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夜明けのオオカミ―The Days of Atlazia―  作者: ef-horizon
一章:リンケージチルドレン
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7話目

 

『というわけで船から降りないように出てね、エディオールさん』

「アナウンスどうも、エミリア」

 待機用のハンガー。

 細長いエリアには、四機のフォートギア〈エルザ〉が周囲のフックに固定され壁に張り付いていた。

 周りには、整備員とアンドロイドの姿がちらほらと映り、固定されたフォートギアの周りには搭乗用のキャットウォークが張り巡らされている。

「……では通達します。これから発進しますので各員は二号機から離れてください」

 ガコン……

 ゆっくりと剥がれる固定フック。

 搭乗用のキャットウォークが壁に収納され、物々しい音を立てて一機の〈エルザ〉が格納スペースから離れた。

 各部から蒸気と共に舞い上がる光の粒子。

 手には巨大な筒を携え、肩に巨大な排熱ファンのついたジェネレーターが背負わされている。

 巨人はゆっくりと細長い通路を歩くとともに、ハンガーエリアの端にあるハッチにたどり着いた。

「出ますよ」

 ――吹き上がる爆煙。

 ハッチを開いた瞬間、光の筋が上空から降り注ぎ、攻撃を受け瓦礫の舞い散る基地の様子が巨人の前に映る。

 そして、舞い上がる粉塵の中、空に向かって砲撃を行うフォーギアや固定砲台が見える。

 衝撃波は地鳴りとなって周囲を揺らし、基地の対空砲が祭囃子の如く空を色鮮やかに彩る。

 零れるため息。

 操作レバーを押しこむままに巨人を動かしながら、エディオールは巻き上がる土煙に苦い表情を浮かべる。

「……まったく、人の家に土足で上がり込む、マナーがなっていませんね」

 床から数メートル浮いたまま、前方へと伸びる滑走路へ滑るように進みだす巨体。

 背部に背負っていた巨大なジェネレーターを外し、巨人は砲撃の雨の中、携えていたバズーカバレルとつなぎ合わせる。

 回り出す排熱ファンから吹き上がる光の粒子。

 ジェネレーターとバレルに取り付けられたマウントグリップを握りしめ巨人は同じ身長程もある巨大な砲塔を空に向ける。

「〈エルザ・パラ〉行きますよ……」

 ――ディスプレイに、蒼く澄んだ空が映る。

 空の向こう、星の瞬きか、暗闇に差す光かといった小さな点が映り、エディオールは小さく息を吐き、ボタンに手を掛ける

 そして、闇に輝く光に目を細める――

 ――迸る光の柱。

 大きく腰を落とすとともに、関節から吹き上がる光の粒子。

 ソニックブームが周囲の空気を大きく歪め、バレルから放たれた閃光が空を大きく穿つように〈エルザ〉から飛び出した。

 グッと反動で後ずさる巨人。

 関節から蒸気が吹きあがり、レーザーラインはバレルから飛び出すままに空気に減衰することなく大気を切り裂き、宇宙へと昇る。

 大型艦を飲み込むほどの光のうねりが、トリフィアの宇宙圏の艦隊へ迫る。

「……旗艦にあたらず、か」

 ――遠くに見えるのは光の破裂。

 ゆっくりとしぼんでいく射線。

 星が死ぬ瞬間のような光景がモニターに映り、エディオールは不満げに口を尖らせる。

 シュゥウウウ……

 排熱ファンが激しく回り、バレルから吹き上がる光の残滓。

 間接が軋みを上げ、腰を深く落としていた巨人は身じろぎをするとともに、砲塔の向きを少しだけ変える。

 グイッとマウントグリップを握りしめ、身体に砲身を固定する――

 ゆっくりと地面から離れ、上昇を始める白い船〈アストライア〉の先端から、目を潰さんばかりに閃光迸る砲撃が空を抉り飛ばす。

 追随するように無数のレーザーが足元から空に向かって広がり、迎撃していく――

「精が出るな……」

 三発目の砲撃を始めようとした瞬間、エディオールの耳に聞こえてくる低い声。

 ――ジワリと滲む景色。

 ヌルリと姿を現す大きな背中。

 外套のように全身から吹き上がる光の粒子。

 口の端がら零れる白い息。

 白い装甲に風を纏い、尖った耳を空に向けながらエディオールの〈エルザ〉の前に狼の巨人〈アトラシア〉が姿を現した。

「どうだ?様子は」

「二次三次の対地砲撃はそろそろ止むでしょうね」

 滑走路から数センチほど浮かぶ巨体。

 肩や腕には何も装備しておらず、腰にレーザーエッジのナイフがあるのみ。

 長い尻尾をゆらゆらと漂わせ、紅くぎらついた目を空に向け、オオカミの頭をした巨人は空から降りる光の雨を険しい表情で見つめる。

 ゆっくりと腕を伸ばし、大きな手を広げ、広がる宇宙の閃光を手の平におさめる。

 力強く握りしめる――

「なら、そろそろギアの降下が始まるか」

「どうします?」

「その前に終わらせたらいい。簡単な話だ」

「はい」

「エディオールは次の射撃を終えたら艦に戻れ。〈アストライア〉はトリトン第一衛星基地に向けて航行を始める。

 すぐに単独跳躍にはいる。巻き込まれるなよ」

 ドォオンッ

 重々しい爆音を響かせ、何もない虚空を叩く長い尻尾。

 空に掲げていた腕を下すままに、狼の巨人は光の粒を全身にまといながら、滑走路を前に滑るように歩きだしていく。

「隊長は?」

「――宇宙に向かって二人でデートだよ」

「……アリシアに怒られても知りませんよ」

 そして全身からあふれ出す光の中に、狼頭の巨人の輪郭が融けていく――

「恐ろしい話だ――じゃあ行こうか、エリス……」

 景色に溶けるように消えていく白い鎧。

 まるで幽霊のように姿をくらますその様子に、エディオールは驚きに小さく目を見開き首をすぼめた。

「……素晴らしい」

 口元が自然綻び、エディオールは嬉しそうに目を細めた。

 そして〈エルザ〉は消えた〈アトラシア〉の向こう、藍色に深く澄んだ空に向かって再び砲塔を持ち上げる。

 排熱ファンが悲鳴を上げ、バレルの先端に集まる光のきらめき。

 ゴォオオオッ

 そして吹き上がるソニックブーム。

 空に立ち込める分厚い爆煙の雲を飲み込み、光の柱が蒼天に向かって広がり、宇宙の暗闇に大穴をあけた。



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