表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けのオオカミ―The Days of Atlazia―  作者: ef-horizon
二章:想いを言葉に/言葉を形に
20/35

幕間:夜明けを導く白き狼

 




 昔から……あなたのことを見ていた。

 夢の中、風を体に受ける時、空を見上げる時、水を飲むとき、目を閉じるとき。

 いつもあなたは私の中に、そして傍にいてくれた。

 暗い草原に立つ狼。

 体中がボロボロに傷ついた狼だった。

 銀の毛先を伝ってぽたぽたと血の滴が垂れてきて、風に揺れる草原の草葉を紅く濡らしている。

 顔には大きな傷跡が出来て、立っているのも本当は辛そうだった。

 でもその狼は立っているの。

 息を吸い込む口腔に覗かせる鋭い牙。

 爪は地面に食い込ませ、長い尻尾を風になびかせながら、力強く地面を踏みこみ狼は風の中を歩く。

 優しく夜風に微笑む紅い瞳。

 たった一人、どこまでも広がる草原に立ちながら、狼は夜星を見上げる。

 風を吸い込み、ゆっくりと歩く――

「……エリス。管制が鈍いわよ」

〈――はい〉

 私はそんなオオカミの背中を見つめ、その後ろをついて歩くの。

 ううん、今はミカちゃんも、マキナちゃんも一緒に狼の後ろをついて草原を歩く。

 大きな口にくわえているのは、大きなランタン。

 時々後ろを振り返り、狼は少し心配そうに後ろを歩く私たちを見て、またトコトコと暗い草原の中を歩く。

 シュッと手の甲を葉先が撫で、切り傷が浮かぶと、狼さんは一目散に私の下まで駆け寄ってくれる。

 コトリと地面に置かれるランタンが足元を照らす。

 すりすりと鼻先を私の頬に擦りつけ、狼はそっと傷口を舐めて私を癒してくれる。

 私は嬉しくて、とても嬉しくて、ミカちゃんとマキナちゃんと三人で狼さんのランタンを握りしめ、前を歩く彼の行く先を仄かな明りで照らす。

 夜でも迷わないように、狼さんの足元に照らすように。

 ポタリ……ポタリ……

 血が滴る音が聞こえる。

 血がたくさん出ても、それでもその狼は地面を強く踏み込み、良風を体に受け喜びをかみしめるように軽やかに歩く。

 星の見える海を目指し、ゆっくりと――

〈……デイズ〉

 ずっと一緒にいたい。

 私は……皆と一緒にあの夜の草原を歩きたい。

 ミカちゃん……。

 私はこの気持ちをミカちゃんに届けたい。

 夜明けのオオカミは私たち三人の傍にいるって、心から伝えたい。

 寂しくないよって――




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