1173話
リトルテイマーの37話が今夜12時に更新されますので、興味のある方は是非どうぞ。
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リザードマンリーダー率いる三つの群れの討伐を完了した翌日、食事を済ませたレイはこれまでのようにヴィヘラとセトと共に街中を歩いていた。
こちらもまたいつものように美味そうな匂いをさせている屋台を見つけては、自分とセトの分を購入して食べていく。
「本当にいいのか? このくらいなら奢るけど」
レイの視線が向けられたのは、ヴィヘラ。
コボルトの串焼きを売っていた屋台で串焼きを数本購入したのだが、何故かヴィヘラはそれを注文しなかった。
それを疑問に思って尋ねたレイだったが、ヴィヘラから向けられたのは呆れた視線。
「あのね、レイ達と一緒に買い食いをするのは楽しいし嬉しいけど、私も女なの。動く以上に食べるようなことをしたらどうなるか、言うまでもないでしょ? ましてやこういう服装なんだから」
そう告げるヴィヘラの服装は、いつもと同じように向こう側が透けて見えるような薄衣であり、見事なまでの体型を誇示していた。
ヴィヘラの攻撃的とも呼べる美貌を見なくても、男であれば誰もが抱きたいと思い、女であっても憧れるだろう体型。
肉食獣のようにしなやかでありながら、これ以上ない程に女らしさも誇示している。
「……いや、別にそこまで気にする必要はないと思うけど。なぁ?」
「熱っ! え? あ、ああ。うん。勿論俺もそう思うぜ」
屋台の店主が、串焼きを焼きながらヴィヘラの身体に視線を奪われ、跳ねた火花に驚きと苦痛の悲鳴を上げる。
だが串焼きを売っている屋台の店主だけあり、すぐに痛みを忘れたかのようにレイに同意した。
まだ若く、二十代の男だけに当然枯れてはいなかった。
それだけに、こうして目の前にヴィヘラのような絶世のという形容詞が相応しい美女の肢体を間近でみるようなことになれば、当然ながら意識を奪われてしまう。
その結果が軽い火傷で済んだのは、運が良かったのか悪かったのか。
「ん、コホン。それにしてもレイやセトがいてくれて助かってるよ。モンスターの群れが暴れるようになってからまだ数日なのに、色々と問題が起きてきてるからな」
ヴィヘラの肢体に見惚れていたのを誤魔化すように、店主の男はそう告げる。
店主の視線の先にいるのは、何人かの商人とその護衛達。
見るからに不機嫌そうな様子で、それぞれ言い争う。
商人達はすぐにでもギルムを出発したいと護衛の冒険者達に告げているのだが、護衛の冒険者達はそれに反対する。
商人達にしてみれば、モンスターの群れが幾つも同時に発生しているようなギルムからは早いところ出ていきたいのだが、護衛の冒険者達にしてみれば群れに襲われた場合、商人達を守り切るのは難しい。
また、護衛ではあっても自分達から進んで死の可能性が高いような場所に突っ込むような真似はしたくなかった。
商人の立場と護衛の立場。
それぞれの間で行われている話し合い……いや、寧ろ言い争いに近いその声は、周囲にも響き渡っている。
「だから、言ってるでしょう! 今の状況でギルムを出発しても、とてもではないが貴方達を守り切れるとは思いません!」
「そう言われましても、こちらも商売でギルムにやってきてるんですよ? このままでは、無駄に経費が掛かってしまって最終的には赤字になってしまいます。それに、今ならまだそれ程強力なモンスターの群れはいないのでしょう? なら……」
「無茶を言わないで下さいよ! 幾ら相手がゴブリンやコボルトでも、数が多ければそれに対処出来るかどうかは別の問題です!」
「ですが、こちらも遊びでギルムにやって来ている訳ではありません。この荷物を契約の期日までに届けないと、賠償金を支払うことになるのですよ!」
「命とお金、どっちが大事なんですか?」
「両方に決まってます!」
「……どうしても、本当にどうしてもギルムから外に出たいのなら、こちらから提案出来るのは一つしかありません。馬車ではなく、馬に乗って全速力で走り続けることです。そうすれば、走っている間はモンスターに襲われずにすむでしょう」
それは馬が走っていなければモンスターに襲われるということを意味している。
そして、馬は永遠に走り続けられる訳ではない。
