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夜明けのオオカミ―The Days of Atlazia―  作者: ef-horizon
三章:アトラの白き獣
26/35

20話目

 


 潮風に揺れる黒髪。

 空を赤く染めるほどに大きな夕日が、潮の向こうへと落ちていき、黒髪を結んだ紐がスルリと解けて砂に溶けていく。

 足で砂を蹴りあげるままに、一緒に宙を舞う靴。

 もう片方の靴も脱ぎ捨て、力なくさざ波に投げ捨てると、ひたりと小さな足の指を押し付けた。

 ジンワリと砂の熱が伝わる。

 痛いくらいで、少女は苦しげに眉をひそめると、つま先立ちでトトトッと小走りにさざ波まで飛び込んだ。

 バシャリと飛び散る水しぶき。

 冷たさが踝を覆っていき、少女は安堵に小さく肩をすぼめながら、その場に腰を下ろして膝を丸めた。

 スゥと伸びていく長い影。

 踝が濡れ、打ち返す波に投げた靴が戻ってくる。

 力なく俯き、膝に顔を埋めるままに、潮風が首筋を掠め、ひらひらとドレスのフリルが靡く。

「……お父さん」

 潮騒に声が攫われる。

 夕日に紅い目が滲んでいく――

「……お父さん……やだよ」

「――ミカちゃん……」

 息を切らしながら、波しぶきの中に聞こえてくるか細い声。

 風に揺らめく白いフリルのドレス。

 長い影が足先に重なり、潮風に金色の長い髪を靡かせながら、エリスはヨロヨロと砂を踏みしめ蹲る黒髪の少女に歩み寄った。

 夕日に緋色に滲む瞳。

 おぼつかない足取りが影を踏み、エリスは苦しげに胸を押さえながら少女、ミカの背中に手を伸ばす。

 指先が肩に触れる――

「ミカちゃん……帰ろう……」

「――触らないで……」

 か細く響く声。

 パチリッ

 何もない空間に紫電が走り、エリスは微かな指の痛みに顔をしかめながら、慌てて少女から手を離し後ずさった。

 肢体をヨロヨロと左右に振り乱し力なく立ちあがるミカに、エリスは顔をしかめる。

「……ミカちゃん、デイズが待っている」

「……」

「どうして帰らないの――私がデイズと楽しそうに話してたから?」

 フルフルと首を横に振るミカに、エリスは驚いたように目をあけると、少し安心して幼い表情を綻ばせた。

「だったら、帰ろう。私なんかより、ミカちゃんの方を、ずっとデイズは待っているはずだから」

 スッと伸ばす小さな手。

 俯いていた無表情が僅かに揺らぎ、ミカは項垂れたまま、後ろめたそうにゆっくりとさざ波の中へと後ずさる。

 苦しげに胸を掻くむしり、唇をかみしめる――

「一緒に帰ろっ。私はマキナちゃんとデイズと一緒の四人でいたいから」

「――ダメ……」

「一緒に行こうっ」

 耐え切れずに息をゆっくりと吐き出す――

「ミカちゃんっ」

「私……お母さんのクローンなの」

 ――弾ける目の前の空間。

 シュッと指を掠める微かな痛み。

 震える声が、跳ねあがる砂に掻き消え、エリスは指先からジワリと血流しながら、トンッと地面を蹴り後ずさった。

「……知ってるよ」

 眼前にできた大きなクレーター。

 フォートギア一体が悠々と入るほどの窪みを見下ろしながら、エリスは縁に立ちつくしたままミカを見つめる。

「アリシアさんが話してた……でもミカちゃんには、デイズの血が流れてる」

「……」

「私には、それがとてもうらやましいな」

 ユラリと風にたなびく長い黒髪。

 砂が窪み川が足元に生まれ、ミカは俯きながら、何度も何度も首を横に振ると苦しげに背中を丸め胸を押さえながら呻いた。

「……私は……お父さんを傷つける」

「そんなことないよ」

「――お母さんのクローンだから……お母さんと同じだから……お父さんの事も……エリスもマキナも傷つける……」

「そんなことない」

 ジワリと目に浮かぶ涙。

 頑として言葉を変えないエリスに、ミカはギュッと紅くぎらつく目をきつく閉じると何度も首を振った。

 大きく息を吐きいだす――

 ――風を切り裂く鋭い刃。

 空気がグニャリと歪み、熱風に靡く金色の髪。

 エリスの両脇を掠めて走り、空気の塊が砂地を融かしながら、大地を抉り、後方の道路を飲み込んだ。

 ドォオンッと大地に走る地鳴り。

 岩塊が弾け、後ろにそびえる大きな山にぽっかりと穴が二つ浮かび上がる。

 荒い息使いにミカの胸元が上下する――

「……私は……エリスが憎い」

 俯いた声が低くなる。

「一生懸命にお父さんにアプローチを仕掛けるあなたが憎い。真っ直ぐにお父さんを見つめる事が出来るあなたが憎い。

 マキナが憎い。明るくてお姉さんで……一杯笑ってお父さんの手を引っ張っていく。

 私は……そんなことできない……根暗だし……バカだし……」

「ミカちゃん……」

「他の人だってそう……皆そう……皆お父さんのことを取ろうとする……私からとろうとしているの……!」

「そんなことない」

「わかってる。頭ではわかってるの……!」

 空間が破裂する音がそこらかしこで響き、砂浜にいくつも大穴が浮かび上がり砂埃が宙を舞う。

 夕焼けに赤らむ肌を砂埃が撫で、エリスは頬を拭う。

「でも……私はあなたを殺そうとしてる……私の中で誰かが私を殺そうとしているの、あなたを憎いと言って、引き裂こうとしている!

