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異世界トリップ俺tureeee!!!  作者: ランド・クッカー
異世界トリップ俺tureeee!!!
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第六話


 水しか飲んでない所為でふらふらする。

 立っているのもだるいので小屋の床(地面)にだらしなく座り込んで生肉を放る兵士を眺めた。


 ここの兵士は今まで見た範囲だが全員が大体似たような格好をしている。

 正体を隠すためなのか、基本的に目の周り以外は露出している部分がない。

 目出し帽って言うんだろうか?


 映画とかで特殊部隊や銀行強盗がかぶっているようなイメージがあるあれの黒いやつと、装備で見えない部分はわからないが露出してる部分から察するに全身も同じように黒いインナーを着ているようだ。

 全身黒タイツ+目出し帽。それ何てモジモジ君?


 そして、つけている装備だが、頭部は似たようなデザインのヘルメット。

 足には鉄靴。


 腰のところに剣帯というのだろうか?

 鞘に入った剣をぶら下げるベルトと細身の剣を着けている。


 それ以外はまちまちで、胸当てをつけているものもいれば、脛を守るプロテクターの様なものだけとか、肘を守る物をつけているやつもいる。

 色は共通して、黒と薄い茶色のまだらだ。

 ここは真っ黒い植物が繁茂しているので迷彩効果を考えた場合こういった色がいいのかもしれない。


 今のところ銃器を持った者は見かけていない。

 ここが日本のどこかなら、銃の入手は困難だろうし、剣も模造刀か何かだろうか?


 そういえば指揮官(?)だけは装備が違っていたな。


 暫くボーっとしていたら持ってきた生肉も底を付いたのか、兵士は入り口を閉めて帰ってしまった。

 てっきり何か命令が来る物だと思っていたので拍子抜けだ。


 鉄靴が地面と当たる時のガチャガチャ言う足音で兵士が小屋から十分離れたのを確認し、昨夜少しだけ試して残念な結果に終わってしまったコミュニケーションの続きを試してみる事にする。


 とはいっても、一晩経って目星をつけていた相手の顔もあやふやになってしまったので、ここは一つ全員に対して話しかけてみることにしよう。


 「誰か、日本語がわかる人、居ませんか!」


 聞き取りやすいように一音一音はっきりと区切って、今の自分に出せる精一杯の声でそういった。


 一瞬、大きな声を出した俺に皆の注目が集まる。


 だが、呼びかけに対しては誰も返事をしてくれなかった。

 リアクションを見る限り、聞こえてないはずが無いのでここには日本語を理解する者は居ないのだろう。


 見た目は皆黒髪黒目なのに日本人が一人も混じっていないとかどういう状況だよ……。


 そのまま座り込んでいるのも芸が無いので、再び壁の隙間から外を観察しようと思い、ふらふらしながら狭い小屋の中を横切って、途中何人かにぶつかったり身体のどこかを踏んづけたりしながら歩く。


 踏んだ相手に威嚇された時、唐突にひらめいた。


 命令は今「休め」が出ている。例えばこの状態でどこまでの事が出来るのか。

 昨日は小屋から離れて探索する事は出来なかったが、命令されていない行動でも結構色々と出来た。

 最初に考えた通り命令に関する行動には結構な自由度が持たされているのだろう。


 つまり、うまくこの仕組みの隙をつけば、どうにかしてここから逃げ出す事も可能なんじゃないか?


 時間は有限だ。

 特に今みたいに監視も無く自由がある状況は今後どれだけあるかわからない。

 早速試して見る事にした。


 まずは実験のために地面に落ちている小指の爪ほどのサイズの小石を1つ拾う。

 それを少し離れてこちらに背中を向けている奴にぶつけるつもりで腕を振りかぶって……痛い! いてて!


 ふぅ、どうやらこの行動は命令違反と取られるようだ。

 だが、ここにおかしな点がある。


 先ほど俺は小屋の隅に向かって歩く際、何人かにぶつかったし、その身体を踏んづけたりもした。

 これは昨日の夜も同じことをしたので問題なく出来る。


 このとき、与えたダメージ量で言えば小石をぶつけるよりよほど大きなダメージを与えたはずだ。

 じゃあ、この小石を投げると言う行動はなぜ制限されるのだろう?

 

 推論としては、俺に明確な攻撃の意思が有るかどうかが問題なんじゃないだろうか?


