幕間:夜明けを導く白き狼
昔から……あなたのことを見ていた。
夢の中、風を体に受ける時、空を見上げる時、水を飲むとき、目を閉じるとき。
いつもあなたは私の中に、そして傍にいてくれた。
暗い草原に立つ狼。
体中がボロボロに傷ついた狼だった。
銀の毛先を伝ってぽたぽたと血の滴が垂れてきて、風に揺れる草原の草葉を紅く濡らしている。
顔には大きな傷跡が出来て、立っているのも本当は辛そうだった。
でもその狼は立っているの。
息を吸い込む口腔に覗かせる鋭い牙。
爪は地面に食い込ませ、長い尻尾を風になびかせながら、力強く地面を踏みこみ狼は風の中を歩く。
優しく夜風に微笑む紅い瞳。
たった一人、どこまでも広がる草原に立ちながら、狼は夜星を見上げる。
風を吸い込み、ゆっくりと歩く――
「……エリス。管制が鈍いわよ」
〈――はい〉
私はそんなオオカミの背中を見つめ、その後ろをついて歩くの。
ううん、今はミカちゃんも、マキナちゃんも一緒に狼の後ろをついて草原を歩く。
大きな口にくわえているのは、大きなランタン。
時々後ろを振り返り、狼は少し心配そうに後ろを歩く私たちを見て、またトコトコと暗い草原の中を歩く。
シュッと手の甲を葉先が撫で、切り傷が浮かぶと、狼さんは一目散に私の下まで駆け寄ってくれる。
コトリと地面に置かれるランタンが足元を照らす。
すりすりと鼻先を私の頬に擦りつけ、狼はそっと傷口を舐めて私を癒してくれる。
私は嬉しくて、とても嬉しくて、ミカちゃんとマキナちゃんと三人で狼さんのランタンを握りしめ、前を歩く彼の行く先を仄かな明りで照らす。
夜でも迷わないように、狼さんの足元に照らすように。
ポタリ……ポタリ……
血が滴る音が聞こえる。
血がたくさん出ても、それでもその狼は地面を強く踏み込み、良風を体に受け喜びをかみしめるように軽やかに歩く。
星の見える海を目指し、ゆっくりと――
〈……デイズ〉
ずっと一緒にいたい。
私は……皆と一緒にあの夜の草原を歩きたい。
ミカちゃん……。
私はこの気持ちをミカちゃんに届けたい。
夜明けのオオカミは私たち三人の傍にいるって、心から伝えたい。
寂しくないよって――