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妄想部的 迷作劇場

*白雪姫とスカウトマン* もり編

作者: もり

 

 HEY!YOU!! HEY!YOU!! 歌っちゃいな~!!

   HEY!YOU!! HEY!YOU!! 踊っちゃいな~!!



 陽気な歌声が徐々に近づいて来る事に気付いた白雪は慌ててタオルを用意して小屋のドアを開けた。


「おかえりなさい!お疲れ様!!みんな、ちゃんと家に入る前に手を洗って、靴の泥を落としてね!」


「だたいま、白雪。もちろん、わかってるよ」


 ニッコリ微笑んで穏やかな笑顔を見せるのは長男のファースだ。彼はわざわざ注意しなくてもちゃんと実行してくれる。


「ったく、毎回言わなくてもわかってるっつうの!」


 ブツブツ文句を言いながらも、手を洗い、丁寧に靴の泥を落としているのは次男のセカン。


「ただいま、ハニー。こいつらの事は捨て置いて、早く僕と二人だけの愛の巣を作ろうよ」


「い・や!」


 白雪がニッコリ笑って三男のサアを拒絶した所に、四男のショーがボソリと呟いた。


「……焦げ臭い」


「あっ!あああああ!!」


 コンロに鍋をかけっぱなしだった事を思いだした白雪は慌ててキッチンへと走り込んでいった。

 その様子を見てファースはクスクス笑い、セカンは「今日も焦げたシチューかよ」とぼやいている。

 そこへ、遅れて戻って来た三つ子のレフ・セン・ライの三人が手も洗わず、靴の泥も落とさずに室内へと走り込んでいった。


「「「ただいま!白雪!!今日も焦げたシチューにカッチカチのパンなの!?」」」


「きゃあああ!!レフ!セン!ライ!床が泥だらけじゃない!!せっかく頑張って昼間磨いたのに!!」


 三つ子と白雪の賑やかなやり取りに他の四人は苦笑しながら小屋へと入り、ダイニングでお皿を並べたりなどの夕食の準備を始める。

 白雪が森にあるこの小屋に現れてから一カ月が過ぎていた。



 一カ月程前のある日、兄弟七人がいつものように森を切り開く作業から疲れて帰ると、リビングのソファで丸くなって寝ている白雪を見つけたのだ。

 雪のように白い肌に、血のように赤い唇。絹のように艶やかな漆黒の髪はソファから流れ落ち、同じ漆黒の長い睫毛が閉じられた瞼を繊細に縁取っていた。

 やがて、ゆっくりと開けられた瞼から覗いたのは黒真珠のように光輝く瞳。

 十八歳のファースを筆頭に思春期真っ盛りの十四歳の三つ子まで、年子の兄弟七人はあっという間に目の前の可憐な少女に恋をしてしまった。


 だが、七人は協定を結んだ。

 抜け駆けは禁止。

 義理の母から命を狙われ、隣国からこの国境付近の森まで逃げて来た事を聞いた兄弟達は白雪を守る事を誓い、また自分達の都合で白雪を困らせない為に自然に振舞う事をお互いに約束したのだ。

 自然に振舞っての三男サアの態度に最初はやきもきした他の六人だったが、白雪に相手にされる事は全くなく、皆が胸を撫で下ろしたのだった。



 小屋に来た当初は何も出来なかった白雪に皆が日替わりで家事を教えて一カ月、あらかたの家事は出来るようになったのだが、どうも白雪には料理の才能だけはないらしい。

 しかし、白雪の作った焦げたシチューとカッチカチのパンを皆は喜んで食べる。

 申し訳なさそうにする白雪が可愛くて、それでも最後まで食べきると嬉しそうにする白雪がもっと可愛くて。


 食後の後片付けを皆で済ますと、兄弟達は暗黙の了解でリビングに集まり、それぞれが好きな事をして過ごすのだが、なぜだか普段はとても仲の良い兄弟達がこの時だけは無口になる。


