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異世界トリップ俺tureeee!!!  作者: ランド・クッカー
異世界トリップ俺tureeee!!!
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第三十一話

 風が吹いているのかそれとも野犬でも居るのか、さっきから周囲の薮がガサガサと鳴っている。

 光源が星明りしかないので暗すぎて薮の様子は音でしかわからない。

 実際にそこに何かが居るのかどうかは別として、見えない所から音がするというのはそれだけでもかなり緊張感をあおる。


 そんな俺の目の前で解体されている男だった物が、削られて段々と小さくなっていく。

 俺は泣きながらその光景を眺めていた。

 兵士達は目の前の肉を解体するのに夢中な様子で、薮から聞こえてくる音には全く注意を払っている様子が無い。

 目の前の光景を拒否したくて目を閉じたいのに、意思に反して俺の視線は、削られすぎてもう下半身しか残っていない男に固定されたままだ。


 粘つくように濃密な血の匂いの所為か、妙にゆっくり流れる時間の中、唐突に状況に変化が訪れた。

 薮の方からバババっと鳥が羽ばたいたような音がしたと思ったら


 「ぐぶぇ」


 おかしな声を上げて兵士の片方が俺のほうに向かって倒れてきた。

 倒れた兵士の背中と後頭部にそれぞれ一本ずつ大人の手首ほどの太さの杭が生えているのが見える。

 杭は他にも何本も飛んできたらしく、大八車の周辺の地面にも突き刺さった。

 先ほどの鳥が羽ばたいたような音は沢山の杭が空を飛んでくる音だったようだ。

 普段の俺ならこの時点でパニックを起こしていただろう。

 しかし、精神的なダメージを受けて心が巧く動かなくなっていた俺はぼんやりと他人事のように状況を眺めていた。


 杭が兵士や地面に突き刺さると同時に、さっきからガサガサ言っていた薮から複数の何者かが手に手に槍や刃物を振りかざして飛び出してきた。

 同時に、沢山の足音と、先ほどと同じく何かが空を切る音が聞こえる。


 それに気がついた生きている方の兵士が「戦え」「使え」の命令を出すと、いきなりその場を逃げ出した。

 俺達は足止め用の捨て駒か……。

 その時たまたま、飛び出してきた襲撃者が手にしていた槍を投擲するのが見えた。

 不思議な事に、槍を投げた手には、なぜか料理に使うオタマのようなものが残っている。

 オタマで槍を投げている?

 意味がわからない。

 さっきから飛んできている杭は、この槍だったのだろう。


 投擲された槍はさっき逃げ出した兵士に当たったみたいだ。

 少し離れたところから槍が刺さる音と地面に何かが転がる派手な音がした。

 心の中で少しだけ「ざまあみろ」と思ってしまった。


 命令を出した兵士が居なくなったらその命令はどうなるのか?

 無効になるのか、継続されるのか興味はあったが、兵士は槍が刺さったといっても死んだわけでは無い様で、狂ったように「戦え」の命令を繰り返している。

 心が巧く動いてくれない俺は、誰かの行動の尻馬に乗ろうと思い、俺以外の仲間が命令にどう反応するのかを確認しようと、少し離れたところに居たはずの三人を見れば、彼らは休憩しているところを襲われたのか、その身に複数本の槍を生やし既に殺されていた。


 つまり命令を出された内、今の時点で生き残っているのは俺と、後は同じくらい酷い怪我をして荷台に乗せられていたもう一人だけになってしまったということだ。

 俺は自分ひとりで満足に立てもしない状態だし、そもそも「使え」といわれても何も使えない。

 それが無くても、怪我人を殺した兵士達に手を貸したくはなかった。

 出来れば兵士の足を引っ張ってやりたい位だ。


 こういうときはどうすればいいんだ?

 命令には逆らえないのでまずは立ち上がるだけでもしておこうと、左手と左足の力だけで荷台からどうにか体を動かして地面に右足を下ろす。

 体を動かした所為で傷口が刺激され頭を殴られたような激痛が走ったが我慢する。

 そして背中と左手で荷台を押し、左足だけでけんけんのように立った俺は、襲撃者の方へ体を向けようとした。


 機敏に動けるはずの無い俺がもたもたとそこまでの動作をする間、襲撃者達が動きを止めて待ってくれるはずも無く、この時点で既に生き残っていた兵士も殺された。

 いや、その瞬間を目にしたわけではないが、ひっきりなしに繰り返されていた命令が唐突に消えたのでそういうことなのだろう。

 俺自身は唐突な状況についていけなかったのと、兵士のために戦おうという意思がそもそも無かったので、この状況を何処か他人事のように感じていた。

 生き残ったもう一人のお仲間は未だに荷台で立ち上がろうともがいている。


 立ち上がった所為で俺一人が物凄く目立っていた。

 そこへ襲撃者の一人が足早に近づいてきた。


 明かりが無いので正確にはわからないが、ぼんやり見える相手の背格好からすれば、まだ子供ではないだろうか?

 俺のみぞおち辺りくらいに頭が位置している。

 自分でも不思議だが、相手が子供だと思った瞬間なんだか安心してしまった。

 相手がためらい無く命を奪った襲撃者の一人である事も忘れ、きっと事情を話せば何とかなるだろうと。


 その時、自分の今の姿を思い出し、見知らぬ子供の前に裸で立っていることが急に恥ずかしくなり、怪我の痛みも忘れて少し前かがみになり慌てて左手で股間を隠した。

 こんな姿になっている言い訳を思わず言おうとして、子供の方に顔を向けて口を開いたら、子供が飛びついてきた。

 頭から頭突きのようにぶつかってきたのか胸に衝撃が来る。

 前かがみになっていなければ今の衝撃で倒されていたところだ。

 次の瞬間、俺の口から何故か熱い物がこみ上げてくる。


 おいおい、こっちは怪我人なんだからもう少し優しくしてくれよ。

 そう思って子供に抗議しようと思ったら、何故か子供は俺を突き飛ばして地面に転がすと、荷台に居たもう一人に向かった。

 わけがわからず転がったまま視線を下に向けると、俺の胸に何かが刺さっている。


 ……え?


 すぐ側の荷台からは何かを突き刺すドスっと言う音と、誰かが暴れるような音が何度か聞こえてきた。

 俺は息をするたび口から出てくる熱い液体の所為で息がしづらいのを我慢して、俺の胸から生えている何かを抜き取ろうと震えて力の入らない左手で飛び出している部分を掴んだ。

 そこまでした時、俺のすぐ側に誰かが居る事に気がついた。

 その誰かは暗くて良く見えなかったが、長い棒のようなものを持ち上げて、まるでこれから突き刺すと言わんばかりのポーズを取っていた。

 相手に向かって俺は「たすけてくれ」とか「やめてくれ」とか、何かを言ったような気がしたが、もうよくわからなかった。

 体の中に異物をねじ込まれる不快感と自分の骨が折れる音を振動として感じながら、俺の意識は途絶えた。


誤字脱字、文法表現での間違い等ありましたらお知らせいただけるとありがたいです。

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