第五十五話
お待たせしております。
スローペースですが少しづつ投稿していきますね。
ここから底辺側の壁まではかなり距離が有るので詳細までは不明だが、特徴的な天辺の形状はどうみても最初に俺が捕らえられていた施設の外周を囲んでいた柵と同じ物に見える。
もしかすると、この地方ではああいった建築物が普通なのかもしれないが、殺人者たちの村を囲っていた柵はもっと貧相で全然違う物だった事を考えると、素直に考えるならばあの壁の向こうに居るのは俺を浚ってきた兵士たちなのではないだろうか?
もし、あれが俺の思っている通りに例の兵士達の施設だとすると、友ちゃんの協力を得られる今の俺ならばあそこから新たな情報を入手する事も可能かもしれない。
勿論、兵士たちと鉢合わせする可能性もあるし、それに伴う危険もあるだろう。
しかし、ここ数日、帰るための手がかりに関しては全くといっていいほど状況に進展が無いのも事実だ。
兵士たちに見つかる前にここを離れるか、それともあえて危険を承知で壁の向こうを調査しにいくべきか。
……いや、こうやって悩んでいる時点で本当は調査しにいくのが正しいのだろう。
だが、やはり植えつけられた恐怖の記憶はぬぐいがたい物があるし、再び捕まって奴隷のように扱われたら。と思うとどうしても躊躇してしまう。
……一寸友ちゃんとも相談してみよう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
相談した結果、友ちゃんは調査に賛成だった。
考えてみれば最初から友ちゃんは「元居た場所に帰りたい、そのためなら協力する」という方針だったんだからそのための情報を得られる機会があれば反対する理由は無いだろう。
自分としても元々調査に関しては消極的賛成とでも言うような心境だったので、友ちゃんの賛成で踏ん切りがついた。
ただ、何の準備もなしに兵士たちが居る(であろう)場所へと飛び込むほど俺は無謀じゃないので事前に出来る事はきちんとしておきたい。
さて、早速準備に取り掛かろうと思うが、今一番頼りになるものといえば何だろう?
鉄製の武器? 丈夫な防具? 勿論それらもあったほうがいいとは思うが兵士達の使う不思議な力の前でどれほど役に立つのか正直疑問だ。
では、何が頼りになるのかといえば、……制御に一抹の不安はあるがやっぱり友ちゃんの能力しかない。
逆に言えば制御に不安さえなければこれほど頼りになるものも無いだろう。
今回はこの「制御」部分に関して何か良い方法が無いか考る事にした。
ひさしのように突き出た岩壁の下、岩がむき出しになっていて比較的座り心地が良い場所を見つけて腰を下ろす。
こうやって落ち着いて考えられる時間は久しぶりなので、これまでに起こった出来事を叩き台にして安全に友ちゃんの能力を利用する方法が無いか友ちゃんの意見も聞きながら確かめる事にした。
エネルギーを直接放出するような、いわゆる攻撃を目的とした制御は最初に失敗して腕を吹き飛ばされて以降一度も試していないが、今も良い解決方法を思いつかないので保留。
念のため友ちゃんにもアイデアが無いか聞いてみたが、俺の記憶経由でしか外界を認識できない友ちゃんにとって俺には当たり前のことでも、やはり巧く理解できないようだ。
ただ、事前に俺が直接その場所に赴き、領域を展開して座標を指定するなら任意のタイミングでその場所へエネルギーを注ぎ込む事は出来ると言われた。
これは設置型の遠隔操作爆弾のようなイメージでいいのだろうか?
ただ、事前にその場所へ直接俺が行かねばならない時点でかなり使い勝手が悪い気がする。
壁に穴を開けたいとか、地面を掘りたいとか、障害物を取り除きたいというケースならその場に俺が行った時に直接その場で友ちゃんに能力を行使してもらえばいいわけだしな。
うん、まてよ……罠としてなら有りなのか?
