第二十四話
今の俺はマー○ルスーパーヒーローズの中に間違って紛れ込んだ一般人みたいな気分だ。
足元に散らばる破片が危なくて裸足では歩き回ることも出来ない。
粉々に砕け散った破片をどうにかしてくれと思っていたら、兵士の一人が手をかざすだけで部屋中に散らばっていた破片が綺麗に全て消え去った。
もはや何でも有りだな。
単一の物に対してだけではなく、元は一つだった物がばらばらになった状態でもああやって消せるのか。
呆然としていたが、手に入れた情報を頭の中にメモしておく。
考えている間に、新しい四角い塊を兵士が出した。
すると、一人が前に進み出る。
次の奴に命令がでたようだ。
今度の奴は、塊から少しはなれたところで両腕を塊に向けて大声で吼えた。
「ガァッ!」
吼えたと思ったら、腕の先から火の玉のような物が飛び出し、それが塊にぶつかった瞬間大きな音を立てて爆発した。
密閉された建物の中なので音が物凄く反響して耳が痛いし、衝撃が体をたたく。
しかも、急激な気圧変化で耳までおかしくなった。
花火大会を見物したことがあれば、打ち上げられた花火の音が体にずしんと響くのを体験したことがあると思う。
あれが一番近いだろう。
勿論塊も粉々だ。
ふぅ~。
も、もう、一寸やそっとでは驚かないぞ。
立ち上がりながら耳抜きをする。
思わずでかい音と爆発の衝撃に驚いて頭を抱えて地面に蹲ってしまった。
いや、驚いたのは音や衝撃に対してで、凄い力を出したことに対してじゃあない。
それにしても、さっきの奴とは出来る事が違うんだな。
使える力は個人個人で違うのか?
それとも選択できたりするのだろうか?
しかし、音よりも気になったのは兵士達の行動だ。
火は爆発後一瞬で消えたが、兵士達は何故か慌てふためいて放水し徹底的な消火を行った。
兵士達は火に対して凄く過敏なようだ。
ひとりの兵士が、命令達成の余韻で何故かゴリラのようにドラミングをしていたそいつを連れて、建物を出て行った。
火は使うな、とお叱りでも受けるんだろうか?
足元の破片が綺麗になくなった後、いよいよ俺にも命令が来た。
とうとう次は俺の番か。
命令は「戦え」と「使え」だった。
「戦え」の命令があの四角い塊を攻撃するように伝えてきているのはネズミの時と同様なんとなくわかった。
しかし「使え」とは何だ?
何を使うのかがわからない。
だが、俺は直前の二人の行動を思い出した。
あのとんでもない力はこの「使え」の命令で初めて使用可能になる必殺技のような物なんじゃないのか?
……もしかすると、俺が気づいていないだけで、俺もいつの間にかとんでもない力を手に入れていたのかもしれない。
お仲間達だって普段はゆるんだ顔をした、ぼんやりしているだけのどう見ても凄い力を持っているようには見えない連中だ。
そいつらが命令を受けただけで特別な力を発揮できるという事は、俺だって何かとんでもない力を得ていたとしても不思議では無いだろう。
視界にいつも見える二つの数値、最初はこれが俺を宝石に変えるための目安なのかとも思ったが、本当はさっきから連中が発揮している力と何か関係があるんじゃないのか?
先ほどは自分のことをマー○ルスーパーヒーローズの中に間違って紛れ込んだ一般人じゃないかと疑ったが、俺だって子供の頃はヒーローにあこがれた事もある。
今のような最悪の状況も、ヒーローが誕生する為の必要悪のような物なのかもしれない。
考えてみればヒーローは大抵逆境から生まれるものだ。
俺がヒーロー。
子供のころ封印した気持ちがよみがえる。
悪の秘密結社に攫われて改造され、超人的な能力を得、洗脳に打ち勝ち、自分を改造した悪の秘密結社と戦う。
まさしく今の俺の状況じゃないか!
そして昭和のヒーローそのものじゃないか。
こういう展開を心のどこかで俺は待っていたのかもしれない。
俺は、ヒーローに、なる!
……裸で考える事じゃないかもしれないが。
これから手に入れる力を巧く利用して、まずはこの場に居るあれ(兵士を害する思考は出来ないので)を倒そう。
その後の事は倒した後に落ち着いて考えよう。
俺は自分の力を確認する為、四角い塊へと近づいていく。
心臓がうるさいくらいに血を送り込んでくる。
まるで頭が心臓になったみたいだ。
耳にはバクバクと鼓動しか聞こえない。
魂が高揚するというのはこういうことだろうか。
どうすれば力が使えるのだろう?
