表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界トリップ俺tureeee!!!  作者: ランド・クッカー
異世界トリップ俺tureeee!!!
2/57

第二話

 血を流し、うめいている男以外誰も声を出さない。

 完全武装の兵士集団に囲まれた状態で躊躇無く振るわれた暴力に皆飲まれてしまったようだ。


 「*****!***!」


 それまで周囲を囲んでいた兵士の中の一人が何かを怒鳴りながら進み出て、我々裸の集団の外から怪我をした男の首に捕獲用具(2m程度の棒の先端に輪っかが付いた道具)を引っ掛けると手元で何らかの操作をした。


 すると捕獲用具の先端の輪が縮まり、当然だが男の首をきゅっと締め付けた。

 そして捕獲用具を掴んだまま歩き、床を引きずる形で男を集団から引きずりだした。


 あれは凄く苦しそうだ。


 この対応を見るだけでも相手側がこちらをどう思っているか良くわかるというものである。

 奴らはこちらを人間扱いするつもりはまったく無いようだ。


 引きずられて集団から引っ張り出された形になった男は、輪っかの所為で首が苦しいのか捕獲用具を掴んでじたばたしている。

 しかも、床がざらざらしているところを無理やり引きずられた為、何箇所も擦り傷が出来たようでそこからも軽く出血していた。


 これから一体何が起こるのか? そう思って凝視していると、数人の兵士が駆け寄って来て男の手を捕獲用具から無理やり引き剥がし、身動きが出来ないようにうつ伏せにして押さえつけた。


 捕獲用具を掴んでいる兵士が先ほどの指揮官(?)に目線をやると指揮官(?)は黙って頷いた。

 その時点でようやく捕獲用具は外され、苦しかったのだろう、男は荒い息を繰り返していた。


 先ほどまで捕獲用具を持っていた兵士がそれを側の別の兵士に渡すと、腰にぶら下げていたらしい革のベルトのように見えるものを取り出し男に近づいていく。


 ベルトはどうやら首輪だったようで、押さえつけられて身動きできない男の首にぐるりと巻きつけられると、驚いた事に何故か染み込むように身体に吸収された。


 え!? 錯覚じゃないよな? 何だ今の!?


 更に驚いた事に、首輪を埋め込まれた男はそれまでの態度を忘れたかのように従順になり、拘束を解かれた後は自分に首輪をつけた兵士の後に付いて部屋を出て行った。


 自身の怪我も気にならない様子だったのが非常に不気味だった。


 その後は先ほど捕獲用具を渡された兵士が裸の集団から新たに一人捕まえて引きずり出し、それに指揮官(?)が頷いて(多分許可を出しているのだろう)数人係りで押さえつけた後、首輪を埋め込みそのまま部屋から連れ出すという、先ほどと同じ流れが行われた。


 捕獲用具は一つしか用意されていないようで、それを順番に使用して手際よく首輪を付けていく。

 途中何度か指揮官(?)が首を振り、その場合は別の相手を捕まえていたが概ねスムーズに同じ流れが続いた。


 これは、誘拐事件とかそんな話じゃなくもっとヤバイ何かだとしか思えない。

 そもそもあの首輪、あれは何だ? 身体に吸収されるとかハイテク過ぎるだろう? 何らかのトリックか?

 仮に誘拐事件なら、そもそも会話が通じない時点で誘拐した側の目的がわからない。


 財産や金品が目的ではなく例えば人身売買を行う組織に攫われたと言うのはどうだろう?

 だが、その場合は兵士の役割は何だ? 監視? 購入者? わざわざコスプレしている理由もわからない。


 そういえば貧困に苦しんでいる国では子供を攫って洗脳し、兵士として使っていると言う話を聞いた事がある。

 だが、既に常識を学んでいる大人を攫ってわざわざ洗脳するメリットはあるのだろうか?


 実は何かの余興で、どっきりでしたー! とか言われたら絶対責任者をぶん殴ってやる……。

 不安から現実逃避気味に色々考えているうちに、どんどん首輪の取り付けは進んでいった。


 最初、捕まえた相手と捕まえる相手は同性になるように配慮されているのかと思ったがそういうことも無い様子で、男の兵士が女を、女の兵士が男を連れて行くこともあった。


 主観で判断するなら生きがよさそうな、つまり、強そうな者ほど先に連れ出されていったように思う。


 それと、最初は気づかなかったが裸の集団の中には明らかに人間ではなく尻尾の生えた類人猿的な奴も混じっていた。

 しかしゴリラやオランウータンのように大型のものは居なかった。


 ……当然、部屋から兵士が捕まえた相手と一緒に出て行けば出て行くほど部屋の中の人数は減るわけで、気づけば最後に残ったのは何故か俺だった。


 俺人気無い。喜んでいいのか悲しむべきなのかはわからないが。


 まあ、これまで連れて行かれた奴らに比べれば筋肉も付いて無いし、野人的なもじゃもじゃとした毛深さも無いので何らかの評価が低かったのだろう。


 俺に首輪をつける兵士の視線はハズレを掴まされたと言いたげな様子だ。不愉快な。捕獲用具で床に押し付けられた上、兵士に押さえつけられた俺にしてみればさっさと首輪でも何でも付けやがれという気分だった。


