第四十話
服が欲しい、靴が欲しい、まともな食事を取りたい、調理道具が欲しい、火が欲しい、トイレットペーパーが欲しい、髭をそりたい、鏡が欲しい、石鹸が欲しい、風呂に入りたい、寝具一式……うおー、欲しいものをリストアップしてその中から友ちゃんと協力して実現可能なものを模索しようと思ったが、逆にストレスたまるわ!
うーむ、現在安定して手に入るのは鉄と水と……髪の毛……なんとも微妙なラインナップだ。
しかも、そのうちの二つが俺の体から抽出された物だというのが尚更微妙さに拍車を掛けている。
でも、考え方を変えれば、人体に必要なものは人体に全て備わっているとも考えられるよな? 多分。
そう考えれば俺ってめっちゃ役に立つ資源の塊の様なものだよ。
よし、丁度いいからこの機会に、俺の体にあるもので髪の毛や水みたいに友ちゃんに複製してもらいたいものが無いか考えてみよう。
肉? いやいや、それはねーわ。例え自分の肉でも人肉だけは絶対にノーサンキューだ。
骨? 仮に複製したとしてなんに使うんだ?
血液? 輸血するような状況が発生したら死ぬか、再構成に頼るかの二択しか今はないし意味無いな。
歯? 利用方法が思いつかないな。
あ、あれ? こうやって考えると俺って資源としては役立たず?
いや、そんな馬鹿な、役に立つよ、俺? 立つよね?
すっごく役に立つよ……。多分。
……。
うーん、今は思いつかないだけできっと何かあるはずだ。
こういうときは拘らずに後回しにしよう。
一寸気分転換が必要だな。
まずは、他の事を済ませるか。
まっさきに思いつくのは食の事。
此処最近、草食動物の様な生活をしているのをどうにか改善したい。
現状どうしてもアウトドア生活だから頑張っても精々キャンプ場で食えるような食事になるだろうけど。
ああ、白米と焼き魚が無性に食いたい。
飯は飯盒で炊いたオコゲが付いてるような奴がいいな。
焼き魚は、はらわたをぬいて串に通した魚に塩を振り、焚き火のそばに突き刺して遠赤外線でじっくりと焼き上げた奴。
ジュウジュウと音を立てて表面がぱりぱりに焼けた魚をそのまま一気にバクッと……。
そこへすかさず白米をガッと口に掻き込む。
いかん、想像したら涎が出てきた。
焼き魚か……塩鮭とかも良いよなあ。
あれ?
塩? そう塩だ!
俺の体から塩が取れるじゃないか。
やっぱり俺って役に立つ!
早速、自分の皮膚に浮いていた汗から出来た塩の結晶を探し、それを友ちゃんに成分分析してもらい、出てきた成分の中で上位にあったナトリウムとクロールの化合物を塩として記録してもらった。
多分、これが塩であってるよな?
まあ、間違っていてもいざとなったら髪の毛のときと同じで余分な物もひっくるめて複製してもらえばいいか。
そういえば、友ちゃんが何時も出す半透明の黒い幕(領域)だが、これは最初に説明を受けた通り、俺の脳の情報を弄って俺に見えていると錯覚させているそうなんだが、此処で一つ凄く気になる疑問が出てきた。
俺にはここ数日ずっと、見え無いはずなのに見えているものがある。
あ、勿論霊的な話とかそういうのではなくて。
首輪を付けられてから今までずっと視界の中に表示されている意味不明な数値のことだ。
これは一体何なんだろう?
俺の体は一旦死んでから友ちゃんによって再構成されている。
そのときに埋め込まれた首輪まで再現されてしまったのかとも疑ったが、友ちゃんの説明が正しいのならば此処に浚われてきた瞬間の肉体に再構成されているのだから時間軸的にそれはありえない。
じゃあ、これは一体何なんだ? という話になるが、友ちゃんにも分からないそうだ。
まあ、友ちゃんは俺の目を直接は利用できないと言っていたし、俺の記憶情報の中にこの変な表示の答えは入っていない。
そういう意味では分からなくても仕方ないのか?