 お母さんみたいに、私は皆を殺そうとしてるの……皆死んじゃうの……」

「……」

「いかないで……どこにもいかないで……」

「……どこにもいかない」

「私は……皆と一緒にいたいよ……」

 その場に崩れ落ちる華奢な体。

 それでも爆撃を受けているかのように、砂浜に、何か巨大な球体に刳り貫かれた跡が次々に浮かび、音もなく砂が飛び散る。

 潮風に靡かせる白いスカート。

 砂埃が視界を隠し、エリスは不安げに胸を掻きむしると、砂を強く蹴り砂嵐の中を歩こうとする。

 周囲の空間が切り取られる中、足をすくませ、それでもエリスは前に進み恐る恐る砂塵の向こうに手を伸ばす。

 蹲るミカに手を差し伸べる――

「私は……友達を諦めない……!」

「やだ……やだぁ……!」

「だって、ミカちゃんもデイズが好きだから……一緒だからっ」

「来ないでぇええええええ!」

 蹲る華奢な体から迸る衝撃波。

 津波のように、地面が盛り上がっていき、目に見えない分厚い風が後ずさるエリスの眼前へとやってくる。

 胸を手で押さえ、エリスは目をつむり体を縮こまらせる。

 暗闇に意識を投げかける――

「デイズ……」

 ――紅く細める鋭い双眸。

「いい子だ……」

 晴れる砂塵。

 風に一言呟けば、破裂するシャボン玉のように衝撃波が途絶え、静かなさざ波が夕焼けに沈む砂浜に響き渡る。

 ずしりと爪を砂にめり込ませ、僅かに沈む巨躯。

 潮風に銀の体毛を靡かせ、大きな背中の人影は、横に薙いだ腕をすっと下ろし、砂浜へと足を踏み入れた。

 ヒクリと風の音を聞く、長く尖った耳。

 突き出た鼻筋に皺を浮かべ、ニィと迫り出す鋭い牙。

 潮風に銀の体毛を靡かせ、狼頭の男が申し訳なさそうに笑みを滲ませると、腰を抜かしへたり込むエリスの下へと歩み寄る。

 少女の驚いたような眼に、毛深い獣が映る――

「少し遅れた……すまない」

 そっと金髪を撫でる毛深い手。

 鋭い爪がスルリと長い髪を梳き、エリスは優しく撫でられるままにオオカミ男の掌に頬を寄せた。

「デイズ……」

「……俺がやろう。見ておけ」

 翻す長い銀色の尻尾。

 大きな影を背負い、風を切る大きな背中を見つめエリスは、ギュッと胸を押さえゆっくりと後ずさる。

 紅くぎらつく目を細め、不敵に笑うオオカミの横顔を見つめる――

「……ミカ。少し度が過ぎるな」

「――お、お父さん……」

「こっちへ来なさい……」

 スッと伸びる大きな手のひら。

 ミカはビクリと肩を震わせ、おずおずと目を泳がせながら、力なく項垂れると恐る恐る手を差し伸べる。

 鋭い爪が白い肌に食い込み、滲む紅い血。

 熱っぽく手を握りしめる強い力に、ミカは引っ張られるままにヨロヨロと倒れ込んで、顔をオオカミの腹に埋めた。

「――お父さん……離して……」

 か細い声にヒクリと尖る耳。

 オオカミは困ったような笑みを滲ませると、膝を折り、鼻をすすり俯く娘の手をそっと持ち上げた。

 うっすらと手の甲の爪跡から血が滲みでる。

 ヌルリ……

 突き出た口腔を押し付けるままにオオカミは、娘の傷口を丁寧に長い舌で舐め取る。

 ザラリとした感覚に真っ赤になる白い肌。

 ミカは紅い瞳を大きく見開き、茹で上がった顔から蒸気を噴き上げながら腕を振り乱しデイズの手をほどこうとした。

「お、おとうさん……離してぇ……!」

 それでもオオカミの手は離れることなく、大きな口腔は腕から肩、そして朱に染まった首筋へと近づく。

 白い肌に食い込む牙。

 うなじに噛み付くように、娘の首筋を耳元まで艶めかしく舐め上げながら、オオカミは耳元に囁く。

「――なぜ逃げた?」

「だってぇ……だってぇ……」

 カクカクと震える膝。

 腰が砕けてくの字になる身体を抑え込むように、背中に腕を這わせ抱き寄せながら、オオカミは耳を噛む。

 息が耳元に届き真っ赤になる頬。

 指先を分厚い胸元に食い込ませ、耳の裏に舌を這わせながら、荒くなる息遣い。

 苦しげに眼を閉じると、目尻に涙浮かべながら、ミカは堪えるようにスカートの裾をきつく握りしめる。

 熱っぽい吐息をこらえようと軽く唇を噛む――

「おとうさん……怖かったの……」

「どうして俺に言わなかった?」

「――お父さんを殺したいって思ってた……憎くて……私の事見てくれなくて……」

「嘘をつく子は嫌いだ」

 涙を浮かべ惚ける娘をよそに、オオカミは身を引こうとする――

「やだぁ……!」

 首に絡みつく小さな手。

 立ちあがるオオカミを押さえるように、ミカは飛びかかると毛深い肩に顔を埋めるように抱きついた。

