第十八話
結局、竹糖もどきばかり、かなりの量を集めて小屋へと戻ってきた。
入り口前で昨日のことを思い出し、小屋に入るとまた臭さで不快な思いをしそうだったので、今日は暫く外で服作りに励むことにする。
外は日が出ているので特に寒くは無いが、地べたに座り込んで作業するとなると、裸の俺には少しの風が吹いても堪える。
小屋を風除けにしようと思い、風が当たらない場所を探したら、たまたま入り口前がベストポジションだったので入り口前に陣取った。
俺に今出ている命令は実質「休め」だけなので、これだけならかなり自由に解釈が出来る。
とはいっても、小屋の外に居るのを兵士に見咎められるとどうなるかわからないので、いつまでも外に居るわけには行かないんだが。
ふぅ、せめてあの匂いをどうにかしたいよな。
芳香剤でもあれば……
いや、便所の芳香剤が仮にあったとしてもそれは解決には程遠いか。
あれは、臭さをごまかしてるだけだもんなー。
今作っている服の次は、匂いを防ぐためのマスクか、口元を覆うためのマフラーのようなものを作ってみるのもいいかもしれない。
沢山集めた竹糖もどきの、茎だけにした根っこに近い部分を齧りながら、手の方はひたすら葉っぱを編みこんでいく。
地面に直接胡坐をかいて作業している所為で、ずっと座っていると尻の肉に小さな石がめり込んで来てこれが地味に痛い。
うーん、どこかから枯れ草を沢山手に入れたいな。
そうすれば簡単なクッション代わりに出来るのに。
葉っぱを編みこんでいくことにもかなり慣れてきたので、良いペースで作業が進む。
ふと、BGMが欲しいな、と思ってしまった。
そんなことを考えながら手を動かしていたらいつの間にか日が沈んでいた。
日が沈んだことに気がつかなかったのは辺りがぼんやり明るかったからだ。
新しく作られた小屋の正面に建っている建物が何なのかは不明だが、その建物の壁面全体がうっすらと光っていて、その明かりのおかげで周りが見えている。
昼間は壁が光っていることに気がつかなかったので、夜になってから光りだしたか、昼間は日差しの所為で気がつかなかったか、のどちらかだろう。
しかし、有りがたいことに、これで眠くなるまでは作業を続けられそうだ。
まあ、明かりがあるといっても蛍光灯で照らすようなしっかりとした明かりではないので、黒い葉っぱと地面の影との区別がつかず何回か葉っぱをつかんだつもりで何も無い地面を掴む、という間抜けな出来事は起こったが。
それでも、小屋の中で壁の隙間から差し込む明かりを頼りに作業を続けるのに比べれば今の環境の方が断然マシだ。
そのまま何時間か作業を続けていたら、見た目は悪いが大体希望通りの大きさの布(?)を作る事が出来た。
ずっと葉っぱをいじっていた所為で指は疲れるし、長い間座り込んでいた所為で地面に落っこちている小さな石ころが尻の肉にめり込んで、爪で掻き出さないと取れないという悲惨な事になってしまったのは御愛嬌だろう。
ついでに、作業環境が薄暗い所為で目も疲れたがようやく出来た成果を達成感とともに眺める。
ようやくできた。
まあ、布とは言っても葉っぱを編みこんだだけの物なので編みこみに隙間はあるし、厚みもまちまちで端のほうはあきらかに素人臭くガタガタになってしまって、どう贔屓目に見ても出来は悪い。
広げてみると最初に編み始めた部分と最後の方とでは編みこみの密度も明らかに違う。
強度的にも一寸強く引っ張れば分解してしまうに違いない。
別に鎧を作っているわけではないので、丈夫さは求めていないが日常の動作で分解されても困るので今後は品質面での改良も考えないといけないな。
だが、これで服が作れると思うとテンションも上がってくる。
作ってるうちに眠くなるだろうと思っていたが、布がだんだん面積を広げ形になっていくとわくわくしてしまい、逆に目がさえてしまった。
昼間も動き回って疲れているはずなのに人の身体は不思議なものだ。
もしかしたら作業中ずっと齧っていた竹糖もどきの糖分のおかげかもしれないが。
さて、大体希望通りの大きさの布が出来たといってもこのままでは頭を通す穴も無い。
まずは、半分に折りたたんで身体に合わせてみよう。
大きいぶんにはいいが、小さかったらまた継ぎ足さないといけないしな。
立ち上がって、半分に折った布っぽい何かを身体に当ててみると大体俺の首から太ももの半分くらいまでの長さがあった。
これだけあれば十分だろう。
折りたたんだ部分を頭が通せるように穴を開けて、その後は穴を空けた周囲を補強すればようやく念願の服の完成だ。
……
んー…
んお、あれ?
