第十二話
横になって数分経過したが匂いが気になって眠れない。
まずさ選手権一位を獲得した葉っぱの残りが原因だ。
塩を埋めるのに使ったのはまずさ選手権一位と二位を1枚ずつだけなので、まだ結構な量が残っている。
何かに使えるかも知れないと思って残しておいたが、こんなことならいっそ全部埋めておいたほうが良かったか?
地面に置かれた葉っぱが強烈な臭気を放って安眠妨害をしてくる。
正直このままじゃ眠れない位、酷い匂いだ。
さっきまで気にならなかったのは、作業しやすいように座っていた所為で俺の鼻の位置が地面から距離があったから、匂いがあまり届いてなかっただけのようだ。
寝転ぶと、もろ顔面に臭気がぶつかってくる感じだ。たまらん。
ひとまず、手探りで竹糖もどきの残っている茎の部分をかき集めて匂いの元の上にかぶせる。
これで少しはマシになるだろう。
そういえば、茎の部分はどうしようか。
甘いのは根っこに近い一部分だけなので上のほうはどうするか考えてなかったな。
捨ててしまうのはもったいないので、量が集まったら籠でも編んでみるか?
トートバックみたいに片手で荷物を運べる道具があれば今後の草集めに便利……いやまて、俺が外に出られるのは基本的に兵士達の都合に合わせてだよな?
呼ばれて付いていく時にトートバックもどきを持って付いていくと仮定しよう、そうするとどうなる?
例えば今日みたいにどこかで戦えと言われた時バックは一体どうするんだ?
まさか、兵士に預かって置いてくださいなんて頼めるわけも無いし。
貴重品預かり所があるわけでも無い。
邪魔になりそうだな……。
うーん……お、そうだ!
この小屋は床が無いから何かを置いておこうと思うと地面に直置きになる、それでは食品の保管を考えると不衛生だから食べ物をしまうための容器として籠を作るか。
それなら充分役に立つし、邪魔にもならないだろう。
うん、そうしよう。
ふぁ~。いい加減寝るか。
……
「ぷ~」
……? 誰だ? 屁こくなよ……。
……
んんん?
なんだ? 何か臭いぞ。
うっぷ、くっさ!!!
まずさ選手権一位も臭いが、こんな匂いじゃない、これは「うんこくさい」って奴だ!
おいおいおい、まてや!
誰かクソしやがった! マジか!?
真っ暗な小屋の中で、これ毒ガスじゃないか? ってくらい猛烈に臭い匂いが漂ってくる。
肉食動物の糞は臭いと聞いた事が有るけどこれはひどい、何の拷問だ!!!
くそくそくそ、俺は朝までこんな臭いところに居なきゃいけないのかよっ!?
誰にぶつけたら良いのかわからない怒りが猛烈に腹の中でグルグルと渦巻いている。
いや、本当は分かっている、一番怒りをぶつけたい相手は、あの兵士達だ。
だが、奴らはここには居ないし、首輪の所為で俺は自由に怒ることも許されていない。
……思った通り、そんなことを考えた所為で首輪が苦痛を俺に与えてくる。
理不尽に対して怒り、その所為で更に苦痛を与えられる。
悪循環ここに極まれりだな。
くそ、食事を取ったおかげで怒りの感情まで復活してしまった。
ここで暴れても、叫んだとしても、状況がよくなる事が無いというのは頭では分かって居る。
でも、なんでこんなことまで我慢しないといけないんだ?
せめて用を足す時は小屋の外に出られるように命令を出しておけ、とか、余裕が無くて気づけなかったが小屋の中に便所すらない事とか考え出すと怒りで爆発してしまいそうだ。
兵士達に呪いの言葉をぶつけてやりたい。
しかし、そんなことを考えると耐え難い苦痛が襲ってくる。
抑えろ、抑えろ自分。
……ひとまずこの匂いだけでもどうにかしないと気が狂いそうだ。
そういえば昔、酸欠講習の硫化水素に関する説明の時に聞いた記憶がある。
人間の体の仕組みとしてある程度以上の臭気は鼻が馬鹿になって匂いを感じなくなるっていうのを。
今こそ、それを確かめる時か……。
月が出ていないのか、真っ暗な小屋の中、ついさっき竹糖もどきの残った茎で隠した苦くさい葉っぱを手探りで手元に持ってくる。
独特の形状と強烈なにおいで間違えようが無いのがありがたい。
まさか、こんな形で役に立つなんてな。
ほんと、人生何が起きるかわからんね。
まず、匂いを最大限に高めるために汁気を感じる程度まで手のひらで揉み込んでおく。
それを鼻血のときティッシュでする栓のように丁寧に円筒形に丸めて、そのまま両方の鼻の穴にねじこ……痛!
ぐあああ。いってえーーーーーーーーーー!!!!
臭いとか匂いが酷いとかそんなレベルじゃねえ、鼻の粘膜が強烈な刺激に悲鳴を上げる。
わさびを大量に食べるとツーンと来るがあれの比じゃない。
具体的には熱を伴う痛み? 鼻水と涙がぼろぼろ出てきて止まらない……。ぐぅぅぅ。
すりつぶした葉っぱの汁が付いたままの手のひらで顔を覆い、泣きながら鼻を押さえて震える。
大量に出てくる鼻水が栓をしている所為で逆流して口に流れ込んでくる。
呼吸もまともに出来ず、ひきつけをおこした赤ん坊のような息の仕方になってしまった。
ようやく涙が治まって来たころには見事に俺の鼻は何の匂いも感じなくなっていた。
まあ、栓してる所為で鼻での呼吸ができないって言うのも大きいだろう。
少なくともこれでこの小屋の中に充満している筈の不快な匂いからは開放された。
しかし、今度はこの強烈な刺激の所為で眠気が完全になくなってしまった。
今日はこの調子ではもう眠れないかもしれないな。
兵士を具体的に想像して呪うと首輪から苦痛が来るので置き換えて考えてみる。
この状況をつくった相手を呪う。
いつか自由になったらその相手に報いを与える。
真っ暗な小屋の中、自分が自由になったらどんな風に相手に仕返しをするかを想像する。
想像の中の自分はアクション映画の主人公のように大暴れしている。
そんなことを考えて居るうちに次の朝を迎えた。
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