第三十六話
俺の右腕が謎の爆発を起こし、その反動で俺の体も数mは吹き飛ばされる。
吹っ飛ばされた俺は、その勢いのまま地面を転がされ、その時に出来た擦り傷と打ち身、それに爆発の衝撃が伝わった体中の痛みと破裂した爆竹のようになってしまった右腕からの出血で危うく死に掛けた。
何が起こったのか考えるよりも先に痛みが酷すぎたのと、大量出血の所為で意識を失ったらこのまま死にそうだった俺は、途切れそうになる意識をどうにか振り絞って友ちゃんに肉体の再構成を依頼し、かろうじて生き延びることに成功する。
もうこんな痛い思いはこりごりなので、よほど良いアイデアを思いつかない限り、エネルギー発射の実験はこれで一旦中止しよう。
しかし、命を助けてもらっておいて文句を言うようで何だが、この再構成という奴は再構成後に何か言いようの無い違和感が残る。
思い返してみれば前回の再構成の後も、目覚めてしばらくは自分の状況が把握できないくらい混乱してしまっていた。
今回は腕を失ったという今の俺の記憶と、腕を失う前の俺の二人分の記憶があるというか……。
なんと言えばいいのかうまく表現できないが、俺の中に、ここに浚われてきて目覚めたばかりの俺がもう一人居て、その戸惑っている気持ちが俺に伝わってくると言えばいいのだろうか?
友ちゃんにその件に関して質問してみたが、俺の聞き方が悪いのか友ちゃんも巧く説明できないのか『上書きされた記憶の同期を行え』とか意味のわからないことを言われただけだった。
何が原因でこんな変な感覚を味わっているのかもよくわからないし、ここには俺が利用できる病院も無い、今のところ友ちゃんに頼む以外の方法で瀕死の状態から生き残る手段を現状思いつかないのでこの問題も流すしかないのが凄く不安だ。
まあ、リスクの無いリターンなんて都合の良いものはないということなのかもしれない。
この影響がいつどういった形で俺の今後に圧し掛かってくるのかはわからないがその時は是非お手柔らかにお願いしたい。
質問の後、少しだけ友ちゃんと話しをした。
その際、本来、時間を理解していない筈の友ちゃんが、何故都合よく俺の体を再構成出来るのかを説明してくれた。
この、肉体の再構成だが、ここに俺達が浚われて来た瞬間、友ちゃんは初めて経験する特殊なエネルギー情報を多数観測したらしい。
その所為で普段は俺の脳内エネルギー情報しか観察していなかった友ちゃんが、その瞬間に限っては俺の体全体をエネルギー情報として記録したそうだ。
結果、たまたま俺にとってはかなり都合のいいタイミングで俺の全身の情報記録が行われた。
おかげで、俺は友ちゃんに望めばその瞬間の体を取り戻せるようになったと言うのが再構成が可能になった事情らしい。
しかし、俺の全情報ってそんなに簡単に記録できる程度なのか……と呆然としてしまったのは内緒だ。
それと、記憶に関しては常時エネルギー情報として脳内を観察しているそうなので、肉体の再構成後それを脳内に複写することで俺の意識は最新の状態に再構成されているとのことだ。
……あれ?
でもそれって再構成されてるたびに俺死んでるよね? 気の所為?
