14話目
〈……艦長。〈アトラシア〉が外に出ました〉
蒼い液体を身にまといながら、エリスはふわふわと宙に浮かんだままガラス越しにそう呟く。
周りには管制室のクルーの女性の後ろ姿。
隣にはアリシアが白衣姿で立ち、白狼の巨人が、暗い闇の向こうに飛び立っていく様子をモニター越しに見つめている。
そして、後ろには、俯くミカの姿。
(……ミカちゃん?)
――どこか後ろめたそうに俯いている。
フワリと翻す長い金色の髪。
体に絡めたケーブルを蒼い液体の中に靡かせながら、エリスは振り返るままにエリスに手を伸ばした。
コンとガラスに手があたり、エリスは不思議そうにミカの顔を覗き込む。
〈どうしたのミカちゃん……〉
「ん……なんでも……ないよ」
少し震える小さな声。
息苦しそうに胸を両手で押さえながら、ミカはこちらを見ず俯いたまま、どこか不安げに目線を泳がせている。
表情はどこか青ざめていて――
「……?」
「エリス。ちゃんと艦の制御をして」
と、アリシアの声にエリスはハッと我に返ると慌てて前を向いて、水の中で身体を小さく丸めた。
プクッと膨れる頬。
唇を不満げに尖らせると、エリスは胸元に両手を添えながら、ジトリと横目に強張るアリシアの表情を睨んだ。
――デイズの事を困らせてるのに……どうして……。
蒼い瞳を閉じるままに、広がる暗闇。
喉元に溜まる不満をグッと胸の内にしまいこみながら、エリスは息を吸い込み、身体に蒼い液体をしみ込ませた。
(感じない……)
胸の奥で広がるのは、脈動する船の動力の感触。
痛みも快楽も感じない、ただ船を動かすためだけの、冷たく無機質な感覚がエリスの身体に広がる。
手足の先から全身へと広がる不快感。
身悶えるような息苦しさに、エリスは唇を軽く噛みながら目を開くと、胸元に置いた手を開いた。
そこには掌の中に浮かぶ小さな結晶。
船の『制御』を実体化させ支配下に置くと、エリスは少し不満げにため息を吐き顔を上げた。
そしてモニターの向こう、宇宙を漂う狼頭の巨人に目を細める。
(……私も、また乗りたいな)
ギュゥと息苦しそうに水着の様なピッチリとしたスーツの胸元を掻きむしり、エリスはプクッと頬を膨らませた。
〈……時間が来ました。模擬訓練を始めてください〉
半透明の翼を広げ飛び出す巨躯。
エリスの声に、〈アトラシア〉は前のめりに宇宙を駆けだし、〈エルザ〉に向かって牙をむいた。
その様子は爪で空を裂くオオカミのような姿。
牙を覗かせ口の端を歪め、戦いを楽しんでいるかのような――
(……デイズ)
楽しそうに飛び出す巨人、そしてその操縦者を見つめながら、エリスは嬉しそうに頬を綻ばせていた。
(……今度は絶対一緒に乗ろうっ)
「――確かに、動きが鈍い……」
息をひそめ、小さく吐き出す息。
カチリとトリガーを引き絞れば、両手に担いだレーザーエミッターから大口径の光線が暗闇を引き裂く。
掠める白い装甲。
ギラリと牙を覗かせ、スゥと暗闇の中に細める双眸。
ナイフを片手に、高速で近づいてくる白い狼の巨人に、エミリアは苦笑いを見せて再びトリガーを引いた。
「当ててくださいって言ってるようなもんじゃん……」
照射されるレーザーを弾く光の粒子。
突き出したもう片方の手の平に吸い込まれ、拡散する光の粒手が装甲を掠め、〈エルザ〉は更に後ろに下がる。
スッとレバーから離れる手。
手元のパネルを操作し、エミリアは息を極限までひそめ、再びレバーを握りしめる。
「さて……隠密部隊らしく、と」
宇宙空間の闇に溶けていく、灰色の装甲。
バーニアを吹かせ後退していた〈エルザ〉の姿が目の前から消え、〈アトラシア〉は制動をかけてその場に止まった。
――グルルルルゥ!
