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レジェンド  作者: 神無月 紅
目覚めを求めて
1247/3865

1247話

 覆面を被った男達に襲われていたレイ達だったが、その覆面の男達を倒した頃合いを見計らったかのように警備隊が姿を現す。

 勿論本当にそのタイミングを狙っていた訳ではないのだが、それでもやはりこうして事態が収拾してからやってくるとなると、周囲の者達の視線にどこか呆れの色が混ざってしまうのは仕方がないだろう。

 もっとも、それは何事もなく無事に騒動が鎮圧出来たからこそであり、もし何か悲劇的な出来事が起きていた場合、警備隊の者達は呆れどころではない視線を向けられていたのだろうが。


「えっと……その……えー……あー……」


 警備隊の兵士達も自分達が遅れてきたというのは理解しているのか、どこか言葉を濁しながら周囲を見回す。

 それでも自分達のやるべき仕事はきちんと理解しており、意識を失った男達の下へと向かい、拘束していく。

 当然ながらその際に覆面を外すのだが……当然と言うべきか、そこから出て来たのは特に有名な相手の顔という訳ではない。

 もしかしたら賞金首や、そこまでいかなくても何らかの手配がされている犯罪者では? と期待していた警備兵は、少しだけ残念そうな表情を浮かべる。

 覆面というのは、当然ながら自分の顔を表に出したくない時に使うべき物だ。

 それを使っていたのだから、自分の顔を他人に見られたくないと、そう思っての行動であり、その理由は覆面に隠されている顔がそれなりに知られているものだからではないのか。

 そう警備兵達は考えていたのだが、完全に当てが外れた形だった。


「誰か、こいつの顔を知ってるか?」


 仲間に尋ねるが、誰もが首を横に振る。

 それは、他の覆面の下にある顔も同じだった。

 一応警備隊の仲間だけではなく周囲に集まっている者達にも聞いてみるが、集まっている者達もその顔を見たことがあるという者はいない。


「しょうがない。詰め所に連れていって、意識が戻ったら取り調べだな。……それにしてもお前さん、本当に、心の底から、つくづく、徹底的に騒動に愛されているな」


 レイと顔見知りの警備兵が、どこか呆れたように口を開く。

 だが、そのままレイの肩に手を置こうとし……そこで、初めてレイ以外の面子に気が付く。

 まず真っ先に視線に入って来たのは、このギルムのギルドマスターのマリーナ。

 そして次に目に入ってきたのは、ミレアーナ王国の貴族派の象徴ともいえる姫将軍の異名を持つエレーナ。

 最後に目に入ってきたのは、少し前からレイとパーティを組んでいるということや、その扇情的な服装で有名だったヴィヘラ。

 ……実はアーラもいるのだが、他の面子が目立ちすぎる為にレイと話していた警備兵には気が付かれていなかった。

 もっとも、アーラにとってそれはエレーナと行動をしていればよくあることであり、特に気にしている様子はない。

 アーラも顔立ちは十分に整っているのだが、エレーナとは比べられないというのは自覚しているのだろう。

 ともあれ、その場にいたエレーナやマリーナの姿を見た警備員は目を大きく見開く。


「え、ギルドマスターにエレーナ様?」

「気が付くのが遅いぞ。元々この馬車はエレーナのだし、もっと早く気が付いてもいいと思うんだけどな」

「もっと早く言えよ、こういうのは! ……えっと、取りあえず場所も場所なので詰め所の方に急ぎましょう。この襲撃者達もきちんと捕縛しておく必要がありますし」

「……態度が露骨すぎないか?」


 少しだけ呆れの口調を滲ませながらレイが呟くが、寧ろこの態度は普通と言ってもいい。

 相手は異名持ちの公爵令嬢とギルドマスターなのだ。

 そんな人物を相手に気安く接することが出来る者は、そう多くない。


「馬鹿、お前。本当はこの人達は俺達が気楽に話し掛けられるような人じゃないんだぞ!?」


 そう告げる警備兵の言葉に、覆面を脱がされた男達を運んでいく他の警備兵達が同意するように頷く。

 エレーナ達との付き合いが長いレイは特に気にしていなかったが、改めてエレーナ達の身分に納得してしまう。……もっとも、それで接する態度を変えるようなレイではないし、エレーナ達にとっても態度を変えられるような真似はされたくないだろうが。


