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夜明けのオオカミ―The Days of Atlazia―  作者: ef-horizon
一章:リンケージチルドレン
4/35

2話目

「大尉?」

 ガコンと大きく揺れる車体。

 車を格納した巨大なエレベーターが、周囲を金属の壁に包んだまま横滑りするように階下へと降りていく。

「――ったく……」

「……。なんか照れてます?顔少し紅いですし、なんかそわそわしてる」

「……肌が黒いのにわからんだろうに」

「なんとなく」

 トリフィア第一軍事基地。

 デイズが住んでいるトリフィア第一自治区から車で一時間ほど距離にある連合の海上基地があった。

 停泊港が二つ用意され、大気圏内と圏外で滑走路が三本ずつ用意されたそこは目立った建物は少なく、大きな管制塔の周りを飛行艇や宇宙船が停泊するのみだった。

 ただ海底には地下何百メートルに及ぶ軍事関係施設がタワー状に形成されていた。

「エッチな事考えてました?」

「……。お前の頭は軽くて良いなエミリア」

「ひっどい物言い」

「とりあえず、口を噤んでくれ少尉」

「―――誰だよ、妙な電波送ってくる奴……」

 下がっていく床の轟音が男の呟きをかき消す。

 視界を覆っていた隔壁が上がり、周囲の景色が広がっていくと、地下の施設がサングラス越しにデイズの目に映った。

 ――ゴゥン……

 格納庫全体に重たく響く駆動音。

 フックに固定された巨大な人型の機械が、人やアンドロイドによって改修を受け、中央には巨大な飛行艇に運搬されているのが見えた。

 第一層の格納庫。

 人型の機械はどれも新しく、艶ややかな灰色装甲にはミルドレシア王家の印がマーキングされている。

「……新型のフォートギア、か」

「〈エルザ〉です。一年前からの導入です。……といっても中央本星ミルドレシアのおさがりなんですけどね」

「辺境警備の俺達じゃしかたないさ」

 再び隔壁が視界を遮っていく。

 目新しい景色がなくなり、窓越しに巨大な機人を最後まで見つめていたデイズは、運転席に座るエミリアに眉をひそめた。

「しかし、ここにきて新型――妙に用意がいいな」

「最近、トリフィア・ミルドレシア本星間で、小さな反政府組織がうろついているのを衛星基地で確認しているんです」

「――じじいに喧嘩売る……大した度胸だ、いればの話だが」

「真意はゴルド爺さんの胸の内って事で」

「聞く気が失せそうだ……」

 床はなおも下がり、やがて窓越しの景色に静かな街並みが混ざるようになってきた。

 第二層の居住区画。

 眼下に広がる、機械の天井をつりさげた巨大なジオフロント

 中心にそびえる巨大な支柱を中心に円形に広がる街並みは、白を基調としたビルやマンションが連なり間を縫うように佇む木々が人口の風に揺れていた。

 そんな一つの大きな街がすっぽりと海底施設に収まる様子に、デイズは肩をすぼめる。

「……じいさんは?」

「ここです」

「そうか……」

「会いたいですか?」

 ――会いたい、会って話がしたい。

 そよ風に乗って耳に響く、か細い声。

 感じるのは、小さな気配が二つ――

「――まぁな……」

 僅かに背筋を走る熱っぽさ。

 窓際に頬杖をつくと、デイズはうんざりしたようにそう呟くと、けだるげに窓の景色から目を背けた。

 ガコンッ……

 エレベーターの床は止まり、車は再び居住区へ走り始める。

 車は道なりに進むままに、巨大な中央エレベーターから程なく離れた一軒の家にたどり着いた。

 窓に映る景色が止まり、程なく車から這い出したデイズの前には、広い庭に囲まれた豪邸が聳え立つ。

 人が百人は住めそうなほどの三階建の家屋。

 青々と広がる庭の奥にはプールが佇み、生やした木々が風に揺れていた。

「……ったく、豪勢しやがって」

 厭味ったらしいほどの豪華な家を前に、捨て台詞を吐きながら、デイズは目の前の家の門扉をくぐった。

