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レジェンド  作者: 神無月 紅
崖のダンジョン
1727/3865

1727話

虹の軍勢も更新しています。

 ダンジョンの核をデスサイズで切断して地形操作のスキルがレベルアップした後、ダンジョンの核をミスティリングに収納する。

 その後、レイを背中に乗せたセトはすぐに翼を羽ばたかせて空に駆け上がっていった。

 そうして、水面より上に上がってから数秒……それを確認したマリーナが精霊魔法を解除すると、一瞬前まで道があった場所に水が流れ落ちる。

 ダンジョンの核があった影響か、それともガランギガが住処としていたからか……その辺りの事情は分からなかったが、この地底湖の水は精霊魔法の技量という点では一流……いや、超一流と呼ぶべきマリーナであっても、操るのは非常に困難だった。

 寧ろ、マリーナだからこそ操れたのだ。

 もしこれが、その辺の精霊魔法の使い手であれば、このような真似は到底出来なかっただろう。

 ……もっとも魔法使いそのものが非常に稀少な存在で、その中でも精霊魔法使いともなれば、更に稀少なのだが。

 そうしてエレーナ達が待っている場所まで戻ってくると、レイ達を出迎えたのは疲れた様子を見せるマリーナの姿。

 それだけ地底湖の水を操るのは厳しかったのだろう。


「悪いな」

「いいのよ。それより、一応聞いておくけど……目的は果たせたのよね? もし私にここまでさせておいて、目的を果たせなかったりしたら……」

「ああ。勿論、その辺りは大丈夫だ」


 マリーナの言葉を最後まで聞かず――この場合は聞けずか――に、そう告げる。

 それを聞いたマリーナは、嬉しそうに満面の笑みをうかべた。

 いつもの、強烈に女の艶を感じさせるような蠱惑的な笑みではなく、幸せそうな、それでいて嬉しそうな、そんな笑み。

 見ている方も、思わず幸せな気持ちになるような笑みだ。


「なぁ、レイ。じゃあ……ダンジョンを攻略したと、そう考えてもいいんだよな?」


 そんな中、レリューが恐る恐るといった様子で尋ねてくる。

 普段の態度からは考えられないようなその様子は、普段のレリューとは大きく違う。

 だが、それも当然だった。

 冒険者として、ダンジョンを攻略するというのは大きな意味を持つ。

 ダンジョンの数が限られている以上、それを攻略するというのはそう簡単に出来ることではない。

 それこそ、異名持ちのランクA冒険者たるレリューであっても、それは同様だ。

 ましてや、レリューは基本的にソロの冒険者であることを考えると、ダンジョンの攻略はほぼ不可能に近いと言ってもいい。

 本人もそれが分かっているからこそ、こうしてダンジョンを攻略したということが半ば信じられないといった様子なのだろう。


「うお……本当に、俺がダンジョンを……」

「いや、俺達と一緒にこのダンジョンに挑むことになったんだから、そこまで喜ばなくても……」


 心の底から喜んでいるレリューは、レイの言葉が耳に入っていないらしく、自分の中にある喜びに浸っていた。

 レイはそんなレリューの様子に、今はダンジョンを攻略した幸せに浸らせておこうと判断し、マリーナに顔を向ける。


「大丈夫か?」

「ちょっと疲れたけど、そこまで問題はないわ。それに、いつまでもここでこうしている訳にもいかないでしょ? このダンジョンは色々と特殊なダンジョンだっただけに、ダンジョンの核が破壊された状況を考えれば、次に何が起きるか分からないもの」


 心配そうに周囲を見回しながら告げるマリーナに、エレーナが近づいてくる。


「そうだな、このダンジョンは色々と特殊だ。……もっとも、ダンジョンそのものが特殊ではあるのだが。ともあれ、今のうちに早くダンジョンを脱出した方がいいというのは、私も賛成だ」