 そっと黒い髪を梳く大きな手。

 片膝を立て座り直すと、オオカミは泣きむせび震える背中をなだめるように撫でた。

「いい子だ……俺の言う事がわかるな」

「お父さんが好き……でも私はお母さんのクローンだから……お母さんの嫌なところも全部持ってるの……」

「ああ……少しきつい目なんて母親そっくりだ」

「私もお母さんみたいになるかもしれない……皆殺しちゃうかもしれない。お父さんを傷つけちゃうの……。

 私……こわいよぉ……」

「――いい子だ……」

 そっと髪を撫でる大きな手のひら。

 僅かに太ももを擦り合わせて、埋めた肩を軽く噛むミカの背中を撫でながら、デイズは耳元に優しく囁く。

「……ただ、娘に負けるような力は持ち合わせていないさ」

「おとうさん……」

「親子共々、三代揃って何が悪い所か……わかるかミカ?」

「……んんっ」

 ニィと綻ぶ鋭い牙。

 痒そうに足の内側をよじるミカを力強く抱き寄せ、オオカミはスゥと紅い双眸を遠くに広がる海に投げかけた。

「そうやって、所構わず遠慮する所だ」

「遠慮……」

「我慢が弱いくせにそうやって自分の事をないがしろにして、苦しいと嘆く……」

「お父さん……」

「辛いなら全部俺に言え、苦しいなら俺に言え。してほしい事、したい事、些細なこと、何でも構わない。

 全て俺がかなえてやる。……ミカの為に、俺は力を尽くしてやる」

「……毎日の事も?」

「そうだ。何を食べたか、おいしかったか」

「……おしっこしたとかも?」

「どれくらい出たか俺に言え」

「……。い、言わなかったら……」

「――悪い子だ……」

 か細く耳に届く声に、鋭く細める双眸。

 期待に目をジンワリと潤ませるミカの視線に、オオカミは苦笑いを浮かべそっと汗ばんだ額を撫でた。

 コクリと小さく頷く仕草。

 我慢するようにミカは紅く染まった顔を体毛に埋めると、何度も頬っぺたを肩に擦りつける。

 ギュッと首筋に爪を立て胸を大きな体に押し付ける――

「おとうさん……お父さんが好き……全部好き……」

「いい子だ――いずれアリシアと同じ苦しみに立つかもしれない。それはコピーだからじゃなく親子だからだ。

 ミカ……お前は俺の血を引いてるんだ」

「うん……うんっ」

「怖がるな……何があっても俺はお前の手を離すな。俺が手を引っ張って戻してやる……苦しみのない場所まで導こう……」

「おとうさん……」

「ミカ……俺のところに戻ってこい。」

「――はいっ」

「いい子だ……」

 そっと髪を撫でる大きな手。

 腰にしがみつく娘をなだめながら、オオカミは立ち上がると、長い尻尾を翻し沈む夕日に背中を向けた。

 そして顔を赤くして惚けるエリスを見下ろす。

 影を伸ばし、毛深く白い腕を伸ばす――

「エリス、ミカ」

 ――砂が盛り上がるほど、足元から衝撃が付き上げる。

 逆立つ銀の体毛。

 鋭く双眸を細め、オオカミは嬉しそうに目を細めると、駆けよってくるエリスの手を握りしめた。

 そして、視線を緋色の空に持ち上げる。

 細めた紅い瞳に、ゆっくりと大地を抉り、海岸線の向こうからやってくるにじり寄る灰鎧のフォートギアを映す。

 虚ろな目をこちらに向ける機械人形に、オオカミはニィと笑みを滲ませる――

「……ザール機関」

「お父さん……」

「――行こうか、相棒っ」

 巨大な壁の如く連なって歩いてくるフォートギアを前にその言葉に、ミカとエリスは互いを見比べ、互いに小さく頷いた。

 そして互いに胸に手を当て、祈るように項垂れる。

 スゥと蒼い瞳を閉じ、紅い瞳を暗闇に投げかける。

 意識を宇宙に広げる――

「――夜明けを導く者よ……紅きランタンが暗き大地を照らし、導きの道が大地を染めていく」

「夜明けの向こうより来たれしモノ……強き名を持ち我らの前に来たれり」

 どこまでも広がる星空の草原の中、夜明けの地平へと紅いランタンを掲げる大きな背中が見える。

 オオカミは優しく微笑む――

「〈アトラの白き神〉……」

「〈導きの獣の従者〉」

「跪け」

「姿を現せ」

『アトラシア……』

 ――緋色の日差しを照り返す白い鎧。

 茜色の空を覆う巨大な狼の影。

 振り下ろす拳は、灰褐色の装甲にめり込んだ瞬間、内側から破裂したかのように、巨人の身体を微塵に返した。

 迸る衝撃波に盛り上がる砂。

 爆風を遮るように地面に足を下ろし透明の外套を翻しながら、〈アトラシア〉がデイズと数体の巨人の間に立った。

 まるで人間が蹴りあげるかのような軽い反動が砂浜に伝わり舞い上がる砂埃。

 ――グルルルゥ……!

