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夜明けのオオカミ―The Days of Atlazia―  作者: ef-horizon
一章:リンケージチルドレン
7/35

4話目



「……おせぇ」

 黒のズボンが人工灯に照り返り、零れるのは愚痴とため息。

 スーツの上着を肩にひっさげながら、デイズはぼんやりと足元を見降ろし車のドアにもたれかかるように立っていた。

 目の前にはゴルド老の邸宅。

 ささめく風に首輪を鳴らしながら、デイズはPDA片手に顔をしかめ、今か今かと苛立ちを覗かせ爪先で地面を叩く。

「……確か二十分前についたと連絡したよなエディオール」

「ええ」

 溜息をこぼすデイズを横目に、窓越しに運転席で頷く人影。

 白くなった髪を掻き上げると、細身の初老の男は窓から顔を出し、項垂れるデイズの横顔に囁いた。

「では呼んできますか?」

「焚きつけるのは、どうにもマナーがなってない気がする」

「律儀な人だ」

「やかましい……」

 低い声で笑いを殺す男を横目に、デイズは地面を小突く足を止めると苦虫をかみつぶした表情で鼻を鳴らした。

 その言葉に男は更に気を良くして、俯きがちに肩を震わせ笑いを凝らす。

「ふふっ……〈アトラシア〉の調子はどうでしたか隊長?」

「いい機体さ。……すごく扱いづらい事を除けばな」

 そう言ってデイズは肩に背負ったスーツの上着を車のボンネットに放り投げると、シャツの胸ポケットからサングラスを取り出した。

「――確かに、上の連中が手放しでよこしてきたギアだ。一歩間違えたら星系一つが飲み込まれるだろうな」

「制御に欠陥でも?」

「どうにも危ういって事だ。駆動系を動かすたびに冷や汗が出る」

 怖々と肩をすぼめるままに、デイズはポケットからPDAを取り出し、手持無沙汰に指で画面を操作した。

 スゥとPDAから浮かび上がる立体型のディスプレイ。

 球体状に漂うモニターの中に立ち尽くす白い狼頭の巨人を覗き込みながら、デイズは軽く自分の首輪を撫でる。

「まぁ、すごいとは思う。……よくできたおもちゃだよ」

「不満そうですね」

「俺が?」

 目を丸くするデイズを尻目に、男はハンドルに身体をもたれさせながら、前のめりに街を見渡す。

「何か、ゴルド様に言いたい事があるんじゃないですか?」

「――正直なところ、〈エルザ〉や通常機体の方が使い勝手はいいさ」

 心のうちを見透かされたようで、デイズはそう言って首をすぼめて苦笑いを滲ませた。

「あんな出力、対フォートギア戦で使えんだろ。味方を巻き込むことになる。正直あの機体でお前らと連携合わせられるとは思えない。」

「ではどこで使うのですか?」

「知らんよ……」

 パチンとはじける立体ディスプレイ。

 男の言葉にため息をつくと共にそう呟くと、デイズはポケットにPDAを捩じりこみ、うんざりした表情で空を仰いだ。

「じじいの物言いじゃ、〈アストライア〉共々を使って連合を制圧するのに使うらしい」

「ゴルド様らしい」

「――じじいは本気だぜ」

「ますます」

「ったく……」

 懐かしむように呟く男を横目に、デイズは地面に唾を吐き、靴で濡れた地面をきつく踏みつける。

「〈アトラシア〉を使ってゴルドのじじいがほざくような事態になるとは到底思えんというが、俺の意見だ」

「なぜ?」

「現状、コロニーレベルでの巡航艦や単独空間跳躍を行う大型強襲艦にはブラックホール機関が積まれてるのは確かだ。

 ただ出力なんてその程度だ。銀河一つを征服するのに到底必要エネルギーが満たせるとは思えない」

「確かに。船の中に船が一機積まれているのと同じ状況ですからな」

