Lv.7 夢想「不思議ちゃん系な旅人さん」
「そういやー、何処行くんだ?」
ギルベルトは木刀をいじりながらそう言う。
「ああ、そういや言ってなかったっけか。……ここから暫く東の方向に向かって歩いていくと、この国――イストで二番目に有名な【シアオン】という街だ。平民からお貴族様までいる、大分賑やかな街なんだぜ」
まあ、行った事は数回ぐらいしかないんだけどな、と言って照れ隠しに笑ったりしながらも、フォンシエは嬉しそうに話した。
ギルベルトは自分とは真反対のまっすぐしたその姿勢に眩しさを感じた。
「……どうしてそんなに嬉しそうなんだか」
ギルベルトは微かな声でそう呟いた。
フォンシエは、何か言っていたことには気付いたが、あまりにも微かな声だったために、自慢も耳でも聞き取ることが出来なかった。
◆
「『時は儚く 美しく そして 何よりも残酷で
ボクを優しく そして冷たく そわり ぞわりと 包み込む――――』」
しっとりとしたバラードを、透き通った声がしんみりと音を紡ぐ。
その声の主は、一風変わった風貌の青年だった。
小麦色したショートカットの髪だが、もみあげは少し長めで、色は赤紫であった。瞳の色は澄んだ青色で、緑のメルヘンチックなジャケットを羽織っており、第一印象が『変人』そのものだった。
どうやら、右目の辺りに大きな傷を負っているようだが、遠くから見ると、そのようなメイクにしか見えない。
2人が歩いている途中に歌声が聴こえてきたので試しに近づいてみたら、不思議な風貌の青年(道化師か何かにしか見えない)を発見したのである。
怪しさを異様に放っているが、とりあえずギルベルトが話しかけてみることにした。
「おい、そこの変な奴」
初対面の人間に言うのはどうかと思う台詞でその青年に話しかけるギルベルト。
対して、青年はくるりとこちらの方を振り向き、さっきの台詞など全然気にしていないというような気の抜ける笑顔をしていた。
「ははは、初対面の人間にいきなり変な奴かぁ。まあ、ボクはさほど気にしていないし気にする必要性もないから怒らないでおくけど」
――――そうか、見た目通りこいつも変人なのか……
フォンシエは残念な気持ちが広がりんぐった。
「ああ、そうだそうだ。やっぱり初めましてコンニチハな人には自己紹介が必要だよねぇ」
青年はにこりと微笑む。
そんな青年を見て、2人は反応に困っていた。
「ボクの名前はトロイ・メライ。さて問題! 『トロイメライ』とはどういう意味でしょうじゃかじゃん! 正解はドイツ語で夢想曲!!……ああ、ドイツってどこ?とか聞かないでね面倒くさいから! んでー、ちなみに意味はロマンティックな、器楽用の小曲なんだよー。――――ふふっ、まるでボクみたいだ」
一方的に語りだした青年――トロイ・メライは、ドン引きしている2人の青年をさほど気にしていない様子で語りだした。
「ボクは世界中を旅する旅人さ。……ところで、旅人って響き、なかなか素敵だと思わないかい? 音楽的だよねぇ。ボクは好きだなあ。そうそう、ボクは歌う事が好きなんだ。楽器を弾いたり吹いたりするのも好きなんだけどさ。でも声で表現する方が楽しいんだ!!……そういや名前は?」
――――普通逆だろ!!
と、二人とも心の中でそうツッコミをいれたが、無駄のような気がするので止めることにした。
「俺様はギルベルト・H・アイヒベルガー。気軽にギルベルト様とでも呼べ」
「それ気軽でもなんでも無いんですがねぇ……。まあいいか。俺はフォンシエ・コンテスティ。ついさっき旅を始めたばかりなんだ」
軽くそう自己紹介をすると、トロイは嬉しそうに笑った。
「君達も旅するんだね!素敵な旅になるといいねぇ」
――――――それが、不思議系旅人、トロイ・メライとの出会いだった。