 その推論を裏付けする為に、今度は先ほどと同じくらいの大きさの石ころを5つほど集めてそれを狙いをつけずに宙に放り投げる。

 よし! ここまでは問題なく行動できたぞ。


 放り投げた石ころは当然重力に従って落ちてくる。

 落ちた石のうち何個かは周囲の奴らに当たったようで不快感を示すうなり声が周囲から上がった。

 だが、俺には苦痛も不快感も発生しない。


 実験は成功だ。


 つまり、明確な攻撃の意思が無く結果的にダメージを与えてしまう行為は禁止されていないということじゃないか?


 故意は禁止するが過失は見逃す、と。


 確かに、バタフライ効果とまでは言わないが、行動の結果、予期し得ない出来事が起こるってのは普通に有りそうだし、何でもかんでも制限すると命令を出された側が些細な行動すら一切実行できないだろうから兵士たちにとっても運用上都合が悪いって事か。


 これを巧く利用すれば俺に命令を出している兵士の隙を突くことも不可能では無いだろう。

 少しだがこれで希望が見えた。


 後は、命令に従っている間、常時襲ってくる多幸感をどうにかしなければならない。

 このままではそう遠くない未来に俺の精神は崩壊してしまい、ただ命令を聞くだけの廃人になってしまいそうだ。


 手っ取り早い解決法は、あまり取りたくは無いが……常時命令に逆らう、もしくは従わないという物だ。


 ただ、この方法の場合どれだけの激痛を食らうのかわからないし、ついでに言えば俺に命令を発している兵士の心象を悪くしてしまい隙を見つけることが困難になるだろう。


 そこで、例えば「休め」を命じられている今、どの程度それに反抗すれば多幸感が無くなり痛みや不安感を感じるようになるのかの見極めをしたいと思う。


 ただ、この実験の目的は、継続的に与えられる多幸感を打ち消す、というのと兵士に自分の今の状態を悟られない、つまり命令に喜んで従っているように誤解させる必要があるのでかなりハードルが高そうだ。


 まず、命令通りに「休む」

 そして多幸感を感じている時の、ゆるんだだらしない顔の筋肉の状態を覚える。

 次はそれを常時維持できるように……鏡が無いので巧く出来ているのかはわからないが、まあ、頑張って見よう。


 その次に命令違反になりそうな行動で、実際にそれほど身体の動きを伴わず尚且つ継続して実行できそうな事が無いか試行錯誤してみる。

 あからさまに怪しい動きをして警戒されると意味が無いので外からの観察でばれるような大きなアクションをするわけにはいかない。


 そう考えると、うーん、どうした物か。


 例えば考えるだけで命令違反になるような何かは無いのだろうか?

 ここから逃げる? 施設に被害を与える? 兵士に危害を加え……これだ! 痛い! 痛いって!


