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夜明けのオオカミ―The Days of Atlazia―  作者: ef-horizon
三章:アトラの白き獣
22/35

老いてその眼は衰えず

ちょっと幕間多すぎんよぉ

すんません、なんでもしますんで許してください、オナシャス




「もう三日かのぉ……」

 トリスティア第一基地第二層。

 ゴルド・ミルドレシア邸宅地下二階。

 薄暗い廊下の左右に続く牢獄の隅、ゴルドは足を縛られ、暢気な様子でぼんやりと天井の染みを数えていた。

 手元には配給された空の缶詰。

 心なしか掴まる前より太った気がして、ゴルドは天井を見つめながら哀しげにため息を零した。

「はぁ……あの坊やは何をしとるんかのぉ……」

「呼びましたか?」

 澄ました声に、ヒクリと動く眉。

 天井を見上げていた視線を落とし、鉄と電磁による檻の向こうから顔を出す人影にゴルドは目を細めた。

 そこには綺麗な服に包まれた、小太りの青年。

 手にはPDA、傍に立つお付きのガードマンは抱えきれないほどの紙の資料を持ちながらゴルドを見下ろす。

 その顔は、ゴルドの中で従事していた男たちそのものだった。

 ゴルドは深いため息を吐くままに、ガクリと項垂れると、足元に転がる空の缶詰を指で小突いた。

「まぁ……人望がないのは知っておったがのぉ」

「リンケージチルドレンの資料はどこですおじい様?」

「……デリオアを焚きつけたのはお主かアトモス?」

「私は何も? ただあなたが反逆の兆しありと本星からの命を手渡せば喜んで飛んで行きましたよ」

「――そんなものあるはずもなかろうて」

 丸めた背中を震わせおかしそうに笑う老人に、青年はムッとした表情を浮かべ老人のいる牢へと歩み寄った。

「さて……今度は私が聞きましょう。リンケージチルドレンの資料はどこです?」

「何のことやら」

「繰りごとはよしましょう。ザール機関から奪取した資料を渡せと言っているんです」

 暗闇を走る光の筋。

 肩を浅く抉るレーザーに皮膚が焦げ、身体を丸めるゴルドの身体からうっすらと白煙が立ち上る。

 ――ニィと綻ぶ口元。

 うっすらと汗を額に浮かべながら、老人は顔を上げると顔色一つ変えず首を振った。

 そしてゆっくりとした口調で囁いた――

「消した――お主には、見つけらんだろうて……」

「――まぁいい。ザール機関の方々には三人を拿捕すればそれでいいと伝えてあります」

「捕まらんよ……」

「五年前のガリエア大戦を制した男、デイズ・オークスですか? たとえ優秀なフォートギア乗りの彼でも」

「ワシらを誰だと思っておる……!」

 ――闇の中に、目が赤く光る。

「元強襲暗殺部隊――対人暗殺部隊が高々数匹の人間ごときにとめられると、やりあえるとでも。

 アトモス。お主まだワシらを舐めとるな」

「……」

「――お前は何も得られん。ただの自らの命を手放すのみ」

 ニィと老人は笑うまま、ゆっくりと身体を丸めて再び蹲る。

 身体から出ていた湯気が止まり、ジワリと抉れた傷口から滲みだす血の滴がゴルドのボロボロの服を赤く濡らす。

 そして老人はピクリとも動かなくなる――

「……もう一度屋敷を探せ。ただし上の連中には気づかれるな。あくまでゴルドを風邪にみせかけるのだ。

 気取られては、こちらが終わる」

「これはどうしますか?」

「捨て置け。どの道どこにも行けんのだからな」

 ――老人は嬉しそうに笑う。

「……ククッ」

「――ザール機関はあなたを敵と見なしました」

「本星がしっぽ切りを行わない確率は……?」

「……あなたは何もできない」

「勝てばええんじゃよ……」

 カツリ、カツリ……

 廊下の向こうに気配が消えていき、老人は蹲りながら、それでもニヤニヤと暗闇を覗きこんでいた。

 ブルリと震える肩。

 滲みでていた血が止まり、肉がえぐれた肩から迫り出し傷口を覆っていく。

「高くつくぞ、アトモス・ミルドレシア……」

 紅く滲んだ眼が暗闇の中で見開く――


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