「……ガランギガとの戦いは、そこまで激戦じゃなかったから、少し欲求不満だけど……しょうがないわね」


 ヴィヘラも若干不満ながら、ダンジョンから出るのに異論はないのか、そう告げる。

 他の面々も、なるべく早くダンジョンから出るのに異論はなく……


「レリュー、そろそろ脱出するわよ。このままだと、ダンジョンが崩れたりとかする可能性も否定出来ないもの」


 そんなマリーナの声で、ダンジョンを攻略したという事実に酔っていたレリューも我に返る。

 一瞬でいつも通りに戻れる辺り、レリューの強さや精神力を現していた。


「ああ、悪いなマリーナさん。ちょっと興奮してた」

「その気持ちも分かるけど、今は出来るだけ早くここから脱出するわよ。多分大丈夫だとは思うけど、最悪の場合を想定する必要もあるし」


 最悪の想定という言葉でどのようなことを想像したのか、レリューは表情を厳しく引き締める。


「分かった、なるべく早く出るとしよう。……レイ、戻るのは俺達が来た通路でいいんだよな?」


 それは質問の形を取っているが、確認の意味の方が強い。

 実際、出来るだけ素早くダンジョンから脱出する方法を考えると、それが最善の選択なのは間違いないのだから。

 この状況で初めて通る通路を移動するということになれば、それこそどれだけ時間が掛かるか分からない。

 もしその通路に、レイ達が通ってきたのと同じくらいの罠が仕掛けられていた場合、それを解除している間にダンジョンに何か異変が起こるといった可能性は否定出来なかった。

 レイ達が通ってきた通路でやったように、罠を解除してビューネの盗賊としての技量を上げるという行為は、それこそやるような暇はない。

 ここが崖の中にあるダンジョンで……ましてや、中の空間は明らかに歪んでいるのだ。

 その辺りは、それこそ地底湖の存在や広大な森の存在を思えば確実だろう。


(そもそも、地底湖って呼んでるけど……ここは別に地底って訳じゃないしな。ああ、でもダンジョン……洞窟の中にあったんだから、地底湖って呼び方でもいいのか?)


 今更ながらに地底湖という呼称で良かったのかと思いつつ、レイ達はその場からすぐに立ち去る。

 ……もしこのダンジョンを攻略したのがレイ達以外の者であった場合、ガランギガの死体を運び出すことは到底不可能だっただろう。

 あの巨体を全て運び出すには、それこそ何らかの手段でガランギガを切断するなりなんなりして、ダンジョンの外に運び出す必要がある。

 それは現実的ではない以上、稀少な素材として売れる部位だけを持っていく……といったところか。

 そういう意味では、やはりミスティリングを持っているレイは、ある種卑怯なまでに有利だと言ってもいいだろう。


「急いで走り抜けるけど、異論のある者は?」


 レイの言葉に、誰も口を開く様子はない。

 現在のこのダンジョンの状況を考えれば、それこそ最悪の場合は崩壊してもおかしくはないのだ。

 そうである以上、ダンジョンから可能な限り素早く脱出するというレイの言葉に、異論などある筈もない。

 ガランギガとの戦闘で多少の疲れはあったものの、レイ達は素早く自分達のやってきた通路を戻っていく。

 来る時には罠の発見と解除をしながらだったので、かなりの時間が掛かった通路だったが……今度は罠の類が全て解除されている以上、足を緩める必要はない。


(こうなると、結果的にビューネに罠を解除させたのは正解だったな。おかげで罠とかを気にせずに進むことが出来る。……まぁ、罠がいつ仕掛け直されているのか分からない以上、完全に安心出来るって訳じゃないけど)


 そう思いながらも、レイは通路に再び罠が仕掛けられている可能性は少ないと判断していた。

 これが、地底湖のある場所で野営して一晩経った後であれば、その辺りも心配する必要があっただろうが、レイ達がこの通路を通ってからまだそれ程経っていない。

 であれば、このダンジョンの罠がどのように仕掛けられるのか……それこそ、ゴブリンやコボルト、オークといったモンスター達が罠を仕掛けているのか、それともダンジョンの核の力により自動的に罠が仕掛けられるのか。

