Lv.13 蒟蒻「本気で死ぬと思った数秒間」
「うわあもうどうしよう……俺はどうすればいいんだ……」
少年はおろおろとしながらも、自分の武器である機械の箱の蓋を開け、機械の凹凸を素早く指で弾きだした。
フォンシエは見慣れない箱に警戒して弓を構えたが、ギルベルトはじろりと箱を睨みつけ、ゆっくりと少年に近づいた。
「もしかして、それって……」
姿かたちは若干異なっていたが、あきらかにアレと似ていた。
――――もしかして、それってパソコン?
そう呟いたのと同時に、少年は弱気な声をあげた。
「頼むから神様HELP!!」
夕暮れの哀愁漂う森に木霊する少年の声。
――ぶっちゃけて言うと、響くだけで特に何も起こらない。
「あれ、おかしい。故障?」
少年の額にはうっすらと汗が滲み、異世界人の顔には勝利を確信した気味悪い笑みが浮かんでいた。
「なんだ、なんかすげえのが出ると思ったら何もでねーじゃねえか」
味気ないな、と思いつつ、止めを刺そうとした
――――その刹那。
「っがはァッッヅっ!!」
ギルベルトの足に蒟蒻のようにぬるぬるした手のようなものが絡みつき、段々と顔の方まで侵入してきた。
それだけならまだしも、段々と痛覚が悲鳴を上げ始め、血の気がゾクゾクと引いていき、脳味噌がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられるような異様な感覚に襲われた。
しかも、逃れようと足掻けば足掻くほど締め付けと不快感は増していき、ギルベルトはどうする事も出来なくなっていた。
「あッヅ……死ぬ……ぐ、ぐぁあッッ」
「ギルベルト!!」
フォンシエは何発か手のような形の触手に矢を放ったが、触手は手を広げて矢を受け止めると、矢じりからドロドロと溶かしていった。
「嘘だろッ?!」
フォンシエは顔を歪め、ギルベルトの方に走っていったが
「ッッッ!」
触手に弾き飛ばされ、ころころと転がり力なく倒れた。
「――あれ、結構イイ線いってるんじゃね?」
少年――ダイはまさかの形勢逆転という甘い蜜に顔をほころばせ、機械の箱――パソコンのキーボードに指を躍らせていった。
「あの変な蜂蜜色の男もやっちゃえ――っと」
液晶画面に映る文字を恍惚の色で見つめ、Enterキーにそっと指を転がした。
――とその瞬間。
「とりゃっっ!!」
「グフッ?!」
突然背後から後頭部を殴られ、目の前にひよこと星がくるくると回りだすダイ。
そして、殴打した人物は、先ほどからそっと木陰に隠れて自身に治癒術をかけていたエテルナだった。
エテルナはタイミングを窺いながら、杖を握りしめゆっくりと近づき、そうして思い切り殴打したのであった。
それと同時に、触手の動きは鈍くなり、ギルベルトはなんとか木刀を握りしめることができた。
「くそ、こんな蒟蒻に弱らされていたなんて……」
ギルベルトは顔をぞろりとなぞっていた触手を噛みちぎると、触手は徐々にギルベルトから離れていった。
「なっ、そんな馬鹿なっ」
ダイは蒼白の表情で微かに呟くと、二発目の殴打が背骨にヒット。
ダイはそのままばたりと地面に倒れ込んだ。
「俺様を苦しめさせた代償はきちんと払ってもらうぜ……ッッ」
そう言った瞬間、ギルベルトはおなじみのあの技名を叫びながらダイに斬りかかった。