ある程度走れば休憩する必要があるし、そうなれば当然モンスターに襲われる可能性も高くなる。
勿論馬だけで進んでいるのであれば、馬車で移動するよりもモンスターに見つかる可能性は少ないだろう。
だが、その状態でモンスターに見つかってしまえば助かることも出来ず、殺され、食われるだけだ。
商人も辺境のギルムに来るだけあって、その辺は理解しているのだろう。馬だけで行くというのに頷くことは出来ない。
何より大きいのは、馬だけでいけば馬車やそこに入っている荷物をギルムに置いて行くことになるのだから。
商人のうちの何人かがギルムに残るという手段はあるが、それはそれでまた別の問題が出てくる。
「その辺をどうにかしてこその護衛でしょう?」
「無茶を言わないで下さいよ。幾ら何でも、出来ることと出来ないことがあるんですから」
そんなやり取りをしている声は、他にも何ヶ所もある。
レイの視線を見て、何を見ているのか理解したのだろう。串焼き屋の店主が少し困ったように口を開く。
「見ての通り、今回の騒動でギルムから旅立つことが出来なくなっている者も多くてな。特に商人は契約を結んで仕入れとかをしている者も多い。中には直接取引に来ている商人もいるけど、そういうのも仕入れた商品を運ぶのに期限はあるし」
「けど、あの冒険者の言ってることも間違いないでしょう? ここで無理に移動しても、今の状況を考えれば間違いなく餌になるだけよ?」
「ああ。その辺は分かっているけど……実際何人かが群れを通り抜けてギルムまで到着しているからな。それを見れば、もしかしたら自分達も大丈夫じゃないかって考えてもおかしくないだろ?」
店主の言葉は、間違いのない事実でもあった。
事実、大通りをつい今し方ギルムにやってきたと思われるような商隊が進んでいたのだから。
何故その商隊がギルムに来たばかりなのか分かったのかというと、馬車に幾つもの傷が付いている為だ。
また、馬車を牽く馬にも斬り傷が存在しており、見るからに何者かに襲われたというのを示している。
「ああいう人達がいるのを見れば、商人達がもしかして……と思っても仕方がないのかもしれないよな」
「そうね。……でも、ギルムに閉じ込められている割りには、この街の人達に余裕があるわね」
「ま、ここまで大掛かりなのは珍しいけど、モンスターの群れが姿を現すってのは珍しくないし」
絶世の美女と表現するのが相応しいヴィヘラと話をするのが嬉しいのだろう。店主の男は、笑みを浮かべてそう言葉を返す。
ヴィヘラの言葉通り深刻なのは事実だが、それでもギルムから出て行くのではなく、ギルムで暮らすという店主にとってはそこまで困るようなことはなかった。
「普段なら街の中に閉じ込められているのなら、食料の心配をする必要があるんだろうけど……その辺は心配いらないしな。寧ろ、食料は余っているし」
だから自分もこうして店をやってるんだし、と続ける店主。
その言葉に、レイとヴィヘラは納得の表情を浮かべる。
こうして幾つものモンスターの群れがいる以上、当然ながらその群れを倒す必要が出てくる。
そうして倒したモンスターの死体は、当然ながら各種素材や食料としてギルムに持ち帰られていた。
群れを作るモンスターが亜人型であり、強力なモンスターの群れが今のところは発見されていないというのが大きい。
……もっとも、そのような強力なモンスターの群れが発見されれば、即座に高ランク冒険者が派遣されるのだが。
それこそ、レイとヴィヘラが派遣されたリザードマンの群れのように。
そういう意味では、寧ろギルムの中で食料は余っていると言う店主の言葉は間違っていない。
「それよりも厄介なのは、食料以外の問題だろうな。……嗜好品の類とか。食料も肉は十分にあるけど、小麦粉とかそっち関係になると結構厳しくなってくるし。それでも餓えの心配をしなくてもいいのは助かるけど」
「ま、俺はパンとかの心配はしなくてもいいけど」
ミスティリングの中には、パンもたっぷりと入っている。
それも、焼きたてで香ばしい、非常に美味いパンだ。
そんなレイの様子に、屋台の店主は羨ましそうな視線を向けていた。
食べ物を売っている店主にとって、幾らでも物が入り、中では時間が止まっているアイテムボックスというのは喉から手が出る程に欲しい。