「「「……」」」


 室内に緊張感が漂っているのは、白雪の後に誰が風呂に入るかの毎晩恒例、二番風呂争奪・じゃんけん大会が催される為だ。

 今でこそ食後の一番風呂は白雪と決まっているのだが、始めの頃は外で働いていない自分は最後に入るべきだと、白雪は何度も主張した。

 だが、その主張を兄弟達が受け入れる事は決してなかった。

 それはレディファーストの精神を貫いているのであって、他にやましい目的があるわけでは断じてない。



「お先に頂きました。それでは、おやすみなさい」


「「「……おやすみ」」」


 王都での仕事がある為に森へは滅多に戻って来ない兄弟達の父親の寝室を借りている白雪は風呂から上がると、皆に挨拶をしてすぐに寝室へと入る。

 その為、この後に繰り広げられる兄弟達の悲喜こもごもを白雪は知らない。

 十六歳になったばかりの白雪はただ無邪気に、この生活がいつまでも続くといいなと兄弟達に感謝しながら願っていたのだった。




   * * *




「鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番美しいのはだ~れ~?」


 その頃、白雪が逃げ出した王城の地下にある湿っぽい秘密の部屋では、魔女―― 白雪の義理の母である王妃が怪しげな儀式を行っていた。

 王妃の呼び掛けに応えて、今まで何も映さなかった曇った鏡面がグニャリと歪み、青白い顔の鏡の精霊が現れた。


「はいはい、王妃様ですよ。そう言う事にしときましょ」


 酷く面倒臭そうな声で答えた精霊の言葉に満足そうに微笑んだ王妃だったが、すぐにその顔を醜く顰めた。


「ちょっと待ちなさい。そう言う事にしとくって、じゃあ本当は違うって事?」


「……うわー、挙げ足取りだ。面倒臭えなあ、もう」


 ボソリと呟いた精霊がふと王妃へと視線を向けると、王妃はこめかみに青筋立てて重そうなハンマーを振り上げていた。


「って、ちょっとタンマ!!嘘っす!!ごめんなさいって!!王妃様は二番目に美しいっす!!本当の一番は白雪ちゃんっす!!」


 焦り慌てる精霊の答えに、青筋を立てたままの王妃の綺麗な眉宇が寄せられた。


「白雪?でも、あの子は始末したはずだわ」


「ええ、俺もてっきりそう思ってましたが、昨日また美人レーダーに引っ掛かったんすよ。思いこみで除外してちゃダメっすねえ」


「……と言う事は、あなたは今まで適当に答えてたって事?」


「いいいいい、いや!そんなことないっす!!あ、そうだ!!王様はどうですか?大事な一人娘がいなくなって悲しんでるんじゃ……」


 再びハンマーを振り上げた王妃を見て、精霊は急いで話題を変えた。


「あの老いぼれは素直に白雪が外国に遊学したと信じてるわ。そんなことより、白雪は今どこにいるの?今度こそ、ちゃんと始末しないといけないわね」


「……森ですね。国境沿いにある隣国の森の中にある小屋に美男(イケメン)七兄弟と同居中です。あー、これだけ美男が揃ってるから、白雪ちゃんに気付かなかったのかなあ……」


 ハンマーを下ろした王妃にホッとした精霊は素直に白雪の居場所を答えながら、何かを納得したように呟いていた。

 その後、精霊は王妃が鼻が曲がりそうなほどにくっさい臭いを漂わせて寸胴鍋の中身を掻き回しているのを見なかった事にして精霊界に戻ったのだった。




   * * *




「おや、こんな所にずいぶん綺麗なお嬢さんがいるんだね」


 菜園の手入れをしていた白雪が聞こえた声に顔を上げると、すぐ近くに頭からすっぽりと黒い頭巾を被ったしわくちゃのお婆さんが立っていた。

 いつの間にこんな近くにと驚きながらも白雪は立ち上がると、老婆に向かってニッコリ微笑みかけた。


「こんにちは、おばあさん。この家の者に何か御用ですか?でしたら、みんな今は出ていて留守ですが、急いで呼んで来ますよ?」


「いやいや!たまたま通りかかっただけじゃ」


 酷く慌てた様子で否定する老婆に白雪は首を傾げたが、、老婆は落ち着きを取り戻すと気味の悪い笑みを浮かべた。


「親切なお嬢さんじゃな。どれ、お礼にこれを差し上げよう」


 老婆が差し出したのは真っ赤に熟れて照り輝くリンゴ。

 しかし、白雪は申し訳なさそうに首を振った。


「ありがとう、おばあさん。でも私はリンゴアレルギーだからそれは食べられないの」


「え……」


 予想外の白雪の答えに一瞬呆然とした老婆だったが、コホンと一つ咳払いをすると、気を取り直したように再び気味の悪い笑みを浮かべた。


「なら尚更じゃ。これは品種改良された新しいリンゴで、アレルギー対応食品なんじゃ。もし不安なら……ほれ、ここに抗アレルギー剤もあるでな。せっかくおいしく実ったリンゴじゃて、一口でいいから食べてみなされ」


