↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35

夜明けを見つめて

 

 

 昨日見たのは、夜空いっぱい浮かぶ星と雲。

 ふわりふわりと浮かんで空を流れる雲は、いつか明ける東の空へとゆっくりと溶けていくのだった。

 星はきらきらと光っていて、おかげで足元が少しだけ明るい。

 山は薄暗くて、何も見えなくて、視界の開けた場所からは街の灯りが溢れてきて、目が少し痛いかった。

 私はランタンを持ち上げ炎を覗きこむ。

 ゆらゆらと燃える小さな炎。

 星々の灯りに霞んで、それでもキラキラと瞬いている。

 強いくらいに。

 あの星は何?

 そう尋ねて、返してくれる大人は、私の傍にはいなかった。

 そんな世界。

 でも、友達はたくさんいた。

 好きな人もいた。

 それだけで、十分だった。

 そんなちっぽけな世界で、私は、胸が一杯になった。

 夜の風が靡いて、髪が少し乱れる。

 影が夜空を見上げる私の足もとで揺れて、私は白い息を吐いてマフラーを口元まで持ち上げた。

 寒くて、赤っ鼻をすすりながら、私は目を空に向けて細める。

 世界の外が、私の目に映った。

 小さな星の世界。

 砂漠だらけの星や、一面水に覆われた星。

 色んな世界があって、その中で私は自分だけの居場所を見つけられるのだろうか。

 ビュウウゥって風の音色が耳元をつんざく。

 裏山の木々がザワザワってしなって、薄暗い手元の灯りがゆらゆらと左右に首を振っている。

 水平線の向こうが紅くなっていく。

 夜明けが近い。

 暗闇に包まれた街はやがて、海の向こうから昇る光にうっすらと茜色に染まり始めていく。

 黒かった雲は頬を染め、夜は山の向こうへと隠れていく。

 世界が光に染まっていく。

 今日が始まる。

 あの人と、一緒に、今日を生きていくんだ。

 トクン……トクン……

 飛び出そうなほど、胸の奥がドキドキして、私はマフラー越しに白んだ吐息を吐き出して、少し顔を強張らせた。

 胸の高鳴りは期待の予感。

 今日は、きっと良い日になると思うから。

 ――今日から……今日からっ

 そうつぶやくたびに、身体がゴォッて燃え上がっていくのを感じる。

 ランタンの火が私の心に移り、煌々と燃えるのを感じる。

 熱いっ。

 力強く私は燃えているっ。

 もう火は必要ない。

 私は口元のマフラーを拭って、そっと持ち上げたランタンの蓋を開く。

 熱っぽい吐息が息を吹きかけると、明りが消えて夜明けがあたり一面に広がり、私はゆっくりと両膝を折った。

 草むらに置いたランタンが足元に横たわる。

 ――行ってくるね。

 明るくなる水平線を見つめながら、私はそう呟いて、草むらに隠れるランタンに手を振ると立ち上がる。

 あの人がくれたランタンは、最後まで熱を持って、私を見送ってくれた。

 ――ありがとう……本当にっ。

 背中を反らし息を吸い込んで、身体で呼吸をする。

 夜明けの空気が身体に染みてくるのがわかって、私は胸に手をあてて、朝焼けに染まる茜色の空を見つめ、そっと目を閉じた。

 瞼の奥で、火を感じる。

 真っ赤な火。

 ぼぉっとした熱っぽさが真っ直ぐに私を包んで、私を包んでいく。

 ――暖かい……。

 と、漂うのは、ざわめく木々の匂い。

 読んでる声が聞こえて不意に目を開けば、色づいた山が、少しさみしそうに嘶いているのがわかった。

 見捨てるのかって、泣いていた。

 この子たちも、この場所も、私にとって、あの人にとってはみんな友達。

 ううん、見捨てるなんてしない。

 みんな一緒だから、離れていても、遠くにいても必ず私はあなたたちのことも、この場所のことも絶対に忘れないよ。

 絶対に。

 ――だから、いつか帰ってくる。待ってて、みんなっ。

 登る朝日を背に向けながら、私は後ろに広がる鬱蒼とした木々へ振り返って、それから小さく手を振った。

 夜風が応えてくれるように、激しく木々を揺らしてくれる。

 嬉しかった。

 私は小さく頷いて崖から噴き上がる風にマフラーを靡かせながら、後ろ向きに地面を蹴った。

 ――行ってきますっ。

 スゥと後ろに体が引っ張られる感覚。

 崖に近い丘から飛び降りて、冷たい空の中に身体をギュッと丸めながら、私はきつく目を閉じる。

 瞼の裏に浮かぶのは暗闇。

 暗闇の奥に映るのは、風にそよぐ草原。

 暗闇に漂いながら、大きな背中が私の前に立ち、地平線を背に手を伸ばす。

 夜明けに手を伸ばす――

 ――デイズッ

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。