「じいさん、いるかい?」

 ドンドンと叩く音が周囲に響き、程なくして目の前の扉がソロリと開いた。

 ――キョトンとした大きな瞳。

 ギィと音を立て開く扉の隙間から覗く小さな人影。

 長いブロンドを風に靡かせながら、そこには色白の少女は不思議そうに立ち尽くすデイズを見上げている。

 およそ見下ろさなければ見えない程の背丈。

 澄んだ蒼い瞳は、サングラスを外し訝しげに眉をひそめる褐色の男を、静かに映す。

 肩を小さく上下させ、零れる熱っぽいため息。

 唇は惚けたように少し開いたまま、少女は開いたドアの隙間から不思議そうに褐色の大男の顔を覗き込む。

「……」

 立ち込める無言。

 少女はドアの隙間からこちらを見つめるばかりで微動だにせず、デイズは気まずそうに首をすぼめた。

「あー……じいさんは……?」

「――デイズ……」

 ほんのりと呟く唇。

 瞬間、頬が微かに血の気を帯び、怪訝そうに首を傾げるデイズを尻目に少女は恥ずかしそうに首をすぼめた。

「あぅ、おじいちゃん……呼んできますので……待ってて、ください」

「おう……」

 戸惑うデイズを尻目に、少女はスッと顔を引っ込めると扉をバタンと閉めた。

 トトトトッ

 扉の向こうから聞こえる、早い足取りに、デイズはサングラスを胸ポケットに引っかけながら首を傾げる。

「……エミリア」

「ほいさ」

「ゴルドのじじいに孫なんていたか?」

「年が年ですし、いてもおかしくないんじゃないですか?」

「……。いや、今まで見た事もない――」

 ――チリッと頭をよぎる感覚。

「……。ん、いやいておかしくな、な」

「アリシアの事ですか?」

「なんでもない……」

 微かに頭の裏を掠める熱っぽさに、デイズは首をすぼめるとため息交じりにクシャクシャと髪をかきあげた。

 そして手持無沙汰に扉の前で待つ事五分。

 ガチャリ

 玄関の扉が開き、顔を出すのは先ほどと変わってごつい黒服の男。

 黒いサングラス越しに舐めまわす様にデイズの姿を見つめると、男は大きな手をデイズに突き出した。

「規則ですので」

「なくすなよ。高いんだから」

 言われるままにデイズは腰に下げていた拳銃を差しだすと、黒服の男たちはスッと中に入るように促す。

 デイズは誘われるままに玄関の戸をくぐると、後ろで立つエミリアを横目に手を振った。

「じゃ、後でな」

「はいっ」

 扉は閉まり、黒服の男たちにつき添われるままに、デイズは豪邸の中を歩いていく。

 玄関から伸びる階段を七段上った先の長い廊下の角。

 長い道のりを経て、応接間まで案内された先に、老人が一人ソファーに座りこちらを嬉しそうに見上げていた。

「久しいの……デイズ・オークス」

 ゴルド・ミルドレシア。

 現在の銀河連合を束ねるミルドレシア王家の一人にして、トリフィア星系域の監督と自治を任された男であった。

「死んでねぇでやんの……」

 顔中の皺を寄せ嬉しそうに微笑む老人の姿に、デイズは応接間の入り口を潜りながらうんざりとした表情を滲ませた。

 その言葉に老人は更に笑みを滲ませ、肩を震わせながら笑い声を噛みしめる。

「いいではないか。ワシももう少し生きたいのじゃよ」

「隠居しろよ。未だに准将様らしいじゃないの、じいさん」

「地位があって初めてなしうる事がある。しがみついているわけでもないのじゃよ」

「嘘くせぇ……」

 そう言ってため息をつきながら向かいに座る褐色の中年男に、老人、ゴルドは懐かしむように目を細める。

「二年前、軍から放り出した時から、変わっておらんの。お前は」

「お互いさまだ」

「減らず口も相変わらずだの」

「世間話するために俺を無職にしたわけじゃないだろ……」

「だとしたら?」

「あんたのその小ずるい物言いが嫌いだ……」

「ワシはお前の、うんざりした顔が大好きじゃ」

「だから聞く気が失せる……」

 そう言って天を仰ぐように仰け反るデイズに、ゴルド老は至極楽しそうに肩を震わせながら、胸元に手を這わせた。

