終幕:小さき三姫と白き獣
長いようで、短い旅が終わりました。
試験運用は結果的に成功したようで、トリフィア第一基地に帰ってくると皆晴れ晴れとした表情で船から降りて行きました。
エミリアさんも、エディオールさんも、ホモの人も正式な辞令があるまでまた本来の仕事に戻るようです。
整備員の人たちは皆基地の修理作業があるって急いで出て行きました。
私たちも、船を降りる事になります。
港には〈アストライア〉だけが残りました。
アリシアさんは〈アストライア〉に残って整備したい事があるって言っていました。
――デイズも〈アトラシア〉の前に残っていました。
「……良くやったな相棒」
首に引っかけた首輪。
アレはデイズがいつも牙獣の遺伝子を抑えるための制御輪だそうで、今は普通の姿に戻っています。
〈アトラシア〉はというとデイズにぐっと顔を近づけてい、鼻っ柱を撫で撫でするご主人様の言葉にピコピコ耳を動かして嬉しそうに頷いています。
見れば見る程、兄弟だと思えるくらいそっくりで、私はずっとそんな二人の姿を見ていました。
ずっと見ていたかったです。
「どうだ、少しはお前も慣れたか?」
――離れたく、ありませんでした……。
「楽しかったか……よかった」
ずっと後ろから追いかけて、なんどか手をつないでもらって、笑ってくれて、頭をたくさんなでてくれました。
たくさん褒めてくれました、その度に私の指先がどんどん熱くなっていきました。
胸がどんどんと高鳴っていって、時々前が見えなくなるくらいでした。
――もっと、言いたいことがあります。
もっとたくさん話がしたい。
もっとずっと長くいたい。
もっと、もっともっと……もっと――――
「――エリスっ……」
緊張してるのか、少しか細い声が聞こえてきます。
私は心臓が飛び出るくらいにびっくりして慌てて後ろを振り返ると、私より少しだけ背の小さなミカちゃんがいました。
ミカちゃんはちょっと焦ってるのでしょうか、ううん、ぽかんとする私を見る紅い目はデイズと一緒でした。
希望と勇気に満ちていて、とても紅い。
私はハッとなって少し強張った顔のミカちゃんに尋ねました。
「……もしかしてっ」
「うんっ……おじいちゃん、いいって……行っていいって……!」
「えへへっ、私も聞いてきたよっ」
そう言って何もない空間から飛び出すのは、私の大好きなマキナちゃん。
唯一の肉親のお姉ちゃんに私は手を伸ばすと、少し申し訳なくて、二人に頭を下げる事にしました。
惚けてたのは、私が悪いんですから……。
「ごめんね。その二人に任せきりにして……」
「――考えてくれたのは、エリス……。それだけでいいの……」
「えへへっ、今回はエリスがリーダーだもんねっ」
私の手を握り返してそう言いながら、マキナちゃんも、少し頬っぺたが赤くて、少し緊張気味に笑っていました。
ううん、緊張じゃないんです。
――デイズが好き……。
そんな気持ちが少し熱い手を通して、一杯に伝わってくるのがわかります。
私も負けてないからっ――
「……エリス、マキナっ」
ミカちゃんも私とマキナちゃんの手を握ります。
ミカちゃんも負けないくらい大きな気持ちを持っていて、私はそれぞれの手を重ねて、気持ちを伝えあいます。
一杯、一杯になってきて溢れてくる。
白い狼さんが、私の中で膨らんでくるのがわかる――
「……後は、お父さんに言うだけ……」
「――いつ言う?」
「マキナちゃんもミカちゃんも頑張ったから……今度は私が言うね。二人の為に」
心に炎が灯る。
炎が暗闇を指して、光が私の中に生まれる。
光の向こうにあの人が立っている。
行こう、あの人の下へ――