だが、これが見えるようになったのは首輪を埋め込まれてからだというのは分かっている。
可能性としては友ちゃんが俺にしているような脳の情報を弄って本来視覚化できないものを擬似的に見せるような仕組みがあの首輪に有ったのではないかと思うのだが、確認する方法が無い。
ただ、気になるのは埋め込まれた首輪がもう俺の体の中に無いはずなのに、なぜこの数値の表示だけは相変わらず残っているのか、ということだ。
後、俺に不都合が発生していなかったので今まで無視していたが、これまで一切変動の無かった視界右下の数値が、ここ数日頻繁に減ったり増えたりしているのが気になる。
しかも変動のタイミング的には再構成をすると数が減り、寝て次の朝目を覚ますと元の数値に戻っているといった調子だ。
何なんだろうこの数値の変動は……凄く気になる。
ふぅ、俺が悩んで答えが出ない問題で、友ちゃんにも分からないものは流すしかないか。
深刻ぶって落ち込んでもいいのだが、落ち込む暇があったら前向きに頑張ったほうが100倍はましだろう。
――此処に来てからまだほんの数日なのに、これまでの一生全てよりも強烈な体験をした。
その中で色々な失敗と、ほんの少しの成功を経験したおかげで今の俺がある。
多分、昔の自分より少しくらいは精神的に打たれ強くなったんじゃないだろうか。
だから家に帰ることが出来るまではくじけず、頑張れ俺。
そういえば、肉体が再構成されて一番助かったのは栄養状態だったのかもしれない。
体だけはここに来た瞬間の状態にリセットされているので腹こそ減っているが健康状態は万全な気がする。
まともな食生活を送りたいのは山々だが、後回しに出来ることは後回しにして、まずは優先順位の高いものから処理するべきだろう。
今日、明日くらいはこれまで通り、草食動物になったつもりで頑張るか。
まあ、しばらくは何とかなると思うが、出来るだけ早く最低限の生活基盤を作り上げないとまずい気がする。
というわけで、暫くは衣食住の中で現在緊急性が高い衣と住を優先して行動しよう。
その際、一番気をつけないといけないのは、他人に見つからない事だろうか。
勿論野生動物も恐ろしいが、それにしたって、この辺の人間は危険すぎる。
兵士達にしても、俺を殺した襲撃者達にしても一体ここの法律はどうなっているんだ?
幸い、今の俺には友ちゃんという強力な仲間が出来た。
いざという時にはきっと活躍してくれる……よな?
やばい、何か凄く不安だ。
何かお願いするたびに俺の命が危ない気がして仕方が無い。
友ちゃんに何かをお願いするときはその先のことまで良く考えておかないと、被害を一番最初に受けるのは俺なんだよな。
うう、それにしても、迂闊に食事のことなんか考えるんじゃなかった、腹が減ってきた……。
とりあえず花の蜜を探して、ついでに草でもかじるか。
行動の自由があるというのは素晴らしい。
兵士達の管理下から離れて、不便になった事も確かに有る。それは認めよう。
だが、それを補って余りある自由が今の俺にはある。
自由な行動、その一つは便所だ。分類するなら住の中に含まれると思う。
汚い話だと思うかもしれないが、ここ数日で俺は学んだ。
あの小屋で劣悪な環境を経験した俺にはわかる。
したいときに出来るというのは生き物にとって非常に重要なことだ。
今はまだ催していないが、人間食べればいつかは出さなければいけない。
その時慌ててあれこれするよりも今から準備をしておくべきだろう。
最初はこの大岩の下の窪みを離れ、別の場所、例えば水辺を探しそこを生活拠点にして色々調べてみようかとも思ったが、水と塩を獲得した現状、何処を拠点にしてもそれほど大差ないことに気が付いた。
さて、大小便の処理を考えるならまずは穴掘りか。
穴を掘るための道具とそれを埋め戻すための道具の準備をまずしないといけないな。
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