8 隠された舞踏会
話を終え、ウォルとルーザンに追いついた。するとすぐにウォルがシュレンに話しかけた。
「シュレン、お前、行くのか?」
「ええ。だからここにいる」
ウォルが不安そうな顔をして首を横に振る。
「ウォル、私は大丈夫だから・・」
前に顔をやると、いつも行かない所に向かっているのがわかった。大魔道師がいる場所に向かっていることをシュレンは勘付いた。考えてみれば、ふんわりとしたドレスを着た女や、不自然なほどピシッとした正装をする男が少なく、魔術師が多い。リョクとルーザンが辺りを見渡し、ウォルとシュレンを地味な扉の中へ押し込んだ。
「ちょッ!!」
ウォルの叫びかけた口をルーザンが押さえる。そして自らも素早く部屋へ入った。
「ああいうことをするときは教えてくださいよ。ビビるじゃないですか」
ウォルが膝を払いながら言った。
「それは悪かった。・・・シュレンは気付いたみたいだな」
「大魔道師との面会・・・ですか」
リョクが無言で頷く。
「よく来てくれたな。戦いに向かう魔術師たちよ」
大魔道師がいるであろう場所は防護の術で姿が見えなくなっていた。リョクが跪いたのに習って、シュレンも同じようにする。
「・・一番弟子か・・・お前が・・」
「はい」
「・・・そうか。ルーザン」
はっ、とルーザンが跪いたまま言った。
「お前はどう思った?」
「は?」
「一番弟子を連れたリョクを、どう思った」
「・・・私は他人であります故、リョクの判断の善し悪しを決めることなどできません」
ふん、腐るほど真面目だ、と大魔道師が言った。
「もういい。下がれ」
そう言うと同時に、開け放たれた窓から真っ黒な狼と黄金色の毛をした狐が飛び込んできた。2匹は空中で大きく伸び、着地する頃には娘と青年になっていた。
「人獣か。名を名乗れ」
「はっ、私は狼女、リオンにあります」
「私はその弟の狐男、リアンにあります」
シュレンは人獣、と小さく呟いた。人と獣の間を行き来する種族。風変わりな服装をしているが、戦闘力は目を見張るものがある。
「つまらん、下がれ」
シュレンはその言い草に苛立ちを感じた。そして大きく息を吸うと、人差し指を影に向かって突き出して言った。
「どういうつもりですか、それは?私たちは命がけで戦い、忠誠することをここに示しているのです。確かに貴方が戦えといえば多くの敵国が滅ぼされることでしょう。しかし、貴方は戦わない。それだというのに命令により私達の仲間が死にます。死に対する態度がそれなのですか?この中の誰かが死ぬかもしれないのに、貴方は軽蔑しかないのですか?」
ウォルとルーザンは焦ったようにシュレンと大魔道師を見比べた。しかし、リオンとリアン、リョクは顔にうっすら笑みを浮かべていた。
「無礼者ッ!」
部下の誰かがさっと剣を抜くのがわかった。それでもシュレンは、人差し指を影に向けたまま言った。
「この国の中で、貴方は確かに重要人物かもしれない。けれど・・・私はそんなハリボテに忠誠を誓うつもりはありません。命令されれば私はこの国の刃となりましょう。しかし・・貴方のために命を捨てろという命には・・・従いません」
影がわずかに動き、言った。
「もう一度言おう。・・下がれ」
シュレンは言葉を発しようとして口を開けた。しかし言葉を発する前に遮られた。
「・・今この場で、貴様の首を飛ばしてもよいのだぞ」
ウォルがかすかに息を呑む音が聞えた。そっとリョクがシュレンの前に立ち、静かに言った。
「それでは、失礼します」
目を閉じて静かに頭を下げ、4人に目配せをして部屋を出た。残りもそれに続いて部屋を出た。