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異世界トリップ俺tureeee!!!  作者: ランド・クッカー
異世界トリップ俺tureeee!!!
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第四話

 板切れをどうにか倒れないように小屋の入り口に立てかけて塞いだころには日も沈み、既に辺りは真っ暗だった。

 勿論小屋の中も。


 それから、どうにかこうにか先ほど覚えた数名の居場所のうち一番入り口に近い人物(?)の近くへと暗い小屋の中を這うようにして進んだ。


 進む途中で何人かの手や足を踏んでしまいそのたびに不快そうな唸り声をいただき、ついでに何処かわからない部分に触れてしまったのは不可抗力だろう。


 ここまでは良かった。

 しかし、いざ声をかけようという段階になって大事なことを忘れていたことに気付いてしまった。


 そう、言葉が通じないのである。


 そして、今は明かりも無い小屋の中だ。

 身振り手振り等のジェスチャーで気持ちを伝えることも出来ない。


 想像してみてほしい、見ず知らずの相手(つまり俺)が暗闇の中、意味不明な唸り声をあげてしつこく絡んでくる状況を。


 例えば、元々お互い面識が有り、仲がよかったなら話は又違ったのかもしれない。

 だが、現実は知らないもの同士。


 結果、当然だが仲良くなるどころかあからさまに警戒されてしまった。

 しかも、悪いことは重なるもので、「休め」と言う指示にこの行為は若干抵触していたようで、チリチリとした痛みが首筋を走る。


 周りの奴らも俺が声を出していた所為で休めなかった様子で、暗闇の中、見えないはずなのに今ものすごく睨まれてるのがわかります。

 話し相手か、相談できる相手を作れれば良いなと思って行動した結果が真逆の成果を出してしまい、どうやら俺は孤立してしまったようですね。


 思わず丁寧語で考えてしまうくらい気持ちが萎縮してしまった。


 自分でも確かにうかつだったとは思う。

 だが、いきなり変な場所に拉致されて、衣服も無く言葉も通じない、その上おかしな首輪をはめられて戦わされるとかとんでもない状況で、誰かに話を聞いて欲しいと思うのはそんなに変だろうか?


