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レジェンド 作者:神無月 紅

オーク集落襲撃

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0001話

 真夏の日差しが照りつけ、これでもかとばかりに強烈な日光が降り注ぐ中、佐伯玲二は自転車で赤信号待ちをしながら額の汗を拭った。

「暑いと言うか、既に熱いだな」

 蝉の鳴き声が聞こえる中、忌々しげに太陽を睨みつける。
 まだ午前10時過ぎだというのに、既に気温は30℃を越えていた。TVでは地方によっては40℃オーバーというニュースも最早珍しくないのだが、東北の田舎町に住んでいる玲二にしてみれば30℃という気温も相当にきついものがある。

「この暑さなら、川で泳いでいた方が良かったな」

 この台詞が玲二の住んでいる場所がどれ程の田舎なのかを表しているだろう。何しろ携帯の電波すらギリギリ入るかどうかという場所なのだ。この街にも家から自転車で1時間以上を掛けて辿り着いている。
 本来なら高校2年の夏休みと言えば受験勉強で忙しいのだが、玲二はその辺を全く気にしていない。何しろ、玲二の通ってる高校から進学する者は極めて少なく、その殆どが地元に就職するのだから。
 それ故の気楽さで、玲二は高校2年の夏休みを本来の意味である長期休暇として十分に楽しんでいた。もちろん課題は出たのだが、夏休みを満喫する為に夏休み開始数日を費やして既に片付け終わっている。
 そんな中、何故この暑い中街中まで出て来たのかというと単純に書店から楽しみにしている小説の新刊が入ったと連絡があったからだ。

「でも、もう少し涼しくなってからか……あるいは、父さんか母さんに車で送って貰うべきだったか?」

 愚痴りつつ、Tシャツを仰いで中に籠もっている熱気を外に出す。
 とは言っても、この気温だ。まさに焼け石に水以外の何物でもない。
 赤信号を待っているほんの数分の間にも再び浮き出てきた汗を再度拭い、周囲へと視線を向ける。
 数十年前はそれなりに賑わっていたのかも知れないが、今ではシャッターを閉めている店が6割を越えている。高校卒業後は地元に就職する者が多いとは言っても、子供の数自体が少なくなっているのだからどうしても先細りになってしまうのだ。
 現に玲二から少し離れた所にある場所でも家の解体が始まっていた。

「このまま過疎っていくんだろうな」

 そうは言いつつも、特にこれといった解決策はないので自分にはどうしようもない。
 そんな風に思った時だった。『危ない、避けろ!』と声を掛けられたのは。
 殆ど反射的にそちらへと視線を向けると、5m程の鉄骨が目に入り……それが玲二がこの世で最後に目にした光景となった。





「おお……やっと……」

 そんな声が聞こえてきて、玲二はふと目を覚ます。周囲に見えるのは何も無い白い空間。それが延々とどこまでも続いているように見えた。

「……ここはどこだ?」

 確か自分は鉄骨に押しつぶされた筈……と、本来なら死の恐怖を覚えて泣き叫ぶ場面なのだが、不思議と冷静に判断が出来ている。

「目が覚めたかね、我が後継者候補よ」

 そう話し掛けられ声のした方へと意識を向けると、何故か自動的にその存在が目に入ってくる。

「光球?」

 そう、それは30cm程の光球だった。それがピカピカと明滅しながらも声を発しているのだ。

「我が光球だとするのなら汝もまた光球ということになるのだが、その辺は理解出来ているかね?」

 その光球の言葉を聞き、初めて自分の身体が光球であることに気が付く。確かに手も足もなければ、当然目や耳といった感覚も無い。それなのに何故か見て、聞けるのだ。

「どうなっている?」
「落ち着け、後継者候補よ。……いや、取り乱してはいないか。さすが我が後継者候補と呼ぶべきか」
「後継者、候補?」
「うむ。その為に汝の魂が消滅する寸前に我が前に呼び出されたのだ」

