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レジェンド  作者: 神無月 紅
砂漠の街
1140/3865

1140話

 レイとレゾナンスがぶつかり合っているすぐ近くでは、ザルーストとナルサス……そしてセトもまた暗殺者達との戦いを繰り広げていた。

 二人と戦っている暗殺者は、レゾナンスとは違い桁違いの身体能力を持っている訳ではない。

 だが、それでも暗殺者として暮らしているだけあって、その強さは楽に倒せる程度の強さではなかった。

 もっとも逆に言えば、ナルサスと……そこから多少実力は劣るがザルーストであっても少し苦労する程度の強さを持つ相手でしかないのだが。


(長年秘密裏に存在していると言われていた百面の者として考えれば、思ったよりも強くない。いや、寧ろ弱いと言ってもいい。痛みを感じないというのは厄介だが……)


 長剣の一撃で暗殺者を袈裟斬りにし、痛み云々の前に即死して地面に倒れた男を眺めると、一拍遅れて襲い掛かって来た他の暗殺者が放った槍の一撃を回避しながらナルサスは疑問に思う。

 攻撃も鋭いのだが、どこか読みやすい。

 そんな暗殺者の様子に疑問を抱きつつ……ふと自分を弓で狙っている相手がいるのに気が付き、近くでバトルアックスを振りかぶっていた男を盾代わりにする。


「ぬっ!」


 矢が肉に突き刺さる音と共に、盾代わりにした男の口から驚きの声が上がる。

 矢が背中に突き刺さっているというのに、痛みではなく衝撃で驚きの声を上げたのだ。


(それでも、痛みを感じないってのは……厄介だな)


 バトルアックスを持っている両腕を長剣の一撃で切断し、次に襲い掛かって来た相手を迎え撃つ。

 そんなナルサスの近くでは、こちらも長剣を振るってザルーストが暗殺者達と戦っていた。

 ザルーストもナルサスのように楽々とはいかないが、それでも自分に向かって襲ってくる暗殺者達を相手にして、互角以上の戦いを見せている。

 振るわれる槍の一撃を回避し、横を通り抜け様に胴体を薙ぎ払っていく。

 暗殺者達は身軽さを重視する為か、はたまたレイ達がここにやって来たのが予想外で時間がなかったのか、きちんとした防具を装備している者は多くない。

 殆どが少し頑丈な服程度であり、数人が簡単な革の防具を装備しているといったところか。

 一番防御力が高いのがレザーアーマーを着ている女であるというのを考えれば、どの程度なのかが分かるだろう。

 それでも痛みを感じない相手というのは、厄介なことに間違いはない。

 現に今も、腹を横薙ぎに斬り払ったというのに、すぐにまた武器を手にして自分へと襲い掛かって来ているのだから。

 また、それ以上に厄介なのが地面だった。

 暗殺者達が流した血はすぐに砂に吸われて消えるので問題はないのだが、肉片や内臓の一部といったものは砂に吸収されたりはしない。

 それどころか、その近辺で動き回って大腸の一部に砂が掛かって姿を隠し、それを踏んだことによりバランスを崩すといったことが何度かあった。

 そして踏んだ足に体液や肉片が付着し、少しの間ではあるが動きにくくなるという弊害もある。

 今が昼間であれば、どこに肉片や内臓があるのか分かったかもしれないが、残念ながら今は夜だ。

 月明かりや星明かりの類はあるが、昼間程に明るい訳ではない。

 だからこそ、ザルーストは戦いながら移動するといった真似をしていた。

 それはナルサスも同様であり、二人が戦いながら移動しているとやがてお互いが合流し、背中合わせになりながら自分達を囲む暗殺者達と向かい合う。


「そっちの様子はどんな具合だ?」


 ザルーストの問い掛けに、ナルサスは小さく笑みを浮かべてから口を開く。


「この程度の相手であれば、特に問題はない。……致命傷を与えても生き残っているというのが少し厄介だが……それも、首を切断するような攻撃を行えばそれ以上動いたりは出来ないしな」

