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レジェンド  作者: 神無月 紅
騒がしい秋と冬
1745/3865

1745話

「グルルルルルルルルルルゥ!」


 視線の先に、見覚えのある街……ギルムが見えてきたことにより、嬉しくなったセトの鳴き声が周囲に響く。

 そんなセトの鳴き声に、レイもまた視線を前方に向ける。

 そこには間違いなくギルムの姿があり、戻ってきた……と、そういう思いをレイに抱かせる。

 もっとも、レイ達がギルムを離れてゴルツに行っていた時間は、それこそ一ヶ月にも満たない時間だ。

 それでもこうして帰ってきたという思いを抱くのは、やはりレイにとってギルムという場所が自分の帰るべき場所であると、そう理解しているからだろう。


「あ、セトの声が聞こえたみたいだな」


 そんな風に思いつつ地上に視線を向ければ、そこでは街道の上で突然響いた鳴き声に驚いている者達の姿を目にすることが出来る。

 ……セトの鳴き声を聞いて、結局驚いているだけで済んでいる者の方が多いのは、今の鳴き声がセトの鳴き声だと理解しているからか……それとも、鳴き声は聞こえつつも、その鳴き声の主の姿はどこにもなく、遠くからの鳴き声だと認識しているからか。

 もっとも、何人かは驚いて混乱しそうになっている者もいるが、それは周囲にいる他の者達によって落ち着かされていた。

 そんな中、聞こえてきた鳴き声に喜んでいる者もいる。

 そう、例えば……トレントの森で伐採された大量の木を馬車で運んでいる者達のように。

 増築工事でレイやセトと行動を共にすることが多かった者達だけに、今の鳴き声がセトのものだというのはすぐに予想出来たのだろう。

 もしそれが聞き間違えであったりすれば、それこそ騒動になってもおかしくはないのだが、まさかここにいる全員がセトの鳴き声を聞き間違えるとは思っていなかった。

 セト以外のグリフォンが来たという可能性もないではなかったが、生憎とランクAモンスターのグリフォンがそう簡単に人前に姿を現すようなことはない。

 ただし、このギルムは辺境だ。

 そうである以上、もしかしたらセト以外のグリフォンが出て来るという可能性も、決して否定は出来ないのだ。

 そもそも、グリフォンの移動速度を考えれば、それこそ辺境以外のどこに出没しても、おかしくはないのだが。


「あー……このまま隠れているってのも何だし、そろそろ降りるか」


 空を見上げながらセトの姿を探している者もそれなりにいるが、セト籠の能力によってカメレオンのように周囲の景色に溶け込んでいる以上、それを見分けるのは難しい。

 正確には、セト籠の周囲にある景色にすぐ溶け込める訳ではなく、一分ほど前の景色を映し出しているのだが……地上にいるのならともかく、空を飛んでいる状況で、その差を見つけるのは難しい。

 勿論絶対に不可能という訳ではなく、ある程度以上の注意力があったりすれば、見つけるのは不可能でもないのだが。


「セト、そろそろギルムも近くなってきたし、地上に降りるぞ」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは喉を鳴らし、地上に向かって降下していく。

 もっとも、街やその近くにはギルムに向かって移動している者も多いので、少し離れた場所を目掛けてだが。

 そうして街道から離れた場所で、限界まで高度を下げたセトが持っていたセト籠を下ろす。

 重量感のある音が周囲に響き、セトの姿を探していた者達は、セト籠の姿を発見する。

 そしてセト籠を下ろしてしまえば、セトの姿を確認するのは難しい話ではない。

 再度空に舞い上がっていったセトを、多くの者が目にする。

 そんな視線を一身に集めたセトは、やがて再度地上に向かって降下していき……無事、着地することに成功する。

 その頃になれば、セト籠からエレーナ達も姿を現していた。


「ふむ……セト籠の中はそれなりに居心地が良いが、それでもこうして外に出て自由に動けるというのは……」


 最後まで言わず、エレーナは空を見ながら大きく伸びをする。

 そんなエレーナの髪が太陽の光を反射して煌めき、それこそ太陽の光その物を髪にした、もしくは黄金そのものが髪になったのではないかと、周囲で様子を窺っていた者達にはそのように思えた。

