Lv.2 疑問「フォンシエって…」
翌朝。
小鳥の声がうんぬんとかいうよくある描写は割愛。
残念魔王系異世界人ことギルベルト・H・アイヒベルガーは、くしゃくしゃと頭を掻きながら、ゆらゆらとした覚束ない足取りで椅子の前まで行き、どさりと座り込んだ。
ゆらりとアールグレイの香りがギルベルトの鼻をくすぐる。
昨日とは違う匂いだなと思いながら、紅茶を注いでいる狩人に話しかけた。
「これって何茶?」
まだ寝ぼけた声のギルベルトとは対照的に、フォンシエははきはきとした声で「レモンティーだよ」と答えた。
その表情は、新しい物をみる少年のようにキラキラと輝いており、恐らく旅の始まりにそわそわしているのだろう。
「……お前、子供かよ」
思わずギルベルトがそうツッこむと、フォンシエは苦笑いした。
「ははは、確かにそうかもな。――――でも、夢だったんだよな。こういう風に旅立つって事がさ」
「……あっそ」
ギルベルトは、なんとなくフォンシエの顔が見れなくなって、少し目をそらした。
――――ん?
そういえば、昨日からずっと疑問に思っていたことがあったのを思いだした。
「おい下僕」
「また下僕かよ。……まあいいや、何だ?」
フォンシエがそういって少し首を傾げると、ギルベルトはぼそりと呟いた。
「お前、その耳――――――なんでそんな変なんだ?」
そうギルベルトが言った瞬間、フォンシエの耳――――先のとがった長い耳がピクリと動いた。
「ああ、この耳のことか。……いつ質問されるのかなとは思っていたけど」
フォンシエは苦笑すると、自分の耳をいじった。
「俺の耳は、見ての通りエルフ耳なんだよ。この世界では低確率でこの耳の人間が生まれるんだ」
「へぇ…………。って、たしかエルフって妖精とかじゃなかったっけ」
「いや、そうじゃない。れっきとした人間さ。ただ、普通の人間よりも五感とかが鋭かったりするんだけどね」
そう言うと、ギルベルトは羨ましそうに耳を見つめた。
「なんかすげーな、それ」
「ははは。……でも、本当にランダムなんだよ。普通の人間と人間から生まれることもあるし、両方がエルフ耳の人間でも生まれない事もある。ま、これは神様からの贈り物ってヤツさ」
自慢げに語るフォンシエ。
ただ、その瞳は少しだけ寂しそうに揺らいでいた。
「じゃあさ、デメリットとかって――――」
そうギルベルトは言いかけたが、フォンシエの表情を見て、思わず言葉をひっこませた。
「――――ああ、あるよ。……この耳の人間をよく思わない人間もいてさ。お前らなんか人間じゃない、さっさとこの世から消えてしまえとか言って。……そいつらがエルフ耳の人間を虐殺するという話もよく聞くんだ」
「…………」
部屋中に暗く乾いたオーラが広がる。
それに気付いたフォンシエは、なんとか変えようとにっこり笑った。
「まあ、エルフ耳の人間が様々な便利な道具を作って世界から評価されてるという話もあるから、必ずしも全員に嫌われてる訳じゃないよ」
それを聞いて少し安心したギルベルトは、ふうとため息をついた。
「ま、旅の途中でそいつら見つけたらやっつければいーしな」
「お、たまにはいい事言うじゃないか」
「そうすりゃ名が広まって新世界の神に――――」
「そう言った俺が馬鹿だったよ……」
フォンシエは呆れながら言うと、ギルベルトはニカッと笑っていった。
「飯!! 腹減ったさっさと作れ!!」
「へいへい、分かりましたよーっと」
昨日よりも騒がしい朝食に胸の奥がむず痒くなりながらも、フォンシエは少し嬉しくなっていた。