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夜明けのオオカミ―The Days of Atlazia―  作者: ef-horizon
三章:アトラの白き獣
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18話目

ふぅ……

ガキども?知らんな



 トリトン第一衛星基地。

 補給を受けていた〈アトラシア〉が停泊する出港用ドックに突如として無数の人影が押し寄せてきた。

 皆赤黒い服を着込み、ぞろぞろと船に物資を搬入する職員に銃を向ける。

「艦長ぉ。艦の周りにに敵の反応が出ましたぁ」

 外で銃撃戦が始まる中、エミリアは欠伸を噛みしめながら呟くと、椅子を引いてのろのろと立ち上がった。

 管制室中央、〈アストライア〉の中央操縦席の前のアリシアは、部屋を出ようとするエミリアに顔をしかめる。

「……寝不足?」

「ライアス君とエディオールさんとで遊んでたから寝てなくて」

「死んだら寝不足で死にましたって墓に刻んであげる」

「どうせ来ないでしょ。ミオの隣に建ててもらうんだから」

「……いつか行くわよ、ミオの所には」

「そ。じゃあ迎撃作戦に出るわ私」

 欠伸を噛み殺しながら管制室を後にするエミリアに、アリシアは気まずそうに首をすくめると、クシャリと黒髪を掻き上げた。

 そして天井を見上げては、小さく口を開け息を吸い込む――

「……行くわよ、マキナ」

「おまたせっ」

 金色の長い髪を翻し、虚空を飛び出す華奢な体。

 ほっと溜息をつくアリシアを横目に、マキナはそのまま飛びこむように、金魚鉢のような蒼い液体へと身体を浸した。

 そして水を漂うケーブルを体に巻きつけ、マキナはアリシアを見上げる。

〈遅れちゃったっ〉

「……デイズは?」

〈ミカが……〉

「――そう」

 不安に揺れる灰色の瞳を見つめ何かを察して、アリシアはそう呟くだけでそれ以上は聞かず、真剣な表情で一歩前に出た。

「じゃあ、行きますか」

〈――〈アストライア〉へのリンケージを開始します……〉

「通信出して。基地の責任者に話がある」

〈はい……〉

 ゆらゆらとケーブルを水の中に漂わせながら、マキナは目を閉じると、ギュッと胸元に手を添える。

 固まっていく蒼い輝き。

 淡い光を放つ結晶が生まれ、マキナの胸元で輝きを放つ――

〈……リンケージ完了。通信出すね〉

「ん」

 前面のモニターが外の景色から、男の焦りに満ちた顔へと変わり、アリシアはニッコリと笑って手を振った。

「おいす」

『アリシア少佐、正体不明の敵がそっちに来ている! 貴艦はすぐに発進の準備を!』

「してるから出して」

『了承した、武運を祈る!』

「あんがと」

 大きな反響を立てて左右に開く壁。

 空気を丸ごと放り投げ前方の分厚いハッチが開くと、レーザーポインターが光の道を作り真っ暗の宇宙へと飛び出した。

 ソレと共に周りで銃声を上げていた敵は諸共に宇宙へと投げ出される。

 そして迎撃していた職員は閉じていく搬入口へと潜り込み、背部のバーニアから光の粒子が吹き上がった。

「発進。マキナ、二十秒をカウントして」

〈カウントダウンスタート。十九、十八、十七――〉

 はためく半透明の羽衣。

 背部スラスターから吹き上がる白い炎が純白の〈アストライア〉を押し出し、突き出たデッキの先端が宇宙の闇へと潜り始めた。

 そして、脇を走るガイドポインターに沿うように白き船が空へと飛び出す。

「敵攻撃来るわ。各員は衝撃に備えて」

〈――三、二、一〉

「マキナ、身体を丸めて」

 ――何もない空間から走る光の咆哮。

 グラリとよろめく船体。

 圧縮粒子による艦砲が〈アストライア〉側面を一直線に捉え、夜にはためく白の羽衣へと喰らいついた。

 装甲から舞い上がる光の粒子が膜になって、レーザーキャノンを拡散させる。

 無数の光の点が放射状に飛び散るの中をかいくぐるように、何もない空間から巨大な船が顔を出す。

 それこそ〈アストライア〉の側面すぐ傍に――

「三十秒後に敵が接岸してくる。各員白兵戦の用意」

『了解!』

「マキナ。リンクを切って、ここからは手動で船を動かすわ」

 艦内の通信から聞こえてくるクルーの返事を聞きながら、アリシアは少し急かす様にマキナに告げた。

 スゥと消えていく胸元の結晶。

 自然と身体に巻きついていたケーブルが取れ、マキナは目を開くと、ばねのように勢いよく蒼い水を蹴りあげ飛び出した。

「どうするの?」

「……皆殺しよ。うちの船に傷をつけるとかすり潰す以外の選択肢はないわ」

 ――ゴゥウウンッ

 大きく左右に揺れる華奢な体。

 船が横に押し出され、敵艦に接岸される中、マキナはよろめいて床に倒れ込みながら、とぼけた顔でアリシアを見上げる。

 ギンッと見開く紅い双眸。

 牙を覗かせ、怒りに身体を震わせるアリシアに、マキナは苦笑いを浮かべ後ずさった。

「うっ……怒ってる」

 ――真っ白な装甲にぽっかりと開く穴。

 ヌチュッ……

 側面装甲に通路が差し込まれ、敵が流し込まれていく中、アリシアはバキリと指を鳴らして床に一歩を踏みこんだ。

 モニターの向こう、船の廊下を走る敵の姿に、目を赤くぎらつかせる。

「各員に告げる、防衛戦を行いし後、敵のせん滅戦を行う!」

 船全体に艦内放送が走る。

 怒声に、敵の動きがピタリと止まり、アリシアは興奮に荒く息を吐き出しながら、声を張り上げて吠えた。

「敵艦を全て一切の慈悲なく消滅させよ! 捕虜は要らぬ、死体も要らぬ、敵を敵だとみなせる全ての者をこの宇宙から抹消せよ! 

 我が父ゴルド・ミルドレシアと、我らが英雄デイズ・オークスの覇道を阻むものは茨より険しき獄道を歩むものと教えよ!

 進め、一人残らず皆殺しにしろ!」

『了解!』

 満足そうに頷くアリシアが何を言っているのかあまり理解しておらず、マキナはポカンとして首を傾げながらも立ちあがろうとした。

 と、むずむずと胸の内がささめき立ち、マキナは頭上を見上げる――

「あ」

「来ないでぇ!」

 ――管制室に響き渡る悲痛な悲鳴。

 スカートがひらりと空を舞い、大粒の涙を眼に浮かべながら、何もない場所から飛び出したのはミカ。

 その後ろから、追いかけるように飛び出すエリス、両手を一杯に伸ばし必死な表情でミカの手を掴もうとする。

「ミカちゃん待って!」

「来ないでって言ってるのにぃいいい!」

 宙に浮かんだまま、スゥと消える小さな背中。

 コンッと蹴りあげる虚空。

 エリスは逃げるミカを逃がさないように目を閉じながら、ミカの消えた場所へと、水に潜るように飛びこんだ。

 バシャンッと飛び散る水しぶき。

 波打つ空間へと消える二人を見上げながら、アリシアは不安そうに眉をひそめると、ややあって力強く白衣を翻した。

「出るわ」

 管制室の扉をくぐれば、微かに硝煙の匂いが漂う。



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