 エレーナに続き、姿を現すマリーナ、ヴィヘラ、ビューネ。それと、ビューネの抱いているイエロ。

 ここまでであれば、レイの仲間としてギルムでは知られているので、何も知らない者以外は特に驚くことはない。

 ……姫将軍の異名を持つエレーナが一緒にいるということに驚く者もいたが、エレーナがレイと行動を共にしているのは既にそれなりに知られている事実でもあった。

 だが……そんな者達の後からレリューが姿を現すと、その様子を離れた場所から眺めていた全員が驚愕する。

 疾風の異名を持つレリューは、当然のようにギルムでも名前と顔を多くの者に知られている。

 特にソロで活動しているということもあり、冒険者としてはそれなりに珍しいというのも、レリューの名前を広めているのに影響しているだろう。

 もっとも、異名を持つというのは、それだけ何らかの突出した能力を持っているということだ。

 そのような能力の持ち主とパーティを組むというのは、パーティメンバーにも相応の能力を要求される。

 そして、当然のようにそれだけの能力を持っているというのは、そう多くはない。

 そうである以上、異名持ちの冒険者ともなれば、普段はソロで活動しており、何かあったら臨時のパーティを組むという者も多かったが。


「お、おい。あれってもしかして……疾風のレリューじゃないか?」

「ああ、間違いない。俺は以前レリューと話したことがあるんだ。その俺が断言する。あれはレリューで間違いない」

「ちょっと。じゃあ、もしかしてレリューが紅蓮の翼に所属するの? 今でさえ、紅蓮の翼は戦力過剰って言われてるのに、そこにまた異名持ちが加わるってのは……どうなのよ」

「下手な小国なら、紅蓮の翼だけで落とせそうだよな」

「……いや、小国を相手にするなら、別に紅蓮の翼じゃなくても深紅のレイが一人いれば、それで十分どうにか出来るだろ」

「あー……それは否定しない」


 レリューが姿を現したことにより、周囲で様子を見ていた者達が好き勝手に自分の意見を言う。

 当然レイにもそんな周囲の声は聞こえていたが、それに対して何かを言うつもりはない。

 寧ろここで自分が何かを言えば、それこそこれ幸いと大勢の者達に取り囲まれて事情を聞かれることになるのは間違いなかったのだから。

 そんな訳で、レイはセト籠をミスティリングに収納すると、自分達の到着をこの上なく喜んでいる者達……そう、顔見知りのトレントの森の木を運んでいる冒険者達の下に向かう。

 いつもであれば、その冒険者達も喜んでいたことだろう。

 レイのミスティリングがあれば、自分達が苦労して運んでいる木もあっさりと運ぶことが出来るのだから。

 だが、今日に限ってはそんな真似が出来ない。

 何故なら、レイを追うようにエレーナ達が……特にレリューの姿がそこにあったのだから。

 レイとなら、それなりに話したことも多いので、緊張とかもなく普通に話すことが出来る。

 だが、それはあくまでもレイだから……レイに言えば確実に怒られるだろうから直接口にはしないが、レイの外見が愛らしい女顔で、とてもではないが腕利きの冒険者に見えないからというのが関係している。

 レイの外見で相手を侮るような真似は、トレントの森を担当している冒険者はしない。

 それでも、レイの外見がそのような愛らしい女顔だからこそ、話し掛けやすいというのは、間違いなくあったのだ。

 そんなところに、レリューのような名実ともに一流の異名持ちの冒険者で、更に外見もそれに相応しい迫力を持ってる人物がやってきたのだから、いつも通りにレイと接するのが難しいのは当然だった。

