第十一話
……塩と皿が手に入ったことに舞い上がってしまった。
環境が悪すぎる所為で少しでも良いことがあると、物凄く良い事があったように感じてしまう。
それ自体はこれからの人生を豊かにしてくれそうで構わないんだが、現在の状況は全く好転して無いんだよな。
それと、ようやくお腹に物が入って落ち着いたのは良いのだが、そのおかげで心に余裕が出来た所為か小屋の中に裸の女が混じっているのが意識されるようになってしまった。
今までは精神的にもカロリー的にもそんな事を考える余裕自体全く無かったので気にもならなかったが、余裕が生まれた今、裸のままで居る事が凄く、凄く恥ずかしい。
俺が赤ん坊なら裸でも良い。
だが、自我がはっきりして人として自己認識をしっかり持った人間が風呂に入るわけでも無いのに裸で居続けるって言うのはとんでもなく精神的ダメージが大きい事だと思う。
宗教的な理由や裸で居る事に何か特別な価値を見出す精神構造でも持って居無い限り皆そうなんじゃないかな?
人が人で居る為に、服は絶対に必要だと思うんだ。
本当は、さっきの水瓶の件とか色々考えておきたい事があるのだが、今の最優先事項は着る物で決まりだな。
昔の言葉にも「衣食足りて礼節を知る」と言うのが有るし、現状とりあえず「食」は手に入ったので次は「衣」をどうにかしたい。
ふっふっふ。
そこで活躍するのがさっき残しておいた竹糖もどきの上のほうの茎と葉っぱ部分だ!
なんだか色々有った所為で後回しになったが、いよいよこれの出番が来た。
田舎出身な俺は子供の頃米を作る体験学習を経験していて、その流れで収穫後の藁からわらじも作った事がある。
とはいえ、はるか記憶のかなたの出来事なので正直それほどはっきり思い出せる物でもない。
重要なのは、こういう材料から履物を作る事が出来る。という知識があるということと、それを応用すれば布もどきも作れるだろうと想像ができるということだ。
予備知識ゼロからはじめるよりはよほどマシだろう。
それに手を動かしていればある程度当時の記憶もよみがえるだろう。
小屋に戻れば後はする事が無い現状、何もしないで居れば際限なく悪い想像を膨らませてしまうだろうし、こういった目的があるというのは大事な事だと思う。
まあ、なによりもさっきも言ったが俺が恥ずかしいから着る物が欲しいというのが一番の理由だが。
副次的な効果として、もしも服を作る事が出来れば言葉のコミュニケーションが出来なくても兵士に俺が人間なんだと理解させるきっかけになるかもしれないしな。
さて、まずは竹糖もどきを細長い葉の部分と茎の部分とで分けていこう。
それが済んだら今度は大きさの近い葉を集めて大きい順に並べよう。
暫く黙々と仕分け作業を行う。
草をいじっている俺に廻りの奴らは全く無関心でこっちとしてはありがたい。
急いでミスをして貴重な材料を無駄にしたく無かったので、一時間ほどかけて丁寧に作業を終わらせる。
分類された葉っぱは一番短い物が15cm程度、長いものは30cm程度有った。葉の幅はどれもだいたい2cm程度だ。
今回作りたいのはわらじではなく可能ならば服なのだが、流石にいきなり服を作るのは技量的にも材料的にも無理がありすぎるので、まずは単純にまっすぐな布っぽい何かを作る事にした。
集まった葉で長いほうを縦糸、短い方を横糸とし、まずは長いほうを綺麗に5枚隙間無く並べる。
5枚にしたのは短い葉っぱが15cm程度だったので折り返した際に、ある程度余裕が必要になると思ったのでそうした。
葉っぱなので当然先端の方が細い、なので横糸に使う短い方は細い部分を少しちぎり取り強度を上げておく。
次に短い方の葉を長い葉に対して真横から一枚目は上、二枚目は下、三枚目は上、四枚目は下、五枚目は上を通るように互い違いに差し込んでいく。
