど」


 普通の冒険者が地上を歩きながらガメリオンを探さなければならないのに対し、レイの場合はセトという相棒がいる。

 空を飛べるセトがいれば、ガメリオンを見つけるのは難しいことではない。

 ……もっとも、林や森といった場所に隠れていれば、見つけにくくなるのも事実なのだが。


「分かった。じゃあ、早速ガメリオン狩りに行ってくる。もしかしたら、間に合わないかと思ってたんだけど」


 ガメリオン狩りに参加出来ることをレイは喜び、同時にスーラ達がもう数日でギルムに到着することを思えば、恐らく本当に何とかガメリオン狩りには間に合うだろう。

 最初はスーラ達だけでガメリオン狩りをするのは難しいだろうと思っていたレイだったが、そこにロックスが本格的に加わるのであれば、話が別だ。


(いや、まさかスーラとロックスがくっつくことになるとは、思わなかったけど)


 昨日馬車の中で聞かされたその話は、レイに強い驚きを与えた。

 だが、考えてみればそれなりに長い期間を一緒にすごし、更には色々な苦難を共に潜り抜けてきたのだ。

 であれば、そのような関係になっても特におかしいことではないのだろう。

 年齢差はそれなりにあるが、それでも驚く程に年齢が離れているという訳でもない。

 他にも元レジスタンスの男達のように候補はいたのだろうが、その辺りは偶然……もしくは運命とでも呼ぶべきものが変えたのか。

 ともあれ、知り合いが恋人同士になったのは喜ぶべきことなので、二人が恋人同士になったことについては、レイには特に何の不満もなかった。

 もしかしたら、ギルムでの生活の為に打算でスーラがロックスを恋人に選んだのではないか……そう考えないこともなかったが、少なくても昨日の様子を見る限りではお互いに好き合っているように見えた。

 であれば、特にレイが何かを言うべきことではないので、取りあえず祝い代わりにイエローバードを何匹か譲っておいた。


「レイ君? どうしたの?」

「ん? ああ、ちょっと考えごとをな。ほら、レーブルリナ国からやって来る移住希望者達がもう少しでギルムに到着するって話、知ってるだろ?」

「そうね。その件で色々と忙しい人もいるみたいだし」


 ギルムに来るまでの旅の途中で、自分の故郷に向かう為、もしくは何らかの仕事を見つけたり、恋人を見つけたりといった具合に何人もが抜けていった。

 だが、それでもスーラ率いる一団には、千人近い人数が残っていたのだ。

 それだけの人数がギルムにやって来るのだから、ただでさえ忙しいこの時季に余計に忙しくなるのは当然だろう。

 ギルドの方でも当然のように色々と忙しくなっているのだが、ギルド職員は能力の高い者の集まりだ。

 ケニーは要領よく、そして素早く仕事をこなし、こうしてレイと話す為の時間を作っていた。


「そうか、面倒を掛けるな」

「別にレイ君が今回の件の責任者って訳じゃないでしょ。それに……事情を知れば、その人達を受け入れるのを断るような人なんか、ギルムにはいないと思うわよ?」


 レーブルリナ国で行われた全て……特に巨人関連のことは知らされていなかったが、それでも各国から女を強引に連れ去り、奴隷の首輪を使って娼婦にされていたという、表向きの話は聞かされている。

 だからこそ、ケニーもそんな者達の手助けをすることに、否という選択はなかったのだろう。

 特にケニーは、その魅力的な容姿から性的な目で見られることも多く、そのような者達は他人事ではない。

 憤りを感じさせつつ告げるその言葉に、レイは頷きを返す。


「そう言って貰えると助かるよ。……まぁ、その女達は自分の運命を悲しんで動けないような奴じゃなくて、ギルムに来るまでの間にしっかりと鍛え上げられたからな。昨日なんか、サブルスタにいた盗賊達を殲滅してたし」