バシンッと音を立て虚空を叩く長い尻尾。
噴射エフェクトも一切消え、熱源も電波反応も全て消失する敵に、巨人は紅い双眸を細め首を回す。
ゆっくりと視線を動かす――
――虚空を薙ぐ刃。
足元から吹き上がる光の筋めがけて、狼の巨人はナイフの刃を振り下ろし、レーザーを弾いた。
拡散する光の粒子。
レーザーが途切れ、巨人はギッと目を見開くままに光源へと飛び出していく。
(……レーザーをナイフで弾くとか、相変わらず隊長マジで怖いんですけど……)
暗闇にまぎれ〈エルザ〉を動かしながら、エミリアはどっと汗を噴き上げつつ、カチリとトリガーを引く。
足の側面についたポッドが開き飛び出す小さな機雷。
無数の礫が飛び込んでくる〈アトラシア〉の前に飛び込んでくる――
(あ……やば)
宇宙空間を明るく照らす爆発。白いプラズマフィールドが機雷を中心に展開され、余波が〈エルザ〉へと走る。
ステルスエフェクトが一瞬だけ剥がれる――
――牙を覗かせ綻ぶ口元。
爆発の中、刃の如く鋭く双眸が細まる。
巨人はグッと拳を突き出すと、暗闇に一瞬顔を出したエミリアの〈エルザ〉に向かって飛び出した。
ガシャンッと揺れるコックピット。
鋭い爪が後ずさる〈エルザ〉足先に食い込み、手にしたレーザーナイフがコックピットへと突き立てられようとする。
小さく零れるため息。
(右足部バイパスカット。次の手行きますか)
シュゥと背中のスラスターから吹き上がる光の輪。
刹那、担いでいたエミッターから溜弾が飛び出し、脚部から白爆炎が迸った。
掴まれた足共々、〈アトラシア〉の腕を弾き飛ばすと、引きちぎれた脚部を引きずるように〈エルザ〉は後ずさる。
そして再び宇宙空間へと消える灰色の巨人。
ムフゥと鼻先から零れる荒い息使い。
白く艶やかな腕の装甲にこびりつく溜弾の破片を払うと、狼の巨人は再び周囲見渡し足を止めた。
スゥと紅い瞳を細める――
「――目が暗いな」
「はぁ……はぁ」
コックピット内に聞こえる荒い息使い。
もじもじと太ももを擦り合わせるように足を動かしながら、マキナは苦しげに胸元を大きく上下させた。
「おじさん……私……怖い……」
男が手元のパネルを指でなぞるたび、ビクリビクリと華奢な身体がシートの上で痙攣するように腰が浮く。
ギュッと噛みしめる唇から滲む涎。
額から汗がにじみ、上気した肌を伝う。
焦点の合わないトロンとした目が、大きな背中を見下ろし、唇がたまらず半開きになり、声が漏れる。
「んんっ……おじさん……怖い……私の中に入ってくる」
「マキナ。色んな事を身体の中に取り込もうとしすぎじゃないか?」
「わかんない……一杯入ってくる……」
サイドレバーを握りしめるごつごつとした手の感触が全身を走る。
身体の奥から染みだす甘い痛み。
ギュッと目を閉じながら、涙を眼に浮かべマキナはたどたどしい息使いで長い金髪を振り乱した。
「どうしよう……止まんない……またくるのッ……」
「――仕方ない……」
小さなため息と共にデイズはスッとレバーから手を離した。
ゴゥンッ
白い爆発がモニター越しに眼前に迸り、揺れるコックピット内。
眼の光を失い、ピクリとも動かなくなった狼の巨人を前に、虚空から無数の銃撃と砲撃が飛んでくる。
その度巨人はゆらゆらと宇宙空間を漂うに要に揺さぶられる――
「はぁ……はぁ……」
「マキナ。俺の事が見えるか?」
「――おじさん……?」
「ゆっくりと目を開いて見ろ」
「……でも……」
「何かを見ろなんて言わない、見たいものだけ見ればいい。その中に俺がいたら、俺はとても嬉しい」
暗闇の中に響く、少し照れくさそうに囁く声。
――ゆっくりと持ち上がる瞼。
ぼやける視界。
灰色の瞳が虚ろに泳ぎ、マキナは息も絶え絶えに肩を上下させながら、ゆっくりとぐらつく視界を動かす。
トクン……トクン……。
心臓の鼓動がぼやけた視界の奥で弾ける爆発音に重なる。
