1047話
リトルテイマーの19話が今夜12時に更新されますので、興味のある方は是非どうぞ。
URLは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154961630
数時間程森の中を探して回ってレイとセト、そして途中で合流してきたアースとポロの二人と二匹だったが、結局特に何も異常を示すようなものは見つけることが出来ないまま集落へと戻っていった。
幾つかの食べられる木の実や果実を手にしたのが、収穫と言ってもいいだろう。
「ん、この実酸っぱいけど癖になる味だな」
拳程の大きさの紫と黒の斑模様の果実を囓りながら、レイが嬉しそうに呟く。
最初見た時はその外見からとても食べられる果実だとは思わなかったのだが、アースが自信満々に食えると言って実際にレイの前で食べてみせたのを見れば、レイもその言葉を疑うことは出来なかった。
実際に口の中に放り込んで見れば、口の中には爽やかな甘酸っぱさ――酸味の方が強い――が広がる。
そしてその果実が気に入ったレイは、そこにあった果実を半分程採ってきた。
これもまた、ミスティリングがあるからこそ出来ることであり、アースは羨ましそうにレイへと視線を向けていた。
「グルルゥ」
レイの隣で同じく果実を食べていたセトも、嬉しそうに喉を鳴らす。
酸味の強い果実にも関わらず、セトの口にもあったらしい。
エアロウィングを狙っていたセトだったが、残念ながら見つけることは出来なかった。それでも上機嫌なのは、今食べている果実があるからだろう。
ともあれ果実を食べながら進んでいくと、やがて障壁の結界の前へと到着する。
「ん!」
既にそこにはエレーナ、ヴィヘラ、マリーナ、アーラ、ビューネの五人とイエロの姿があり、レイ達の到着を待ち侘びていた。
なのに最後にやって来たレイが果実を食べながらのんびりしているのを見れば、残されていた者達は当然面白くない。
アースがマリーナに小さく頭を下げているのは、途中でポロを追って別れたのが関係しているのだろう。
中でも最も食についてうるさいビューネは、レイを見た瞬間に抗議の声を上げる。
「ほら、これでも食え」
ミスティリングから取り出した同じ果実を、レイはビューネへと放る。
それを受け取ったビューネは、果物の外見に一瞬動きを止めるが、次の瞬間には果実へと齧り付く。
「ん!」
突然口の中を襲う酸味。そして微かに……だが確かに存在する甘み。
外見からでは想像出来ない果実の味に、普段無表情なビューネも少しだけ嬉しそうな雰囲気を発する。
「……それで、アースはマリーナと途中で別れたってことだったが、レイと合流してたのだな。結局手掛かりの類は何も見つけてこなかったらしいが」
エレーナもまたレイから果実を受け取りつつ、尋ねる。
「ああ。てっきり凶暴化したモンスターと遭遇することになるかと思ってたんだけどな。一切遭遇しなかった。唯一の収穫はその果実だけだよ」
マリーナやヴィヘラ、アーラ、イエロといった面々にも果実を渡しながら告げるレイに、他の皆も同様に頷きを返す。
「レイが来るまで話してたんだが、こちらも誰もモンスターには遭遇しなかった。……これは、レイが世界樹の治療を行ったのと何か関係があるのか?」
「どうかしらね。世界樹が一気に活性化したのは事実だけど、それでもすぐにここまで影響があるとは思えないのだけれど」
エレーナの疑問に、マリーナが首を傾げる。
「世界樹……俺も色々と見て回ったけど、あんなでかい木を見たのって初めてだな。俺が生まれた村の近くにも森はあったけど……」
そこまで告げ、黙って首を横に振る。
ミレアーナ王国の中でも、文句なく田舎と表現出来るルーフという村で生まれ育ったアースだったが、それだけに近くの森にはそこまで強力なモンスターは存在しなかった。
アース自身はそんな森には殆ど行ったことがなかったのだが、それでも集落に入った時に見えたような巨大な木があれば村からでも見えただろう。……この集落のように、世界樹が結界を張っていなければ、だが。
「ふふっ、そう言って貰えると嬉しいわね」
集落を出てから百年近くが経つが、それでもマリーナは別に集落を捨てたという訳ではない。
それはこの集落がギルムと取引を行う際に間に入ったり、オードバンが助けを求めてギルムまでやってきたのを考えれば明らかだろう。
それだけに自分の故郷を褒められて悪い気がする訳がない。