 そう言って老婆がカゴの中から見せたのはドクロマークの黒い小瓶。

 だが人を疑う事を知らない純真な白雪は、老婆の言う事をすっかり信じて嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう、おばあさん。じゃあ……」


 テカテカのリンゴを受け取った白雪は、水やり用の水でリンゴを丁寧に洗い始めた。


「え……」


 それを見た老婆―― もとい魔女は絶句した。


「やっぱり表面はよく洗わないと、残留農薬が怖いですから」


 独り言のように呟いて白雪はリンゴを洗い終わると、今度はポケットから清潔なハンカチを取り出して丁寧に拭う。

 魔女はその様子を黙って見ながら、ひたすら毒は表面だけじゃなくて中まで滲み込んでいるはずだと自分に言い聞かせていた。


「では、いただきます」


 ようやく白雪が毒リンゴに(かじ)りついた時には、今までにないほど魔女はホッと安堵した。そして、そのまま白雪の様子を手に汗握り見守る。

 白雪は齧ったリンゴを一口飲み込むと、そのなめらからな白い手からポタリとリンゴを地に落とした。

 それから一言も発する事なく、今度は白雪がパタリと地にくずおれた。


「フ、フフフフフ。アハハハハハ!!」


 魔女は満足そうに笑いながらその場に倒れた白雪を残して立ち去ったのだった。



   * * *



「ファース!!」


「ああ、誰かが白雪に接触した」


 セカンの焦ったような声にファースは冷静に応えはしたが、すぐに小屋へと向かって駆け出した。それを他の兄弟達も追うように駆け出す。

 小屋から少し離れた場所で木を切り倒していた兄弟達は、それでも常に白雪へと注意を向けていたのだ。

 兄弟達は嫌な予感に襲われ、走りながらも酷く後悔して己を(なじ)っていた。

 やはりどんなに白雪が固辞しようと、誰かが必ず側にいるべきだったのだ。


 「白雪!!」


 小屋手前の菜園で倒れている白雪を見つけたファースは思わず立ち止った。

 横たわる白雪の側に膝をついて、ダラリとしたその細い腕を握っている男がいる。


「―― 貴様!!」


 ファースを追い抜いたセカンが剣を抜いて男に斬りかかった。

 斧は投げ出していたが、剣は皆ずっと腰に佩いている。

 しかし、男もすぐに剣を抜いてセカンの重い剣を片手で受け止めた。


「なっ!?」


「落ち着け、セカン」


 ファースは力強い足取りで白雪の側まで来ると、驚くセカンを冷静に窘めた。


「父上!?」


 追い付いたサアの声を聞いて頭に血が上っていたセカンもやっと我に返ったようで、黙って剣を受け止める男が父である事に気付いて慌てて剣を引いた。


「「「白雪!!」」」


 続々と駆けつける兄弟達の声にも応えることなく、白雪は地に横たわったまま。


「し、白雪……死んじゃったの?」


 三つ子のうちの誰かが上げた声が、その場に静かに響いた。

 いつもは瑞々しい桃のように色づいている白雪の柔らかな頬は青白く、唇にも色がない。


「いや、微かだが脈はある」


 重い沈黙が垂れこめそうになる中、兄弟達の父―― マネイが力強い声で答えた。


「恐らく毒を飲まされたのだろう。だが、幸い致死量ではなかったようだ」


 マネイは懐から解毒剤が入っている天使印の白い小瓶を取り出すと、一旦自分で口に含んで白雪に口移しに飲ませた。


「「「あ……」」」


 そんな場合ではない事は当然わかっていたが、兄弟達は出来れば自分がその役目をやりたかったと、強く思いながら白雪の様子を見守った。

 やがて白雪の青白い頬に淡い色が戻り、唇に赤みがさして、漆黒の長い睫毛に縁取られた瞼がそっと開かれた。


「「「白雪!!」」」


 白雪はゆっくりと体を起して、その可愛い瞼を何度もパチパチと瞬かせていたが、どうも現状が理解できないようで首を傾げていた。

 そして、目の前の見知らぬ男に視線を合わせた。


「あの……?」


「初めまして、白雪姫。私はこの子達の父親でマネイ―― マネイ・プレイン・ジャニーと言う者だ。マネイと呼んでもらって構わない」


「…………ええ!?」


 兄弟達の父親にしてはずいぶん若く見えるマネイを暫くジッと見ていた白雪だったが、やっと思考が回り始めたのか、何かに気付いたように驚きの声を上げた。


「マ、マネイ・プレイン・ジャニーってこの国の王様じゃないですか!!」


「ああ、そうだ。私はファースから手紙をもらって貴女を保護しに来たんだが……頼りない息子達で申し訳なかったね」


 マネイが眉を寄せて口にした謝罪の言葉に白雪は慌てて首を振った。


「いいえ!そんな事ありません!!みんなとても優しくて、楽しくって……って、あれ?と言う事はみんな……この国の王子様なんですか?」


 やっとそこまで思考が辿り着いた白雪は自分を取り囲む兄弟達を見上げて問いかけた。

 兄弟達は無言で頷く。


「えええええ!!」


 なんでこの国の王子様が揃いも揃って森の小屋に住んで木を切っているのか疑問が浮かんだが、白雪はその疑問を解決する前にやらなければいけない事を思い出した。

 マネイの手を借りて立ち上がった白雪は辺りをキョロキョロと見回す。


「姫の父君―― ムノウ王には使者を立て事の次第を伝える手配をしているから、それまで姫は我が城に滞在して――」


 マネイの話の途中ではあったが、白雪は目当ての物を見つけると急いで駆け出した。


「「「白雪!?」」」


 驚いた兄弟達が後を追う。

 ついでにマネイも後を追う。

 マネイ―― ジャニー国王は、残念ながら王妃を落馬事故で五年前に亡くしているのだが、若くして結婚し子供達を儲けていた為、年齢はまだ三十代半ばである。そしてスポーツが大好きで毎日の運動も欠かさない為、まだまだ十代の息子たちにも負けない体力を持っていた。