 その辺りの事情は分からなかったが、今なら多分大丈夫だろうというのがレイの予想であり……そして今のところ、その予想は見事に当たっている。


「お、出口だ」


 先頭を走っているレリューが叫ぶ。

 その言葉通り、視線の先には岩の植物が大量に存在していた場所が見えてきた。

 そうして通路を出て……


「っ!? 止まれ!」


 瞬間、先頭を走っていたレリューが叫ぶ。

 その声に込められているのは、緊張。

 それを感じ取ると、走っていた者達は全員の足が止まる。

 何があった? そう思わないでもなかったが、とにかくレリューがあれだけ緊張しているのだから、何かがあったのは間違いないのだ。

 そして、足を止めたレイ達が見たのは……


「うげ……嘘だろ」


 つい先程……そう、それこそ本当に少し前に岩の植物をミスティリングに収納したにも関わらず、そこには再び岩の植物が大量に生えていたのだ。

 勿論、レイ達が先程倒した時のように、大量に密集している訳ではない。

 だが、それでもある程度の大きさになっている岩の植物は、不気味としか言いようがなかった。


「再生能力、早すぎだろ。そもそも、殆どが根から引っこ抜いた筈なのに、どうやってここまで成長したんだ?」


 岩の植物を見ながら疑問を感じるレイだったが、今は一刻でも早くダンジョンから脱出する必要があるのだ。

 そうである以上、この状況からどうにかする必要があり……


「しょうがない、強行突破だ。出来るだけあの岩の植物が攻撃をしてこないことを期待するとして……」


 レイの視線がマリーナに向けられるが、地底湖に精霊魔法を使った消耗が激しい以上、ここで無理をさせる訳にもいかない。

 かといって、後ろから好き勝手に攻撃されるのも厄介極まりない以上……


「俺がセトの背に後ろ向きに跨がって、最後尾で延々と攻撃を防ぐなり、こっちから攻撃するなりする」

「いいのか?」


 エレーナが視線を向けて尋ねてくるが、レイはそれに対して問題ないと頷く。

 ガランギガとの戦いで体力は相応に消耗しているが、それでもダンジョンを脱出するのだから、多少の無理は必要だった。

 ……一撃を食らえば致命傷になりかねないガランギガの攻撃だけに、ダメージそのものはほぼ皆無に近くても、精神的な消耗は決して少なくないのだが。

 それでも、銀獅子との戦いに比べれば、間違いなく楽な戦いだったとレイは断言するだろう。

 他の面々もレイに対して色々と言いたいことはあったようだが、今はとにかく少しでも早くダンジョンを脱出する必要があるというのは理解している。

 結局そのまま一気に進むということになり、レイ達は岩の植物が生えている空間に飛び込んだ。

 レイのみは、最後尾でセトの背にいつもと違って前後逆に乗るという、若干間の抜けた光景になってはいるが、岩の植物からの攻撃……それも主要な、岩の葉による遠距離攻撃を思えば、当然の姿だった。だが……


「ん?」


 いつものデスサイズではなく、取り回しのしやすい黄昏の槍を手にしているレイだったが、何故か岩の植物からの攻撃は何もない。

 普通に……本当に何の問題もない状況で、岩の植物が大量に生えている中を走り続けることになっていた。


(どうなってるんだ? 何で攻撃されない? ……岩の植物が攻撃するには、一定以上まで大きくなる必要があるとか? いや、それだと一階にあった岩の植物が何で攻撃してきたのかが分からないし。考えられるとすれば、ダンジョンの核の影響か?)


 疑問を抱くレイだったが、攻撃してこないのであれば、それに越したことがないのも事実だ。


「岩の植物は攻撃してこない! そのまま、真っ直ぐに階段に向かって進め!」


 一応セトの背に跨がりながら背後を警戒しつつ、レイは叫ぶ。

 そうして……結局岩の植物に一切攻撃されないまま、レイ達は無事に階段まで到着する。

 当然ながら階段の前に到着しても速度を緩めることはなく、そのままの勢いで階段を上っていく。

 森に出たところで、ようやく足を緩める。

 それでも足を止めて休憩するのではなく進み続けているのは、今の状況が色々と危険だということを全員が理解しているからだろう。

 セトの背に乗っていたレイも、今は下りて森の中を進んでいた。


「セト籠を使わないか?」


 森のある階に戻ってきて数分。ふと、レイが呟く。

 実際、この森のある階はかなりの広さを持ち、階段のある場所まで移動するにも相応に時間が必要となる。

 だが、セトの速度を考えればそこまで移動するのに掛かる時間はない。

 そう思って出されたレイの意見だったが……当然、反対する者もいる。

 セト籠に乗っている状態では、攻撃されても反撃出来るのはレイとセトだけだ。

 ましてや、セト籠の擬態能力も空を飛んでいるモンスターには効果がない。

 そうである以上、危険だとレリューが反対したのだが……レイとセトの能力に十分以上に信頼を置いている他の面々はそのアイディアに賛成し、そうなればレリューも反対は出来ない。

 こうして、最終的にはセト籠を使い……階段まで一気に移動し、洞窟になっている場所も素早く突破すると、レイ達は無事にダンジョンから脱出出来たのだった。

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