「……随分と逞しいのね」

「ああ。だから、増築工事の作業要員としても、冒険者としても、相応の働きはしてくれると思う」

「そう、なら期待しているわ。まぁ、レイ君の紹介なんだから、その辺りは心配する必要はないと思うけど」

「そうしてくれ。じゃあ、俺はガメリオン狩りに行ってくるから」

「ええ。気をつけてね。もし早く戻ってきたら、ガメリオン料理を一緒に食べない?」


 そう言ってレイを食事に誘うケニーだったが……次の瞬間、隣で書類を整理していたレノラに軽く頭を叩かれる。


「痛っ! ちょっ、いきなり何をするのよレノラ!」

「あのね、レイさんと話すのもいいけど、そろそろ仕事に戻った方がいいわよ」


 そう言いながら、レノラは背後に視線を向ける。

 半ば反射的にその視線を追ったケニーが見たのは、満面の笑みを浮かべた上司の姿。

 ……ただし、目は笑っていなかったが。

 自分の担当の仕事が一段落したのなら、他の者の仕事を片付けろと、そう無言で示す上司の視線を真っ向から見てしまったケニーは、慌てたようにレノラが渡してきた書類を受け取る。

 いつもであれば、レノラを胸のことでからかったりするのだが……今そのような真似をすれば、間違いなく自分に雷が落ちると、そう理解してしまった。

 そんなケニーの様子を見て、レイもこれ以上自分がここにいるのは色々と不味いと判断し、口を開く。


「じゃあ、そんな訳で俺はそろそろガメリオン狩りに行くな」

「あー……」


 軽く手を振ってギルドを出ていくレイの背に名残惜しげな声を発するケニーだったが、レノラが軽く咳払いをすると、渋々仕事に戻るのだった。






「へぇ……やっぱりまだガメリオン狩りをしてる奴が結構いるな」

「グルルルルゥ!」


 セトの背に乗りながら地上を見ると、そこには何台もの荷車を確認出来る。

 ガメリオンの大きさを考えれば、引っ張って持って行くような真似は出来ない。

 これが普通のモンスターであれば、それこそ討伐証明部位と魔石、それと素材を剥ぎ取り、残りは捨てていけばいい。

 だが、ガメリオンの場合は毛皮や爪、牙、耳……それ以外にも様々な場所が素材として使え、捨てる場所はほぼなかった。

 何よりも肉が美味な以上、一番重い肉をその場に捨ててくるということは有り得ない。

 だからこそ、ガメリオンを運ぶ為の荷車がいるのだ。

 ……本当に最善の選択をするのであれば、倒したガメリオンをその場で解体して運べば、後々の処理も楽なのだが、ギルムの外でそのような真似をしていれば、それこそ何らかのモンスターに襲われる可能性がある。

 だからこそ、ガメリオンを倒したら即座に荷車に乗せ、そのままギルムまで戻るなり、荷車の大きさやガメリオンの大きさによってはもう何匹か狙うといった真似をするのだろう。


「グルゥ!」


 荷車を見ていたレイだったが、不意にセトが喉を鳴らす。

 そうしてセトの視線を追ったレイが見つけたのは、ガメリオンと戦っている冒険者……否、ガメリオンに蹂躙されている冒険者の姿だ。

 連携が拙く、それでいて個人としての技量も決して高くはない。

 つまり、増築工事の為にギルムにやってきた冒険者が、ここで知り合った連中と一緒に、より金になるガメリオン狩りに参加し……だが、ガメリオンに勝てる程の強さがなかったということだろう。

 どうする? と一瞬悩んだレイだったが、蹂躙されつつも倒れている仲間を見捨てるような真似をしないところに好感を持った。

 普通なら知り合ったばかりの相手であれば、見捨てても構わない。

 勿論ギルムで出会ったというのは、あくまでもレイの予想にすぎず、実際には前からの知り合いだった可能性はある。

 だが……それでも、仲間を見捨てずに自分よりも明らかに強い相手に立ち向かうというのは、例え自棄になっていても、そう出来ることではない。

 しかも、運が良いのか悪いのか、ガメリオン一匹に苦戦している者達から少し離れた場所にはもう一匹別のガメリオンがおり、戦闘が行われている場所に向かって走っていた。


(いや、跳ねていた、か。ウサギだけに)


 そんな風に考えながらも、レイはそのままセトの背から飛び降りる。

 高度百mの位置から飛び降りたのだが、レイにとってはその程度は既に慣れたものだ。

 全く不安を感じさせずに、セトに向かって声を掛けた。


「セト、俺はあの襲われている冒険者を助けるから、お前は向こうから近づいているガメリオンを倒してくれ。言っておくけど、強力な一撃で爆散させるような真似はするなよ。食う場所がそれだけ少なくなるからな」