「それよりレイ、そろそろ行きましょ。ギルドの方に何か情報があるかもしれないでしょ?」
串焼きを食べなかったヴィヘラの言葉に、レイは頷く。
ここで話をしていてもいいのだが、ヴィヘラの言う通りギルドに今回の群れの件に関して何らかの情報が入っているかもしれないからだ。
特にオークの群れの討伐をしたいと思っているレイとしては、少しでも早く情報を得たいと考えるのは当然だった。
「グルルゥ?」
レイの側で、セトも喉を鳴らす。
もう行くの? というセトに負けるように、もう数本コボルトの串焼きを購入してその場を後にするのだった。
「うーん、残念だけどまだオークの群れの情報は入ってないわね」
ギルドにやって来たレイの言葉に、ケニーは首を横に振る。
本来であればレノラに聞くべきなのだが、レノラは現在他の冒険者の相手をしていた為だ。
丁度レイが来たのとタイミングが合うように、ケニーが相手をしていた冒険者の相手が終わった為、レノラではなくケニーに話し掛けたのだ。
ケニーにとっては、運が良かったと言えるだろう。
これは別に、レイが来る前に担当していた冒険者を粗雑に扱ったというのではなく、純粋にそのタイミングだったというのもある。
「そう、か。他の群れは?」
「ゴブリンの群れが結構出てるわね。コボルトもそこそこ。変わったところではワーウルフの群れもいるわ」
「……珍しいな」
ワーウルフ。その名の通り狼の顔を持つ亜人型のモンスターだ。
リザードマンのように高い社会性を持っているモンスターだが、人間と友好的な存在という訳では決してない。
獣人とは似て非なる者といったモンスター。
獣人に対してワーウルフというのは、人間に猿と言うのに等しい。
特に犬系の獣人……中でも狼の獣人にとっては、下手をすれば決闘騒ぎになってもおかしくない程の侮辱だった。
「そうね。ただ、ワーウルフは元々群れを作るタイプの亜人型のモンスターだから、そういう意味では今回のように上位種が出ると、一気に強くなるわ。それもあって、他のモンスターと違ってリーダー種が率いる群れの数も多いのよ」
「リザードマンとかは社会性があると言っても、結局戦いの時は個人で動くことが多いしね。そう考えれば、群れで狩りをする狼の特性を持っているワーウルフは手強いでしょうね」
ケニーの言葉にヴィヘラが付け足すように告げる。
ヴィヘラに対して思うところはあれど、仕事とプライベートはしっかりと分けているのだろう。
その説明に頷き、再び口を開く。
「そうですね。普段から群れで行動しているので、そこに上位種が現れると非常に厄介です。それでも、上位種の中でも一番弱いリーダー系であれば、まだ何とかなるのかもしれませんが」
「肉としては……そんなに美味くないんだっけ?」
「レイ君の言う通りよ。ランクDモンスターという点ではオークやリザードマンと同じだけど、肉の味という風に考えるとかなり臭いらしいわ。もっとも、料理人が上手い具合に調理すれば臭さが美味さに変わるという話だけど」
「臭さが美味さに、か。……ちょっと興味ないか?」
視線を向けられたヴィヘラは、少し考えて頷きを返す。
ワーウルフとは、ヴィヘラもまだ戦ったことがない為だ。
ヴィヘラの嗜好としては、強力な敵と一対一で戦うのが好きなのだが、連携を行ってくる敵と戦うというのも嫌いという訳ではなかった。
レイの方は、獣臭い肉がどんな美味い料理に変わるのかといったことに強い興味を持ち……こうして二人の意見は一致する。
もしここにビューネがいれば、それを止めたかもしれないが……残念なことに、ここにはレイとヴィヘラの二人しかいない。
ケニーも、連携が上手くリーダー種が率いるという意味では他の群れよりも数が多くなることのあるワーウルフをどんな冒険者に回すべきか迷っていたので、レイとヴィヘラがこの依頼を受けてくれるというのは非常に助かる。
「そう言えば、マリーナが今回の件について調べてみるって言ってたけど、その辺はまだ分からないのか?」
「ええ。何も聞かされていないわ。ギルドマスターのことだし、何か分かればすぐに対処すると思うから、まだ何も見つかってないんだと思う」
レイの疑問にケニーが答え、会っていくのかという問いには邪魔をするのも悪いということで、レイはヴィヘラと共にワーウルフの群れの討伐に向かうのだった。