ま、まあ余り深く考えると頭がおかしくなりそうなので流そう。
友ちゃんがどんな記録方法と手段を用いて情報を管理しているのかも興味はあったが、聞いても理解できそうに無かったので突っ込みは入れていない。
ちなみに長々と説明を受けたのに良くわからなかったのは、別に俺の頭が悪い所為ではないと信じたい。
まあ、再構成に関しては今気にするべき事柄ではないので軽く流しておく。
今大事なのは、エネルギーの発射を試みた際に一体何が起こったのか、これが一番だろう。
纏めるとこんな感じだ。
普通に生活していれば電子レンジで肉を暖めると表面がぱちぱち弾けるのを見たこと位はあると思う。
あの現象は局所的に水分を含んだ箇所で突沸が発生し、振動などの刺激を受けると爆発的に沸騰し弾けると言うものだったと思う。
つまり、電子レンジで生卵を温めると爆発するのと同じ原理だ。
そしてエネルギー発射を試みた瞬間、それのとんでもなく強力な現象が俺の指先で発生したらしい。
まあ、人体は水分の塊だから、その所為もあるようだ。
後は環境にもよるが、水が水蒸気になる時その体積は1700倍にもなるのは誰でも知っていると思う。
それが瞬間的に発生すれば、もうそんなのは爆発と変わりないだろう。
友ちゃんは俺の指示に従って「指先を基点」にエネルギーを用意した。
ただし、その時点で方向の制御はまだされていなかった。
というか、俺が方向の指示をする前に爆発が起こったからな。
そしてエネルギーは基点から球状に発生したので当然だが俺の指はエネルギーの集中している内部にあった。
結果はご存知のとおり、指先を基点に俺の腕が爆発した……。
友ちゃん、これほどエネルギーの制御が難しいとは思わなかったよ。
はぁ……。
ビームは男のロマンかと思ったんだが現実は甘くないようだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
エネルギーの発射を一時的にあきらめた(いつかリベンジする!)俺は、次の実験に移ることにした。
次の実験はずばり、エネルギーの物質変換だ!
この能力を教えてもらった俺は、ここに来てからずっとほしかったものを友ちゃんの能力で手に入れられるのではないかと思いついて少しワクワクしている。
友ちゃんが言うにはエネルギーを物質に変換することが可能だという以外にも、既に有る物質の組成を組み替えるのも同じ理屈で出来るとのことだったので、つまり……うまくこの能力を使用すれば服や靴、日用品を一気に手に入れることが出来そうな気がする。
……多分この解釈であってるよな?
ついに俺、裸卒業の予感!
この日が来るのを待っていた。
原始人じゃないんだから、日常的に裸なんてありえないだろう。
ようやく、ようやく俺にも人間らしい生活が手に入る!
さあ、友ちゃん、早速俺に服を作ってくれ!
『君の記憶を検索した。
服という概念は理解不能。
記憶の中の映像を解析。
映像情報として服に該当する物を多数発見。
構造不明。
構成物質不明。
再現不可能』
え?
服って言えばあれだろ。
化学繊維とか、綿とか、絹とか……。
再現できないの???
『君の記憶を検索した。
化学繊維、綿、絹に関しての情報取得。
物質の組成としての知識を君は持っていない。
構成物質不明。
再現不可能』
ば、ばかなー!?
そんな、そんな……。
まさか、友ちゃんは俺に具体的な原子の構成とか分子構造を聞いて居たりしますか?
『肯定』
無理だー!
そんなのよほどの専門職でもない限り誰も知らないだろ!?
……何かで代用できたりは……しないんですか?
『君の記憶を検索した。
代用可能。
構造不明。
再現不可能』
結局そうなるのか……。
多分この構造って奴も表層的な話ではないんだろうなぁ……。
外観なら映像情報として俺の記憶から検索できるって話しだし、逆に言えば俺の記憶にあるものしか再現が出来ないってことか。
つ、つかえねー。
友ちゃんの能力、使い道が思いつかねー。
うーん、どこかに抜け道は無いものか……。
活用可能ならとんでもない能力だと思うんだが制約が多すぎるよ。
なあ、友ちゃん。
友ちゃんが物質を分析することは出来ないのか?
『可能』
それはどうすれば出来る?
『私の展開範囲を拡大し、分析対象を範囲内に取り込めば可能』
現物を用意しないと無理っぽいな。
つまり、今後に期待ってことか。
現状、手近にあるものと言えば木や草、岩とかしかこの辺には無いもんな。
せめて金属でもあればそれを分析してもらってナイフでも作れるのに……。
はぁ。
あれ?
何か今引っかかったぞ。
ナイフ……ナイフ……。
いや、違うな。
金属を最近どこかで見たような?
こう、右手で金属をもった記憶があるんだが……。
ああああああああああああああ!
フックだ!
フックが金属だったじゃないか!
俺は慌てて立ち上がると自分で捨ててしまったフックを探しに生き返った辺りへと向かった。
服が欲しかったのに今は服じゃなくフックを探す俺。
駄洒落みたいな展開だが正直勘弁してほしい。
誤字脱字、文法表現での間違い等ありましたらお知らせいただけるとありがたいです。