「とにかく、いつまでもここにいる訳にもいかないだろ。大通りを塞いでるし」

「……ああ、なるほど」


 改めて周囲を見回したレイは、馬車と自分達、そして襲撃者達との成り行きを見守っていた人混みが大通りを大分塞いでいることに気が付く。

 完全に塞いでいる訳ではないので、大通りが通れなくなっている訳ではない。

 だがそれでも、とてもではないがスムーズに通行出来る訳でもない。

 それを考えれば、警備兵がレイ達を急かすのも理解が出来た。


「分かった、じゃあ一旦詰め所に向かうか。……いいよな?」

「ええ、問題ないわ」


 レイの言葉にマリーナが頷き、他の面々も特に異論はないのか同じく頷く。


「助かります。では、行きましょう。一応馬車の護衛は私達がしますので」


 先程レイと話していた警備兵が、全く違う口調でエレーナとマリーナに告げる。

 相手の立場を考えれば、その口調の変化は当然のことなのだろう。

 そのような態度にも慣れている二人は、特に表情も変えずに頷く。


「アーラ、御者を頼む」

「はい、エレーナ様。では、皆さん馬車に乗って下さい」


 その言葉にエレーナ達が馬車へと乗り込み、子供と戯れていたセトもそんな様子を見て馬車の近くに戻ってくる。


「なぁ、レイ。その、本来ならこういう時は一緒に馬車に乗って護衛とかした方がいいんだけど……いるか?」


 馬車に乗り込もうとしたレイに対し、先程の警備兵が改まった様子で尋ねてくる。

 そんな警備兵へレイがしたことは、首を横に振るというものだった。


「いらないだろ。寧ろ、この状況で俺達に手を出してくるようなことがあれば、襲撃者の手掛かりが得られるという意味で助かるし」

「……だよな」


 寧ろ、ここにいる中で最も弱いのはレイ達ではなく警備兵だ。

 その警備兵を護衛として必要かと言われれば、当の警備兵ですら首を傾げてしまうだろう。

 だからこそ、レイの様子に文句を言うでもなく納得してしまうのだ。


「それに馬車の前後を警備兵で固めるんだろ? なら、それも一応護衛という扱いになるんじゃないか?」

「……どちらかと言えば、襲ってきた相手に必要以上に怪我をさせない為の護衛だけどな」


 犯罪者を取り締まる職権を持つ警備隊だが、だからといって無意味に犯罪者を傷つけてもいい訳ではないのは当然だった。

 寧ろ、この面子に喧嘩を売るような真似をするのであれば、それにより犯罪者達が余計な怪我をしないように自分達で押さえるというのが、今回の護衛の主な目的だろう。

 別にそれは犯罪者を助ける為ではなく、少しでも情報を引き出す相手は多い方がいいという判断からだ。

 もっとも、レイ達に喧嘩を売るような真似をする相手というのは犯罪者に対して哀れみしか覚えないというのも事実だが。

 レイ一行の純粋な戦力という意味では、それこそ村程度であれば一時間も経たずに滅ぼすことが出来るだろうし、軍隊を相手にしてもレイがいる時点で勝利は確実といえる。

 そのような強さを……寧ろ強さというよりは天変地異とでも呼ぶべき力を持っている相手に襲撃を仕掛けるというのは、それこそ自殺志願者ではないのか? とすら思ってしまう。


「ま、どっちでもいいさ。煩わしくなければな。先導を頼む」


 それだけ言って、レイは馬車へと乗り込むのだった。






 詰め所までの移動では、警備兵も一緒にいたおかげか新たな襲撃の類はなかった。

 元々レイ達だけでも破格の戦力を持っているというのに、そこに警備兵が加わりより戦力が増したのだから、先程程度の戦力ではどうにもならないと思ったのか、それとも単純にレイ達を襲わせるのは一度だけで十分と思ったのか。

 ともあれ、詰め所に到着すると馬車を停めて警備兵達とこれからのことについて会話を交わす。

 尚、もしかして男達が襲ったのは、レイ達が知らない間に馬車の中に何かを隠し、それを取り戻す為に襲ったのでは? という意見を警備兵の一人が言い、一応、本当に念の為ということでエレーナの許可を貰って馬車に入ったのが……


