幕間:あなたとの初めて
ぽかんとしていた……。
身体がシートに座った瞬間、フゥとモニターの向こうに飛んで行ってしまうような感覚だった。
意識がグイーッって棒で広げられていくような感覚。
両手を広げたら、手の中に宇宙がすっぽり入っているような気持ち。
それは薄く広げられてるんじゃなくて、どんどんと視界がはっきりとなっていくような感覚だった。
だけど、それはとても広くて、怖かった。
多分、宇宙の中に一人で放り出される感覚戦っていて、いつも私の中に会った。
怖かった――
――エリス……。
聞こえてきたのは、低く少し淀んだ声。
ギュッと両手を分厚い手で掴まれる感覚。
コツリ押しつけられた額がとても熱っぽくて、手にうっすらと汗を掻いていて、微笑みを浮かべ紅い瞳が私を見つめる。
大きな背中で私を受け止めてくれる。
私と一緒にいてくれる――
「……一緒に行こう、エリス」
気がつけば、私はあの人と意識と感覚を共有していた。
――哀しみ。
デリオアという人を殺さなければならないという気持ち。
私も……とても胸が苦しかった。
――興奮。
レーザーが暗闇を引き裂き、目尻をよぎるたびに、あの人の息遣いがどんどん上がってくる。
感覚が共有されて、私の意識もどんどんと興奮していくのがわかる。
――喜び。
嬉しい……とても嬉しい。
あの人は心の底から楽しんでいる。
戦う事、そして私と一緒に〈アトラシア〉に乗って宇宙を縦横無尽に駆けていく事に。
私と一緒にいる事を喜んでいる。
――私も嬉しい。
もっと傍で戦いたい。もっともっとこの人の力になってこの人と一緒に宇宙を駆けていきたい。
暗闇なんて怖くない、敵なんて怖くない。
この人の傍にいられるのなら――私は……。
「大丈夫か、エリス……?」
――囁く声が聞こえる。
それは夜明けのオオカミ……。
ぼんやりとした意識の海の中、私は、草原の広がる暗闇の向こうに上る太陽に、グッと手を伸ばすの。
大きな背中、太陽を背に、夜風に銀の体毛を靡かせる。
とても紅く優しい瞳。
この人だ。
この人が――
「……エリス、少しきつかったか?」
――沈んでいた意識が、デイズの声に戻される。
ぼんやりとした視界の中で、私はあなたを見つめる。
紅く優しい瞳。
あなたは私を見てくれる――
「……うんっ」
こうして私の初めての実戦経験は幕を閉じた。
多分、この経験は私が大人になっても忘れないかもしれないし、ずっと心と体に刻まれ続けると思う。
私の中の、あなたを想う気持ちは、どんどんと大きくなる。
今だからわかる。なんとなくだけど……アリシアさんの気持ちが、わかった気がした。
私も、この人の傍にいたい。
ずっと、デイズの傍にいたい―――