 そしていよいよ首輪を付けられた。


 首輪を付けられた途端、自分の事がわからなくなった。


 いや、勿論こうやって考えることは出来る。なんと言えばいいのだろう。


 自分と身体の間に何かワンクッション入ってきたような不思議な感覚がするとでも言えばいいのか?


 思うように身体を動かせない。

 普通、考えなくても体は動くものだ。

 むしろ、体が動いた後に後付で理由をつけたりすることがあるくらいだろう。


 だが、首輪をつけられてからは何かをしよう、と考えると、少し待ち時間のようなものが有った後、ようやく体が動いてる感じがする。

 ほんのわずかな待ち時間なのだが、これまでの人生でずっと付き合ってきた自分の体、ほんのわずかでも思い通りに動かせなくなるとものすごく違和感を感じてしまう。


 ついでに言えば、視界も何かおかしい、変なものが見えるし自分の視界と言うより何かのスクリーンでも見ているような不思議な感じだ。


 俺の身体に一体何が起こっているんだ?


 混乱していたら目の前の兵士に付いて行かなければいけないと言う強迫観念に襲われた。

 そして、兵士についていこうとする場合に限り身体が普通に動かせる。


 なんだこれ?


 いままで首輪を付けられた奴らも多分同じ感覚を味わったのだろう。


 逆らおうとすると激しい不安感と恐怖を感じる。

 そして首筋にチリチリとした痛み。

 上限はわからないが反抗するとこれがだんだん強烈になった。


 恐ろしいことに従おうとすると今度は多幸感が襲ってくる。

 さっきつけられた首輪は思ったよりもずっとたちが悪いもののようだ。

 このままでは自分の頭で物を考える事が出来なくなってしまいそうだ。


 しかし、だからといって何もわからない今の状況では逃げ出す方法もわからない。

 ……仕方が無い、不本意だが今だけは従っておこう。やばい、従おうと思うだけで気持ち良い。


 そうやって兵士に従って部屋を出た俺は暫く歩いて又別の部屋の前まで連れてこられた。

 今はドアが閉まっていて部屋の中の様子はわからない。


 口に出して何かを言われたわけではないが兵士がこちらに何をしろと言いたいのかが何となくわかる。

 今は「動くな」だ。

 指示に従って動かずにして居ると首筋からじんわりと気持ちの良さが這い上がってくる。大丈夫、この程度問題ない。


 待っている間に気になっていた視界の異常を確認した。

 右下隅のほうに数字の3のように見える何かがずっと表示されている。


 あと視界の中央上に丸に斜め線が入った……これはゼロか? 意味はわからないが首輪を付けられてから俺の体は色々とおかしなことになっているのは確かなようだ。


 そうやって考えながら暫く待っていたら目の前のドアが自動的に開いた。

 そしてどこからか「前に進め」と指示が来た。もう気分は遠隔操作されているロボットだ。


 本当は落ち込みたいのに歩くだけで気分がよくなってくる。


 声に従って部屋に入ると正面に人が一人で押せる程度の大きさの台車に乗った中が良く見えない金属製の檻があり、その檻の上部に付いているリングから天井にある滑車まで繋がるロープが見えた。


 檻の中には何か危険な生き物が入っているようで、頻繁に「ジャアアア!」とこちらを威嚇しているような鳴き声が聞こえる。


 嫌な予感がする。


 部屋の床は、ここで何があったのかあまり考えたくは無いが、まだ渇いていない血の跡とそれを擦ったような跡、それに部屋の隅にはばらばらになった生き物の骨が散らばっている。

 それに、匂いもひどい。

 生き物が腐った匂いをかいだ事があるだろうか?