 体と心も既に自分の思い通りにはならないこの状況、正直、狂っていてもおかしく無いくらいむちゃくちゃだと思う。


 まて、前向きに考えるんだ、元々会話も通じなかったし、誰一人知り合いも居なかった。


 つまり状況は変わっていない! と。


 ……余計へこんだ。 


 のどの渇きと空腹の所為で眠ることすら難しいのに寝る場所は地面の上でしかも裸。

 これは酷い虐待だ。

 睨まれて萎縮してしまい何もせずに転がっていたら休んでいると判断されたようで凄く気持ち良い。


 身体は厳しい状況に悲鳴を上げているはずなのに心は幸福を感じている、これは本格的にやばい。


 このままこのおかしな状況が続くと命の危険があっても指示に従っている限り気持ちよくなってしまって正常な判断ができなくなるかもしれない。


 そんなことを考えながら横になっていたら激しい空腹と水を飲みたいという欲求が襲ってきた。

 それも、これまでの人生で一度も味わった事が無いくらい最高に強烈なやつが。


 しかし、食べるものも飲み水も無い。

 我慢だ。今は無理やりにでも寝るしかない。


 しばらくすきっ腹を抱えて目を閉じていたが空腹と喉の渇きでとてもじゃないが眠れそうに無い。

 なあ、しってるか? あまりに空腹になると頭痛がするんだぜ。俺も今知ったばかりだが。


 痛い痛い、気持ち良い、痛い。

 正反対の感覚が同時に襲ってきて頭がどうにかなりそうだ。

 頭が痛いのに命令に従ってる所為で気持ちがいいから始末に終えない。


 暫く我慢していてわかったがこの頭痛はずっと痛い訳じゃなく波があるようだ。

 ずくんずくんと頭の天辺が痛くなりある程度時間がたつと治まる。


 だが、波がある所為でかえって眠る事が出来ない。


 命令に従っている気持ちよさに頭痛が加わって発狂しそうな精神状態になる。

 痛いのに気持ちよくて、もうどちらが本当なのかわけがわからなくなってくる。

 誰か助けてくれ。


 叫びだしそうな頭痛をこらえてどうにかして眠れないかと横になり、両手で腹を抱き締めるような形になって暫くすると、周り中から変な音が聞こえてくることに気付いた。


 ああ、これは腹の音だな。

 皆空腹なのか。

 腹の虫が合唱する真っ暗な小屋の中でただただじっと時が過ぎるのを待つ。


 今日は大変な一日だったが、最低状態からのスタートだったわけだし、明日の朝が来れば少しは状況が良い方向に変化する筈だと信じて。


 これだけ沢山の人間が攫われているんだ、警察だって馬鹿じゃない。

 きっと今頃救出作戦の準備が行われているはず。


 油断すると諦めそうになる精神に鞭を打ち無理やりそう信じる。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 エレベーターのドアが後ろで閉まっていく音を聞きながら玄関の鍵を開け、マンションの通路部にすえつけられた照明から差し込む明かりを頼りに一人暮らしの真っ暗な自宅へ一歩踏み込んだ。

 鞄を持った右手で壁にある照明のスイッチを手探りで入れながら、同時に足は踵をこすり合わせて靴を脱ぎ、左手でドアを施錠する。


 ……家に帰ると仕事から解放された実感がわいてきてほっとする。


 正直通勤バスの中もそうだが雑踏の中を歩くだけでも人ごみが苦手な自分はうんざりする。

 玄関を通り抜け照明を操作し、台所兼リビングの明かりをつけながら玄関側の照明を落とす。


 そのまま風呂場へ向かい照明のスイッチを入れて湿気対策に換気扇のスイッチを入れ、浴槽の栓を落とし、お湯を張る為に蛇口を捻る。

 勢い良く流れる水(ガス湯沸かし器なので最初は水なのだ)を確認。経験から15分あれば丁度良いくらい湯が張れる。


 風呂場を出る時に照明を消し、通路に鞄を置いて、台所で鍋に水を入れ電磁調理器に乗せスイッチを入れた。

 塩を取り出し適量を鍋に入れ、安売りの時に買っておいた100gずつ束になった500g158円の5分ゆでれば出来るスパゲティを取り出し、同じく158円だったMサイズで10個入りの玉子パックと5枚入りで75円のベーコンを冷蔵庫から取り出す。


 湯が沸くまで数分時間が有るので通路に置いてあった鞄を拾い、服を部屋着に着替える為寝室に向かう。

 着替えながらTVのスイッチを入れると一寸前まで話題になっていた事件の報道をしていた。


 横目でちらりと見るとタイトルは「現代によみがえった神隠し」とか書いてある。

 あまりにも安直だ。

 この事件(本当に事件なのかは今でも不明なのだが)は去年あたりから結構な犠牲者が出ていた。


 でていた。と過去形にしたのには少しわけがあって、今も類似の事件は発生して居るのだが今現在起こっている事件では犠牲者が発生しているのかどうか確証が持てない所為だ。

 事件がおきているのに犠牲者が居るかどうかわからないと言われると首をかしげると思うが実際そうなんだから仕方が無い。


 と、いうのもこの事件は相当変わっていて……あ、湯が沸いたみたいだ。スパ作りに行かねば。

 スパを湯に放り込みタイマーはわざと4分にしておく。


 まな板を取り出し肉魚の側(まな板の裏表を 野菜、肉魚で区別しているのだ)であらかじめ取り出してあったベーコンをみじん切りにする。

 みじん切りにしたベーコンは小皿に回収し、まな板を裏返して野菜側にし、冷蔵庫の野菜室から小ぶりの玉ねぎを一玉取り出し、手に持ったまま空中で首と根の部分に横から2/3程度包丁で切り込みをいれ包装紙を剥がすような要領で一気に皮をむく。