念のため友ちゃんに確認してみたところ、例えば崖下にポイントを設定して遠隔操作で崖崩れを起こしたりはできるが、地面を対象に場所を指定しておいて、その地面を中心に大量の空気へと置換し突如発生する落とし穴のようなトラップを作ったりは出来ないようだ。
この違いが何なのかといえば、出来る事があくまでも「遠隔地に設定したポイントへエネルギーを注ぎ込む事」なので、遠隔地に物質変換のような現象は起こせないということだった。
実際の使い勝手がいまいち分からないので、後で遠隔操作爆弾(仮称)の検証は必要だろうがこれはこれで有りだな。
複数のポイント設定も可能ということだったが、それを俺と友ちゃんの間で齟齬無く認識出来ないと意味がない。
登録するたびに番号を振っていけばいい気もするが、とっさに何番が何処だったかを思い出せる上限は俺の記憶能力的に精々5つ程度が限界のような気がする。
せめてメモ用紙と鉛筆位あればなあ……。
次に、領域内の物質変換(置換)に関して友ちゃんと話し合った。
水や塩を作ってもらったりとこれまでに一番よく利用させてもらった能力ではあるが、扱いを失敗すると俺の手がもげたりする大変危険な能力でもある。
現状、「俺」の肉体を友ちゃんに認識してもらう事に成功したので、重大な被害はそれ以降発生していないが、今後も慎重な運用が求められるだろう。
とはいえ、一番使いやすい能力でもある。
例えば、領域で水中での窒息を回避したり、地中へ落下した際も二重に張った領域のおかげで九死に一生を得たのは記憶に新しい。
ただ、とっさに何をして欲しいのかを友ちゃんに齟齬無く伝えるのが難しいのが難点だ。
状況に応じて自動的に友ちゃんが対応してくれるなら話は別だが、現状は俺が直接状況を見極めて何をして欲しいのか考えた上で伝える必要があるので、そういった面で時間的な問題がある。
それ以外の問題として思いつくものとしては、例えば睡眠中などの意識がない状態では能力の行使自体が出来ないだろう。
うーん、どうすれば……。
これも、遠隔操作と同じように行使する物質変換能力を番号で管理するようにするか、もしくは自分に分かりやすい名前を付けておいて状況に応じて使い分けるようにした方がいいのかもしれない。
例えば二重の領域を張って外部の物質は水へ、内部は空気へと変換する領域の名前は「水の領域」とか、あらかじめ指定しておけばいいのか?
……でもこれ、叫んでたら厨二病決定だな。
友ちゃんとの会話は脳内会話で済むので助かったわー。
友ちゃんと相談してみたところ、この件に関してもあらかじめ名前を登録しておけば対応は可能との事だ。
ただ、間違って領域を展開すると大変な事になるのでもう少しルールを追加する事にした。
具体的には、使いたい時は「発動」を前につけて次に目的の領域名、例えば先ほどの「水の領域」と念じればあらかじめ決めておいた領域が展開されるようにし、解除の際は同じように「解除」と対象の領域名を続けて念じれば解除されるといった具合だ。
さて、後は……うーん、一寸思いつかないな。
又今度思いついたときに友ちゃんと相談してみよう。
……こういったときやっぱりメモ帳が欲しくなる。
何かいいアイデアが思いついてもそれを残しておく方法が今の俺には無いからだ。
あれ? 何か忘れている気がする。
何だっけ?
うーん。
あ、そうか、眠ってる間はどうするか、か。
まさか触れたものを片っ端から消滅させるような領域を展開しっぱなしで寝るわけにも行かないしなあ……。どうしたもんか。
でも、寝ている間も領域を展開しっぱなしというのはいいアイデアかもしれない。
その方向で何かもう少し害の無いものを考えておこう。これは今日の夜までの宿題だな。
取り合えず今のところはここまでかな。
じゃあ、次はいよいよ遠隔操作爆弾(仮称)の実験をしますか。
実験の内容は……。
1.どのくらいの威力があるのか
2.遮蔽物を挟んでも効果は正常に発揮されるのか
3.距離はどの程度まで離れても大丈夫なのか
4.複数のポイントを設定した場合に発動時のタイムラグがあるのか
って所かな?
誤字脱字、文法表現での間違い等ありましたらお知らせいただけるとありがたいです。




