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異世界トリップ俺tureeee!!!  作者: ランド・クッカー
異世界トリップ俺tureeee!!!
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第二十一話

 見たことの無い男女と断言できた理由は、彼らが全員、金髪の白人だったからだ。

 外国人のイメージで一番わかりやすいのは、金髪の白人か黒人だろう。

 だが、実際問題金髪の白人というのはアメリカ人でもそんなに居ないそうだ。

 唐突に出現した裸の白人達に思考が脱線してしまった。


 恐怖にこわばっていた体から力が抜けて勝手に床にぺたりと腰が落ちる。

 俺は、今頃になって自分の足が震えているのに気が付いた。


 あいつが消えた後、タイミングを合わせたみたいに部屋の中央の床の上に突然現れた全裸の白人達。

 意識が無いのか、ただ眠っているだけなのかはわからないが横になったまま動く様子が無い。


 彼らが一体何者なのかはわからないが、今起こった現象が多分俺達がこの部屋で目を覚ました日もあったのだろうという事くらいはわかる。

 普通の精神状態なら目の前に現れた裸の女に対して色気でも感じるんだろうが、先ほどこの場所で起こった出来事がまぶたの裏に焼きついていて、とてもじゃないがそんな事を考える余裕は無かった。

 それどころか、ぐったりと横になっている沢山の人間は、動かないという点で死体に通じる物があり、死んでしまった片腕の兵士を嫌でも連想させ、今の精神状態では見ているだけで吐き気がする。


 俺を連れてきた兵士がいつの間にか側まで来ていた。


 又俺に輪っかを嵌めて、今度こそ俺を殺すつもりなのか!?

 恐怖で鳥肌が立つ。


 兵士の動きを見逃さないように、と凝視していたら、どうにも雰囲気が違う。

 頭にかぶせる為の袋を持っていないし、その視線は新しく現れた白人達へと向いている。


 兵士はしばらく白人達を眺めた後、思い出したかのように俺をじっと眺めた。

 その目は俺に対して「やっぱりだめだったか」と言っているように感じた。


 目の周りしか露出していない兵士の表情など俺には見分けが付かないが、この兵士に関しては初日に首輪を付けられてから度々顔をあわせていることも有って、思い込みかもしれないが何となく言いたい事がわかる気がする。

 兵士の手には例の輪っかが握られていた。

 ついさっきまでの俺には、兵士が今手に持っている輪っかが希望の象徴に思えていたというのに、今はとてもそうは思えない。


 それどころか呪いのアイテムにすら見える。

 事実、それを嵌められた片腕の男は頭を宝石の粒にされて死んでしまった。


 ……人を宝石に変える呪いのアイテム。

 バトルがテーマの週間漫画にでも出てきそうなアイテムだな。


 なんだか凄く、疲れた。


 何処か投げやりな気分で、ぼんやりと部屋の中を眺めると、新しく部屋に入ってきた兵士達と指揮官が何かを話しこんでいる。

 この白人達に俺達と同じように首輪をつける相談でもしているのだろう。


 俺はそばに立っていた兵士に「付いて来い」と命じられ、兵士と二人きりで茫然自失のまま、ただ命じられた通り足を動かし兵士の後を追って部屋を出た。


 あの部屋で起こったことが何だったのか正直わからない。

 目の前で人が殺されたというショックと、その後のあまりに淡々とした、まるで人の死体を物のように扱い処理していく様子。

 それだけでも俺の精神的許容量は溢れそうだったのに、追い討ちで現れた表現する言葉も見つからない恐ろしい「何か」と、それが消えた後に虚空から沸いて出た白人達。


 俺の平凡な日常はどこへ行ってしまったんだろう。


 これがSFの世界なら人が何も無いところから突然現れたとしても、物質転送技術、ワープを理由に出来るだろう。

 それとも光学迷彩で最初から隠れていた者を、まるで今そこに現れたかのように演出した可能性もあるんだろうか?