モニターを掠める光に視界が遮られ、視線がゆっくりと下がっていく。
揺れる銀色の髪。
褐色の首筋が見え、大きな背中がぼやけた視界の中にくっきりと輪郭を浮かべて映る。
「ああ……おじさん……」
――心音が聞こえる。
ドクンと跳ね上がる鼓動は、爆音がコックピットの向こうで轟くたびに聞こえてくる。
ニィと口元が嬉しそうに歪んでいる。
鋭く細めた紅い瞳。
振り返りグイッと身体を反らし、大きな手を伸ばすのが見える。
心臓を鷲掴みするくらい大きな手が見える――
「……怖いか?」
すっと胸元に添えられるごつごつとした手。
紅く染まった肌に指先が埋もれ、マキナはデイズを見下ろしビクンと腰を浮かしながらコクリと頷いた。
柔らかな笑みが灰色の瞳に映る。
「……ありがとう、教えてくれて」
「――おじさん……」
「誰だって怖い。戦うのも怖いし、人が人に触れることが何よりも怖い」
「……」
「自分が傷つくかもしれないからな」
「にゅぅ……おじさん……気持ちいいの……」
「それでも――お前は俺を見てくれた。……苦しくてもその目は俺だけを見てくれる」
そっと頬を撫でる大きな指先。
敏感になった肌に手が触れるたびに、ヒクリと胸元が跳ね、それでもマキナは目を閉じることなく、デイズの目を見つめる。
そっと汗をぬぐう大きな褐色肌の男をじっと見つめる
そしてその顔は、ぼやけた視界の中にジワリと歪み姿を変える。
まるで獣のように――
「おじさん……オオカミ……」
「隠しているのに良くみている、いい子だ……」
「――もう一回言って……いっぱい言って……」
「いい子だ……」
「――えへへっ……」
ジンワリと涙を浮かべながら零れるはにかんだ笑顔。
デイズは安堵のため息を漏らすと、マキナの下まで飛び上がると、そっと彼女の額を撫でた。
そしてコツリと額を擦り合わせ、目を閉じる。
息を吐き出す――
「――過剰な情報の共有によって、マキナの意識は強制的に広がり続けていて、その拒否反応を起こしているんだ」
「んんっ……なんとなく……わかる……」
「マキナ、俺だけを見ろ。他のものは見なくていい」
「――本当……?」
「ああ。俺以外のものは見なくていい。俺だけを見てくれ」
「はぁ……はぁ……」
「マキナ、俺の事が好きか?」
「――はいっ」
「ありがとう……」
スッと離れる両手。
擦り合わせていた額が離れ、デイズは再び下部のシートへと戻り、再度レバーを握りしめる。
ヒクリ……
甘い痛みが微かに背中を走り、零れる熱っぽいため息。
それでも全身を駆け廻っていた『情報』が抑えられていき、ぼやけていた視界がクリアになっていく。
トロンとした灰色の瞳が、視線を落とす。
大きな背中が瞳に焼きつき、マキナは頬を染めながらゆっくりと目を閉じた。
暗闇に大きな人影が映る。
潮風の中、どこまで広がる草原に佇む、銀色の体毛を靡かせたオオカミのような風貌をした大男の背中。
男はこちらに振り返り、そっと大きな手を伸ばす。
風に靡く金色の髪を撫でる――
「……システム……再起動します」
「了解。行こうか、相棒っ」
「――うんっ」
見開く紅い眼孔。
全身の装甲から吹き上がる光の粒子。
鋭い牙をむき出し、巨躯を大きく反らすと〈アトラシア〉は暗闇の中、身を打ち震わせ激しく咆哮した。
ユラリと虚空に靡く長い尻尾。
全身に外套のように光の粒子を纏うままに、巨人は鼻息も荒く、ゆっくりと周囲を見渡す。
――視界を掠める閃光。
ニィと綻ぶ口元。
刹那、光のさす方へと伸ばした巨大な腕が、波打つ景色の向こうへと吸い込まれた。
そして光が巨人の目元を掠める――
「!?」
――飛び散る金属片。
装甲ごと、機体の右肩を深々とえぐり取る巨大な右腕が、何もない背後から〈エルザ〉へと飛び出した。
はじけ飛ぶ右腕。
ステルスフィールドが解け、制動を失いながら暗闇の中へとエミリアの〈エルザ〉が押し出される。
(空間変異反応なんてなかった……どうやって!?)