「カタログスペック上はな」

「ですがあなたがいる」

「俺一人で戦うわけじゃないんだぞ」

「老はそのつもりですよ」

「反吐が出そうだ……」

 トントントンッ

 ゴルド邸から聞こえてくる軽快な足音が二つ。

 デイズはボンネットに引っかけっていた黒の上着を脇に抱えると、もたれかかっていた身体を起こした。

「まだじいさんは何かを隠しているかもな」

「あの機体にですか?」

「あの三人にだ」

「それとも、あなたか……」

「―――くだらん物言いだ」

「隊長は、ゴルド様の夢を信じて、船に乗るのですか?」

「さてな……」

 ガチャリ

 と、玄関の扉が開き、飛び出す二つの人影。

「ご、ごめんなさいっ」

 汗をうっすらと滲ませながら、小走りで門扉までの階段を下りるのは白いワンピース姿のエリス。

 大きな鞄を両手に引きずりながら、エリスは門扉を開きデイズの下へ歩み寄る。

「す、すいません……えと……荷物最後にまとめてたら……」

 息遣いも荒く、エリスはギュッと胸を押さえ屈みがちに囁く。

 デイズはムスッとした表情はそのままに、項垂れる少女に小さく肩を落とすと、苛立ち紛れに銀髪を掻きむしった。

「まったく……マキナは?」

「えと……すぐに出るって」

 そう言ってエリスは息を整えつつ、顔を上げようとする。

 ――ジワリと滲む景色。

 キィインッ……

 窓に爪を立てるかのような不快な音。

 空間が歪んだ次の瞬間、スカートと紅いシャツを着込んだ金髪の少女の姿がデイズの頭上に現れた。

「準備できたぁ!」

「……重たい……」

 がっしりと首に腕を絡めしがみつく金髪の少女に、デイズは青筋を浮かべつつ振りほどいた。

 華奢な身体が宙を舞い、ボンネットの上に小さな足が乗ると、鞄を肩に引っかけマキナは満面の笑みでデイズを見下ろした。

「えへへっ、お待たせおじさんっ」

「……とりあえず降りろ」

 説教を垂れたい気持ちを抑え、デイズはため息交じりにマキナの両脇を担いで彼女を車から降ろす。

 そして、エリスとマキナの二人を並べ、デイズは拳を軽く作る。

 鋭く紅い目を細める――

「……痛いぞ」

「は、はい……」

 パシンッ

 でこピンが額に入り、エリスはジンワリと涙を眼に浮かべながら、紅く腫れた部分を両手で押さえた。

 そして痛みに唇を軽く噛みながら、小さく肩を落とすデイズを不安げに覗きこむ。

「あの……」

「どんだけ規則が緩くてもな……一応銀河連合所属軍隊だ。……規律、時間規則はきちんと守らないといけない。

 わかってくれるな、エリス」

「……はい、えと……ごめんなさい」

「――いい子だ」

 しょんぼりとするエリスに、デイズは一応の反省が出来たとみて、ほんのりと笑みを滲ませた。

 と、クイッと引っ張られる袖。

 ビキリと青筋を浮かべると、デイズはスゥと紅く滲んだ目を細めて手元を見下ろす。

「ねぇねぇおじさん。時間ないんだったら早く行こっ」

 キョトンと灰色の瞳を輝かせながら手を引っ張るマキナに、デイズは呆れ調子のため息交じりにゆっくりと拳をつくる。

 そしてコツリとマキナの額に拳をあてる――

「……。お前の為に時間を割いているんだろうが、アホが」

 パシンッと乾いた音が響く。

「いったぁい!」

「有り難く受け取ってくれたみたいで俺は嬉しい」

 紅く腫れあがった額を押さえ、その場で軽く悶えるマキナを横目にデイズは車の後部座席の扉を開いた。

「乗れよ。そろそろ出航時間だ」

「はいっ」

「ふぁい……」




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