15話目
「……負けた」
溶接音響くハンガー内に掻き消える声。
ぽっかりと一機分空いた〈エルザ〉の待機スペースを見下ろし、パイロットスーツ姿エミリアはキャットウォークの上に座っていた。
「ガチやって負けたんじゃ世話ないですよエミリアさん」
カツンとキャットウォークに響く足音。
ぽかんと口を開いたまま、虚ろに見上げた先には同じスーツ姿のライアス。
呆れた表情も露わに、エミリアに手を伸ばすと、彼女を立ち上がらせるままにポンと肩を叩いた。
「まぁ、お疲れエミリアさん」
「……結構悔しい」
「隊長だって手加減したわけじゃありませんし。そもそも〈アトラシア〉性能テストとリンケージチルドレンの実戦データが目的ですし」
「――知ってるわよ」
「割り切らないエミリアさんが悪い」
「あんたにはわかんないわよ」
「女々しい物言い」
ゴツンッ
脛を蹴り飛ばすローキックに悶えるライアスを横目に、エミリアは深いため息と共に手すりにもたれかかる。
そして項垂れるままに目を閉じる――
「ライアス君……私大人げなかった?」
「いててっ……隊長本気で来いって言ったんでしょ?だったら良いじゃないですか」
「……」
――カラン……。
首に巻いた首輪の乾いた音が、遠くからでもはっきりを聞こえてくる。
ハッと見開く目。
エミリアはビンッと背筋を立てると、脛を押さえて蹲るライアスを尻目に、敬礼のポーズを取った。
歩み寄る大柄な褐色肌の男を見上げ、エミリアは気まずそうに口元を引き締める――
ニィと綻ぶ口元。
ポコリ……。
手に丸めていた資料でエミリアの頭を叩くと、デイズは困ったような笑みを浮かべ惚けるエミリアに呟いた。
「まったく、無茶して……」
「――妹の所にはまだ行けませんから」
頬を膨らませ、ジトリと目を細め恨めしげに呻くエミリアに、デイズは怖々と首をすくめては、苦言を漏らす。
「だったら素直に俺の命令を聞け。なんでレーザーエミッターどころか重装まで持ち出した」
「……あなたを殺したかった」
「俺が憎いか?」
「――はいっ」
「良い返事だ。……武装の無断持ち出しと権限乱用につき、艦長より処罰が下される」
そう言いながら、デイズは手に丸めていた紙を広げると、そそくさと脇から覗きこむライアスを横目に読み上げる。
「ま、簡単な話だ、第一衛星基地につくまでの五日間、部屋で謹慎すること」
「あははっ、エミリアさんも災難だなぁ」
「あとホモの飼育」
「なんでぇええええええええええええ!?」
「ライアス・ホーネス(ホモ)をまっとうな人間に作り替えろとのお達しが上から来ている」
「違うやろ!まるで僕以外が全員まっとうな人間みたいな物言いやないかぁああ!」
「はいはい」
食い下がるライアスを横目にデイズはトントンッと軽い足取りで踵を返すと、その場を去ろうとした。
グイッと軍服を引っ張る細い腕。
引きとめられるままに後ろを振り返ると、デイズは苦笑いを浮かべ、項垂れるエミリアを見下ろした。
「――言いたい事があるんだな」
「……ごめんなさい隊長」
「感情の置き所がなくて困ってるんだな。いいさ、俺を恨んでくれても」
「したくありません……私は、あなたを敬愛していますから」
「ありがとう……」
「――だから、今度はもっと本気で来てくださいねっ」
トンと押される背中に、デイズは前のめりにのけぞりながら歩き出すと、手を振るエミリアに首を傾げた。
そして腑に落ちない表情でを去るデイズの背中を見つめ、エミリアはため息をつく。
「ねぇライアス君」
「な、なんすか……」
床に崩れ落ちて涙を流すライアスのケツを蹴り飛ばすと、エミリアは呆れたように肩をすくめた。
「ミオはどうして隊長と結婚したと思う?」
「知らんですよ……チンコの大きさじゃないですか?」
「隊長童貞ですし」
「知りませんよぉ……なんですかアリシアさんに続いてエミリアさんも嫁さん宣言する気ですか?」
「――私より強い男はイヤ」
「マジ!?」
ガバッと勢いよく顔を上げるライアスの輝く瞳から目をそむけると、エミリアは踵を返した。
「でも、私より弱い男はもっとイヤ」
「――この、ワガママ女ぁあああああ!」
「知ってる」
悲痛な叫びに、エミリアはクスクスと笑い声を凝らしながら、肩越しにライアスに手を振った。
(……ミオ。ごめんね、また殺しそびれちゃった)
そして小さくため息をつくままに、クシャリと灰色の髪を掻き上げる――
(今度はいつ殺したくなるだろうね……)
無音で開く入り口の扉。
「あ、お帰りなさいデイズ」
入り口をくぐる大きな人影。
デイズの自室、ソファーに座り水を啜っていたエリスは慌てて立ち上がると、デイズの下まで駆け寄った。
腕には胸元にしなだれる小さな人影。
桃色の肌を染めながら、そこにはスーツ姿のマキナが抱きかかえられていた。
「マキナちゃん……」
熱っぽい息を吐き出し、肩を上下させる華奢な体。
それでもデイズにしがみつくように、首に細い腕をからめ顔を埋めるマキナに、エリスは少し頬を染めた。
「あ……えと」
「少し熱を上げたようだ」
「マキナちゃん……」
「体を冷やしてくれ。俺は少しエミリアの所に行って叱ってくる」
デイズはエリスが座っていたソファーの向かいにマキナを横たえると、腕を背中から引き抜いた。
――ギュッと絡みつく小さな手。
立ち上がろうとして、首にしがみつくマキナに、デイズは中腰になりながら苦笑いを浮かべた。
「どうしたマキナ」
「ん……まだぁ」
「おじさんはまだ仕事があるんだがな……」
「やらぁ……」
「悪い子だ……」
「――おじさんのいじわるぅ……」
渋々離れていく小さな手。