「違いない。首を切断されて動くんなら、それはもうアンデッドだろ」


 お互いに顔や身体に暗殺者達の身体から噴き出した血の染みを幾つか付けながら、短く会話を交わす。

 笑みすら浮かべているその様子は、とてもではないが周囲を暗殺者達に取り囲まれている状況であるとは思えなかったが。

 それどころか、自分達こそが有利なのだと……そんな風にすら思っているように見える。

 現状では自分達が明らかに劣勢であるのに、それでも絶望せずに戦っていられる理由……その理由は、少し離れた場所にあった。


「グルルルルルルゥ!」


 セトが普段の愛らしい様子を一変させ、獰猛な鳴き声を上げながら前足を振るう。

 スキルも何もない、本当にただ前足を振るっただけの一撃。

 それでも剛力の腕輪というマジックアイテムや、グリフォンというランクAモンスターが持つ身体能力が合わされば、人間にとっては致命的な一撃となる。

 頭部に当たればその頭部を砕いて一撃で殺し、何とか武器でその一撃を受け止めようとすれば武器が砕け、あるいは折れる。

 それどころか、武器を持っていた腕の骨を砕かれることも珍しくはない。

 体当たりをすれば身体中の骨を砕かれながら吹き飛ばされ、味方を巻き込んで地面に転がる。

 運の悪い暗殺者にいたっては、手足をクチバシで摘ままれつつ振り回され、自分の身体が仲間を攻撃する武器と化している者すらいた。

 思う存分武器として振り回された後は、セトの振り回す力に手足が耐えられなくなり、手足が千切れて飛んでいき、仲間にぶつかってその動きを止める。

 まさに当たるを幸いといった感じで倒していくその様子は、セトの本領発揮といったところか。

 それもセトはスキルを使わず、純粋に接近戦で倒していくのだ。

 幾ら痛みを感じない者達であっても、不死身という訳ではない。

 頭部を破壊されれば死ぬし、手足が折れれば動きが鈍くなる。

 また、百面の者の最も有利な点は、顔の皮膚を剥がして誰の姿にもなれるということだ。

 それは日常生活の中で狙われると考えるとかなりの脅威だったが、こうして正面からぶつかるのであれば決してどうしようもない相手ではない。

 それでも襲撃されると分かっていれば、相手の顔見知りに変装するといった手段も使えただろう。

 だが、今回の場合はレイ達を襲撃したその日のうちに自分達の村まで攻め込まれているのだ。

 何か対処しようにも、その時間がなかった。

 それでも痛みを感じていない暗殺者達は、必死に自分達を襲ってきた相手へと攻撃を仕掛けていく。

 次々に振るわれるザルースト、ナルサス、セトの一撃に次第に数を減らしながら。

 このままいけば勝てる。

 そんな思いをザルーストは抱き……その隙を突くかのように振るわれた長剣の一撃を回避し、反撃に自分も長剣を一閃して相手の手首を切断する。

 長剣諸共相手の右手首が砂の上に落ちるが、斬り落とされた方は痛みを全く感じた様子を見せずに残った左手で落ちた長剣を拾う。

 そして数秒前まで自分の右手だったものをザルーストへと向かって投げつけ、それを隠れ蓑に長剣を振るう。


「そんなのでどうにかなると思うな!」


 右手首が当たり、そこから流れた血が顔面へとつく。

 だが、ザルーストはそんなのは関係ないと自分に向かって振るわれた長剣の一撃を回避し、先程とは違い首を切断する。

 痛みは感じずとも、首から血を大量に流し、息が出来なければ何も出来なくなり、いずれ死ぬ。

 既に死の未来しかない男を蹴り飛ばし、自分の不意を突こうとしていた短剣使いにぶつける。

 その、瞬間。轟、という耳で聞くのではなく、身体全体で衝撃を聞くような音が周囲一帯に響き渡った。

 突然のその音に、戦闘をしていたザルーストやナルサス……そして暗殺者達ですら、一瞬動きを止める。

 勿論動きを止めたのは一瞬のことであり、次の瞬間には再び戦闘を開始したのだが。

 次々に放たれる槍の連続突きを捌き、援護として飛んでくる矢を回避しながら、ザルーストは音の聞こえてきた方へと視線を向ける。

 その目に映ったのは、先程まで自分が使っていた鉄球を何とか受け止めているレゾナンスの姿だった。






 ザルーストとナルサスが痛みを感じない暗殺者を相手にしている時、レイも当然レゾナンスを相手に戦いを繰り広げていた。

 レゾナンスの手にある鎖の鞭は、既に当初のものと比べても半分近くになっている。

 直径一mの鉄球を持ち上げるだけの膂力で振るわれた鎖の鞭だったが、その度にレイの振るうデスサイズにより先端を切断されていった為だ。


「やるのぅ、お主。……異名持ちだという話じゃが、それも納得じゃな」

「へぇ。しっかりと俺のことを調べてるんだな」

「当然じゃろう。そもそも、グリフォンを従魔にしている冒険者なんぞお主以外にはおらん。調べるのも難しくなかったわい」


 身体の何ヶ所からか流れている血を筋肉で強引に止めながら、レゾナンスは笑みすら浮かべる。

 当然そんな真似をすれば普段の動きは出来ないのだが、それでもレゾナンスは持ち前の膂力と……そして痛みを感じないが故に強引に身体を動かすことによって、可能としていた。

 