「まぁ……あれじゃよ。お前の手が必要になったんじゃ」

 古臭いタバコをくわえると、ゴルドはうすら笑いを滲ませながらデイズとの間にある机に手を伸ばした。

「デイズ。ザール機関は知っておるかの?」

 カパリと開くテーブルの表面。

 隙間からライターを取り出しタバコを炙る老人の横目に、デイズは頬杖をつき手持無沙汰に応接間を見渡した。

「ザール未開発技術及び能力研究機関……。銀河連合の一機関で、とりあえず自分たちが持っていない能力を宇宙の中から発掘する、政府公認の海賊」

「良い認識じゃ」

「――タバコはやめろ。鼻がもげる」

「いや」

 紫煙をくゆらせながら、顎髭をさする老人に、デイズは眉をひそめながらも前のめりに顔を近づけた。

「で、それがなんだ」

「一年前かの、ザール機関の一研究所を発見したんじゃ」

「……まるで連中が隠れているかのような物言いだな」

「隠れてるんじゃよ」

「……」

「銀河連合がどれほどの規模になったか、お前さんは知っているか?」

「銀河二つを包む――ぐらいの認識かね」

「それほど大きな組織じゃ。我々組織の末端が、その他の末端組織を把握しきれんのは無理ない事じゃよ」

「中央からの自治が効かないとか、半分無法治国家だな……」

「だから、海賊と言ったんじゃろ」

 呆れて顔をしかめるデイズに、ゴルドは煙草を口から離しながら苦笑いを呈す。

「まぁ……ワシらも向こうも自由にやれる。だから、独自の技術と文化が生まれ、面白いものも見つけた」

「何見つけたんだ?」

「なんじゃと思う?」

 ――引きつる口元。

 ムッと眉をひそめる褐色の男を、しわがれた目で真っ直ぐ見詰め、老人はぽつりと言葉を口にした。

「……リンケージ・チルドレン」

「……」

「自身も深く関わった過去じゃ……覚えておるかの?」

「――他者の意識と知覚と繋がる子供たち」

「それは人のみに及ばず、空間、時間、あらゆる自ら以外の存在と繋がり意識を広げる子供たち。

 その力は特異点を発生させ、ありとあらゆるものに『現象』として作用する」

「……おかしいな。リンケージ能力は、ガリエアの大戦でミオとアリシアが見せた以外、外に情報を漏らしていないだろ

 それ以前は、本星から一言もこの力について言及はなかったはず」

「中央からの自治はなくとも、情報のやり取りはあったとみるべきかの」

「……胸糞悪い」

 吐き捨てるような言葉と共に、肺から空気を全部吐き出さんばかりに、デイズはため息を吐き眉間をきつく抑えた。

 目を閉じれば、瞼の裏をよぎる金髪の少女の瞳。

 少しおびえた少女が記憶の海に浮かび、デイズは目を開くと、顔色一つ変えない老人を睨みつけるように見つめた。

「……それがあの子か?」

「さっき会ったようじゃの。ちょっと無理言ってこっちで引き取らせてもらったのじゃよ」

「……」

「さて、本題に入ろうかの」

 テーブルの上に置かれた灰皿に煙草を押しつけると、老人は表情をやや強張らせデイズに改めて向き合った。

「デイズ・オークス、元連合軍強襲暗殺部隊隊長。貴殿には再び軍に戻っていただきたい」

「……」

「そして、ワシの下で再び働いてもらいたい」

「……考える暇、くれないみたいだな」

「――何の為にお前を無職にしたのじゃよ。切羽詰まっているのはワシもお前も一緒じゃよ」

 強張った表情を再び綻ばせながら、あっけらかんとそう告げるゴルドに、デイズはムッとした表情はそのままに、小さく首を振った。

「……仕事の内容を教えてくれ。でないとサインもできん」

「ほいさほいさ」

 そう言って指を鳴らす音が応接間中に広がる。

 途端に応接間の窓は、轟音とともに分厚いシャッターが掛けられ、薄暗い部屋の壁に割れ目が走った。

 そして鏡開きになった壁の向こうには、立体モニターが浮かび、映像が映し出される。

「うむ。大成功じゃ」

「……じいさん暇なわけ?」

「何を言う。今日の為にセッティングしたのじゃぞ」

