第三十五話
やあみんな! 今回は新しい旅の仲間を紹介しよう。
自称、俺の頭の中に住んでいるという、脳内住人、心の(中の)友……名前は無い。
間違ったことは言ってないはずだが紹介しづらいな! もう!
――いや、紹介する相手すらいないんですがね……。
ふぅ、この際、心の(中の)友から取って「友ちゃん」でいいや。
本人の承諾は取っていないが、今から俺の中では友ちゃんと呼ぶことに決定した。
お前は今日から友ちゃんだ。
異論は認める!
『友ちゃん。
名前……興味深い』
あれ? 拒否されるかな? とも思ったのだが、概ね好評(?)な感触だ。
ちなみに友ちゃんの声だが、聞こえているのは確かなのに、それがどんな音なのか理解できないというなんとも不思議な状態で、耳を通さず直接その先へ音、いや、意味だろうか? だけが届いているような、こんな経験今までに無いのでどう説明していいのか俺にもわからない。
聞こえてくる声は無個性で、性別を判断する要素は無いのだが、今の俺の生活には潤いが無いので頭の中で勝手に女性だと思っておくことにした。
まあ、だからこそ友「ちゃん」なわけだ。
友ちゃんは本人の証言によると、とんでもない実力を秘めた方向音痴さんらしい。
こう聞くと大抵の人はどじっこキャラでも思い浮かべるのではないだろうか?
だが、この友ちゃん、中々侮れない能力を持っているようなんです。
では早速、今から友ちゃんの実力を見せてもらおうと思う。
それによってこれからの俺達の行動方針が決定されることになるからな。
何でこんな実験をするのかと言えば、人間同士だと初対面の自己紹介で、自分の実力を盛って言ってしまう奴もいる。
友ちゃんがそうだと言うつもりは無いが、自己申告を鵜呑みにせず確認することは大事だと思うんだ。
思い込みで行動して、後で思っていたのと違う! とかアホな苦情は俺もいいたくないしな。
それと、どんな相手でも普通に認識のすり合わせは大事だろう。
『出来ることの検証。
お互いの相互理解を深めるのは同意』
早速友ちゃんには得意なことをやって見せてもらおうと思う。
エネルギー操作が得意と聞いた時、俺の頭に一番最初に浮かんだのは前に見たあれだ。
捕まっていた時に立方体を破壊する訓練を受けた際の、お仲間の一人が手から出していた火の玉みたいな奴。
エネルギー操作ってああいう奴じゃないのか?
『君の記憶を検索した。
指向性を持ったエネルギーを放出することは可能。
火の玉という概念は理解不能。
記憶の中の映像を解析。
放出されるエネルギーに色は無い。
エネルギーと物質が衝突した後の反応は情報不足により不明』
出来るらしい。
ただ、透明なエネルギーが出るのか……。
一寸派手さが無いのは残念だな。
早速だが、手近に生えていた俺の胴回りほどの木の幹に向かって実験をしてみることにする。
勿論、近すぎて自分が爆発のダメージを受けるような間抜けなことはしたくなかったので、念のため木から15m程距離をとってみた。
さあ、友ちゃんあの木だ!
一発派手にやってくれ!
『私に距離や方向の概念はない』
……?
どういうこと?
『私は君と言う主観を通した上で距離と方向を知ることが出来る。
君が見た、記憶化された情報が私の知ることが出来る情報。
君の目と言う入力インターフェイスは私には制御不能。
私に時間の概念は無い。
今が理解できない』
どういうことだってば。
うーん、よくわからないがリアルタイムで俺の情報を理解しているのでは無いって事?
つまり、俺が見ている生の情報は友ちゃんには伝わってないのか……。
で、俺の中で記憶として残ったものから読み出している?
『その解釈で概ね合っている』
あら、これって……咄嗟の出来事に友ちゃんは対処できないってことじゃないのか?
おいおい、今、俺の中で友ちゃんの能力評価がかなり下方修正されたぞ。
ふぅ。
まあ、余裕のあるときにこういう問題点を見つけることが出来てよかったと思っておこう。
これは、何か解決策を考えないといけないな。
なあ、友ちゃんは俺とリアルタイムで会話は出来てるよな?
『肯定』
なら、エネルギー発射のタイミングは会話か、もしくは何かルールを決めるというのはどうだろう?
『可能』
それじゃあ、発射って俺が考えたら発射してくれ。
『了解』
よーし、いよいよ実験開始だ!
発射ーー!!!!
『私に距離や方向の概念はない』
ズコーーーッ
友ちゃん……ギャグは要らないから。
あれ?
まてよ……。
今のは俺が悪いのか。
タイミングをどうしようかとばかり考えていた所為で距離と方向がわからないって言われてたことをすっかり失念していた。
慌て過ぎていたよ。すまんすまん。
うーん、しかし距離と方向か、どうやったら目が見えない相手にそれを教えられるんだろう?
普通、盲人相手なら手取り足取りか?
それなら俺が指先で示すから、それを基準に発射とかは出来ないかな?
『君の記憶を検索した。
指先という身体部位に私の一部を移植展開すれば可能。
一時的に君の脳に干渉して私の展開範囲を視認可能な状態で拡大する。
脳が見ている幻覚と同じ箇所に私は展開される。
そこに指先という身体部位で触れろ』
その返答と同時に俺の頭をすっぽり覆うように半透明の黒い幕が出現した。
一瞬目の前に何かが飛んできたのかと思って払おうとしてしまったが、友ちゃんの声でぎりぎり行動に移さずにすんだ。
いきなりはびっくりするだろう……。
半透明の黒い幕の範囲は10cm位だろうか?
これが友ちゃんなのか。
『その解釈で概ね合っている』
それじゃ、今から友ちゃんに触れるぞ。
触れたときに触れたって合図をするのでよろしく!
『了解』
目の前の半透明の黒い幕に右手の人差し指をそっと突っ込む。
触った感触などはまったく無く、普通に空気と変わらなかった。
ほんの少しだけ指先が友ちゃんにめり込んだタイミングで「触れた」と合図を送る。
次の瞬間、友ちゃんは元通り俺の脳内に収納されたようだ。
一瞬で見えなくなってしまった。
さて、これで準備はいいだろう。
今度こそ実験開始だ。
俺はゆっくりと右手を伸ばし、人差し指でまっすぐに15m先の木を示した。
発射!
『了解』
――次の瞬間凄まじい衝撃が走り「俺の右腕が」吹っ飛んだ。
誤字脱字、文法表現での間違い等ありましたらお知らせいただけるとありがたいです。