 しかし、それよりも驚くべきは白雪の足の速さだった。

 王も王子達も並はずれた運動能力の持ち主なのだが、そんな皆が未だ白雪に追い付けないのだ。


「し……白雪……」


 肩で息をしながら、ようやくスピードを緩めた白雪に追いついた皆はその後、信じられない光景を目にする事になった。

 白雪はピタリと立ち止まるとその場で大きく振りかぶり、持っていた齧りかけのリンゴを投げたのだ。


「おんどりゃー!!!」


 と、ドスの利いた掛け声を上げて。

 白雪が投げたリンゴはものすごいスピードで真っ直ぐに飛んでいく。


「「「あ……」」」


 唖然としてリンゴの行方を追っていた皆は、スキップをしていた黒い頭巾を被った人物の後頭部に命中したのを見て思わず声を上げた。

 どれほどの勢いがあったのか、リンゴはグチャリと潰れて地に落ち、黒い頭巾の人物もグチャッと前方へ倒れ込んでしまった。

 再び駆け出した白雪は黒い人物の許まで行くと、顔を覆う頭巾を剥いだ。


「やっぱり!!お義母様だったんですね!!」


 白雪の怒りの言葉を聞いたマネイが頭巾から覗いた顔を確認して一瞬驚いたように目を見開いた。


「まさか、この者がムノウ国の王妃?しかし、この者は五年前、妃が亡くなってからすぐに私に取り入ろうとして国外追放にした北の魔女だぞ?」


「なんですって!?」


「あ、本当だ」


「うわー、追放されてちゃっかり隣国の王妃になるなんてすげえ……」


 マネイの口から発せられた衝撃の事実に、白雪は驚き、サアは肯定し、セカンは呆れたように呟いた。

 当時の事を覚えていないのか、知らないのか、ショーや三つ子達はただ興味津々といった様子で気を失っている魔女を見ている。

 そこにファースが冷静に、だが厳しい口調で発言した。


「いくら隣国の王妃と言えど、この国で罪を犯したのですからこの国の法に則って裁かれるべきです。父上、治外法権などは当然認めないですよね?」


「もちろんだ。だがまあ、丁重には扱おう。いいかね?」


 ファースに応えたマネイは白雪へと問いかけた。

 それに黙って白雪が頷くと、マネイは手を軽く振った。

途端に木陰から騎士達が現れ、皆の側近くまで寄って膝をつく。

 他に人がいた事など全く気付かなかった白雪はかなり驚いたが、さすがに一国の王が一人で出歩く事などある訳がないかと思い当たり、黙って事の成り行きを見ていた。

 そして、義理の母である魔女が拘束され、騎士達に連行されるのを複雑な心境で見送った白雪は、気持ちを切り替えて兄弟達に向き直り微笑んだ。


「あの、今までありがとうございました」


 深く頭を下げる白雪に、皆が眉を寄せた。


「なんだよ、別れの言葉みたいじゃねえか」


 セカンの拗ねたような言葉を聞いて困ったように微笑む白雪の手をマネイは力強く握った。


「「「父上!!」」」


 息子達の抗議の声を無視して、マネイは白雪の黒真珠のような瞳をジッと覗きこんで口を開いた。