 そう言いながらニヤニヤ口の端を歪める老人に、肩を深く落としながら、デイズは頬杖をついてモニターを覗きこんだ。

 そこには巨大な船の立体像が映し出されていた。

 流線形の滑らかなフォルム。

 丸みを帯びた船体には砲台が搭載されておらず、前方甲板の入り口から〈機人〉が出入りするのがわかるのみである。

 後方には格納庫からの出入り口があり、大型の推進口は僅かに三つと少なめ。

 船というよりは、美術品に近い――デイズはぼんやりと目の前の立体映像を見つめながらゴルドに尋ねた。

「じじい……こんなポンコツどうする気だよ」

「立派な戦闘艦じゃろ」

「話がまるで噛み合っていないんだが……」

「この子は〈アストライア〉と言うんじゃ。外観はこんなものじゃが、火器はほぼすべて内蔵してある」

「装甲が薄くなって落ちるぞ」

「落ちんよ」

 自信たっぷりに告げる老人の言葉に、うすら寒さを覚え、デイズは眉をひそめるままにゴルドから目を背ける。

「……これに乗れと?」

「そうじゃ。実物は後で見せるが、お前にはこれからワシの単独強襲艦〈アストライア〉のクルーになってもらう」

「ただソレ言うためだけに?」

「おまけもつけよう。三つほどな」

「……背筋がゾッとするプレゼントだ」

 深いため息とともに、シートに身体を埋めるデイズを横目に、ゴルドは苦笑いを滲ませつつ再び指を鳴らした。

 呼応するように映像は戦艦から姿を変え、大柄な機械の人形が紅い瞳に映し出された。

 同じくすらりとしたフォルム。

 薄型のスラスターベーンが脚部と背部に取り付けられ、頭部には二つ目の紅いアイカメラ。

 武器マウント部分は両肩と腰の三か所のみが見受けられるのみ。

 同じくとても戦闘用とは思えず――

「……これこそ、美術館にでも提出するつもりかよ?」

「型番号GA―SS―57と言ったところかの。今こっちに実戦配備されている〈エルザ〉の三世代後の機体じゃ。

 この映像は素体じゃ。実物は同じく後ほどということで」

「どこから持ってきったんだよ……」

「実験運用としてこちらに回ってきたんでな、ついでに本星から借りパクしてきちゃった」

「――あっそ……」

 ため息すら出ず、ガクリと項垂れるデイズを横目に、ゴルドは至極嬉しそうに機体の説明に入る。

「この子はの、エンジンに高圧縮のグラビティクラスター・エネルギーファンクションを搭載しているんじゃ。それらを保持するために特殊な斥力素材も各所に積んでおる」

「ブラックホール機関……大型の戦闘艦にしか積んでないと思ったが」

「今やフォートギア、機人は船を超える程のエネルギーを得たというわけじゃな」

「重力機関は非常に制御が難しいと聞くが……」

「本星の連中からもそう言われたわい。今回の実験運用テストも、こちらを捨て駒と考えてのことだからな」

 そう言いながら嬉しそうに目を細める老人の横顔に、デイズはハッと目を丸くするままに立ちあがった。

「まさか……」

「機体の操縦には、卓越した技術力と勘が必要になる。そしてシステムの制御にはワシには推し量れない力が必要になる。

 そう、リンケージチルドレンの力が必要になる」

「リンケージチルドレンの、能力テスト……その為にこんな大掛かりな」

「――正解じゃ」

 ニィと口の端をゆがめる老人の横顔を睨むように、デイズは薄暗い闇の中険しい表情で立ち尽す。

「……じいさん」

「今更、人道的ではない、と考えるか?」

 せせら笑うようにこちらを見上げる老人に、褐色の男は固めた拳を震わせにじり寄ろうとした。

「――俺はあんたほど、手を血で汚したつもりはない」

「あの子たちの才能はいずれ宇宙全体に必要になる」

「リンケージチルドレンなんて肩書きはもう廃れてしかるべきだ」

「本星では――そう考えておらんようじゃ」

 ――先ほどの言葉が、頭によぎる。

 デイズはムッと顔をしかめると、振り上げた拳を下ろす様に、わなないた背中を丸めソファーに身体を埋めた。

「ワシも、あの子たちをザール機関から拾い上げた時は絶句したよ」