 光の尾を引き、飛び出した巨躯は二体のフォートギアの頭を左右の腕に掴み、山の方へと押し出していく。

 カシャリと開く手のひらの装甲。

 黒い球体が左右の掌い浮かび、〈アトラシア〉は巨人を引きずりながら、地面に力強く頭部を打ち付ける。

 柱の如く天高く舞い上がる土埃。

 地鳴りと共に巨人が深々と大地に突き刺さる――

 ――膨れ上がる黒い球体。

 大地を抉り光を吸い込む重力異常は、外側から敵の身体を圧縮し、或いは内側から破裂させと化していく。

 中で熱が渦を巻いて、圧縮された装甲が蒸発し、或いは雪に変わり飛び散っていく。

 そして黒き球体は敵を飲み込んだまま収縮する――

 ――がぅぅ……。

 バシンッ

 地面を抉る尻尾、細い繊維を重ねた長い髪の様な尾先が風に揺れる。

 ニィと嬉しそうに剥きだす牙。

 悠然と踵を返し、白い鎧の〈アトラシア〉は砂浜へと地面を優しく踏みわけ歩み寄ると、片膝を折り座り込む。

 グッと首を垂れて、胸に手を当てて白き獣に忠誠を誓う――

 ――ぐるるぅ……がぅ……がぅ……がぉ。

「いい子だ……皆が待っている」

「……お父さん……」

 胸の装甲が開き、ハッチの奥に見えるコックピット。

 ふと聞こえてくる少し掠れた声に、デイズは長い尻尾を翻し、、少し強張った表情で覗きこむ娘に眉をひそめ首を傾げた。

 ギュッと小さな手が震えて、毛深い手の甲を這う。

 夕焼けに潤む目を僅かに細め、濡れた唇が僅かに震える――

「……私も……エリスと……マキナみたいに……乗りたい」

「――エリス。少し手伝え」

 牙を覗かせ口の端を上げると、オオカミは自分の娘の手を握り返した。

 白い頬を赤らめながら、ミカはハッと目を丸くすると、引っ張られるままにオオカミの背中を追いかける。

 大きな背中が見上げるほどに、ミカの視界にそびえたつ。

 熱いくらいに紅く――

「……お父さん……」

「――さぁ、お前の番だ。俺を導いてくれ」

 巨人の前に立ちスッと離れていく大きな手。

 僅かな寂しさが胸を掠め、それでもミカは少し表情を強張らせながら、小さく頷き地面を蹴りあげた。

 まるで水の中を泳ぐように、軽やかに跳ねる華奢な体。

 目一杯に手を伸ばし、潜るように身体をハッチの奥に滑り込ませながら、少女はシートに小さなお尻を収めた。

 そしておぼつかない指先を手すりの窪みに添える――

「……エリス……どうするの?」

「〈アトラシア〉が手伝ってくれるよ。大丈夫っ」

 そう言ってエリスは水の中を泳ぐようにミカの傍に寄り添うと、彼女の右手に自分の手左手を重ねた。

 手すりから迫り出す蒼い球体。

 二人の指先が蒼い球体に呑みこまれ、球体に満ちる液体がうっすらと光を放つ。

 呼応するようにトクンと一気に高鳴るむなの中。、

 苦しげに熱っぽい息を吐き出し、ミカは惚けたように下に座る父の背中を見下ろし、トロンと目を細める。

 グッと再度レバーを握る仕草が、紅い瞳の奥に入ってくる――

「んぁ……きゅぅ……」

 ――ピリピリと背中を走る痛み。