 だが、そんな演出を俺に対してする意味も理由も思いつかない。

 ファンタジーならテレポート、アポート、召還辺りだろう。


 何が正解かはわからないが、あそこで非日常的な何かが起こった。

 そして、非常識な方法でここへ連れてこられたのだとしたら、それは帰る方法も常識的な方法では無理なのではないかと予測が付く。


 一番の問題は、これで外部からの救援の可能性が激減した事だろう。

 例えばA地点からB地点へと全く痕跡を残さず人間を攫っていく方法があるとしよう。


 そんな連れ去られ方をした人間をどうやったら警察は救助する事が出来るだろう?

 捜査令状無しで手当たり次第でたらめに、世界中の建物に対して家宅捜査を続けていけばそのうち手がかりを手に入れることは出来るかもしれない。

 だが、今の警察機構にそのような捜査手段は許されていない。

 待てば助けが来る、という甘い幻想は捨てないといけないようだ。


 まとまらない思考でいろいろな事を脈絡も無く考えているうちにいつのまにか建物からも出ていた。


 兵士は、建物を出た時点で「戻れ」「休め」と命令し、俺一人を残し建物の中へと戻っていった。

 一人きりになり、外に出て日の光を浴びた俺は、唐突に、今日を生き延びた事を理解した。


 この建物に入った今日の俺は、本来あの部屋で殺される運命だったのだろう。

 ところが何かの手違いで輪っかが巧く働かず、急遽代わりにあの片腕の男が死ぬ事になった。


 そして、死んだ男は宝石の粒と壷におさまったバラバラの肉になったわけだ。


 最初の小部屋で行われた知能テスト、あの時疑問に感じた肘から手首までを切り取ったかのような形の肉、あれは本当に人間の肉だったのではないか?

 ここの兵士達は、俺達を人間だとは思っていない。

 そこまではもう十分に承知しているつもりだった。

 しかし、その先に待っているものが食料として家畜のように殺される運命だというなら、そんな物認められるわけが無い。


 そこまで考えた時、発作的に走り出してこの場所から逃げ出したい欲求にとらわれそうになった。

 でも、その瞬間首輪が痛みを与えてきて俺が逃げられない事を教えてくる。


 絶望に押しつぶされそうだ。


 あと何日俺は生きていられるのだろう。

 これがカルト集団の入信強要事件とかだったならまだマシだった。

 明日にでも俺の身体は食肉に、頭は宝石の粒にされてしまうのだろうか?


 ……どうにかしてここから脱出する方法か、ここで生き残る為の方法を考え出さなければ。


 うつむいたまま小屋へ、重い足取りで向かった。

 小屋についてみれば、それほど時間はたっていなかったのか俺が連れて行かれる前と別段変化は無かった。


 気落ちしていた俺は、小屋の外に立ち、入り口からぼんやりと小屋の中を眺めた。

 命令に従う多幸感の所為か、だらしなく緩んだ顔を晒すお仲間達の顔が見える。

 こいつらには、悩みなんてなさそうでうらやましいな。

 そんな八つ当たり気味の思考がよぎる。


 ゆるんだ表情のお仲間達を見たとき、ふと何かに気が付いたような気がした。

 自分でも何に気が付いたのかがわからなかったが、かなり大事な事のような気がする。


 小屋、帰る、ゆるんだ顔。なんだ? 俺は何に気が付いたんだ?


 巧くまとまらない思考にイラつきそうになったが、ここで投げ出すともう二度と気付いた事へはたどり着けないような予感がしたので、深呼吸をし、ゆっくり、ゆっくりと考えをまとめる。


 ……。


 ……。


 ……なんで俺達はまだこんなに沢山生き残っているんだ?


 兵士達が単純に宝石が欲しいだけなら、そして人間を簡単に宝石へと変えることが出来るのなら、最初に捕まった段階で全員既に宝石にされて死んでいるだろう。


 それに、一人殺せば沢山の人間が現れる、ということならここにはもっと沢山の人間が居ないとおかしい。

 昨日見て廻った俺達以外の小屋は無人だった。


 そもそも連日の戦闘訓練は一体何の為の物だ?

 そして、奴らが本当に欲しい物は何だ?

 わざわざ変な首輪をつけて水や食料を与えて生かしている事に、何か意味があるんじゃないのか?

 俺の視界に見える数字にはどういう意味があるんだ?


 実は全部の答えは一つに繋がっているんじゃないのか?