 光球の話す内容に鉄骨が迫ってくる場面を思い浮かべる玲二。確かにあの状況で助かる可能性はまず無いだろう。

「そうだな。確かに俺は死んだ……筈だ。じゃあここはいわゆる死後の世界って奴か?」
「否。ここは世界と世界の狭間にある一種の精神世界。我が後継者を捜して術を行使し、汝がそれに引っ掛かった」

 抑揚の少ない声でそう告げる光球に、玲二がピクリと反応する。

「それは、アレか? お前が因果律とかそういうのに干渉して俺を殺したとかか?」

 昨今の小説や漫画、映画、ゲーム等を嗜む玲二にとってはお馴染みの展開ではある。……もっとも、それが自分の身に起きたのだとしたら嬉しくはないのだが。
 しかし目の前の光球は再び明滅しながら声を発する。

「否。我が行使した術は我の後継者となり得る資格を持つ者の魂が死に瀕した時、死後の世界へと向かう前に一時だけこの精神世界へと誘う術である」

 その言葉を聞き、多少ではあるが気分が軽くなったように玲二には感じられた。この光球の言っている内容が事実だとしたら、自分の死はこの光球には何の関係も無いらしい。……ただし、その話している内容が全て事実だとしたら、だが。
 さすがに初めて会ったばかりの見知らぬ他人……と言うか見知らぬ光球の話を全面的に肯定は出来なかった。
 とは言え、いつまでもこのままという訳にはいかないので玲二は話の先を促す。

「続けてくれ」
「うむ。先程も言ったが、我は自分の後継者たりえる存在を呼び出す術を試行した。それで現れたのが汝となる。故に後継者候補」
「さっきから気になってたんだが、何の後継者なんだ?」
「既に消失寸前となっている魔術、魔獣術と呼ばれる魔術の後継者だ」

 どこか悲しげに呟き、明滅する光球。

「我は汝を呼び出した時に、その記憶を大雑把にだが読み取らせて貰った。我の世界は汝の世界とは違い、魔術というものが存在する。その魔術の中でも我は強大な魔力を持つ魔術師であった。そしてそれは我の一門も同様。その我の一門が生み出したのが魔獣術と呼ばれる魔術となる」
「生み出したのがお前の一門で、それが既に消失寸前ってことはかなりマイナーなんじゃないのか?」
「それは否定せん。そもそも魔獣術を使う為の前提条件が莫大な魔力を持っていることなのでどうしても我が一門以外には使いにくい魔術であるのだ」
「膨大な魔力って……それは俺にもあるのか?」

 その膨大な魔力が魔獣術とやらの前提条件である以上は、その後継者と見なされた自分にもその魔力が無いと話にならないだろう。そう思って尋ねた玲二だったが、光球の返答は予想を超えたものだった。

「ある。と言うか、汝の世界では汝以上に強大な魔力を持つ者は存在しないだろう。それ程の魔力を汝はその身に宿している。……魔術の無い世界に何故汝のような特別変異とも呼べる存在が誕生したのか。興味深い事例ではあるが、既に我にはその謎を解き明かす時間は存在しない。故に良く聞いて判断して欲しい」

 それから光球の語ったことは以下のようなものだった。この光球の世界には先程も言ったように魔術というものが存在している。そしてそんな魔術師達の中でも選りすぐりの魔力を持った世界でもトップクラスといえる魔術師達が集まって作ったのが光球のいう一門らしい。魔術師のみの集団ではあったが、その戦力は一国を数時間で滅ぼすと言われる程の戦力だったとか。そんな世界でも選りすぐりの魔術師達が集まって生み出された、ある種の奥義とも言える存在が先程光球の告げた魔獣術というものらしい。しかしその魔獣術を使うには莫大な魔力が必要であり、光球の一門以外に使いこなせる者はいなかった。そして不幸なことに一時代に天才と言われる魔術師達が集まった影響か、下の世代には才ある魔術師が現れることは無かったらしい。また、その魔獣術を実行する時に魔術的な制約によりその効果を高めている関係上一生で一度しか使えないというのも魔獣術が広まらなかった大きな理由だろう。
 そして天才と呼ばれる魔術師達でも当然寿命は有限であり、1人倒れ、2人倒れとその人数を次第に減らしていくことになった。
 そんな一門の中で一番最後まで生き残ったのが目の前の光球であったが、それでも寿命には勝てない。自分達の生み出した魔獣術がこのまま消え去るというのは我慢出来ない。しかしこの世界には魔獣術を継げる者はいない。なら他の世界なら? という考えで光球は己の命と魔力の全てを使って生涯最後の術を行使した。そして世界と世界の狭間に精神世界を創造し、数百年近く魔獣術を継ぐ資格のある魂が世界から離れていくのを探索していたらしい。そしてそれに引っ掛かったのが玲二の魂だった。