 玉ねぎは冷やすと涙が出なくなるので俺はいつも玉ねぎは冷蔵庫に入れている。

 今回は手っ取り早く火を通したいので、まな板の上で玉ねぎを縦に真っ二つにし、さらに繊維に沿ってそれぞれ16分割し、今度は首のほうから5mm刻みでみじん切りにする。


 これだけでは野菜成分が足りないなと思い、冷蔵庫から500mlのペットボトルに入っている野菜ジュースを取り出し軽く振って中身を攪拌した後コップに注いで一気に飲み干す。

 手軽だが野菜の歯ごたえが好きな自分には少し物足りない。


 そうしている間に4分経ったようで電磁調理器がアラームを鳴らして加熱を終了した。

 スパを湯切りして今度はフライパンを用意し、少し油を引いて粉末の一味唐辛子を数度振り掛ける(タバスコの辛さは苦手なので)


 辛味の移った油にみじん切りにした玉ねぎを放り込んでさっと炒めた後、玉子を追加し手早く炒り玉子にする。

 そこに刻んだベーコンとスパを加えオリーブオイルを追加し全体に程よく炒り玉子とベーコンが混ざるようにかき混ぜて完成。


 まあ、仕事から帰ってきて面倒くさい料理はしたくないのでこういった手軽な料理のレパートリーが結構増えてしまうのも仕方あるまい。


 風呂の様子を確認したら食事にしようと思い風呂場に向かうと何故か風呂はお湯ではなく水が張られていた……。


 え? なんで?


 混乱したまま蛇口を閉め、風呂場を出てきて壁に埋まっている風呂のリモコン(通常はここにLEDで温度表示がされる)を見るとErrの後に数字が表示されている。


 なめとんのか。


 せめて、異常があるときは音を出せ!

 と思いながらガス湯沸かし器を管理しているガス会社に電話を入れる。


 故障の内容を伝えると修理には部品交換が必要で数日係りますといわれた。

 風呂が無い生活は考えたくないので、どうにかなりませんか? と聞いて見るとリモコンを使用せずに温度調節無しならすぐに対応してくれるそうなので、とりあえずはそれをお願いする。