「姫に私から―― いや、私達から頼みがある」


「はい、なんなりと……」


 マネイの吸い込まれそうなほど澄んだ碧い瞳を見つめ返す白雪は耳まで真っ赤になっている。

 それを見た兄弟達は嫌な予感を覚えた。


「まさかの伏兵……」


 ショーがボソリと呟く。


「「「え?そんなのアリ?」」」


 三つ子が信じられないといったように声を上げる。

 だが、そんな息子達を気にした様子もなくマネイは続けた。


「先ほど姫が投げたリンゴ……コントロールといい球威といい、素晴らしかった」


「ありがとうございます」


 尚も見つめ合う二人だったが、兄弟達はマネイの言葉の先を予測し、黙って二人の会話を見守った。


「姫……もし良ければ、亡くなった妃の代わりに私達家族の……チームに入ってくれないか?―― ピッチャーとして」


「チーム?……ピッチャーという事は野球チームですか?」


「ああ、私達家族は野球が大好きでチームを作っているのだが、どうしてもピッチャーが見つからなくてな……」


 マネイは亡くなった王妃の事を思い出しているのか、ほんの少し辛そうな顔を見せた。

 白雪はそんなマネイを見て胸がキュンとし、握られていた手をギュッと強く握り返す。


――― おいおいおいおい……。


 とは、兄弟達全員の心の中での突っ込みだが、誰も声に出す事はなく白雪の返事を息を詰めて待っていた。


「私などでいいのでしょうか?」


「私達は貴女を必要としているのだ。あの剛速球といい足の速さといい、申し分なく素晴らしい」


「ありがとうございます。では……ふつつか者ですがよろしくお願い致します」


「「「やったあああ!!」」」


 顔を真っ赤にして頭を深く下げた白雪を見た兄弟達は歓声を上げた。

マネイも嬉しそうに笑う。

 こうして、ジャニー国王家族の野球チーム、キングダム・ジャニーは欠けていたピッチャーが加わる事によって、新しいチームとして生まれ変わったのだった。


 なんでも兄弟達が森を切り開いていたのは、自分達の力で球場を作りたいという夢のためであったとか。

 そして、今日もチーム・キングダム・ジャニーの陽気な応援歌が森の中に響き渡る。


 HEY!YOU!! HEY!YOU!! 歌っちゃいな~!!

   HEY!YOU!! HEY!YOU!! 踊っちゃいな~!!

 

 HEY!YOU!! HEY!YOU!! 投げちゃいな~!!

   HEY!YOU!! HEY!YOU!! 打っちゃいな~!!



 その後、チーム・キングダム・ジャニーは投手・白雪、捕手は選手兼監督のマネイ、一塁手・ファース、二塁手・セカン、三塁手・サア、遊撃手・ショー、左翼手・レフ、中堅手・セン、右翼手・ライと無敵の布陣を誇り、何度も世界タイトルを手にする事になるのだった。



 めでたし、めでたし。



―― って、恋愛フラグはどこへ消えた?


 

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