「なるほど。大体事情は分かった。……ちなみに、もしそれを断ったとしたらどうなる?」
「どうにもならん。汝はこのまま死後の世界へと旅立ち、新たな命として再び生を得るだろう」
「じゃあ、魔獣術を継ぐと言ったら?」
「その場合は我が汝の触媒となり、汝に新たなる肉体を授けよう」

 光球のその言葉を聞き、玲二の光球はピクリと動く。

「……ちょっと待て、色々と聞き逃せない単語があるんだが。まずはお前が触媒になるっていうのは?」
「そのままの意味だ。我の知識を汝に渡す為に必要な手順となる」
「それは、アレか? お前と俺が融合するという感じなのか?」
「否。我はあくまでも触媒に過ぎない。汝に知識を譲渡した後はそのまま汝に吸収されて消えていく。ただし、汝と我が1つになるというのは変わらない。主体はあくまでも汝であるが、多少の変化はあると予想される」

 少なくても自分の人格はそのまま残ると聞き、思わず安堵の息を吐く玲二。そして次の質問に移る。

「それで新しい肉体というのは?」
「汝は汝の世界で己の肉体を失っている」

 光球のその言葉に、目の前に迫ってきた鉄骨を思い出す。確かにあの鉄骨に潰されたのだとしたら、自分の肉体はまずまともな状態ではないというのは玲二にも簡単に想像出来た。

「まぁ、それは確かに」
「故に、我と我が一門が魔力と技術の粋を集めて創造した新たなる肉体に汝の魂を定着させる」
「なるほど、それが新たなる肉体か」
「また、汝が魔獣術を継いだ後には当然我は消滅する。故に我と我が一門が残した魔法道具や貴重な素材といった全ては汝の物となる」
「数百年単位で生きる世界最強の魔術師達の遺産、か。いたれりつくせりだな。だが、新しい肉体となると魔力云々の話はどうなるんだ?」
「問題無い。魔力とは魂に備わっているものであり、肉体に備わっている物ではない」
「つまり、俺が持ってるっていう強大な魔力はそのままって訳か。けど、それならお前自身がその肉体を使って生き返ればいいんじゃないのか?」
「否。我が魂とその肉体は適合性の問題があり、尚且つ我の魂は既に年老いて磨り減っている。好奇心や探求心、未知への渇望と言った物が既に存在していない我では魔術師としての生は既に終えている。これで汝に伝えるべき内容は全て伝えた。故に問おう。我と我等が残せし技術を継承するや?」
「……ま、このままここで断ったとしても死後の世界とやらに行くだけなんだろうしな。いいだろう、その申し出を受け入れさせてもらう」

 玲二の言葉に光球が数回明滅する。

「感謝する。ではこれより融合を始めよう」
「ああ。どうすればいいんだ?」
「難しくはない。この空間にいる時点で既に準備は整っている。後は我と汝が接触すれば自動的に融合は完了して汝が再構成される。同時に新たなる肉体に汝の魂が定着して覚醒するだろう」
「わかった。……やってくれ」
「うむ。ではこれより融合を開始する」

 そう宣言すると、光球は玲二の方へと近づき……そのまま重なる。

「佐伯玲二、汝に感謝を。そして新たなる人生に幸多からんことを」

 光球のその言葉と同時に、玲二の意識は闇に沈んでいった。
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