Lv.16 幼稚「口論れべる:小学校低学年ほど」
エテルナがおずおずと口を開けようとした瞬間に、アルトヴォイスが響き渡る。
エテルナは俯きながら何かぼそぼそと呟いているのを、フォンシエはきょとんとした顔になるのをギルベルトはうっすらと見た。
その後に、声の方――自分の真後ろを見ると、そこには見知らぬ赤髪の少年が般若のような顔でこちらに迫ってきていた。
「なんだあの般若?!」
とどう考えても失礼すぎる台詞を吐きだしながら、ギルベルトはニュー剣を構える。
そんなギルベルトを、エテルナは俯きながら制した。
「大丈夫です、あれは気にしなくてもいいんです」
先ほどよりも声のトーンを落とし、エテルナは静かに呟く。
――すると。
「うぇえええええてるなああああああああああああ!! 何でこんな遅くに外で歩いてるんだああああッッ」
男のくせにやたらと甲高い声で少年は叫び散らすと、少年はエテルナの前で急停止した。
「もしかして、もしかしてこの野蛮人に連れられていたというのか?! それだったらお兄ちゃん許せないぞぉおおお!!」
やかましい少年(自称兄)の登場に露骨に嫌そうな顔をするエテルナ。
フォンシエは苦笑いをしていたが、ギルベルトには何が何だかさっぱり分からなかった。
「よく分かんねえけどうっせえよ餓鬼!」
見ず知らずの少年にガンを飛ばす青年を尻目に、フォンシエはそんな少年と接触する事にした。
「やあ、久しぶりだな。マグヌス」
「うっせ!……ふん、貴様のような男に話しかけるほど暇じゃないんだ」
少年――マグヌス・グラーティア――つまりエテルナの兄――さらにいうとエテルナの双子の兄は、こほんと咳払いをして声のトーンを落とした。
「大体、なんでお前みたいなちゃらんぽらんのチャラチャラ男が俺の可愛い可愛いいもうペブッッ」
「何もないところで静止してんのにコケられるのか人間って?!」
マグヌスの不可思議なコケ方に、思わずギルベルトもツッこんだ。
「ははは、相変わらず変わらないなあお前」
そう言った後、立てるか? と言って手を差し伸べるフォンシエ。
しかし、妹と違ってマグヌスはその手を払い、ぬくりと立ち上がった。
「――誰が貴様のような奴の手助けなど借りなければならないのだ」
そう言ってぷいっとフォンシエから目をそらすマグヌス。
さっきのコケっぷりと一転したその態度は滑稽そのものであった。
「ぷぷーっ、何が誰が貴様のような奴の手助けなど借りなければならないのだキリッだよぷぷーっ」
大人げない異世界人はそう言った後、ひたすらマグヌスをいじり始めた。
マグヌスは顔を赤らめながらもそんなギルベルトに対抗するようにうぎうぎ言い始めた。
――――放っておくのが最善策だと判断したフォンシエは、先ほどから黙りこくっているエテルナにでも話しかけようと思った。
「しかし、やっと帰ってこれたと思ったら妹が不審者二人に絡まれているなんてついていなかったなあ」
「俺様もよく分からねえ世界に飛ばされた後、こんなめんどい餓鬼の相手しなきゃなんねえんだから大変だぜ」
「んだとテメェ……」「調子乗ってんじゃねえよチビ」
「……なあ、エテルナ」
背後から聞こえる馬鹿二人に呆れながら、フォンシエはそう問いかける。
しかし、エテルナは俯いたままで何も話そうとしない。
――――ん?
エテルナが先ほどとは様子が違う事に気付いたフォンシエ。
よくよく見てみると、右手――杖を握る手がぷるぷると震えていた。
「ま、まさか……ッッ」
フォンシエはゆっくりと後ずさり、その後に舌戦中の二人を見てぼそりと呟いた。
「――お大事に」
「……二人とも……いいや屑ども……フォンシエさんに……フォンシエざんにィィ…………」
エテルナの足元にうっすらと魔方陣が浮かびあがる。
フォンシエは二人に脳内で念仏を唱え続け、二人は全く気付かないまま舌戦中(本当は髪の毛を掴んでギャアギャア喚いている)。
――そして。
「迷惑かけてんじゃねえぇええええええええええ!! 死ねぇえええええええええええええい!!!」
術名不明ではあるが、よく分からない程の強力な魔力の塊が放出される。
突然な奇襲に避けきれるはずもなく、硬直する野郎二人。
「ぢょぢょぢょこんなん聞いてねえよksプビャアアアアア!!!」
「ぎゃあああああああああエテルナぁあああああああああああああ」
――――そうして、二人の声は光とともに消えていった。