「グルルルルルゥ!」

 

 レイの言葉は、セトに対してこれ以上ない程の忠告となった。

 ガメリオンの肉は、セトの好物の一つでもある。

 その肉の食べる場所が少なくなるというのは、出来れば避けたいと思うのは当然だろう。

 そんなセトの様子を落下しながら見ていたレイは、途中で何度かスレイプニルの靴を発動させ、落下速度を殺していく。


「グラアアアアアアアアアア!」


 ガメリオンが大きく吠えながら、槍を持った冒険者に向かって突っ込もうとし……その冒険者は後ろに仲間が倒れていることもあって回避という手段が取れず、何とかガメリオンに向かって槍の一撃を叩き込もうとしていた。

 ……丁度その瞬間、ガメリオンの機先を制するかのように、槍を持った冒険者の男とガメリオンの間にあった地面が、斬り裂かれる。

 

『え?』

「ゴオアアァ!?」


 槍を持っていた冒険者と、その仲間の冒険者の口からは、揃って間の抜けた声が出る。

 ガメリオンの口からは、これからというところで邪魔をされた苛立ちの籠もった声が上がった。

 声の意味は違っても、ともあれ数秒であろうと双方共に動きを止めたのは間違いない。

 そして、上空から落下してきたレイにとっては、そうして動きを止めたのを確認すれば、次の行動に移るには十分だった。

 とん、と。

 レイが飛斬で放った地面の斬撃の上に降り立つ。


『え?』


 再び冒険者達の口から出る言葉。

 まさか、いきなり空から人が降ってくるとは、思ってもいなかったのだろう。


「さて、そっちが危なさそうだったから助けに入ったけど、この戦いはまだお前達でやるか? それとも、俺に譲るか? ただし、その場合はこのガメリオンの所有権は俺のものになるけど」

「頼む、助けてくれ!」


 槍を持った冒険者が、レイの言葉に即座に叫んだ。

 ガメリオンを倒して得られる利益と仲間の命を天秤に掛け、即座に後者を優先する。

 これが長年パーティを組んでいる者達であれば、そこまで不思議なことではない。

 危険に共に立ち向かったというのは、それこそ強い絆を生むのだから。

 だが……ここにいるのは、全員がそうとは限らないが、恐らくは殆どがギルムで初めて会った者ばかりで、その気のあった者達でガメリオン狩りに来たというのが、レイの予想だ。

 それだけに、即座にそう告げられた言葉はレイに好感を抱かせる。


「任せろ」


 そう呟き、レイはいつものように右手にデスサイズを、左手に黄昏の槍を持つ二槍流の構えを取る。


「あ、大鎌と槍……深紅!?」


 冒険者達の中の一人が、レイの持つ目立ちすぎる大鎌を見てその正体に気が付き、叫ぶ。

 そして深紅という言葉の意味を理解すると同時に、冒険者達は心の底から安堵する。

 自分達は確実に助かるのだと、そう判断したのだろう。

 実際、レイの噂の一割でも本当であれば、それこそガメリオンに負けるなどということは有り得ない。

 冒険者達のそんな雰囲気は、ガメリオンと睨み合ったレイも当然理解出来た。


(出来れば、気を緩めるなんて真似はして欲しくないんだけどな。……まぁ、しょうがないか)


 レイが見たところ、ランクD……もしくは、Eであってもおかしくはない。

 そんな者達だけに、この状況ではレイの戦いを見るというよりは安堵の方が強いのだろう。


「さて、そんな訳でお前の相手は俺になった訳だが……」


 ガメリオンを見ながら呟くレイ。

 普通であれば、レイが冒険者達と悠々と話をしているような暇を、ガメリオンが与えるようなことはない。

 それこそ、その獰猛さを活かしてすぐにでも襲い掛かってもおかしくはない。

 それが出来なかったのは……類い希なる凶暴さを持っているガメリオンだからこそ、レイという存在の危険性を察知出来たのだろう。

 勿論全てのガメリオンがそれを理解出来る訳ではなく、その手の感覚が特に鋭いこのガメリオンだからこそなのだろうが。


「行くぞ」


 短くそれだけ呟き、レイは一気に前に出る。

 そうして動けば、ガメリオンも動かざるをえず……レイとガメリオンが交差した次の瞬間、ガメリオンの首はデスサイズによりあっさりと切断されるのだった。

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