 唐突に始まった首の辺りから襲ってくる激痛とどうしようもないほどの不安感に小屋の地面に倒れこみ、痛みに逆らわず治まるまで横になる。

 その時、当然顰められそうになる顔の筋肉を無理やりだらしなくゆるんだ状態に維持できるよう頑張る。

 頑張るが、流石にこれは無理だ。反射的に眉間に皺がよってしまう。


 案の定反抗できない仕掛けが施されていたようだ。

 だが今回はその事が逆に都合が良い。


 後はどの程度から命令違反と受け取られるのか、の匙加減を確認すればこの異常な多幸感で自我を崩壊させられる危険性も少なくなるだろう。


 まあ、その代わりこれからは常時ある程度の苦痛を覚悟しなければならないが、そのおかげで正常な精神状態を維持できると思えば苦痛は我慢できる。


 さて、早速調べる為に色々なケースを考えて見よう。


 兵士に対して物を投げる……噛み付く……引っかく……ニュアンスを変えたり程度を変えたりと工夫して兵士を害しようと考えるたびに耐え難い苦痛が襲ってくる。

 そのたびに地面に転がって治まるまで待つわけだがこれが中々辛い。


 勿論同時にゆるんだ表情の維持も試しているが、地面に転がらなければ耐えられない程の苦痛を感じた状態では無理そうだ。と言うか、無理だ。


 やはり、直接的な攻撃の意思は駄目ってことか。

 そもそも、カロリーが足りてないので苦痛が襲ってくるたびに気力が尽きてすぐにでも気絶しそうだ。


 ならば、少し考え方を変えて


 兵士に触れる……おおおお、これは! いいぞ、この程度なら。

 表情もどうにか維持できている、と思う。


 ふむ、多分触れるという行為は兵士側の気分次第で好悪のどちらとも受け取られる行動なんだろう。

 しかし、考えれば考えるほど兵士たちは俺たちを同じ人間扱いする気は無いとしか思えない。


 いい加減、現状認識を改めよう。


 兵士たちは俺たちを同じ人間だとは思っていない。これはもう確定だろう。


 つまり、なついた動物が身を摺り寄せたり手を舐めたりするような行為を想定しているのか? って考えるとむかつくな……。


 もう一つ、ついでに言えば、うすうす変だとは思っているんだが一緒にこの小屋に押し込められているこいつらは本当に人間なんだろうか?


 妙に毛深いだけならまだ個性で済む。


 生肉を躊躇無く口に出来るというのも違和感はあるが食文化の違いと言う可能性はある。

 俺だって魚の刺身なら食うし、馬刺しとか鯨の刺身も知っているのでギリギリセーフとしておこう。


 だが、極めつけは今朝、俺が握っていたはずの骨、あれは握りの部分がかなり太い骨だった。

 それを歯で噛み砕ける人間なんて居ないだろう?


 昔、何の番組か忘れたが肉食獣と比較して人類との差異を説明していた番組で、人間の顎の力と歯の強度では骨に歯型をつける位は出来ても噛み砕く事は出来ないってやっていたのを覚えている。


 え? 実際に骨を噛み砕く現場を見たわけじゃないから誤解かもしれないだろうって? 俺の中の突っ込みの人も中々言うねぇ。


 そんな訳は無いと今まで目をそらしていたが、強引に意識を切り替えて、周りに居るのは人間ではないかもしれないと言う目でじっくりと周囲を観察して見れば色々不自然な点に気づいた。


 思い返してみれば、こいつらはそもそも裸で居る事に苦痛を感じているそぶりをこれまで一度も見せていない。


 てっきり命令に従う多幸感で頭がおかしくなっているのかと思っていたが、良く考えてみれば昨日、首輪を埋め込まれるまえから身体を隠そうとするそぶりが無かった。


 そういえば今も陰部を隠そうとすらしない。

 俺は羞恥心から隠しているのに、だ。


 身体的特徴もおかしい、指が異様に長い奴、腕が異様に長い奴、中には尻尾の生えている奴まで居る。

 尻尾に関しては、まあ、人間でも極稀に先祖がえりで尻尾の生えた奴が生まれる事はあるそうなのでそこは許容しても良い。


 一番違和感があるのは、今まさに配られた生肉に喰らい付いて居る奴のその口の歯並び。

 何人かは明らかに肉食動物の歯並び、つまり尖がった歯がずらっと並んでいる。この時点で既にもう人類じゃないよね?


 つまり、俺は「動物の檻に間違って放り込まれた人間」なのか? そうなのか?


 そう考えるとここに居るのが途端に恐ろしく感じる。


 首輪が互いを積極的に攻撃させない仕組みを持っているというのは先ほど確認したばかりだが、それがわかっていても周囲を囲まれているこの状況は不気味さを感じる。


 兵士たちの対応には人間を相手にしてる気配りがなさそうだと思ったが、本気で俺は人間だと思われて無いのか? 動物の群れに人間が混じっているという仮説が正しいなら、それを兵士にも理解してもらわないと。


 もしそうなら、俺が人間だとわかってもらう為にも駄目元で次に兵士が来た時にでもジェスチャーでコミュニケーションが取れないか試してみるか?


 でも、攫った側が相手の事を理解していないとか有り得るんだろうか?


 てっきり特殊な方法で誘拐されたのかと思っていたが、もしかすると兵士たちは自分が何を捕まえたのかも理解していないのか?


 ……あれ?


 そういえば、ここには黒髪黒目の奴ばかりだが、良く考えてみればあの事件は世界中でおきていた。

 それならばここに居るのが黒髪黒目ばかりと言うのはおかしくないか? 白人や黒人はなぜ混じっていない?


 まさか、俺は何か大変な勘違いをしているのか?

 答えを見つけたような気になっていたが、余計に混乱しただけだった。


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