 下腹部からこみ上げるジンワリとした熱に、ミカは声の出そうになる唇を噛みしめ、華奢な体をよじった。

 火照る白い肌が粟立つ。

 ごつごつとした手がそっと撫でるような感覚に、背筋がピリピリとする。

「はぁ……んんっ……お父さんっ……」

「ミカ……ちゃん……」

「ひぁ……そこぉ……お父さんっ……やらぁ……!」

 半開きの口から零れる甘い声。

 股下を突き上げるような感覚に、腿の内側を何度もこすり合わせながら、ミカは頬を赤らめ苦しげに胸を上下させた。

 トクン……トクン……。

 大きな手が首筋をなでる感覚に、心音がどんどんと高鳴る。

 肌を伝う、抱きしめられるような感覚に、ミカは腰を浮かせ、トロンと紅い瞳を潤ませながらオオカミを見つめる。

 半開きの唇から熱っぽい吐息が零れ、涙が頬を伝う――

「お父さん……お父さん……」

「ミカちゃん……も……」

 エリスも同じように頬を赤らめ、苦しげに眉をひそめながら、息も絶え絶えにオオカミの背中を見下ろした。

「い……行きましょうっ……デイズ」

「――やっぱり、三人がかりじゃないとダメか……」

 ペタンと垂れる尖った耳。

 オオカミは鼻先を爪で掻き、少し申し訳なさそうに首をすぼめると、ジンワリと頬を染めるミカを横目に呻いた。

 そして再度レバーを強く握りしめ、前のめりにオオカミは体をかがめる――

「ふぁあああっ……」

「行くぞ、相棒」

 翻す長い尻尾。

 関節を軋ませゆっくりと立ち上がると、〈アトラシア〉は沈む夕日に向かって腕を伸ばし手のひらを開いた。

 ポコリと黒い球体が迫り出し、周囲の光を一瞬にして飲み込む。

 装甲の隙間から吹き上がる光の粒子。

 空気が爆ぜ、黒い球体が巨人を飲み込むほどに大きくなる。

 そしてその中に広がる、無限の空間に、紅い瞳をぎらつかせ、巨人はニィと笑う。

 ―――グルルウルルゥ……!

 夕日に向かって唸り声を響かせる――




もうね、ワンコさえ書けばそれでいいの。比率的にはワンコ(人間タイプ)1:ワンコ(ワンコタイプ)1:幼女3でいいと思うの。モブ?残らず滅却でしょそりゃ。

J( 'ー`)し「おかしなこというとる」

(`Д)「うっせぇババア、人が夢語ってるときに割り込むんじゃねぇ!」

J( 'ー`)し「夢?かなえられもしないものに投資をすることが夢なるものか?」

(`Д)「積み上げることに意味があるんだよ!叶え方は千差万別あれど積み上げる痛みも苦労もみな同じ、だからこそ共通の答えがそこにあるんだよ!」

J( 'ー`)し「瓦礫をいくら積み上げようと、できた塔は容易く壊れる、お前もそうしてやろうか」

(`Д)「だから土台を強くしようと今頑張ってる所じゃねぇかぁ!邪魔すんじゃねぇ!」

J( 'ー`)し「ぬかしよる。私が撒いた種がいかほどに育ったか見せてもらおうか」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

――今、戦いが始まる。

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