レクチャーのような物は無いのか?
そういえば、さっきの二人はどちらも最初に叫んでいたな。
叫ぶ事がトリガーなんだろうか?
考えながら歩いているうちに四角い塊の目の前まで来てしまった。
最初の奴が立っていたのが丁度この辺りだったろう。
体が勝手に両手のこぶしを握り締め俺の目の前に持ってくる。
そこではじめて、相棒を持ったままここまで歩いて来てしまったことに気がついた。
頭に血が上りすぎていたようだ。
足元の地面にそっと相棒を横たえる。
今まで俺を支えてくれてありがとう。
そう、心の中で相棒に告げた。
普段なら恥ずかしくて叫んだりは出来そうに無いが、今は気持ちが高揚していて心の底から叫ぶ事が出来そうだ。
ふぅ。
よし、早速やってみるか!
「おおりゃーー!!!」
叫び声と一緒に右腕を振り上げ、目の前の四角い塊を粉々にするつもりで思いっきり叩く。
粉砕っ!!!!
ごり。
……。
「~~~~~~~~~~!!!!???」
手が、手が、ぐあああああ!
痛い痛い痛い!
骨にひびが入ったかもしれない!!
激痛で反射的に地面に転んでのた打ち回る。
なんでなんでなんで!?
あまりに痛くて殴ったこぶしを両膝の間に挟みこんで悶える。
涙と鼻水が勝手に出てきた。
うぐう。なぜだー。
俺の力は?
何で砕けない!?
命令が再度送られてきた。
内容は同じ「戦え」「使え」だった。
サボタージュする事で首輪から与えられる苦痛と拳の痛みのどちらをとるか、選ぶならどちらだろう?
涙でゆがむ視界に相棒の姿が見える。
普段の俺ならサボタージュを選んだと思う。
だが、ヒーローになる気満々だった俺は痛みを堪えてもう一度立ち上がった。
右手の痛みの所為で全身がぶるぶる小刻みに震えてしまう。
ヒーローはくじけない。
今度は左手で相棒を握り締めて。
頼むぜ相棒!
叩く
ガンッ! という硬いものを叩いた音はするが、塊にはひびも入らない。
叩く
力任せに塊を叩いた反動で手が痛い。
叩く
ミリッ! と何かがきしむ様な音がした! よし!
叩く
聞こえた! 乾いた割れるような音が!! これならいける!
残った全ての力を注ぎ込むつもりで渾身の力を込めて思いっきり叩く!
バキッ!
……。
割れたのは相棒だった。
中ほどから砕けてささくれが飛び出し、くの字に折れ曲がってしまった。
折れた相棒と一緒に俺の心も折れた。
放心状態でひざから崩れ落ち、その勢いでおでこが目の前の四角い塊にぶつかった。
痛い。
悔しい。
なんだ、一体、俺は。
一人で勝手に盛り上がって。
挙句がこのざまかよ。
何が、ヒーローだ。
どう考えてもここで最弱なのは俺じゃないか。
三回目の命令は無かった。
ふて腐れてその場に寝転がってしまった俺は、次の命令を受けた奴の手で、元居た建物の端っこへと転がされた。
左手には折れてしまった相棒。
握り締めた相棒を眺めていたら一緒に自分の手が見える。
ここに来てからの最低な生活の所為でボロボロになってしまった俺の手。
指の爪が伸びてきた所為で爪の間に泥が挟まって黒くなっていた。
爪を切りたいな、と思考が現実逃避する。
右の拳は殴った箇所の皮がべろんとむけて血が滲み出している。
凄く痛い。呼吸をするだけでずきんずきんと痛みが走る。
痛すぎて指が動かせない。
表面上、皮膚を突き破って飛び出した骨は無い。
骨が折れていなければ良いが。
数分おきに聞こえてくる爆音は俺以外の奴らが四角い塊を砕く音だろう。
たまに破片が俺のところまで飛んできて身体に当たるのが鬱陶しい。
どうして、こいつらにはこんな凄い力があるんだろう?
こんな凄い力があるから攫われてきたんだろうか?
じゃあ、俺は何だ?
やっぱり何かの間違いで攫われた一般人?
もし間違いで攫われたんだったら、俺を今すぐ元居た場所へ返してくれ!
帰りたい。
ちくしょう、家に帰りたい。
ほんの少し前までヒーローになるんだとか騒いでいた気持ちは綺麗にどこかへ消えてしまった。
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