デイズは身体を起こすと仰向きに寝転がりながら、恨めしげにこちらを見上げるマキナの額を撫でた。
ビクンッと跳ねる華奢な体躯。
大きな手が肌を撫でるたび、下腹部からこみ上げる甘い痛みに腰が浮き、マキナは目をきつく閉じた。
息使いが少し荒くなり、頬を赤らめながら唇を噛みしめ、マキナはギュッとその場に身体を丸める。
そして恨めしげにデイズを横目に見上げる――
「……つかれた……」
「今日は良くできた。褒めてやりたいくらいなんだ」
「――四人で一緒に寝たい……」
「努力するよ」
そう言って肩を撫でると、ヒクリと痙攣するマキナを横目に、デイズは顔を赤くして惚けるエリスに手を振った。
「じゃあ行ってくる。まだ少し仕事があるからな」
「あ、はい……行ってらっしゃいませっ」
「――ふふっ……ああ、行ってくるよ」
たどたどしい物言いに既視感を覚えながら、デイズは肩越しに手を振って部屋を後にした。
そして戻ってくる静けさ。
デイズの笑みに首を傾げながらも、エリスはソファーに身を丸めるマキナの傍に歩み寄ると、顔を隠す彼女を躊躇いがちに覗き込んだ。
「……マキナちゃん」
「――ミカは?」
「部屋で寝てるって……」
「ん……」
「大丈夫?」
「――すっごく……やばいかも」
胸を押さえていた指先を肌に這わせながら、マキナは恐る恐る下腹部を摩る。
「このあたりね……なんかすごく熱い」
「マキナちゃんも……?」
「うん……」
お腹を押さえながらゆっくりと身体を起こすマキナの向かいに座りながら、エリスは躊躇いがちに頷いた。
「私も初めてオオカミさんに乗った時、あんまり意識してなかったんだけど、身体がぼぉって熱かった。
その時は、デイズの事だけ意識してたから、なんとかなったけど……」
「そっか……エリスもこうなったんだ……」
「ん……」
「……もし、あの状態がずっと続いたら、私たちどうなるのかな」
「――多分……」
「多分?」
「……デイズの事で、止まらなくなると、思うの」
「……だよね」
「ん……」
そう頷きながら、恥ずかしさにエリスは顔を赤らめると、マキナと同じく首をすぼめて項垂れた。
そうして少しだけ時間が過ぎる。
スゥと肌蹴た白い肌から血色が少しだけ引き、マキナの肌が白く映える。
背筋を流れる痛みも引いていき、マキナは顔を上げると、俯くエリスに少し気まずそうに笑みを浮かべた。
「シャワー浴びるね。緊張して汗かいちゃった……」
「あ、マキナちゃん……」
トクンと跳ねる心音。
翔け足で飛び出すマキナを呼びとめると、エリスは立ち上がって胸の鼓動を押さえるように胸元を押さえた。
「あのね……ミカちゃんにも言ったんだけど――」
そして少しだけ緊張に唇を震わせる――
「――ミカ、うんって言った?」
エリスの言葉に、マキナは灰色の目を丸くして首を傾げると、エリスは気まずそうにフルフルと長い髪を靡かせた。
「で、でもね!」
跳ねあがる声色。
エリスは耳まで顔を赤く染めると、ズイッと歩み寄るままに呆然と立ち尽くすマキナに詰め寄った。
「私考えたの。デイズがこれ以上悲しまないためにどうすればいいかって」
「エリス……」
「昨日のこと考えて……おじいちゃんは私たち三人を集めたのはそのためだと思うの。それに……」
「……エリスっ」
「それに……二人と喧嘩なんてしたくない、私――」
「――繋がろっ」
「え?」
コツリ……
エリスの言葉を遮るように重ね合う額。
惚ける声が掠れ、エリスはそれでも蒼く澄んだ眼をきつく閉じ、そっと汗ばんだマキナの胸元に手を添える。
意識を広げていく――
「皆……仲間だから……」
「――おじさんの記憶は、とても悲しかった」
「うん……」
「一人には、したくないよね……」
「うんっ……」
「――シャワー一緒に入ろっ」
キョトンとする蒼い瞳。
惚けるエリスの服を一気に上からひん剥くと、マキナは満面の笑みを浮かべ、立ち尽くす友達を引っ張った。
「あ、あぅ……マキナちゃん、私もうシャワー浴びたんだけど」
「三人一緒がいいのっ。デイズも言ってたしっ」
「でもぉ」
「いいのっ。入ろっ。後でミカも呼ばないとっ」
――ジトリと睨む冷たい視線。
「……。うんっ」
下着姿でシャワールームまで引っ張られていくエリスの後ろ姿を、ミカは恨めしげに寝室の奥から覗く。
ギュッとかみしめ唇は爪を噛む。
フルフル……
長い髪を振り乱し力一杯に首を振り、ミカはトボトボと薄暗い寝室奥へと消えていった
(……私は……)
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. (⌒⌒⌒).) /⌒ヽ
| |:|. (^ω^ )おっ?
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 ̄ ̄ ̄~
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(⌒⌒⌒).)
| (;;;;,,,.. |:| ムギュ
(つ___と)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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(⌒⌒⌒).) /⌒ヽ
|^ω^ |:| (^ω^ ) おっー♪
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およそこれで半分
この三カ月本当によく書いたよ……言うほど書いてないか(*´ω`*)