勿論機嫌がいいのは世界樹の治療が行われたというのも影響しているのだろうが。
「とにかく、今日は一旦この辺にして集落に戻りましょう」
「……いいの? まだ日は高いわよ?」
ヴィヘラの視線が空へと向けられる。
その言葉通りに太陽はまだ高く、夕暮れまではもう二時間程度はあるように思えた。
だが、マリーナはそんなヴィヘラに向かって頷きを返す。
「ええ。集落の方でも色々とやることがあるのよ。お爺様がラグドからしっかりと報告を聞いたかどうかも確認しないといけないし」
「あー……うん。それはそうね」
宴会に混ざる気満々だったオプティスの様子を思い出すと、ヴィヘラもマリーナの懸念に納得せざるを得ない。
もっとも何だかんだと自分の祖父がこの集落の長老として、やるべきことはしっかりやっているというのはマリーナも理解している。
その上で羽目を外しているのだとしても、あまり責めないでやろうという思いはあった。
何より、世界樹が力を取り戻したのだから多少浮かれてもおかしくはないだろうと。
(あまり羽目を外しすぎても問題ですけど、ね)
マリーナのそんな思いに同意するように、アースが口を開く。
「あ、俺もマリーナさんの意見には賛成。今日の夕食でレイがガメリオンの肉を出してくれるって話だし」
ガメリオンの肉という言葉が出た瞬間、皆の視線がレイへと集まる。
帰り道に見つけた果実の件で話している時、話の流れでガメリオンの肉を提供するとレイは口にしており、アースはしっかりとそれを覚えていたのだろう。
それだけ美味い肉としてガメリオンの名前が知られていることの証だった。
皆の視線を一身に浴びたレイは、やがて諦めたように口を開く。
「分かった。じゃあ、今日はガメリオンの肉で世界樹治療の祝いといくか」
こうして、ガメリオンパーティが開かれることになるのだった。
「では、世界樹の回復を祝って……乾杯!」
『乾杯!』
マリーナの声に全員が声を揃え、手に持っていたコップを掲げる。
レイとビューネ、アーラ以外の全員のコップに入っているのはエールやワインといったアルコール類だったが、昼間にも関わらずそれを責める者はいない。
昼といっても、もう二時間程で夕方になる程度の時間帯なのは事実だし、何よりこの集落全体でお祭り騒ぎになっているというのが大きい。
エレーナ達が借りている家の庭以外でも、集落のいたるところで宴会が行われているのだから。
寧ろ集落の外で異変を探していた分、レイ達が宴会を行うのは遅かったと言ってもいい。
この家に来るまでの間に何組も宴会をやっているのを見ているのも大きい。
庭のテーブルにあるのは、レイが提供したガメリオンの肉を使った料理の数々。
炒め物、串焼き、煮物、シチュー、蒸し物といった具合に、ガメリオンの肉の味を知っている者であれば間違いなく羨ましがるだろう数々の料理。
勿論ガメリオン料理が主役ではあるが、肉料理だけではない。
野菜をふんだんに使ったサラダや、木の実と刻んで和えた料理、ガメリオンの炒め物を包む葉野菜の類も存在していた。
テーブルの端には、レイが採ってきた紫と黒の斑模様の果実もあるが……今のところは、皆が今日のメインでもあるガメリオン料理に舌鼓を打っており、そちらに目を向けてはいない。
「ポルッ、ポロルルルルゥ!」
口一杯にガメリオンの肉を頬張って飲み込んだポロが喜びの声を上げる。
まさに歓喜の声と表現すべきだろうその声は、決して大袈裟という訳ではない。
事実セトやイエロもガメリオン料理を食べては嬉しそうに鳴き声を上げていたのだから。
尚、セトはテーブルの横でガメリオンの肉の塊に塩やハーブの類を塗り込んで焼いた料理を食べていた。
セトの食べる量は普通の人間とは比べものにならず、その為に特別に用意された料理だ。
非常にシンプルな料理なのだが、その量は五kgを超えるだけあって、セトも満足そうに食べている。
外側はしっかりと焼き上げられており、中心部分は生に近い。
そんな食感の違いもセトにとっては嬉しいらしく、喜びに喉を鳴らしている。
ミスティリングの中に入っていたからガメリオンの肉は新鮮であり、生で食べても全く問題なく食べることが出来た。
「あー、美味い。まさかこんな時季にガメリオンの肉を食べられるとは思わなかったな」
串焼を口へと運びながら、しみじみと呟くアース。
他の者達も、その意見には賛成していた。
「そうね。冬以外にガメリオンの肉を食べることが出来るというのは、かなり贅沢よ。貴族……それもある程度上の地位にいる人なら、マジックアイテムとかを使って冬以外にもガメリオンの肉を食べることは出来るだろうけど」