「……連合はリンケージチルドレンの力を有用だと考えている、か」

「あまり好ましくない方向にの」

 目を閉じるままに、老人は少し声を震わせながら、語り始める。

「これはワシの一つの目標じゃ。……宇宙を翔けるなかで、お前達自身でいかように変えても構わん。

 されど、争いのない場所に子どもたちを逃がしても、連合が手を伸ばす事は必至じゃ」

「……」

「そうなれば、今より遥かに劣った環境が子供たちを待つだろう」

「――そうならないために、リンケージチルドレンの地位を上げる、か」

「幸い、ここには五年前のガリエア星系で多大な戦績を上げた英雄のひとりがここにおる。子供たちが共に戦績を上げ、宇宙にその地位を確立するのにさほど時間はかからん」

「大衆に晒されて、見世物にされるか。或いは場所を自分でばらすだけになるかもしれない」

 そう言って戸惑いに顔をしかめ項垂れるデイズに向き合い、ゴルドは深く頭を下げた。

「そうならんために……ワシはお前も力が必要なんじゃ」

「……あんたの目的は、ザール機関か」

「頼む……」

「……」

「どうしても……お前の力が必要なんじゃ」

「――ったく」

 デイズは観念したように深いため息を漏らすと、立体映像に映る機人を見つめながら頬杖をついた。

「火中に栗を拾う、か――」

「或いは、脱兎のごとく逃げ出すか」

「……これに乗って、戦えばいいのか?」

「コードネーム〈アトラシア〉。……二人乗りの機体でな。お前と子供たちの二人で操縦してもらう」

「――いやな名前だ」

「お前に乗ってほしいんじゃよ」

「……。俺は優しくないぞ」

 そう言いながら、憂いに満ちた表情を滲ませるデイズに、ゴルドは顔を上げると嬉しそうに肩を震わせた。

「嘘をつくのは、相変わらず下手じゃな」

「……」

「〈アストライア〉はおよそ七名のブリッジクルーと一人のリンケージチルドレンで動く強襲艦じゃ。合わせて二人。

 お前には、計三人の子供たちと共にワシの下で働いてもらいたい」

「……。計算が合わんのだが」

 頭に疑問符を浮かべるデイズを横目に、ゴルドは指を鳴らし立ち上がった。

 窓を塞いでいた金属のシャッターが一斉に登り、窓から差し込む淡い光に目を細め、老人は両手を叩いた。

「エリス、マナ。入ってきなさい」

 その言葉に、キィと音を立てて開く応接間の入り口。

 窓から零れる眩さに眉間を押さえながら、デイズは立ち上がると入ってくる人影に目を見開いた。

「紹介しようかの。エリス・バークライトじゃ。十一歳ながら強い接続能力を持っておる子じゃ」

 ゴルドの紹介に、紅く染まる頬。

 長い金髪を垂らし、俯きがちにギュッと胸元を押さえながら、少女は恐る恐るデイズの顔を覗き込む。

 握れば折れそうなほど華奢な手足。

 潤んだ蒼い瞳は、戸惑うデイズは真っ直ぐに映し、腹ぐらいしかない背丈は、白い肌も相まってか人形と勘違いするほどだった。

 震える唇は紅く、細い息を洩らしながら小さな声を鳴らす。

「……エリス……と言います」

「……お、おう」

 サッと隠れる華奢な身体。

 風を切らんばかりの迅速な動きは、素早くデイズの視線から身をひそめ、ギュッと影で身体を丸める。

「……」

「エリスぅ。隠れちゃだめだよぉ……」

「マキナちゃん……ごめん」

「……。えっと、マキナ・トライスフェルだよ、デイズおじさんっ」

 縮こまるエリスを横目に、照れくさそうに告げる少女は、同じ程の背丈の明るい少女だった。

 髪は同じくブロンド、澄んだ灰色を帯びた目は興味深そうにデイズの顔を映す。

 デイズは戸惑いながら、きょろきょろと首を傾げデイズの姿を舐めまわす様に見上るマキナに顔をしかめた。

「……珍しいか。こんなおっさんだが」

「――ふぅん。これがエリスの……」

「ん?」

「なんでもないよっ」

「……じいさん」

 ニコニコと笑う少女、片や不安げにこちらを見上げる少女を横目に、デイズは苦い表情で老人を睨みつけた。

