21話目
('A`)「マッマ……なんでだよ」
J( 'ー`)し「少し油断したようだね……この私としたことが禁断の技を使って負けるなんて」
('A`)「マッマは知ってたんだろ、烈風正拳突きをするんだったらまずブリザードストームを撃たないと……マッマの胸はもう……垂れて出ないんだよ」
J( 'ー`)し「ああ……そうだったね……私はもうここで終わりだよ」
('A`)「マッマ……」
J( 'ー`)し「だが……お前も死ねぇ!」
('A`)「なっ」
J( 'ー`)し「お前も! お前も! お前も! 私のために死ね!」
その夜、町に大きな花火があがった。
――次の日、母が病院送りになった。
('A`)「知ってるよ……マッマがとんでもなくクソババアだってことをな」
ゆうちゃんはむせた。
はい、では残りは戦闘シーンが大半。読みづらかったらとばしてもいいのよ?
「はいはい、艦長自らご到着よ」
薄暗い管制室。
敵の船の中にありながら、白衣を翻しゆっくりとアリシアはだだっ広い管制室の中へと足を踏み入れた。
暗闇の中、数人の人影が瞳に映る。
そしてその中に一人、鼓動が僅かに早い音がいる――
「……あなたね」
コキコキと首を鳴らしながら、不機嫌そうに細める双眸。
黒髪を書き上げ、一人の男に歩み寄ると、アリシアは突きつけられるいくつもの銃口を横目にため息と共に口を開いた。
「既に両艦内の敵は消滅したわ。こっちのエンジンも止めた。諦めなさい」
「……強いな……」
「クルー全員、おじいちゃんが鍛え抜いたからね。世が世なら肩パッド付けてこん棒片手にバギー乗ってるような連中ばっかよ」
「――そしてアリシア・ミルドレシア……リンケージチルドレン」
「あの子たちの情報と被検体が目的――残念ね。あの子たちのデータは全てうちのラオ変態医務員が管理してるわ。
脳味噌の皺にデータチップを挟んでアへ顔晒してたわあいつら」
「……殺せ、こいつはいらぬ」
「――一つ聞くわ」
暗闇を引き裂く閃光。
銃口を向けていた敵が一斉に自分の口にバレルを突っ込んでトリガーを引く中、アリシアは小さく首を傾げた。
「あなたたちは誰?」
「ザール能力機関……我らはお前達異能力者を調べ……ミルドレシア王家の繁栄の為に仕える……」
「本当に直近連中みたいね。他には?」
「―――喋ることはない……」
「なら喋る必要はないわ」
――暗闇をよぎる鋭い敵意。
「あなたの脳味噌に聞くから」
暗闇から輪郭をぼんやりと滲ませる人影。
天井に張り付いた逆さの状態から、男の頭上からグッと両手を伸ばして、こめかみに深々と指を二本突き刺す。
捩じれる首。
勢いよく回転しながら飛び出す頭部はアーチを描いて、やがて血溜まりを作りながら床に転がる。
首から飛び散る紅い噴水に染まるアサシンスーツ。
ボテ……倒れる胴体を踏みつける足先。
ステルスフィールドが消え細身の身体が姿を現し、ライアスはため息交じりに足元に転がる頭をつかんだ。
そして十本の指を頭部にめり込ませては、手の甲に取り付けた機械が光を放つ。
手の甲のファンから吹き上がる光の粒子。
めり込ませた指先から瞼の奥へと情報が流れ込む――
「……ここから230光年先の砂漠の惑星ダラエですね。どうやら星全体が大がかりな基地なようですね。
戦力は……他に防衛衛星が三つ、大型戦艦が二千、惑星間砲レベルの砲台が数えるのがアホらしいレベル。
手を出せばこっちがプチッと踏みつぶされるレベルなんですけど」
「軽いもんよ。デイズはその二倍の戦力を一人で殲滅させた人よ」
「旦那自慢ですか……」
「う、うるさいわね……!」
顔を真っ赤にしてそう言うアリシアに、ライアスは可笑しそうに笑いながら、両手から頭を引きぬいた。
そして放り投げて足で踏みつぶすと、胸ポケットからPDAを取り出す――
『遅いっ』