「うわああああああああぁぁっ! な、何だこれ!?」


 馬車の中から、警備兵の叫び声が響く。

 何があった、と他の警備兵達も馬車の中に入ったのだが、そこでも似たような悲鳴が周囲に響き渡る。

 ……当然だろう。てっきり馬車の中だと思って入ってみれば、そこに広がっていたのはソファやテーブルが置いてあり、それどころか軽い調理器具まで整備されている、部屋と呼ぶのに相応しい代物だったのだから。

 普通であれば、この光景を見て驚かない者の方が少ない。

 ケレベル公爵が惜しみなく金を使って作り上げたマジックアイテムなだけに、一介の警備兵にその全てを理解出来る筈もなかった。


「あ」


 そう呟いたのは、誰だったのか。

 レイにとっても、この馬車は何度も使用している為に既に慣れというものが出来ていた。

 ヴィヘラやマリーナはレイ程にこの馬車に乗っている訳ではないが、片や元ランクA冒険者のダークエルフ、片や元ベスティア帝国の皇女だ。

 これと全く同じという訳にはいかないだろうが、似たようなマジックアイテムは何度か使ったことがあり、そのおかげで警備兵達程には驚いたりはしなかった。


「どうする?」


 レイは馬車の内部で驚き、もしくは固まっているだろう警備兵達の姿を想像して、この馬車の所有者へと尋ねる。

 だが、どうすると尋ねられたエレーナも、どうすればいいのかは分からない。

 今までにこのようなことがなかったからだが、それでもすぐに心を切り替えて口を開く。


「どうすると言われてもな。そもそもの話、私達の馬車はダンジョンでもあの宿でしっかりと預けられていたし、ギルムに来る途中でも誰か他の者には会わなかった。何かを馬車の中に隠されるということは有り得ないと思うのだが」


 黄金の髪を掻き上げながら告げるエレーナの言葉に、レイは若干目を奪われながらも頷く。


「宿の人間に向こうの一味がいない限り、そんな真似は出来ないよな」

「だろう? そしてあの宿にはそのような者はいなかった。……勿論全ての従業員を徹底的に調べた訳ではないのだから、絶対とは言い切れないが」


 エレーナの意見には全員異論がないらしく、頷きを返す。

 そして同時に馬車から警備兵達が降りてくる。

 先程中から悲鳴が聞こえたが、警備兵らしくその驚きは既になくなっているらしい。

 それを見て、質問責めにされないことに安堵しながら、レイは口を開く。


「それで、どうだった? 中に何か怪しい物はあったか?」

「あー……悪いけど、見ただけだと全く理解出来ない。まさか、中が部屋になってるなんて思わなかったし。……凄いよな」


 最後に小さく呟いた警備兵の言葉に、他の警備兵達がそれぞれ思わずといった様子で頷く。

 その気持ちは分からないでもないレイだったが、いつまでもこうしている訳にもいかないだろうと考える。


「じゃあ、これからどうするんだ?」

「そうだな、一応事情は聞くことになると思うけど、それもすぐに終わると思う。レイに何か聞きたいことがあれば、夕暮れの小麦亭に行けばいいんだろ?」


 レイがギルムでも高級宿に分類される夕暮れの小麦亭に泊まっているというのは、警備兵なら……いや、少し事情に詳しい者であれば誰でも知っていることだ。


「ああ。俺だけじゃなくて、マリーナ以外はエレーナ達も全員が夕暮れの小麦亭に泊まっている。何か用事があったら、そっちの方に連絡をしてきてくれればいい」

「そうね。私に用事があるのならギルドの方に連絡してちょうだい」


 マリーナもレイに続いて警備兵に告げる。

 その言葉を聞いて、ふとレイはマリーナがどこに住んでいるのかを知らないことに気が付く。

 マリーナと会う時は、いつもギルドの執務室でのものだった。

 である以上、レイはマリーナがどこに住んでいるのかは分からない。


(まぁ、今聞くことじゃないしな。それに、ワーカーにギルドマスターを譲るって話だったし、そうなれば執務室で会うこともなくなるだろうから、マリーナの家についても知ることが出来るだろうし)


 自分達は夕暮れの小麦亭に宿泊しているが、ギルドマスターという立場を考えれば、マリーナは自分の家があるのは間違いない。


「そうさせて貰います。……じゃあ、詰め所の方に向かいましょう。ここだと寒いですから」


 警備兵の言葉に異論はなく、レイ達は詰め所へと入るのだった。

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