 20分後くらいに来てくれるそうだ。


 浴槽に溜まった水はもったいないが何かに利用できそうもないし栓を抜いて排水してしまう。

 最近水道代も上がっているのにもったいない……。


 今のうちに食事を済ませてしまおう。と作ってあったスパを皿に移し、味の調整は万能調味料「めんつゆ」で適当にする。

 本来、蕎麦やうどんに使うのが普通なんだろうが、スパでも意外と合う。

 和風のスパは大根おろしと醤油を使うことを考えれば、まあ当然ともいえるが。


 手早くフライパンとまな板を洗い、水切りした後まな板はまな板置きに立て、フライパンは頭の高さにある網棚に乗せておく。

 スパの入った皿に箸を添えてTVの前に移動する。

 TVを見ながらズルズルっと勢い良くスパを掻き込んだ。


 番組は先ほどと変わらず「現代によみがえった神隠し」のままだった。

 相変わらず犯人不明、犯行の動機も手口も不明で全てが想像、悪く言えば何もわかっていないし解決の糸口も無いようだ。

 そもそもこの事件は何時から発生していたのかも正確にはわからないと言うとんでもない物だ。


 実際のところ事件なのか災害のような天災なのかもわからないらしい。

 最初にそのニュースを目にした時あまりに現実味が無く何かのドラマかB級映画の予告編かなにかかと思ったのを覚えている。


 そう、確かこんな感じだった。


 「昨日未明、○○県○○市の民家で長男の部屋から異臭がするとの通報があり、駆けつけた警察官が室内に踏み込んだところ白骨化した男性の遺体が発見されました。」


 ここまでなら少ないが無いわけでもない話だ。

 だが、この事件の異常さはこの続きにある。


 「遺体の検死結果によりますと男性は長男の○○さんで、発見される前日まで会社に出勤しており同居している家族の証言では――」


 これが推理ものなら密室殺人や犯人は○○だ、みたいな展開が待っているのだろうが、この話は更に異常性を帯びている。


 この無くなった男性は帰宅後自室で就寝が確認された0時前後から翌朝7時までの間にベッドの上で白骨化していたのだ。

 更には白骨死体は着衣の状態で大量の血液と未消化の胃の内容物と排泄物がベッドに残されていたそうだ。


 ――つまり、骨や排泄物や血液を残して「肉」だけが何処かに消えてしまったような状態だったそうだ。


 あまりに異常な事件だったので当時週刊誌やネットで大いに話題になった。

 しかし、この異常な事件はそれから時間を追う毎にすこしずつ形を変えて発生した。


 そもそも失踪するのは人間に限らず、たまたまこのとき人間が被害にあったので大騒ぎになっただけだったようだ。

 世界中で類人猿や猿、勿論人間も。が不自然な痕跡を残して失踪しているのだ。


 動物園で今回同様の肉が無くなった猿が見つかった時、当初動物園側では事件性は検討されず猿同士の集団ヒステリーによる致死行為と思われていた。

 しかし、人間で同様のケースが何件も発生してから飼育員が当時の事を思い出し、もしかしたらと届け出たそうだ。


 そして今、形を変えて起こっている事件はこんな感じだ。


 一人暮らしの人間、もしくは同居者が側に居ないタイミングで、人間が服や胃の内容物、排泄物を残して消えてしまう。

 野生の動物の場合、もし同じことが起こったとしても痕跡自体がほぼ残らないだろう。

 実際に世界中でどれだけの被害が出ているのか全くわからないらしい。


 ただ、その後ホテルで便乗犯というか愉快犯というか、服と排泄物と吐しゃ物を残して逃げようとした奴がホテルの従業員に見つかって捕まり、その所為でどこまでが実際の事件なのかはっきりしなくなると言う出来事が起こった。

 何か事件があれば絶対こういう奴が出るのはどうにかならない物だろうか?


 今のところこの事件で共通するのは、それはだれも見ていないところで起こる。

 被害者は誰も帰ってこない。(以前と違い死体も残っていないので失踪扱いになる)

 人間もしくは類人猿で発生が確認されている。

 事件現場の状況は当初の白骨死体が残されていた物から、最近の事件になるにしたがって段階をおって遺留品(?)が減少して行き、それは不可逆である。と言った感じだろうか。


 食事中にこんな事を考えていたらスパが美味しくなくなってきた。

 とりあえず考えるのはやめて食ってしまおう。


 それにしても気味が悪い事件だ。


 「ピンポーン!」


 うおっ! びっくりしたー!

 いつの間にか時間が過ぎていたようでガス屋さんが来てくれたみたいだ。


 変な事件の事を考えていた所為でバクバク言う心臓をなだめながら、食べかけのスパを置いて慌てて玄関へ向かう。

 玄関の明かりをつけて鍵を開け、レバー式のドアを開け、開きかけたドアの向こうに「わざわざ夜中にすいません!」と言った所で急な貧血でも起こしたかのように俺の意識は消えた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 真っ暗な中、横で寝ていた奴に腰を蹴り飛ばされて目を覚ました。

 寝相の悪い奴だな……。


 痛かったわけではないが気づいたら目から涙がこぼれていた。

 悲しい夢と言うわけでもなかったのに。


 目が覚めたら全てが元通り、出勤の準備を……と、逃避したいのに容赦なく現実が襲ってくる。

 そう、夢が全てを俺に教えてくれた。


 あれは、あの夢は、最後の日の記憶。

 ああいうのが虫の知らせと言うやつなんだろうか?


 最後の日たまたま目にしたニュースの特集が、今の自分に何が起きているのかを教えた。

 正直知りたくは無かった。


 なぜなら、あの事件で被害者は誰一人帰ってきていないのだから。

 警察は未だに一人の行方不明者も救出どころか発見もできていない。


 つまり、俺の事に関しても期待は出来ないと言う事だ。

 だが、黙って捕まったままで居るつもりは無い。


 ここだって人が生活している場所なんだから兵士たちの私物には携帯電話くらいあるだろう。

 いつか隙を見つけて外部と連絡を取り、絶対に逃げ出してやる。


 今まで助かった者が一人も居ないなら俺が最初の一人になってやる。


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