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夜明けのオオカミ―The Days of Atlazia―  作者: ef-horizon
三章:アトラの白き獣
29/35

23話目



「……な、なんだと……」

 ミルドレシア邸。

 小太りの青年、アトモスは応接間にて真っ青な表情で壁に埋め込まれたモニターに血走った目を向けていた。

 真っ黒に染まったモニターには何も映らない。

 先ほどまで逃げ惑う人影は通信の途絶と共に消えて、音沙汰もなく。

 最後の一瞬に見えたのは、壁が崩れ施設が津波の様な衝撃波によって飲み込まれていくシーンだけ。

「……消えた」

 アトモスは立ちつくしたまま、ガクリとその場に崩れ落ちると、頭を抱えて背中を震わせた。

「は……ははっ。どういうことだよ、どういう――」

 ガチャリと開く扉。

 震えた笑い声が途切れ、アトモスは青ざめた表情をもたげて、入ってくる人影に更に目を見開いた。

 ニィと剥きだす紅い歯茎から零れる血肉。

 気だるそうに垂れた手の先から、ぽたぽたと大量の血が滴となって床に垂れる。

 見開く蒼い双眸。

 撫で肩で風を切りながら、ゆっくりとした足取りでゴルド・ミルドレシアがアトモスの前に歩み寄る。

「……ダラエは……どうなったんだ……」

「消えたよ」

「旗艦は……旗艦の反応すらないんだぞ……!」

 ――老人は嬉しそうに笑う。

「のぉ、うちの連中は強かろう」

「ありえない……ありえない……ダラエは、ガリエア星の反乱軍の二倍の戦力は保持していたんだぞ。

 旗艦だって、早々に落ちるものではない、対物質装甲を持ちあらゆる攻撃を跳ね返すものだ……!」

「事実は全てお主の手の中に」

 歯の間に絡む肉片を吐き捨てながら、ゴルドはニィと口の端を歪めながらゆっくりとアトモスに近づく。

 アトモスは慌ててポケットからPDAを取り出し、画面を操作する。

 ディスプレイにダラエ周辺の地図が浮かび上がる――

「……ザール機関の本拠地が……消えてる……なんで」

「消えたからじゃ」

「あり得ない……」

「少し見くびったようじゃの。アトモス坊や」

 ――虚空を掠める刃。

 手に持ったレーザーナイフが肉を焼き、皮膚を切り裂いて、アトモスの右腕を引きちぎった。

 ボトリと床に転がる太い腕。

 悲鳴を上げて断面を押さえながら悶えるアトモスの頭を足で踏み、ゴルドは嬉しそうに微笑む。

「……ワシらは……お前達本星の連中を殺すために、ここまで生きてきた」

「ぎぁあああ……」

「下らぬ相続争い。端の星々は放置されて、征服するだけでしてインフラ整備もままならぬまま、いくつもの文化と種族が終焉を迎えている。

 今では、ミルドレシアの人間だけが残るのみで、他の種族は殆どザール機関に送られ、展示物扱いじゃ」

「ゴルドォオオオオオ!」

 恨めしげに呻く喉ごと風を引き裂く鋭い熱刃。

 飛び散る血飛沫が、ニィと歪めた口の端を紅く塗らす。

「かはぁ……き……貴様ぁ……」

「本星の連中はただただ消費するだけでなにも厭わない、考えない――銀河は広過ぎたんじゃよアトモス。

 連合は、宇宙は、今新たな王を求めておる」

 激しい憎悪に揺らぐ黒い瞳。

 鮮血が噴水の如く天井を紅く染める中、ゴルドはナイフを手の中で転がしながら、喉を押さえ床に悶え苦しむアトモスの下へと歩み寄る。

「宇宙をまとめるためには、広大な意識を持ち、あらゆる存在に共鳴するあの子たちが上に立たねばならないんじゃよ。

 不幸にも、あの能無しゴミ娘がその可能性を一つ殺してしまったがな」

 苛立ちも露わにゴンッと頭を一発蹴りつけると、にこにこ笑いながら、ゴルドはゆっくりとナイフの先を下に向けた。

 ぎこちなく腰が曲がり、ヒタリとレーザーエッジが首筋にあたる。

「ぎぁああああああ……!」

「デイズとあの子たちがこの宇宙を統べる。そしてその子供もまた意識の広がりと繋がりを以って、宇宙をまとめていく。

 そこには、ミルドレシアという名前は、ワシも含めてすべて、必要ない」

 悲鳴と白煙が首から立ち上る中、ゴルドは嬉しそうに目を細めながら、ゆっくりとナイフを前後に動かす。

「心配せんでよい。直に意識はなくなる――お前の頭の中身を入れ替えて、身体だけいただこうかのぉ。

 何、ワシはワシの身体だけを愛しておる。心配せんでもよい」

「あがぁああああ!がぁあああああああああああああああ!」

「お前の身体は弱ったザール機関を乗っ取るには十分なエフェクトを得そうじゃ」

「あ……がぁああ……おとう……さま……」

「デイズが……我が息子が、誰よりも幸せに生きるために……深く眠れよ」

 血しぶきに濡れる紅い瞳が細まり、ニィと嬉しそうに笑う顔が事切れるアトモスの視界に映った。




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