「その割りには、こうして俺と戦うんだな。大人しく降伏すれば、こちらとしても相応に対応を考えてもいいが?」


 そう口にしているが、結局のところレイは今回の件では部外者であり、協力者でしかない。

 その強さと異名、セトの存在によって一目も二目も置かれてはいるのだが、それでも結局のところは部外者なのだ。

 そう考えれば、レイがもしレゾナンス達を助けて欲しいとオウギュストやダリドラに頼んでも、その意見がそのまま受け入れられたりはしないだろう。

 もっともある程度の影響力があるのは事実なのだから、それを考慮しないとも限らないのだが。


(もし駄目なようなら、ギルムに連れて帰ってもいいかもしれないし。草原の狼を部下にしたダスカー様なら、暗殺者じゃなくてこいつらをスパイとして使うというのは十分考えられる。それが駄目なら、マリーナに頼んでギルドの情報部とか)


 ギルムの為にと考えた場合、寧ろそちらの方がいい考えなのではないか。

 そう考えるレイだったが、レゾナンスは口元に笑みを浮かべて首を横に振る。


「残念じゃが、儂等は誰の下にもつかん。それに、儂等が拠点と出来るのはこのフェリス砂漠のみ。……いや、喋りすぎたな」


 余計なことを言ったと苦笑を浮かべるレゾナンスを見て、レイの頭の中ではゴーシュに来てから得た幾つもの細かい情報が繋ぎ合わされていく。

 フェリス砂漠、オウギュスト、ダリドラ、壁。……そして、この砂漠でのみ活動出来るというレゾナンスの言葉。


「ティラの木……か?」


 レイの口から出た言葉は、ダリドラとオウギュストの間で対立が起きている原因だった。

 この砂漠でしか活動出来ないというのであれば、この砂漠にしかない何かが必要なのだろう。

 そう考えた末に出た結論がその言葉だったのか、それが正しかったことはレゾナンスの表情が示していた。


「どうやら当たりだったみたいだな」


 レゾナンスの表情からそう尋ねたレイだったが、それに戻ってきたのはレゾナンスの苦笑。


「どうじゃろうな。何度も言っておるが、知りたかったら儂を倒すことじゃな。そうすれば教えてやる」


 そう言われたレイは、何を聞いても結局は誤魔化されるだけだろうと判断し、そのまま攻撃を開始するべく行動を起こす。

 ただし、多少傷を付けた程度では向こうは全く効果がない……いや、効果はあるのだが、それが原因で戦闘不能になるまでは時間が掛かりすぎると判断した為、少しだけ過激な方法を選択する。

 炎帝の紅鎧を使えば確実に勝てるのだが、それを使ってしまうと痛みを感じさせないだけに焼き殺してしまう可能性が高かった。

 だからこそ、選んだその方法は……


「そうか。なら、そうさせて貰おうか!」


 短く叫び、レイは走る。……ただし、レイが向かったのはレゾナンスの方ではなく、少し離れた場所に転がっている鉄球のある場所。

 何をするのかと、興味を持ったのだろう。レゾナンスはレイの行動を邪魔するでもなく、ただ見守っていた。

 そうしてレイは鉄球の元に辿り着くと、鉄球に触れてミスティリングへと収納する。


「ほう」


 それを感心したように見ていたレゾナンス。

 レイがアイテムボックスを持っているというのは知っていたが、武器のようなものならともかく、まさか自分の鉄球までをも収納出来るとは思っていなかったのだろう。

 そして次にレイが取った行動は、再びレゾナンスとの距離を縮めるというもの。

 レゾナンスも鎖の鞭を手に、レイを待ち受ける。

 デスサイズをミスティリングに収納し、次に取り出したのは、槍。

 ただし、茨の槍でもなく、黄昏の槍でもなく、今までレイが使っていた、いつ壊れてもおかしくないような槍。

 その槍をレゾナンスへと向けて走りながら投擲する。

 当然レゾナンスもそんな攻撃を黙って受ける筈はない。

 だが、レイは次から次に槍を投げ続け……やがて、その槍の何本かがレゾナンスの足を貫き、腕を貫き、胴体すら貫く。

 普通であれば痛みの悲鳴でも上げるところだが、レゾナンスは痛みを感じていない。

 それでも身体に何本もの槍が突き刺されば、身動きが出来なくなる。

 そうして身動きが出来なくなったところに……ちょうどレイがレゾナンスの前に到着し、跳躍する。

 スレイプニルの靴を発動し、一歩、二歩、三歩と空中を跳躍していく。

 レゾナンスの上空十mほどの場所へと到着すると……ミスティリングから、先程収納したばかりの直径一m程の鉄球を取り出し……離す。


「死ぬなよ」


 そう呟きながら。

 そうして落ちていった鉄球は、当然のように身動きの出来ないレゾナンスへと落ちて行き……それでも何とか頭部に当たるのを防ぎ、受け止めることが出来たのは百面の者を率いる者だからこそなのだろう。

 それでも、鉄球の重さに耐えきれず……押し潰されるのは避けられなかったのだが。 

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