うー、ここは何処だ。
あぁ。小屋の外で……。
頭を通す穴を開けたあと、補強作業をしているうちにいつの間にか眠ってしまったようだ。
首輪の効果で唯一ありがたいのは、命令に従っている間は与えられる多幸感の所為で「休め」の命令中の睡眠時は悪夢を見ないって所かな。
今の俺は、寝る直前まで作っていた布もどきを毛布のように身体にまとっていた。
その所為で何箇所か無理な引っ張られ方をしたみたいで、解けそうになっている箇所が有り、隙間から向こう側が見えてしまっている。
って、
やばい、いつの間にか日が昇ってる。
兵士が餌を持ってくる前に小屋に戻らねば。
自分ではあまり疲れていないつもりだったが、やはり連日の訓練と昨日歩き回った疲れは体に残っていたらしい。
気付かないうちに屋外で眠ってしまい、そのまま朝まで熟睡しているとは……。
慌てて周りのものをかき集め、ひとまとめにして小脇に抱え、小屋の入り口の板を外しボロ小屋の中に飛び込む。
くっさ!
糞便とアンモニアの臭いで飛び込んだ瞬間鼻が曲がるかと思った。
今回は匂いのきつい葉っぱを集めていないので、小屋の中で鼻で息をするのは自殺行為になりかねない。
予想通り、今日も何人かが小屋の中でしてしまったようだ。
その事自体は諦めているし、こいつらに怒っても仕方が無い。
ただ、それと、匂いに耐えられるかというのは別問題だ。
今までなら小屋の奥の隅に向かっていたが、この匂いの中、奥まで行きたくない。
仕方が無いので息を止めたまま手前の水瓶が置いてある方の隅に抱えていた荷物を置き、又直ぐ開きっぱなしの小屋の入口に引き返す。
布もどきの補修と首周りの補強の続きは今日のお勤めから帰ってきてからしよう。
入り口で横になり外の方に顔を向けて息をすれば少しはマシだろう。
そう思って横になろうとしたら、向こうの方に2人の兵士が見える。
あぶなかった。
ギリギリのタイミングだったようだ。
バクバク言い出す心臓を必死でなだめる。
大丈夫、大丈夫だ。見つかっていないはずだ。
多分、いつもの餌と水を持ってくる2人組だろう。
冷や汗をかきながら、素知らぬふりを心がけてなるべく目立たないようにゆっくり動いて寝そべり、目を閉じて最初からここで寝ていた振りをする。
鉄靴の足音が小屋に近づいてくる。
あ、この場所に寝ていると餌を投げ込むのの邪魔になるだろうか?
でも、今更動くのもわざとらしいか……仕方が無い、このまま知らん振りをしていよう。
邪魔なら命令でどかされるだろう。
そう思って目をつぶって寝た振りを続けていたら、「付いて来い」と命令がきた。
おや?
移動させる命令が無くて「付いて来い」で代用してるのか? と疑問を感じたが、知らん振りするわけにもいかないので、あくびをしながら今起きたとアピールをしつつ立ち上がる。
命令に従い小屋を出ると、なぜか、そこに居たのは初日に見た派手な装備の指揮官(?)とこちらを指差す兵士の姿だった。
げっ! 指揮官!?
初日の流血沙汰が印象深くて、この指揮官(?)には暴力女としての印象しかない。
なんで、今日に限ってこいつが来てるんだ!?
いつもと違う状況に、昨日のことがばれているんじゃないか? と背中に冷や汗が浮かぶ。
折角なだめた心臓が今また大暴れしている。
俺、この後どうなるの?
誤字脱字、文法表現での間違い等ありましたらお知らせいただけるとありがたいです。