火花の散る断面図。
吹き飛ばされながら、全身のスラスターで制御をかけながらゆっくりと〈エルザ〉が飛び出た右腕へとエミッターを伸ばす。
グッとトリガーを引き絞る――
――暗闇からヌルリと迫り出す白い鎧。
グルルルゥ……!
暗闇に響く唸り声。
何もない空間がグニャリと歪み、波打つ水面から飛び出す様に、狼の巨人が牙をむいて飛び出した。
虚空ごと銃身を切り裂く爪。
バラバラになったレーザーエミッターを奪い取り、食いちぎるままに巨人は腕を〈エルザ〉へと振り上げる。
頭部にめり込む拳。
吹き飛ばされるままにコックピットがグラグラと揺れ、エミリアは滲む視界の中レバーをせわしなく動かす。
「……トランスポーター、ガトリングレーザー転送。兵装を〈エルザ・メタ〉に変更する」
『許可が出ていません』
白い鎧の隙間から広がる光の粒子。
展開されるステルスフィールド。
キッと鋭く目をぎらつかせながら、エミリアはモニターの向こう、暗闇の中へと溶けていく巨人の姿を睨みつけた。
スゥと姿を消しながら、ニヤリと笑う狼頭が血走った眼に映る――
「……やってやるわよ……殺してやる」
『許可が出ていません』
「隊長権限で転送する、早くしろ!」
握りつぶさんばかりに、レバーに爪を食い込ませると、エミリアは通信越しに怒号を発した。
バチリッ
バーニアを振り絞り、制動をかける〈エルザ〉の周囲の空間が歪み、姿を現す兵装。
滲みだす巨大な砲塔。
背中には固定砲台を彷彿とさせるほどの大型ジェネレーターが積まれ、左腕に多重ライフリングバレルが搭載された。
脚部にはミサイルポッドが積まれ、迫り出す弾頭。
「熱源反応ロック――」
ジワリと滲む背後の空間。
武装の転送は違い、まるで景色が波打ち、影が浮かぶ――
「!」
――ヌルリと迫り出す巨大な爪。
コックピットを揺さぶられるままに、背中に背負った大型ジェネレーターが真っ二つに引き裂かれた。
ニィと裂ける口元。
大きくのけぞる〈エルザ〉の背中を紅い目が見開き、白い獣が姿を現す――
(ジェネレーターをこっちに直結――狙う!)
四肢から吹き上がるバーニアの光によって後方に転回する機体。
重たい銃身を振り回す様に〈アトラシア〉へと向けると、〈エルザ〉はトリガーを引き絞った。
花咲くように銃身から絶え間なく迸る光の雨。
大きな反動に銃身が大きくぶれ、関節から火花を散らしながら、〈エルザ〉はトリガーを絞り続ける。
「――甘い」
――花のように拡散する光の粒子。
白い鎧に纏う外套がレーザーラインを払い落すままに、〈アトラシア〉はエルザに向かって爪を振り下ろした。
グシャリッと真っ二つに折れる多重バレル。
ソレと共に関節が引きちぎれ、〈エルザ〉は衝撃に後方へと吹き飛びながら、脚部ミサイルを狼の獣に向ける。
(死んでしまえ……!)