 鼻が曲がりそうな強烈な腐臭が部屋の中に漂っている。


 ますます嫌な予感が。というか、もはや確信だ。


 部屋には二階席があるようでそこから数人の観客(?)と先ほどの兵士がこちらを見ているのがわかる。


 そして、「戦え」と指示が来た。

 あまりに予想通りの展開でうんざりだったが、逆らうと何が起こるかわからないのでとりあえず従おう。

 それに、戦うつもりで動くならある程度自由に身体も動かせるようだ。


 戦う事を決意するとこれまで以上の多幸感と共に、視界も今までの何処か離れたところから見ているような感じではなくなり、自分の視界を取り戻せたという感じがする。

 ただし、変な数字は相変わらず見えている。


 戦う事がキーになったのなら戦闘中の視界はこの状態になるという事だろうか? それにしても気分が良い。爽快だ!


 檻に繋がったロープの先はどこまで伸びているのかわからないがそれが引かれたみたいで檻がゆっくりと持ち上がっていく。


 中から一体どんな怪物が……


 と思ったら、上がりつつある檻の隙間から見えるのはネズミだった。

 ただし人間の赤ん坊サイズの巨大なネズミ。それもドブネズミ。


 これを倒せば良いのか?


 うーむ。初心者用の敵を用意したってことなのだろうか?


 しかし、こちらは裸な上に何の武器も持っていない。

 素手や素足であのネズミを相手にした場合、例えば引っ掻かれたり噛み付かれたりして少しでも怪我をすれば破傷風になりそうだ。


 ここに来る前の自分なら戦うよりもまずどうにかしてこの状況から逃げられないかを考えたはずだが、今は当然のように戦い、倒すことを前提で考えてしまって居る。命令に従うと気持ちが良い。


 どうにかネズミに直接触らず、こちらは無傷で倒せないものか。


 ネズミはこちらに襲いかかる気満々の御様子で上がりきっていない檻の隙間から必死で鼻先を突き出して牙をがちがちと鳴らしこちらを威嚇している。

 奴ももしかすると俺と同じように命令を受けているのかもしれない。


 くそ、今なら一方的に攻撃できるが俺には武器が無い。


 あっ! そういえばさっき部屋の隅に骨が散らばっていた。

 あれを武器にすればいいじゃないか!


 急いで骨の散らばっている場所に走り、手ごろな大きさの先の尖っている骨を2本選び、低い位置を狙いやすいように逆手に持って両手にそれぞれ一本ずつ握り締める。


 そのまま慌てて檻に向かって走る。

 見た目も頑丈そうな檻は相当重いのかそれとも滑車がぼろいのか、ゆっくりゆっくりと上がっている。


 もうネズミは頭を檻の外に突き出している状態だが身体のほうが太いのかまだ飛び出せない様子で両手両足を必死にがりがりやっていた。


 一瞬、檻を蹴飛ばして檻と台車に挟まっているネズミを昏倒させられないか? とも考えたが、靴も履いて無い状態でそんな事をすれば下手をすると蹴飛ばした足が骨折とか、そこまでいかなくても捻挫くらいはしそうな気がしたのでこの案は却下。


 自分の意思なのか命令に従うことによる多幸感に突き動かされているのかわからないまま檻から突き出しているネズミの頭をめがけて必死で両手に握ったそれぞれの骨を突き下ろす。


 力の加減がわからないのと相手も動くので巧く刺せず、ようやく当たっても毛が生えているため刺さらず滑ってしまい右手に握った一本は台車の荷台を突いてしまい先端が砕けた。


 しまった! 折角の武器が一本だめになった。


 その時、頭のすぐ横で砕けた骨に驚いたのかネズミが頭をひねって横を向いた。


 横を向いたネズミの頭は当然のように目玉がこちらに向いている状態になったので、残った一本を躊躇無くネズミの目玉に突き刺し、意外と硬い眼球は突き破れなかったが先端が滑って眼窩にもぐりこみ引っかかった。


 当然その痛みにネズミは狂ったように暴れだす。


 ここで逃がしてしまうとどうなるかわからないので刺さっている骨が抜けないように必死で押さえつけ、その状態で骨の後端を反対の手に残った骨の残骸を使ってハンマーでクギを打つようにがつんがつんと打ち込む、刺さった骨から伝わってくる痛みから逃げようとしてぐねぐねと動く筋肉のうねり、それを堪えて暫く叩き続けると何かを突き破ったような感触の後、びくんびくんとした断末魔の痙攣が伝わってきた。


 気付いた時にはネズミは眼窩から突きこまれた骨の所為で頭の半分程が砕けたような状態で死んでいた。気持ち良い。


 ……あれ? こういうときは気持ち悪いだったか? 戦えという指示を達成した瞬間襲ってきたあまりの多幸感におかしな笑い声が漏れそうになる。


 そして視界中央上の表示がゼロから1の様な形へと変化した。


挿絵(By みてみん)

誤字脱字、文法表現での間違い等ありましたらお知らせいただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