 間違っているかもしれないが、今ある手がかりから正解に近い物を見つけるしかない。

 そして、その答えを信じて生き残る為の方法を探そう。


 小屋の外で壁に背中を預け更に思考を重ねる。

 思い出せ、今日まで手に入れた情報で関係の有りそうな事を。


 毎日一人ずつ小屋から人数が減っている可能性がある。

 ここで出されている餌の生肉が、居なくなった仲間の肉かもしれない。

 今日殺された片腕の男は服を着ていたし、奴らの言葉がわかるようだった。

 輪っかで殺された人間は頭が宝石の粒に変わる。

 人が死んだ場所に沢山の白人が突然出現した。

 宝石にはなにか不思議な力がある。

 知能テストを受けさせられた。そして、多分、合格した。

 俺は輪っかを嵌められたが死ななかった。

 毎日戦闘訓練をさせられている。

 食事と水を与えられる。


 ぐるぐるとまとまらない思考が渦を巻く。

 まずは、思いついたことを整理してみよう。


 餌と水を与えるという事は、少なくとも俺達を生かす意思はあるってことだよな?

 そもそも宝石が欲しいだけなら、最初から首輪を嵌めずに俺達を宝石にしているだろう。

 それが出来ない、もしくはするには条件があるとしよう。

 じゃあ、その条件は何だ?

 一日に一人までとか?


 俺が輪っかを嵌められる前に知能テストを受けさせられた。

 ある程度高い知能が無いと宝石にならない?

 そもそも知能テストを受けさせられた理由は俺が戦闘訓練で目立った所為だろう。

 つまり、訓練で好成績を残す者は宝石になる可能性が高い?


 まさか!


 俺が人間として認められようと努力してきた全ての行動が自分の首を絞めていたのか!?


 いやいや、まてまて。

 決め付けるのはまだ早い。

 最初に居なくなったのは多分指揮官にぶん殴られた奴だと思う。

 あれのどこに知的な要素があった?


 ……。


 ない、よな?


 判断基準がわからない。


 相手の立場になって考えてみよう。

 例えば俺が何か販売目的で生き物を飼育すると仮定する。

 そうだな、鶏と仮定しよう。

 ネットで宣伝文句にする時なんて書く?

 暗い部屋の中でぎゅうぎゅうに詰め込んで育てました?


 ありえん。


 明るいところでのびのびと運動させて美味しい餌を与えて育てました。

 こんな感じか?

 前に玉子の通販で鶏を放し飼いにして育てているから玉子が美味しいとか書いてあるのを見た記憶がある。

 そんな事をして本当に玉子の味に違いが出るのかは不明だが、キャッチコピーとしては正解だろう。

 実際、値段が同じなら俺もイメージがいいほうを買うだろう。


 ……まさか、そういうことじゃないよな?


 のびのびと運動(ネズミとの戦い)をさせて美味しい餌(生肉)を与えて育てました。

 だから美味しい玉子(宝石)と肉(顎から下)が取れます。


 戦闘訓練だと俺が思っていたのは実は単なる運動で、その中から生きのいい奴を優先して締めてる?


 でも、そう考えると少しだけ納得が出来る。


 最初に消えたのは指揮官に食って掛かった奴。

 二番目は観察してなかったのでわからない。

 三番目は多分、勝手にネズミを食った奴じゃないかと思う。

 四番目は俺。


 でも、そう考えると何で俺は今日見逃してもらえたんだ?

 食肉加工より、宝石が取れるかどうかが優先順位が高い?

 じゃあ、俺の頭から宝石が取れないように出来れば生き残れる?

 今日はたまたま宝石が取れなかったから生き残れただけで、明日もう一度呼び出されて輪っかを嵌められたら結局片腕の男と同じ運命をたどるんじゃないのか?


 その時、視界に映る数値が目に入った。


 ……視界中央上に見える数値が増える事が実は宝石になるかどうかの目安になっているんじゃないか?


 取り合えず、これからは殺さないで済む場合はなるべく殺さないようにして、可能なら訓練でも目立たないようにして様子を見よう。


誤字脱字、文法表現での間違い等ありましたらお知らせいただけるとありがたいです。

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