最後に横糸代わりの葉っぱは、はみ出している部分が左右で同じになるように微調整する。
わかりにくいかもしれないが大昔の機織を想像してもらえれば、それでだいたい合っていると思う。
機織は細い糸を使うが、ここにはそんなものは無いので竹糖もどきの葉っぱが糸の代わりだ。
長い5枚の葉っぱに互い違いに差し込まれた短い葉っぱが一枚。
このままでは当然、少し動かせば葉っぱはばらばらになる。
なので、端の部分を折り返し、横糸は縦糸をくるっと巻き込んで端の部分を内側に折り込むようにする。
縦糸は逆に横糸をくるっと巻き込んで端の部分を内側に折り込むようにする。
これで一番端の部分が出来た。
次の横糸は最初の物と逆のパターンで一枚目は下、二枚目は上、三枚目は下、四枚目は上、五枚目は下を通るように互い違いに差し込んでいく。
この二つの横糸のパターンを1セットとし、後はひたすら横糸を通しては端の処理を繰り返す。
おっと、ここで問題発生。
ちぎってきたばかりの葉なのでまだ瑞々しい所為か折り返すときパキっと折れてしまうことがあるようだ。
折り返す前にある程度叩いてつぶしておいた方が安全だろう。
机の脚を手元に引き寄せてその上に竹糖もどきを乗せ、折り返したい場所をあらかじめ軽く叩いてつぶしておく。
これでいいはずだ。
縦糸の継ぎ足しはある程度の長さを折り返したもの同士を引っ掛けあう形にして、その上に横糸を通せば何とかなった。折り返す長さを横糸二回分程度取れば強度的にも十分な感じだ。
無心に作業を続けていたらいつの間にか暗くなっていて手元が見づらくなってきた。
材料の竹糖もどきも、この地方の植生の所為か他の植物と同じく真っ黒なので小屋が暗くなると途端に視認しにくくなりこれ以上の作業の継続は困難そうだ。
とりあえず、今の時点で幅10cm長さ2m位の布もどきが出来た。
もうすぐ真っ暗になりそうだったので、今日の成果をとりあえず試してみようと出来上がった布もどきを……あら? どう使うんだこれ?
えっと、ふんどし?
試してみると端の加工の問題か皮膚に当たる部分が痛い、それに微妙に空いている隙間に毛が挟まって大変よろしく無い。何の毛かは聞くな。
困ったぞ。
折角作ったんだし、どうにかして利用したい。
色々悩んだ結果、腰のところをぐるっと一周させた後残った部分を前垂れのように垂らす事にした。
結び方としてはネクタイを想像して欲しい。
腰の前で結んだネクタイ。
実際は何もはいていないままで、前から見れば少し隠れているだけな状態だ。
日本なら間違いなく変態認定がもらえそうな格好だな。
幅が10cmしかないので大して隠れていないがそれでも何も無いときと比べれば大きな一歩だろう。
次に作る時はバスタオルサイズに挑戦しようと思う。
それを腰に巻けば……あ!
良いことを思いついた。
バスタオルの縦横倍のサイズの物を作って半分に折りたたんで、折りたたんだ真ん中に穴を開ければ貫頭衣が作れるんじゃね?
当然そのままなら両サイド全開だが、そのくらい蔓か解した茎で結んでしまえば解決だし……。
あ、そうだ。今回作った布もどきをそのまま帯として使えばいいんじゃないか?
そうだよ!
俺天才!
よし、次の目標はこれだ。
明日、日が昇ったら早速残ってる材料で作れるだけでも作っておこう。
足りない材料はまたどうせ戦闘でどこかに連れ出されるんだろうからその時に集めよう。
やる事を決めたら少し希望がわいてきた。
服が無いなら作ってしまえば良い。
頑張ろう。
よし、今日はもう寝て明日に備えよう。
っとその前に。
布もどきを身につけたまま寝ると解けてばらばらになりそうな気がしたので外して横になる。
誤字脱字、文法表現での間違い等ありましたらお知らせいただけるとありがたいです。