プラズマ放射による激しい爆発に歪む景色。
衝撃にエミリアの〈エルザ〉が爆風範囲の外へと吹き飛ばされる――
(……くぅ……)
――白炎の中から延びる腕。
ガシリッ
白い炎を振り払い、狼の巨人は〈エルザ〉の足を再び掴むと、グッと引き寄せるままに拳を振り上げた。
――捩じれる空間。
ゴウゥンッ
深々とめり込む腕。
激しくコックピットが揺れるままに、機体に大きな拳の痕が浮かび〈アトラシア〉は更に〈エルザ〉を蹴り飛ばした。
「……だれにも負けない……強い力……」
背部の装甲が開き、迫り出す翼のような形を模したスラスターブレイド。
全身から吹き上がる光の粒。
「……大きな背中……熱っぽい手。……私の気持ち」
両腕を左右に大きく開くと、掌の装甲がパカリと開いて小さな黒い球体が両手から中から顔を出した。
そして掌から膨張する重力変異。
黒い球体が両腕を包むまでに大きくなっていき、〈アトラシア〉はグッと両腕を胸元に合わせて突き出した。
そして黒い球体が収縮する――
「大好きな人に……届いて」
ガシリッと銃把に食い込む爪。
マウントストックで銃身を持ち上げながら、巨人の両腕には身の丈を超える程の砲身を持った大砲が添えられていた。
ぴったりと閉じた二枚板。
背部ファンから白い粒子が無数に吹き上がり、銃身の先が〈エルザ〉を捉える。
「重力変異波動砲、展開……」
「んん……展開……するね」
左右に開く二枚板。
渦を巻いて悲鳴を上げる虚空。
バチリと紫電が空間を走り、巨人が持ち上げた極大の砲身の間の空間が激しく歪み、微粒子が尾を引くように吹き上がった。
砲身の先端に集まる光の粒子。
まるで目玉のように巨大な輪っかを作り、その先にエミリアを捉える――
「集約レンズ……展開。やろうおじさん……」
『ま、待って隊長!』
通信越しの慌てふためいた声にヒクリと揺れる長い耳。
巨人はグッと銃身を両腕で支えながら、口の端から光の粒子を吐き出し、苛立ち紛れに唸り声を上げる
『まって、これ模擬戦でしょ!?』
「エミッターを出してガチ挑んだ分際で何をほざく、あまつさえこっちの権限乱用してガトリングレーザーまで持ち出したんだ。
今更、言い訳はないはずだ。寝言は向こうでミオに会ってから言うんだな」
『あんたが見殺しにしたんでしょうがぁああ!』
ニィと狼の口の端が嬉しそうに綻ぶ――
「重力変異波動砲、発射する」
――黒い柱が宇宙を翔ける。
砲身の先、光のレンズを通り抜け、目に見えない射線が宇宙空間を駆け抜けるままに通るもの全てを薙ぎ払った。
一瞬にしてバラバラになる四肢。
コックピットごと胴体が迸る空間の歪曲に呑まれ、爆発すら吸い込まれていき、クシャリとゴミ粒程に圧縮される。
歪曲する透明な柱を追うように、迸る衝撃波。
宇宙の瓦礫を全て抉り呑みこんでいき、星一つを半分抉り取るまで、巨大な柱は無音のまま宇宙を駆けていく。
そして一つの恒星の中へと吸い込まれる――
「……エミリアさん。大丈夫なの?」
遠くで星の光がパッと瞬き、そして消える様を横目に見つめながら、マキナは少し息苦しそうに肩を上下させた。
ピタリと畳まれる砲身。
シュゥウウウウ……・
銃身から吹き上がる光の粒子に、照り返される滑らかな白い装甲。
巨大な大砲を肩に担ぎ〈アトラシア〉は不満げに紅い双眸を細めながら、霧散した〈エルザ〉の破片に目を向けた。
「転送させたさ。……今頃ハンガーでボケッとしてるんじゃないかな?」
「そっか……」
「どうだった?」
「――ヤバい……」
唇から零れる熱っぽい吐息。
ヌルリと手元の蒼い球体から指を抜き取ると、マキナは俯くままにひりひりとする下腹部にそっと手を這わせた。
「……おじさん……もっと傍にいたい」
「心配する事無い。離れる理由なんてないからな」
「んんっ……うん」
微かな余韻が背筋を伝い、零れるかすれた声。
もじもじと太ももを擦り合わせながら、マキナはコクリと頷くと頬を赤らめキュッと唇をかみしめた。
堪えるように背中を丸めながら、それでもビクリと腰が浮く。
甘い痛みが腰から全身に広がっていく――
「はぁ……おじさん……」
「こちら〈アトラシア〉模擬戦闘を終了し帰投する――ん、どうしたマキナ」
「……また、一緒に乗りたい……一緒にいたい」
「いつでも乗ってやるさ」
「うん……ん……」
「おやすみ……お前の疲れがとれたらいくらでも相手してやるさ」
スゥとシートに埋もれる華奢な体。
疲れたように背もたれに顔を埋めて、気絶したように寝息を立てるマキナを横目に、デイズはレバーを引いた。
スラスターブレイドから零れる光の粒。
外套を翻すと〈アトラシア〉は遠くに見える純白〈アストライア〉に向かって尾を引いて飛び去って行った。