回線を開くなり飛び出す怒号に、ライアスは怖々と首をすくめると口を開いた。
「状況報告します。ブリッジ占拠完了。そっち全員殺しました?」
『二回敵艦内巡回してトイレの中までしらみつぶしにマンハントしたもの。もうマップ覚えちゃったわよ……』
「了解」
通信を切り、胸ポケットにPDAを収めるライアスを横目に、アリシアは踵を返した。
「じゃあ、行くわよ」
「ホントに行くんですか?」
「――私は殲滅戦を行うと言ったのよ」
ニヤァと嬉しそうに笑いながらそう呟くアリシアに、ライアスは引きつった顔を浮かべて首をすくめた。。
「……怖い女のひとですねぇ、隊長」
――PDA越しに聞こえる、ため息。
『同意するよ』
底なしの暗闇に翻す光の外套。
全身から光の粒を噴き上げ、白き鎧のフォートギアが何もない場所から這い出す様に腕を伸ばし飛び出した。
分厚い装甲にめり込む鋭い足の爪。
バシンッと尻尾で虚空を叩けば空間が波打ち、紅い装甲の敵艦の上に立ちながら〈アトラシア〉は鼻息も荒く眼下に目を細める。
グッと掌を足元に向け、唸り声を洩らす――
『エミリアとライアスを頼む』
「ん」
――黒く抉れる空間。
艦影の殆どを飲み込む黒い球体が、船の内側から膨れ上がり、次の瞬間には船の大部分を刳り貫いて消え去った。
滑らかな断面図を残して敵艦は消滅し、僅かな瓦礫が宙を舞う。
白く滑らかな装甲を金属片が撫で、瓦礫を払うようにたなびく長い羽衣の尾がそっと白銀の装甲を撫でる。
――ガゥウウゥ……。
掠める羽衣に、愛おしげに細める紅い双眸。
巨人は弱々しく声を洩らし手の中に漂う羽衣をそっと撫で、手の中に納める――
『さて、アリシア』
光の粒子が尾を描き、力強く蹴りあげる虚空。
水の中を泳ぐように巨人は傷ついた〈アストライア〉の下へと駆け寄ると、そっと抉れた装甲に手を這わせた。
「じじいとの連絡がとれたわ――殺せって」
鋭い爪がコツリとささくれた傷口を撫で、光の粒が開いた掌から零れ落ちて密度を増していく。
開いた傷口が見えなくなるほど光の粒が膜を作っていく――
『マキナっ』
「おじさん、二人は?」
『こっちだ。お前もこっちに来るか?』
「――行きたいけどぉ……船の制御もあるし……行きたいけど」
『後でまた二人で乗ればいいさ』
「――うんっ」
光を照り返す、滑らかな表面。
膜を作っていた光は白い装甲へと姿を変え、〈アストライア〉の肌が元通りになると、巨人は満足げに頷き踵を返した。
そして労うように肩を撫でる白い衣に小さく手を振り、〈アトラシア〉は先端のデッキへ足を下ろす。
『ライアス、エミリア、ついてくるか?』
『お酒の誘いだったら乗るんですけどぉ……』
『私パス1。隊長の遊びにつきあうとか、冗談抜きで死ぬわよ……』
開いた背中の装甲の内側から迫り出すスラスターブレイド。
脚部のスラスターベーンから粒子が尾を引いて吹き上がり、背中から溢れる光が翼のように大きく広がり形を作る。
突き出した手のひらの先へと集まっていく――
『ったく後で奢れよ――エディオール、後は頼んだ』
『存分に……』
『ああ』
――霞に溶ける白い巨躯。
身体を包む光の粒子の向こう、〈アトラシア〉はスゥと蒼穹の輝きの中に輪郭を滲ませ姿を消した。
光の粒子だけが残り香のように辺りに漂い、滑らかな衣を撫でる。
持ち上がる船首。
羽衣をたおやかに揺らめかせながら、白い船は巨人の後を追うようにその方向を暗い宇宙へと向ける。
「じゃあ、惑星ダラエ。私たちも追いかけるわよマキナ」
「はぁいっ」
船の先端に小さな黒い球体が浮かび上がり、〈アストライア〉は針ほどに小さな黒い塊へと帆を進める。
〈――おじさん……道を示して……〉
――脈打つ宇宙。
光の粒を纏いながら、球体はマキナの囁きに答えるように途端に膨れ上がり、羽衣の舟を飲み込んでいく。
白い装甲が黒く飲まれ、別の宇宙へとその帆先を進めていく――