 だが、レイはそんな冒険者達の様子は全く気にした様子もなく、口を開く。


「久しぶり……って程じゃないけど、まぁ、一応久しぶりだな。この木を運ぶのか? トレントの森の木だよな?」

「え? あ、うん。そうだけど……いや、そうじゃなくて。何でレイが疾風のレリューさんと一緒にいるんだよ!」


 あまりにもいつも通りの言葉に、一瞬普通に返してしまった冒険者の男だったが、すぐに我に返って叫ぶ。

 しかし叫ばれたレイは、特に困った様子もなく……寧ろ、何故自分が怒鳴られてるのかを疑問に思った様子で口を開く。


「何でっていっても、俺がダンジョンを攻略するのに一緒に来て貰ったからだけど?」

「ダンジョンって……え? ダンジョン? 最近いないと思ってたけど、ダンジョンに行ってたのかよ!?」

「そうなる」

「しかも、こうして戻ってきたってことは……もしかして……」


 言葉が濁されたが、レイも目の前の男が何を言いたいのかは理解する。

 わざわざ自分がダンジョンを攻略したという話をする必要もないのだが、別に隠すようなことでもない。

 いや、ダンジョンが攻略されたという話は、ギルド経由で色々と知られることになる以上、ここで隠してもあまり意味がない、というのが正確なところか。


「そうだな。ダンジョンをクリアしてきた。もっとも、出来たばかりのダンジョンだったけど」

「……その割には、色々と規格外のダンジョンだったけどね」


 マリーナの呟く声に、他の面々も同意するように頷く。

 実際、ガランギガを始めとして、とてもではないが出来たばかりのダンジョンとは思えないような場所なのは間違いなかった。

 少なくても、以前ギルムの近くに出来たばかりのダンジョン……ガメリオンの時季に攻略したダンジョンと比べると、難易度という点では圧倒的に上だったのは間違いない。

 出来たばかりのダンジョンというのは、レイが言ったように間違いない。間違いないのだが……出来たばかりのダンジョンということで一緒にしてもいいのかという思いがある。


「えっと、そうなんですか?」


 レイと話していた冒険者も、当然のようにマリーナについては知っている。

 増築工事が始まってからギルムに来た冒険者であれば、マリーナについて知らない者もいるのだが……幸い、この男は以前からギルムで活動していた冒険者だった。

 だからこそ、そのマリーナの言葉に疑問を抱いたのだろう。


「ええ。……もっとも、ここでその話をしていれば、色々と目立ちそうだし……一度その件については、後でレイに聞いた方がいいわ。さ、レイ。そろそろギルムに向かいましょ」


 マリーナの言葉には誰も異論を唱えず、伐採された木をミスティリングに収納したレイはその場の面々と共にギルムに向かう。

 当然ギルムでも、警備兵はしっかりとセトが降りてきている光景は見ていたので、特に問題なく手続きを終えることが出来た。

 そうして、まずレイが行ったのはギルド……ではなく、領主の館でもなく、伐採した木を運び込む場所だった。

 もっとも、そのような場所にレイや担当の冒険者以外を連れていっても、それこそいらない騒ぎになるだけだということもあって、エレーナ達は先にギルドの方に行って貰って、今回の話を持って来たワーカーに事情を説明して貰うことになっていたが。

 そしてレリューも、今回の件を頼んできたダスカーに色々と報告をしに行った。

 ……ただ、レリューはなるべく早く報告を終えて、妻のシュミネが待っている家に帰りたいというのが見ているだけで分かったが。


「おお、木を……おう? レイにセト? 戻って来たのか? ちょっと出掛けてるって話を聞いてたけど?」


 担当の者がレイとセトを見て、驚いたように声を掛ける。

 もっとも、ここの担当をやってるだけあって、レイやセトと接する機会は多いので、特にセトを見て驚いたりといったことはなかったが。


「それにしても、もう少しで冬だってのに、随分と木を伐採していくんだな」

「ん? ああ。それこそ、春に使う分は冬の間に出来るだけ処理しておきたいって話だからな。今のうちに少しでも貯め込んでおきたいんだろ。……冬の間にやる仕事も、その分増えるし」

「そういうものか? ……で、木はどこにおけばいいんだ?」

「案内するから、こっちに来てくれ。おい。お前達も来いよ」


 そう言い、倉庫の中に入っていく。

 少し前にレイが見た時に比べると、結構な数の木が増えているように思える。


「うわぁ……改めて見ると、よく俺達こんなに木を運んだよな」

「いや、この殆どがレイの運んだ木だろうに」

「う……そ、そう言われると……」


 そんな声が聞こえてくると、当然のようにレイに視線が集まる。


「別に全部俺が持ってきた訳じゃないんだし、それならそれでいいんじゃないか?」

「え? 本当にか?」

「……それを自慢して、後で後悔してもしらないけどな」

「うっ!」


 最近通っている酒場の店員をここに連れて来て、この木は俺が持ってきたんだ! と言って口説こうかと思っていた冒険者の男は、レイの言葉にそれ以上何も言えなくなるのだった。

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