 老人はというと、デイズにすり寄る二人を見つめながら満足げに頷いている。

「うんうん。相性がいいのは最初からわかってたがここまでいいとはの」

「……いやいやいや、なんか違う」

「デイズ。マキナはエリスと比べて力は劣るが、お前とは相性が良さそうじゃの」

「やっぱりこの話、なかった事に」

「お前もそう思うじゃろエリス」

 ――腰に走る強烈な痛み。

「ぐぇ!」

 気がつけば前のめりに倒れる程の強烈なタックルに、デイズは目を丸くしてテーブルに突っ伏した。

 ゴンッと額をぶつける鈍い音。

 紅く滲んだ額を押さえながら、デイズは躊躇いがちに後ろを振り返ると――

「……いい、一撃だ」

「……」

 ワイシャツに食い込む小さな指。

 ギュゥとしがみつく小さな影が一つ。

 デイズはよろよろと起き上がると、腰に抱きつくエリスを横目に苦い表情でゴルドに向き合った。

「……じいさん。マジか?」

「マジ」

「……」

「お前を信じてる子たちじゃよ。……お前が自分たちを救ってくれると」

「――選択した先に、あんたの信じる未来があると思うなよじじい」

「未来はお前達四人が決める事だ。わしにはもう未来がないからの」

「三人目どこよ」

「――度肝抜けるぞ?」

 ニィと嗤う老人は再びパチンと指を鳴らした。

 ガコンと上下に揺れる床。

 フワリと浮かぶような感覚。

 窓の外の景色が空へ向かって流れ始め、すぐに薄暗い隔壁に遮られてしまい、暗闇の中に立体映像の機械の巨人が浮かぶ。

「連れて行ってやろうっ」

「じいさん、ホントに二年間暇だったんだな……」

 苦い表情を浮かべるデイズの腰に顔を埋めるように、エリスはギュッとしがみつき、マキナは大きな褐色の手をギュッと両手で握る。

 全身に重りが二つ乗っかる感覚に、デイズは苦い表情を滲ませ、しがみつく二人を見下ろす。

「……怖いか」

 不安げにう俯いていたいたマキナは顔を上げ、照れくさそうにデイズを見上げる。

「――う、うん……少し」

「……行かないで」

 ギュッと顔をワイシャツに埋めながらコクコクと頷くエリスに、デイズはため息交じりに天を仰ぐ。

「……何の因果だか」

 ゴンッ

 家全体が何か固いものにあたったかのような音が響き、やがて身体が浮くような感覚が消える。

 窓の景色は未だ薄暗く、老人は立ち尽くすデイズに手招きしながら部屋を出た。

「来なさい。〈アストライア〉がお前を待っておるよ」

「……。じいさん、一人頼む」

「将来の嫁さんを邪険に扱っちゃいかんじゃろ、まったく」

「――――え?」

「……口が滑ったかの」

 可笑しそうに肩を震わせて部屋を出ていく老人の背中を見つめながら、デイズは氷のように立ち尽くす。

 息をするのも忘れるほど、立ち尽くす事一分。

「……おじさん、大丈夫?」

「……デイ…ズ?」

 心配そうに両手を引っ張るエリスとマキナに起こされた思考が、即座にゴルドの言葉を処理する。

(……気のせいだな。ああ、気のせいだろうな)

 それでも吹き出る大量の汗。

 眉間を押さえたくなるほどの痛みが頭の裏を襲い、デイズは歯ぎしりを滲ませながら軽く首を振った。

 と、クイクイッと腕を引っ張られる感覚。

 顔を上げると、そこには既に応接間を出ようと歩き出すエリスとマキナの姿があった。

「デイズ……さん」

「いこっ、おじさん」

 二人に引っ張られるままに、デイズは戸惑いがちによろよろと歩きだし、応接間から引きずり出された。

 そして廊下を抜け、一階の玄関前へと躍り出ると、そこには入り口に立つ二人の黒服。

 そして差しだされる大型の拳銃。

 デイズは二人の手を離すと、腰のベルトに差し込むままに胸ポケットからサングラスを取り出した。

「……さて、何が出るやら」

 サングラスで視界が薄暗くなり、デイズは邸宅の玄関の扉を開いた。


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