呟くマリーナは、以前に自分に言い寄ってきた貴族の男を思い出す。
その時の口説き文句が、夏にガメリオンの肉を一緒に食べないか? というものだった。
……結局その貴族が持っていたマジックアイテムは不良品だったらしく、腹を壊したと後で聞いたのだが。
「美味しいですね、エレーナ様」
「ああ。私としてはこの煮物が非常に好みだ。口の中で解れていく食感は、その辺の肉とは違うな」
「そうですね。野菜との相性もいいですし」
エレーナとアーラもそれぞれにガメリオンを楽しむ。
同じテーブルでは、こちらも小さい口ながら必死にガメリオン料理を自分の口へと詰め込んでいるビューネの姿があった。
そんなビューネの隣では、ヴィヘラがビューネの頬についているソースを拭いてやっている。
「ポロ、ポルルルゥ!」
アースにもっと食べたいと料理を要求するポロ。
そんなポロに、アースは適当な料理を皿にとっては渡してやる。
するとポロは九本の尻尾を揺らしつつ、嬉しそうに料理へと口を付けていた。
「レイ、この料理も食べてみて。少し自信があるのだけど」
マリーナはさっぱりとした緑の色合いのソースの掛かっているガメリオンの肉を炒めた料理をレイへと勧める。
「うわ、美味そうだなこれ。俺が食べてもいいのか?」
「ええ、レイには世界樹の件で色々とお世話になったんだから、そのお礼よ」
「世界樹の素材とか貰えるんだし、そこまで気にしなくてもいいと思うんだけど」
そう言いつつも、レイの目はしっかりと肉の方へと向いていた。
実際、皿の上から漂ってくる匂いは食欲を刺激する。
濃厚なタレの匂いの中に、どこか爽やかな匂いが含まれる。
肉以外にも幾つもの葉野菜が一緒に炒められており、緑や赤、黄色の色彩が料理をより美味そうに見せていた。
「このくらいはいいでしょう? はい」
「……まぁ、そこまで言うんなら俺も断るつもりはないけど」
フォークを使い、料理を口の中へと運ぶ。
そんなレイとマリーナの姿は、当然同じテーブルで料理を食べている他の面々にも見られていた。
『……』
エレーナとヴィヘラの二人が、少し面白くなさそうな表情を浮かべる。
それでもここでマリーナの邪魔をしなかったのは、やはり世界樹が回復した日だからというのも大きいのだろう。
今日くらいはマリーナにレイを独占させてもいいだろう、と。
それは分かっていても、それでもやはり面白くないと思うのは当然だった。
「あ、あははは。何だかちょっと雰囲気が悪くなってきたような気がする」
ガメリオンのシチューを食べていたアースが、周囲を見回しながら呟く。
何故こんなに悪い雰囲気になっているのかは分からなかったが、それでも雰囲気が悪くなっているというのは理解出来る。
それがアースにとって心地いい出来事ではないのは理解出来るのだが、それを口にすることはなかった。
もしここで自分が何かを言えば、恐らくろくなことにならないだろうという思いがあった為だ。
「ポロロ? ポルルル!」
そんなアースを応援するかのように、ポロは九尾を振る。
幸いここは外なので問題なかったが、もし家の中であればかなり埃が立っていただろう。
ポロを見ながら現実逃避気味に考えつつ、後はただひたすらガメリオン料理を食べることに集中するのだった。
「レイ、この料理とかもどう? これはエレーナとヴィヘラが協力して作ったのよ?」
自分に向けられる視線に何か思ったのか、エレーナとヴィヘラが共同で作ったという料理をレイの方へと差し出してくる。
その皿にはガメリオンの肉を薄く切ってお湯に潜らせて火を通し、野菜で作ったソースと思われるものが掛けられていた。
(しゃぶしゃぶ、か?)
レイの知ってる、薄く切った肉をお湯に潜らせて火を通し、タレにつけて食べる料理。タレにもポン酢、ゴマだれ、少し変わったところでは紅葉おろしといったものもあり、他にも多種多様な食べ方がある。
正確には昆布等で出汁をとるのでお湯ではないのだが、調理法としては今目の前にある料理と似たようなものだった。
フォークで肉を取り、口へと運ぶ。
その様子を、エレーナとヴィヘラの二人は、心配そうにじっと見つめていた。
「うん、美味い」
レイの口から出た言葉に、エレーナとヴィヘラは嬉しそうに笑みを浮かべる。
……そこには、少し前まで感じていたマリーナに対する嫉妬の色は存在しなかった。




